『釣り出す』と『ピン留め』の使い分け
優勝争いに望みを繋ぐために勝点3が必要な浦和と残留に向けて勝点3が必要な横浜FCの対戦は互いに勝点を分け合う痛み分けとなった。
横浜FCの5-2-3で激しく人に付いて行きボールを刈り取る守備が前半は目立ち、後半は浦和がスペースを意図的に作ったことで主導権を握った。今回は横浜FCの5バックで『人』を捕まえる守備とそれに対する浦和の『釣り出す』と『ピン留め』を使った打開策に注目していく。
【5-2-3】の『人』を捕まえる守備
1分の横浜のハイプレス 【Gyo Kimura】
3:48では岩尾とホイブラーテンがワンツーでマークを剥がして、安居が右サイドから大胆にボールサイドまで移動してきてプレスの逃げ道を作った。しかし、浦和はボールサイドに密集しており、安居がプレーできるスペースも狭かったことからボールロストした。
3分の浦和のビルドアップ 【Gyo Kimura】
浦和としては安居が逆サイドへ展開できていれば一気にスピードアップできた局面だったが密集の中でそこまでの余裕はなく、ボールを失ってしまった。
『釣り出す』
・浦和の『釣り出し』を使った攻撃
7:01では浦和の狙いが上手くハマった場面だった。RCBのショルツからボールを受けたRSBの酒井にはLWBの林が飛び出してくる。林が飛び出したことで空いた背後のスペースにRSH安居が内側から流れてきてボールを受ける。当然、安居にもLCB吉野が飛び出して対応してくる。すると吉野の背後にもスペースが生まれるので、酒井がアンダーラップして安いからボールを受けてPA内へと侵入した。
7分の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】
浦和の両SBは低めの位置からスタートしていたのも、横浜FCのWBを釣り出してリンセンや安居、早川といった前線が背後を取る意図があったと推測する。WBだけでなく、3バックの一角を釣り出して背後を取ること狙っているように感じられた場面もあった。
しかし、浦和の課題として横浜FCのマンマーク気味の守備で位置的優位を消されてしまうと、ボール保持が上手くいかない問題は顕著に現れていた。そして、解決策を模索している段階で横浜FCのマルセロヒアンのゴールが決まり苦しい展開となった。
・横浜の『釣り出し』を使った攻撃
4:21では横浜FCは左サイドからチャンスを作る。ボランチの井上からLWBの林へとパスが通った時に、RSBの酒井が対応するために釣り出される。酒井の背後のスペースでシャドーの小川がボールを受け、PA内へと侵入。
4分の横浜のサイド攻撃 【Gyo Kimura】
10:50では右サイドから。CBのンドカから鋭いパスがRWB山根へと通り、LSB荻原が釣り出される。山根が荻原との1vs1でドリブルで抜き去りGK-DF間へグラウンダーの良いクロスを入れるが飛び込む選手はおらず得点には至らなかった。
10分の横浜のサイド攻撃 【Gyo Kimura】
14分の横浜の得点 【Gyo Kimura】
一方で浦和からするとサイドでハメることができそうな局面だったが、山根からマルセロヒアンへの楔のパスが意外性が高く、ブロック内に侵入されたことと、2手3手と連続で対応をかわされたことで足が止まり最後のマルセロヒアンのところでホイブラーテンと伊藤の間でお見合いが起こってしまった。
『ピン留め』
31:32も同様に荻原が山根をピン留めして飛び出させないように固定して、小泉がカプリーニの斜め後ろでボールを引き出した。
31分の浦和のピン留めを使ったボール保持 【Gyo Kimura】
浦和の問題はここからで、ピン留めして中盤にスペースを作ったところで「どうやって横浜FCの5バックを攻略したら良いのか」が不透明だったことだ。43:07の場面では下の図のように、荻原がピン留めして山根を固定、小泉がカプリーニの斜め後ろでホイブラーテンからボールを受けて前進するがそこから先でノッキングを起こす。結局ブロックの外側に追い出される格好となり、小泉はゴール方向から離れるような斜めの動きで難しい体勢で荻原からボールを受けるが岩武が蓋をした。
43分の浦和のピン留めを使った攻撃 【Gyo Kimura】
横浜FCからすると5-2-3で守る欠点としてWBとシャドーの距離が遠いので、浦和のピン留め攻撃のようにWBが固定されてしまうとシャドーの背後にスペースが生じることだ。3バックの一角が食い付くには距離が遠いのでリスキーであり、ダブルボランチはマーカーを抱えていることが多いのでスライドして出ていきづらい。そんなシステムの欠点を突かれ始めた前半だった。しかしながら、危ない場面があった訳ではないので後半の対応が注目だった。
【4-1-5】で生み出す位置的優位
46:29ではいきなり浦和は4-1-5の並びからチャンスを作る。最終ラインに下りた岩尾から伊藤へ縦パスが入り、伊藤がドリブルで運んでから左サイドの関根へ展開。関根は早いタイミングでクロスを入れたが精度が低くシュートには至らなかった。
46:29の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】
52分の浦和のビルドアップ 【Gyo Kimura】
71分の浦和の攻撃 【Gyo Kimura】
横浜FCは5-2-3から5-4-1にしてシャドーの斜めの後ろのスペースを消しにかかるなど対応策も見られた中で際どい判定に泣く形となった。前半の45:01や後半49:16のようなマルセロヒアン、カプリーニ、小川の3人だけでもカウンターの局面を作り、何回かカウンターからチャンスを作れていたので、追加点が取れていればというゲームは決まっていたかもしれない。
浦和からすると後半の方が相手DFを固定する人と、固定したことで生まれたスペースへ動いてボールを受ける人の整理がされていた印象を受けた。特に前半は2列目の構成が足下でボールを受けることを得意としている選手が多く、背後への意識もあまり高くなかったように感じられた。ボールサイドへ寄りすぎることでDFも引き連れてしまうのでスペースを潰してしまう場面が何回かあった。怪我人も多い中で2列目の構成は指揮官も悩んでいることだろう。
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