『釣り出す』と『ピン留め』の使い分け

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チーム・協会
【これはnoteに投稿されたGyo Kimuraさんによる記事です。】
1-1
優勝争いに望みを繋ぐために勝点3が必要な浦和と残留に向けて勝点3が必要な横浜FCの対戦は互いに勝点を分け合う痛み分けとなった。

横浜FCの5-2-3で激しく人に付いて行きボールを刈り取る守備が前半は目立ち、後半は浦和がスペースを意図的に作ったことで主導権を握った。今回は横浜FCの5バックで『人』を捕まえる守備とそれに対する浦和の『釣り出す』と『ピン留め』を使った打開策に注目していく。

【5-2-3】の『人』を捕まえる守備

横浜FCの守備は『人』を基準にマークをする。例えば、下の図ようにCFのマルセロヒアンはアンカーの岩尾を捕まえて、2シャドーのカプリーニと小川が浦和の両CBを監視。小川のプレスをスイッチにLWBの林がRSBの酒井まで飛び出してシステムを噛み合わせる。1:38では西川のフィードを岩武がインターセプトしてカプリーニに繋げ、カプリーニがオープニングシュートを放った。

1分の横浜のハイプレス 【Gyo Kimura】

横浜FCの守備は人を基準にしているので守備に迷いが出難い。また守備時のWBの高さ調整によって最終ラインで+1を確保することができる。ハメに行くときだけSBまで飛び出すが、それ以外の場合では後方にいることで後ろで数的優位を作ることができる。WBの飛び出すタイミングもよく落とし込まれていて穴を空ける瞬間が少なかった。

3:48では岩尾とホイブラーテンがワンツーでマークを剥がして、安居が右サイドから大胆にボールサイドまで移動してきてプレスの逃げ道を作った。しかし、浦和はボールサイドに密集しており、安居がプレーできるスペースも狭かったことからボールロストした。

3分の浦和のビルドアップ 【Gyo Kimura】

横浜FCとしては安居の大きなポジションチェンジにLCBの吉野がプレスに出ることを躊躇った結果、プレスを剥がされそうになったが、この局面では井上と岩武がマークを捨ててボールホルダーにアプローチをかけたことから上手くボールを奪うことができた。

浦和としては安居が逆サイドへ展開できていれば一気にスピードアップできた局面だったが密集の中でそこまでの余裕はなく、ボールを失ってしまった。

『釣り出す』

・浦和の『釣り出し』を使った攻撃

浦和サイドからすると横浜FCが『人』を基準に守ってくることは事前にわかっていたはずだ。その中で浦和の狙いは「相手を釣り出しておいて背後を取ること」だったように見受けられた。

7:01では浦和の狙いが上手くハマった場面だった。RCBのショルツからボールを受けたRSBの酒井にはLWBの林が飛び出してくる。林が飛び出したことで空いた背後のスペースにRSH安居が内側から流れてきてボールを受ける。当然、安居にもLCB吉野が飛び出して対応してくる。すると吉野の背後にもスペースが生まれるので、酒井がアンダーラップして安いからボールを受けてPA内へと侵入した。

7分の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】

PA内に侵入した酒井は高速クロスで小泉へパスを送るが、小泉のヘディングシュートは枠を捉えることができなかった。しかし、浦和からすると狙いである相手を『釣り出す』ことで背後を取ることができた場面だった。16:57の場面でもホイブラーテンからボールを受けた小泉がフリックで背後のリンセンへと繋いでチャンスになりかけた場面があった。

浦和の両SBは低めの位置からスタートしていたのも、横浜FCのWBを釣り出してリンセンや安居、早川といった前線が背後を取る意図があったと推測する。WBだけでなく、3バックの一角を釣り出して背後を取ること狙っているように感じられた場面もあった。

しかし、浦和の課題として横浜FCのマンマーク気味の守備で位置的優位を消されてしまうと、ボール保持が上手くいかない問題は顕著に現れていた。そして、解決策を模索している段階で横浜FCのマルセロヒアンのゴールが決まり苦しい展開となった。

・横浜の『釣り出し』を使った攻撃

浦和の守備は4-4-2のゾーンディフェンスだが、サイドにボールが入ったときやハメに行くときにはボール周辺の選手を捕まえボールを奪いにいく。横浜FCもこの浦和の習性を利用して攻撃を組み立てた。

4:21では横浜FCは左サイドからチャンスを作る。ボランチの井上からLWBの林へとパスが通った時に、RSBの酒井が対応するために釣り出される。酒井の背後のスペースでシャドーの小川がボールを受け、PA内へと侵入。

4分の横浜のサイド攻撃 【Gyo Kimura】

小川の折り返しのクロスを対応したホイブラーテンがのクリアミスをカプリーニが拾ってシュートを放った。

10:50では右サイドから。CBのンドカから鋭いパスがRWB山根へと通り、LSB荻原が釣り出される。山根が荻原との1vs1でドリブルで抜き去りGK-DF間へグラウンダーの良いクロスを入れるが飛び込む選手はおらず得点には至らなかった。

10分の横浜のサイド攻撃 【Gyo Kimura】

そして迎えた14:15のゴールシーン。RWBの山根からボールを受けに中盤に下りてきたマルセロヒアンへ斜めのボールが通り、カプリーニとのワンツーで釣り出されたホイブラーテンを出し抜くと、ホイブラーテンのカバーに入ったショルツの対応も不十分で、最後はマルセロヒアンが強烈なボレーシュートを放ち、ゴールネットを揺らした。

