私のミッション・ビジョン・バリュー2023年第4回 樹森大介コーチ「今を本気で前向きに取り組む」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2023年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2023年第4回は樹森大介コーチ選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.昨年までユース監督を務めていましたが、今季からトップチームコーチに就任しました。今までこういった面談を行ったことはあったんでしょうか?
「ありませんでしたね。今年からアカデミースタッフも行うようになったそうです。今年は3月ぐらいから1カ月に1回ペースで、5回にわたって面談をしましたよ」

Q.実際に面談をしてみて、どうでしたか?
「アカデミー時代はクラブフィロソフィーという形でミッション・ビジョン・バリュー的なものを作っていて、言語化する意義は理解していたので、問題なくできました。とはいえ、アカデミーからトップチームに来て、最初の頃はマインドの切り替えができていなかったところがありました。昨年まで11年間もアカデミーの指導者としてやってきたので、急に切り替えるのは難しかったですね。最初の頃の面談はまだ考えがまとまっていないところがありました」

Q.カテゴリーが変わったタイミングでの面談はマインドや考え方を切り替えるいい機会になったのでは?
「これからトップチームで仕事をする上で、また、コーチという立場で指導していく上で必要とされる要素やどういう立ち位置で選手と接していくのかを整理するいい機会になりました」

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Q.まず、ミッションについて聞かせてください。「サッカーを通じて地域を活性化させる」。この言葉への思いは?
「これはアカデミー時代の思いが強いですね。でも、トップチームも同じだと思うんですよ。サッカーを通じて、水戸というクラブの魅力を発信していきたい。トップチームだけでなく、アカデミーやスクールでも水戸の選手や子供たちは生き生きプレーしていると言ってもらいたいんです。そして、地域を活性化するということに関して、ホーリーカップなどの大会を開催することによって、全国のいろんな地域のチームを水戸に集めて、地域を盛り上げたい。ホーリーホックだけでなく、水戸を中心とした地域の子供たちがレベルの高いサッカーに触れ合う機会を作りたいとアカデミーの指導者時代にずっと思っていたので、この言葉を選びました」

Q.「活性化」とはどんなことをイメージしていますか?
「ホーリーカップを開催することにyって、毎年夏にたくさんのチームが水戸にやってきて、子供たちだけでなく、保護者も地域の宿泊施設に泊ります。今年は海外からもチームが来ましたし、1000人近い人たちが大会に出るために県外から水戸に来てくれました。そういうことをイメージしています。そして、その大会には毎回、水戸市の中体連のチームに参加してもらっています。ホーリーホックだけでなく、水戸市の中体連の選手たちにも刺激にしてもらって、全体のレベルアップにつなげることによって、地域を活性化させていきたいと考えています。人の活性化もありますし、小さいですけど、地域経済の活性化にも貢献したいと思っています」

Q.ユース監督時代、地域の指導者とコミュニケーションを取りながら、地域のレベル向上につなげようとしていたのでは?
「水戸のアカデミーでは明確なフィロソフィーを作って、しっかり判断しながらプレーできる選手を育てていこうとしてきました。そうやって地域に刺激を与える存在になろうとしてきました。そうした中で今夏、明秀日立高校がインターハイで優勝したことはすごく嬉しかったですね。大会後、すぐに萬場努監督に連絡を入れました。逆にいい刺激を受けました。茨城のサッカー界にとって、素直に嬉しい出来事でしたね」

Q.今季からトップチームのコーチに就任しましたが、トップチームとしてはどのような活性化を考えていますか?
「子供たちに夢を与えられるのはトップチームの選手たちなんです。トップの選手の立ち振る舞いやプレーが地域の子供たちに大きな影響をもたらすのはアカデミー時代からすごく感じていました。だから、なおさら責任の大きさを感じています」

