【連載】ラグビー早慶戦100回目企画『あなたにとって早慶戦とは?』第5回 大田尾竜彦

チーム・協会
2023.11.19
【早稲田スポーツ新聞会】取材・編集 川上璃々

【早稲田スポーツ新聞会】

 早慶スポーツコラボ企画の第5回目を飾るのは、大田尾竜彦監督(平 16 人卒=佐賀工)だ。学生時代は主将として、現在は監督として早稲田ラグビーに携わる中、伝統を背負う選手たちに寄せる思いとは。学生時代のこと、そして早慶戦100戦目を控えるチーム伊藤の現状について詳しく語ってもらった。

「出発点は早稲田」(大田尾監督)

――ラグビーを始めたきっかけを教えてください

大田尾 父親の影響で、小学1年生の時から週に1回ラグビーをしていました。学校以外の友達と会うので、うまく最初は馴染めずに、いやいややっていた記憶があります。

――早大進学の決め手は

大田尾 大学を決める時に、チャレンジしたいという気持ちが強かったんです。佐賀県出身で早稲田がすごく身近なものだったこともあり、ラグビーもやっていたので、早慶戦早明戦も知っていましたし、自分の中で1番チャレンジできるのは、早稲田かなと思っていました。

――入部した当時、ギャップはいかがでしたか

大田尾 高校生の時は15歳から18歳までというのが一般的じゃないですか。でも大学生になったら、浪人生もいますし、年齢の幅が今までと全く違ったので、驚きというか新鮮というか。また、高校の時は先生の練習に従っていましたが、大学では自分たちで練習メニューを決めていたので、初めて触れる光景がいくつもあったなと思います。

――『赤黒』『荒ぶる』など、早大ラグビーの伝統の継承があると思います。その伝統に憧れを持って入部してくる部員も多いと思いますが、当時大田尾監督は早大の伝統に憧れなどはありましたか

大田尾 多分、今の子たちの方が伝統の継承をしっかり意識している気がします。齋藤(直人、令2スポ卒=現東京サントリーサンゴリアス))キャプテンの代の優勝が、今の子たちにとってはどちらかというと記憶に新しいことなので、『荒ぶる』とか『赤黒』とかが鮮明に彼らの意識の中にあって入部してきてくれていると思います。僕らの時は早稲田は伝統校ですが、どちらかというと弱い、低迷していた時期だったので、僕自身も『荒ぶる』を歌うためより、自分自身のチャレンジのために入って来ていますし、あまり伝統の意識はなかった気がします。

――4年時に主将を務めた際、その早稲田の重みというのを感じる瞬間やエピソードがあればお願いします

大田尾 4年間は非常に長いものという印象で大学1年生の時を過ごしていましたが、4年生になると急にタイムリミットが近い所にあるというイメージになりました。僕らの代の前年に11年ぶりに優勝し、連覇を自分たちの代にも期待されるので、4年間のタイムリミットと連覇の重圧が同じタイミングに一緒に来て、非常に緊張感を持って過ごした1年間でした。当時はうまくいっていなかった印象がある4年目でしたね。

――学生時代にやっておけば良かった、後悔したと思うことはありますか

大田尾 学生時代に自分たちで自分たちのことをもっと分析して、監督、コーチに提案していかなければならなかったと思います。もう少し、ミニグループ化して足りないものをみんなのアイディアから引き出せたら良かったなと思います。

――その経験を現在監督としてチームに生かされていることはありますか

大田尾 36歳まで現役をして、そこからコーチをして卒業して約20年間くらいラグビーに携わることができていますが、その出発点は早稲田だと思いますし、全てにおいて自分が得たものは今の早稲田に還元したいと強く思っています。

――早大選手たちの姿が当時のご自身の姿に重なる部分はありますか

大田尾 もう少しこうすれば、うまくいくのになと思うことは多々あります。プレーだけではなくて、チームワークの部分や情勢させていくときの声掛け、力の借り方、役割の振り方とか、特に大祐(伊藤、スポ4=神奈川・桐蔭学園)を見ていて感じる部分はありますね。彼もBKですし、下級生の頃よりも試合出場数も増えてきて、もう少し上手く表現できる部分はあるのかなと思います。そこは、僕の若い時に似ていると感じますね。プレーは彼の方がもちろん素晴らしい選手ですが、キャプテンとしては、いろいろ思うこともあるので、その点アドバイスをしています。

「100年の重み」(大田尾監督)