14分の横浜の得点 【Gyo Kimura】

横浜FCからすると奪いに行くときにはタイトに『人』を捕まえる浦和の習性を逆手にとり釣り出した背後を取って上手くゴールすることができた場面だった。

一方で浦和からするとサイドでハメることができそうな局面だったが、山根からマルセロヒアンへの楔のパスが意外性が高く、ブロック内に侵入されたことと、2手3手と連続で対応をかわされたことで足が止まり最後のマルセロヒアンのところでホイブラーテンと伊藤の間でお見合いが起こってしまった。

『ピン留め』

『人』を基準に守る横浜FCの守備に活路を見出したい浦和は17:40の左サイドでの『ピン留め』からヒントを得る。これまであまりSBが高い位置からスタートすることがなかったのだが、荻原が最前線でRWBの山根をピン留めしてその手前のスペースに小泉がボールを受けるというもの。

31:32も同様に荻原が山根をピン留めして飛び出させないように固定して、小泉がカプリーニの斜め後ろでボールを引き出した。

31分の浦和のピン留めを使ったボール保持 【Gyo Kimura】

これによって浦和はボールを前に運んでプレス回避することは可能になった。

浦和の問題はここからで、ピン留めして中盤にスペースを作ったところで「どうやって横浜FCの5バックを攻略したら良いのか」が不透明だったことだ。43:07の場面では下の図のように、荻原がピン留めして山根を固定、小泉がカプリーニの斜め後ろでホイブラーテンからボールを受けて前進するがそこから先でノッキングを起こす。結局ブロックの外側に追い出される格好となり、小泉はゴール方向から離れるような斜めの動きで難しい体勢で荻原からボールを受けるが岩武が蓋をした。

43分の浦和のピン留めを使った攻撃 【Gyo Kimura】

アタッキングサードの崩しに関しては浦和はシーズンを通じて抱えている課題である。1vs1で剥がせる選手もいなければ、ハイクオリティのラストパスを出せる選手もいない。かといって決定的な崩しのパターンがあるわけでもないので得点力不足というかボール保持からチャンスを作ることがなかなかできていないことが現状だ。

横浜FCからすると5-2-3で守る欠点としてWBとシャドーの距離が遠いので、浦和のピン留め攻撃のようにWBが固定されてしまうとシャドーの背後にスペースが生じることだ。3バックの一角が食い付くには距離が遠いのでリスキーであり、ダブルボランチはマーカーを抱えていることが多いのでスライドして出ていきづらい。そんなシステムの欠点を突かれ始めた前半だった。しかしながら、危ない場面があった訳ではないので後半の対応が注目だった。

【4-1-5】で生み出す位置的優位

後半に入ると浦和はボール保持の形を変更。4-1-5の配置を基本として、岩尾が最終ラインに入ると酒井が高い位置を取り、アンカーの位置に移動が入るような関係性でボール保持を行った。前線5枚のうち4枚で横浜の5バックをピン留めして固定しておき、残りの1枚は中盤に下りてこれるような流動性を確保。最終ラインの4枚で横浜の3トップに対して数的優位を確保しておき、外側から前進するような狙いがあったのではないかと思う。浦和がこの配置に変更したことで前半は見られなかった位置的優位性が生まれることになる。

46:29ではいきなり浦和は4-1-5の並びからチャンスを作る。最終ラインに下りた岩尾から伊藤へ縦パスが入り、伊藤がドリブルで運んでから左サイドの関根へ展開。関根は早いタイミングでクロスを入れたが精度が低くシュートには至らなかった。

46:29の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】

52:36では酒井が高い位置でピン留めしてLWBの林を固定すると小川の斜め後ろで伊藤が流れてきて西川からパスを貰ってプレス回避。伊藤からライン間の関根へグサっと刺すようなパスが入り良い展開になりかけた。

52分の浦和のビルドアップ 【Gyo Kimura】

そんな中で生まれたのが浦和のPKに繋がった場面だった。71:07で前線から下りてきた髙橋がホイブラーテンからパスを受け、カプリーニの斜め後ろのスペースにいた関根が髙橋からボールを受ける。この時に大畑が高い位置を取っていたことで山根は最終ラインに固定されていた。関根に対して距離が遠いのでRCBの岩武は寄せづらく少し対応が遅れた。そして、ンドカの背後を取った興梠へスルーパスが入ったところで、ンドカの対応がファウル判定となり、PKへと繋がった。

71分の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】

横浜FCはWBが最終ラインにピン留めされるようになってからはなかなかシャドーの斜め後ろのスペースを管理できずにいた。それでも5-2-3のブロックを作りながら背後のケアは入念に行っていたので我慢強く対応できていたが、痛恨のPK献上となった。

横浜FCは5-2-3から5-4-1にしてシャドーの斜めの後ろのスペースを消しにかかるなど対応策も見られた中で際どい判定に泣く形となった。前半の45:01や後半49:16のようなマルセロヒアン、カプリーニ、小川の3人だけでもカウンターの局面を作り、何回かカウンターからチャンスを作れていたので、追加点が取れていればというゲームは決まっていたかもしれない。

浦和からすると後半の方が相手DFを固定する人と、固定したことで生まれたスペースへ動いてボールを受ける人の整理がされていた印象を受けた。特に前半は2列目の構成が足下でボールを受けることを得意としている選手が多く、背後への意識もあまり高くなかったように感じられた。ボールサイドへ寄りすぎることでDFも引き連れてしまうのでスペースを潰してしまう場面が何回かあった。怪我人も多い中で2列目の構成は指揮官も悩んでいることだろう。

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