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Q.ビジョンについて聞かせてください。「水戸で育った人材が様々な世界で活躍する。魅力ある人材が育ち、クラブが地域の象徴になる」。この言葉に込めた思いは?
「元々、僕はアカデミーの指導者時代からこういうことを考えていました。『世界』というのは海外というわけではなく、『いろんな業種』という意味です。どの世界に行っても活躍してもらいたいと思って、この言葉にしました。昨年まで高校性を送り出す立場でした。ユースを卒業してから、自衛隊に入った子もいますし、医学部に進学して頑張っている子もいます。いろんな『世界』で活躍する人材を育てたいし、人として魅力ある人材を育てたいと思って指導をしてきました。監督の前だけでいい子になるような選手ではなく、どこでもしっかりした振る舞いができる人材を育てたいと思っていますし、そうなると、ホーリーホックは地域で一目置かれる存在になれると思うんです。この言葉はそうした思いを込めた言葉です」

Q.そのために意識したことは?
「コミュニケーションの取り方ですね。あとは社会人としての立ち振る舞いや後輩への接し方については意識させました。あとは中学生の練習生が来ることがあるんですけど、その時にしっかりコミュニケーションを取ることも指導していました。一言で言うと、規律のところですね。整理整頓だったり、時間を守ることだったり、そういうことは社会に出てから大切なことなので、指導してきました。それを指導者に言われたから行動するのではなく、自主的に行動する意識づけをしてきたつもりです」

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Q.バリューについて聞かせてください。一つ目は「好奇心を大切にアグレッシブに行動する」。
「僕自身、基本的に好奇心が旺盛で、いろんなものを採り入れるのが好きなんですよ。気になったことは試したいし、チャレンジしたくなるんですよ。トレーニングもそうですし、学んだことを整理して、いいと思ったことは意欲的にチャレンジする。それは選手たちにも伝えていますし、自分自身もそういう行動をとるようにしています。今までも海外遠征やホーリーカップなどやれることをやってきました。それはトップチームのコーチになっても変わらず、いろんなことにチャレンジしていきたいと思っています」」

Q.2つ目は「ブレずにやり続ける」。
「今は濱崎監督を支えることが自分の役割です。監督から言われたことをしっかり聞きながら、その意図に沿いながらブレずにやっていきたい。コーチングスタッフ間でサッカー観が異なるのは当たり前。それでも考えをすり合わせてブレずにやっていくことが大事です。スタッフ間でいろんな意見が出て、多少考えが揺らぐこともありますけど、それでも、一つになって取り組んでいくことが大事だと思っています」

Q.今季は結果が出ない時期が長かっただけに、ブレそうになることも多かったのでは?
「難しかったですね。ブレない方がいい時もあったと思いますし、多少やり方を変えた方が良かった時もありました。それでも芯の部分をブレずにやっていかないと一貫性がなくなってしまう。芯のところが大事だと思います」

Q.3つ目は「相手に寄り添う」です。
「これはトップのコーチに就任してから感じたことです。コーチなので、監督よりも選手と近い。選手としっかり寄り添いたいですし、水戸は若い選手が多いので、うまくいっていない選手にも寄り添いたいと思って接しています」

Q.今季はユース出身の田辺陽太選手が先発フル出樹する試合が続きました。
「昨季まで試合に絡めていなかったので、自分がコーチになった時に少し刺激を与えました。いつも通りプレーすることの大切さを伝えたところ、陽太は変わったんです。ピッチの中でよく声を出すようになったんです。すると、どんどんパフォーマンスが良くなって、濱崎監督も『使おう』と思ってくれるようになった。陽太だけでなく、どの選手もほんのちょっとのきっかけで大きく変わることができる。陽太はプロ3年目の勝負の年だったこともあり、始動してから2~3カ月は結構寄り添った記憶はあります。今はもう手を離れていきました(笑)。そういう風に試合に出られない選手のサポートを意識しています。ユース監督時代はコーチに頼んでいたことを今は自分が行っています」