――では、大田尾監督の思い出に残っている早慶戦エピソードを教えてください

大田尾 僕にとって大学2年時の早慶戦の思い出が非常に印象的です。当時の慶応は日本代表に入る選手もいて非常に強いチームでした。今とは構図が違って早稲田が慶応を追うかたちだったんですよね。清宮監督(清宮克幸ラグビー蹴球部元監督、平2教卒=大阪・茨田)就任時に慶応に30点差をつけて勝つと言われていて、本当に実際に慶応に30点差で勝ちました。会場と一体になって試合が進んで行くという初めての体験をしたので、本当に声援に包まれるという感じでした。

――その一体感はなぜ早慶戦に生まれると思いますか

大田尾 それこそ伝統だと思います。それが100年の重みかなと思います。

――では、改めて大田尾監督にとって早慶戦とはどんなものでしょうか

大田尾 非常に特別な試合です。早慶戦の試合に立つのはなかなか難しいことなので、特別な試合であることは間違いないです。

――学生スポーツの良さはどの点にあると思いますか

大田尾 学生スポーツの良さは、早稲田は早稲田の色があって、慶応は慶応の色があると思いますが、分かりやすいコントラストがある形で、両校の色がプレーにもくっきり表れるのが良さだと思っています。かつ、その学年のキャプテンの色がどれだけ強く出せるかというのが必要なのですが、1年ごとにキャプテンは変わりますから、そういうところが学生スポーツの魅力、見どころなのではないかと思います。

「一試合一試合チーム力は上がっている」(大田尾監督)

――春シーズンを終えて、夏合宿どのようなことをテーマにして臨もうとしていましたか

大田尾 ボールをいかに継続できるか、ということに注力して夏に臨みました。また、自分たちがどういうラグビーをするのか、という輪郭を作るためにいろんなことに注力しました。

――では、そのテーマを踏まえ夏合宿の練習内容の評価はいかがでしたか

大田尾 非常にハードな合宿でしたし、大学生の体力レベルでは限界近くまで引っ張ったので、本当にきつかったと思います。ですが、4年生を中心に引っ張ってくれましたし、あの時の成果が2、3カ月後の今に少しずつ出ているのではないかと思います。

――佐藤健次選手(スポ3=神奈川・桐蔭学園)、村田陣悟選手(スポ4=京都成章)は夏合宿中一時ケガで離脱されていましたが、そこの埋め合い、合宿後の補強などチームへの影響はいかがでしたか

大田尾 彼らのようなチームの核となる選手がいなかった中で、他の選手が頑張ってくれました。安恒(安恒直人、スポ3=福岡)とかが、その成果もあり現在Aチームの活躍、プレーをしてくれていますし、池本(大喜、文構4=東京・早実)、細川(大斗、社4=東京・早実)、栗田(文介、スポ2=愛知・千種)も独り立ちして、戦力として欠かせなくなってきています。合宿中に核となる選手がいなかったのは痛かったですが、違うメンバーが成長してくれた、それが今成長として表れているなと思います。

――今お話にもありましたが、安恒選手のポテンシャルを今後どう生かしていきたいですか

大田尾 ボールコンタクトや推進力が大学の中でもトップクラスになってきています。彼を健次との兼ね合いでどう使うかというのは、春から頭の中にありましたが、かなり現実的に安恒がここまで成長して来ているので、同時に出場させるということが今の早稲田はいいのかなと思います。どのポジションでそれぞれの良さを生かすかは、今後さらに詰める必要があると思います。ここまで成長するか、というくらい安恒は成長してきましたね。

――関東大学対抗戦(対抗戦)序盤の試合内容を振り返っていかがですか

大田尾 大祐をCTBに置いたり、いろんなプランニングを考えて戦ってきましたが、もう少し頑張れば結果が好転するという部分をどうしても乗り越えられなかったという点がありました。ですが、春から築き上げてきたコンタクト力とFWのところで、非常に力を発揮できてきたなという印象です。あとは、噛み合ってきさえすればもっともっと力が出せるチームだと思いますし、先週の帝京戦を見れば分かるのですが、少しずつ自分の色がでてきているのではないかなと思います。

――対抗戦の筑波大戦から、かなりチームのスイッチが変化したと感じたのですが、一試合一試合に臨むチームとしての成長を監督はどうご覧になっていますか

大田尾 「自分がやらないと負けてしまう」という試合を各々が経験することが非常に大事だと思っています。特に島本(陽太、スポ4=神奈川・桐蔭学園)は宮尾(昌典、スポ3=京都成章) がケガをしたことで、9番のスタートが回ってきて立ち位置が変わったんですよね。今までは宮尾のリザーブだったので、今までになかった勝敗のプレッシャーみたいなものを筑波戦で感じたと思います。本人とはいろいろ話をして、本物の経験は試合に出た出ないではなくて、自分がやらないと負けてしまうという経験を1試合経験して、乗り越えられたかどうかということにあると。筑波戦はしっかり乗り超えてくれましたし、そういう選手がチームで何人もいて、その選手たちが今伸びてきています。今までいた選手の一つ上がった経験値と、もともとチームを引っ張っていくポテンシャルのある選手がしっかりとプレーして、新加入の選手が暴れていくという構図で、一試合一試合チーム力というのは上がっているという手応えはあります。