Q.4つ目は「地域の魅力、風土を理解する」です。
「僕は茨城のほかに埼玉や群馬で仕事をしたことがあるのでしたが、その土地で受け入れられやすい立ち振る舞いがあるんですよね。そういうことを理解しないといけないと思っています。ホーリーホックの考え方だけで行動しても、地域には認めてもらえない部分もある。水戸で活動している以上、水戸の風土に合わせることを僕は大切にしてきました。地域性や地域の人が求めることに対しての感度を高くすることはすごく重要なんです。何でも発信すればいいわけではないんです。地域の方々の思いを汲まないといけないですし、これまで支えてくれた人たちへの感謝の思いも持たないといけない。そういう方々をないがしろにすると、うまくいかないんですよ」

Q.アカデミーはトップチームより密に地域と関わってきたからこそ、その大切さを学ぶことができたんでしょうね。
「本当に地域のみなさんと一緒にやっていかないと応援されない。この地域の風土を理解しないと、土俵に立てないとずっと思ってやってきました。そういう意味で自分が大切にしてきた言葉なんです」

Q.最後は「変わり続けるために、学び続ける」です。
「ユース監督時代もそうですけど、常にアップデートすることを心がけています。ぶれないスタイルやフィロソフィーを構築しながらも、練習メニューやアプローチの方法を変えていました。そのためにも僕自身が学び続けないといけない。選手を変えるためにも、指導者が変わらないといけないという考えを常に持ち続けています」

Q.どのように「学び」をしていますか?
「ここ1~2年はS級ライセンス取得のために海外に研修に行くこともありました。あとはJリーグの研修にも行って多くの刺激を受けました。そこでどんどん変化していった部分もあります。海外も国内も、研修は自分のスタイルに合うチームに行くことができたので、多くのことを学ぶことができました」

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Q.スローガンについて聞かせてください。「今を本気で前向きに取り組む」。この言葉に込めた思いは?
「今季、トップチームという新たな環境に飛び込むこととなりましたが、消極的になるのではなく、できることを本気で前向きに取り組んでいこうという思いで日々過ごしています。本気で取り組んで自分のものにしていくということは、自分自身がユース監督時代に選手たちに伝えてきたことです。その言葉を今の自分に当てはめて、自分の中で整理して本気で取り組もうとしています。トップチームのやり方を本気で学びながら、主体的に取り組むことを意識しています」

Q.ユースからトップチームへの変化に対応するのは大変でしたか?
「11年間アカデミーで指導してきましたから。活動時間が夜から朝に変わったことなどいろんな変化がありました。また、監督でなくなったことの変化も大きいですね。監督はいろんなことをジャッジしないといけないのですが、それがなくなりました。トップチームはコーチがアカデミーと比べて多くて、役割が分担制になりました。そして、今はメインの選手というより、メンバー外の選手の練習を任されることが多いので、その選手たちとコミュニケーションを取りながら、いかに引き上げていくかを常に考えています。昨年までと異なる仕事をしているので、考え方も今まで通りではうまくいかない。役割が変わった分、表現の仕方も変わりましたね」

Q.チームとしてなかなか結果が出ない時期が長かったです。その間に樹森コーチ自身の変化もありましたか?
「トップチームといっても、水戸は若い選手が多い。だから、しっかり向き合うと、いろんなことを聞き入れてくれるんだという発見もありました。一方、自分をしっかり持っている選手がいます。そういう選手に指示する際、ちゃんと説明してあげないと、聞き入れてくれないアカデミーの選手は指示をすれば従ってくれたのですが、トップの選手は必ずしもそういうわけではありません。そういう学びもありました」

Q.シーズンも残りわずかとなりました。
「はっきり言って、シーズン前に思い描いていた戦いができなかったので、歯がゆい思いが強いですけど、最後までチームの一員として貢献できるように、今できる『本気』を前向きに出していって、選手に刺激を与えて、ベースアップをして、チームを活性化していきたいと思います」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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