――帝京大戦では従来のポジションをかなり入れ替えて挑んでいらっしゃいました。今後の選手たちのポジション変更について展望があれば教えてください

大田尾 昨年の松下(怜央、令5スポ卒=現クボタスピアーズ )、槇(瑛人、令5スポ卒=現静岡ブルーレヴズ) が抜けた部分をどう埋めていくか、BKの得点力のところでスピードのある選手を後ろに持っていきたいというところで、大祐をCTBに矢崎をFBにもってきました。10番にはハンドリングと状況判断とキック力、この3つの良さが重要だと僕は思っています。なので、野中はもともと10番を任せられるような選手でしたので、そのポジションで挑んでいました。同時にジュニア選手権(関東大学ジュニア選手権)で久富(久富連太郎、政経4=島根・石見智翠館)が非常にいい成長を見せてくれたので久富を10番にすることで、大祐を15番に下げることができました。すごく器用な選手たちが多いので、ポジション変更がうまくできると思います。この帝京戦のかたちが今フィットするのかなと思います。

――伊藤選手の主将としての成長をどう感じていらっしゃいますか

大田尾 勝利への飢えが1番強い選手が伊藤大祐なんですよね。春は自分自身がどういうふうに振る舞えば良いか迷いながらやっていましたが、一度彼と話をして、大祐をキャプテンに選んだ理由をしっかり話をして、本人も少しモヤモヤしていたのが吹っ切れたみたいで、練習でも非常に厳しい態度と姿勢で引っ張っていますし、こないだの帝京戦でもその姿は表れています。残り2カ月が非常に楽しみです。

――「帝京大の壁を早大が壊さないといけない」と帝京戦後の記者会見でおっしゃていましたが、選手権の対戦までどのように詰めていきますか

大田尾 今やっていることの精度を上げていくことです。あとはやはり昨年の冬70点を取られて、今年の春に50点を取られて、夏60点を取られて、という相手に対して、今2本差まで詰めることができました。この事実は非常に重要で、遠くにいた相手の背中がはっきり見えてきたのではないかと思います。今までぼんやりしていた帝京大の壁を超えるビジョンが、今はっきり映ってきたと思うので、選手たちのクリアな目標設定、選手同士のクリアなビジョンのかけ合わせには本当に期待したいです。もう一度、壁を超えたいと思います。

記念すべき100回の早慶戦に向けて

――いよいよ次戦は100回目の早慶戦となります節目の試合を控えるにあたって今の心境を教えてください

大田尾 慶応が今年、チーム発足時から早慶戦をターゲットにしてきていることは、自分も聞いているので本当に難しい、タフな試合になることは覚悟してます。いかに自分たちを出し切れるかがポイントだと思っています。

――早大選手たちにはどんな戦いを期待しますか

大田尾 『早稲田ファースト』というところで、先手をずっと取ってほしいですし、自分たちの意思の疎通をしてほしいです。お互いにコミュニケーションを取って、チームとして強固なかたちで早慶戦を迎えてほしいなと思います。

――最後に、早慶戦への意気込みとファンの方へメッセージをお願いします

大田尾 100回目ということでイベント的な要素も非常にありますが、僕自身、今怖い相手と試合をするということで非常に気合が入っている、そんな心境です。選手たちも同じように感じていると思いますし、自分たちのラグビーをもっともっとよくしていきたいという思いも同時にあるので、集中したいい姿でファンの皆さんの期待に答えられるような試合をしたいと思います。

――ありがとうございました!

対抗戦帝京大戦時、記者会見にて質問に答える大田尾監督 【早稲田スポーツ新聞会】

◆大田尾竜彦(おおたお・たつひこ)

1982(昭57)年1月31日生まれ。佐賀工業高出身。2004(平16)年人間科学部卒業。4年時には主将を務め、対抗戦優勝、大学選手権準優勝にチームを導いた大田尾監督。卒業後はヤマハ発動機ジュビロ(現静岡ブルーレヴス)で競技を続け、その後2021年に早大の監督に就任した。就任1年目は年越しならず、2年目は準優勝という結果に終わっている。昨季の屈辱を果たすため、3度目の挑戦に燃える。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント