モダンスタイルへの挑戦【ドイツvs日本】

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チーム・協会
【これはnoteに投稿されたGyo Kimuraさんによる記事です。】
4-1
カタールW杯のグループ予選で日本がドイツを破った試合から約10ヶ月。ドイツとの再戦が早くも行われた。

しかし、カタールW杯の時は日本が耐え忍んで何とか勝利を手にしたが、この試合は打って変わって日本の完勝であった。W杯から大きく成長している日本の印象とは裏腹にドイツは停滞感が漂うゲームとなった。そこで今回は日本のモダンスタイルへとアップデートとドイツの停滞感の原因についてまとめていく。

4-4-2ゾーンディフェンスからのプレス

まず日本がカタールW杯でドイツと対戦した時からボール非保持の振る舞いで大きな変化が明らかだった。後半は前回対戦時のように5-4-1でコンパクトに保ち、人を基準に守るような守備だったが、前半は4-4-2でミドルゾーンにブロックを作りドイツの攻撃を対応した。

ハイプレス、ミドルブロック(ミドルプレス)、ローブロックのスリーゾーン全てでの守備が求められるのがモダンサッカーだ。日本の各選手の成長も著しいため、W杯の時のようにローブロックでただサンドバッグのように殴られ続けるのではなく、ミドルブロックから相手の攻撃を迎撃したり、積極的にプレスをかけたりと徐々に主体性が生まれている。

4-4-2ミドルブロック

まずは日本の大きな成長が感じられた部分が4-4-2のゾーンディフェンスだ。当然メンバーも違うので純粋に比べることはできないが、カタールW杯でドイツと対戦した際にはミドルブロックは作れずに一方的に自陣に押し込まれ、なるべく5-4-1のローブロックをコンパクトに保つことが精一杯だった日本。

しかし、この試合では守備時にはトップ下に入った鎌田とCFの上田が横並びで2トップを形成して4-4-2のミドルブロックを構築。2トップがドイツのアンカーに入ったジャンを挟み込んでから一角がCBへとプレスに出ていき、もう1人はアンカーを警戒するタスクを遂行。

立ち上がりの日本のプレスとドイツのビルドアップ 【Gyo Kimura】

ドイツのボール保持ではRSBのキミッヒが偽SBでアンカーのジャンと横並びになってプレス回避の出口を作ろうとするが、キミッヒに対してはLWGの三笘とLCMの守田が警戒を高めていたのであまり仕事をさせていなかった。基本的に日本の右サイドでドイツは攻撃を組み立て、逆サイドにいるRWGのサネの1vs1でチャンスクリエイトする流れが多くなった。

ドイツは日本のブロック内へ侵入しながら前進することがなかなかできずに苦戦。RIHのヴィルツが右サイドワイドの位置に流れてきたり、ハヴァーツが下りてきてパスを引き出そうとしていたが、ズーレとリュディガーの両CBがそこまで器用にビルドアップができる選手ではないのでボールの出し手のところで制限がかかっていた。

そして偽9番の動きでボールを引き出そうとするハヴァーツに対しては下の図のようにマークを受け渡して対応するか、30:42の板倉が潰した場面のようにしっかりとついていくことができていたのでそこまで効果的な打開策にはなっていなかった。

ハヴァーツの偽9番 【Gyo Kimura】

しかしながら日本はミドルブロックの綻びから前半の18分に同点弾を許してしまう。LCBのシュロッターベックのハーフレーンでの持ち運びに対して、RCMの遠藤が釣り出させる格好で遠藤と守田の間にギャップを作ってしまい中央のギュンドアンへ縦パスが入ったところから失点した。

ドイツの同点ゴール 【Gyo Kimura】

RWGの伊東がLSBシュロッターベックに飛び出す形をとっていた分、遠藤も釣られて外側に立ち位置を取る機会が多くなっていた前半だったが、シュロッターベックに対する遠藤プレスの角度が悪く、中央へ縦パスを許す形となった。ギュンドアンは圧巻でボールを受けるための内側にスライドするパスコースの確保し、板倉の背後からのプレスをひらりと受け流してヴィルツへと展開。ボールが右サイドにある時にはヴィルツとサネvs伊藤の日本の数的不利な状況が左サイドが発生していたところを突かれてサネが冷静にゴールへ流し込んだ。

失点した場面以外にも下の図のように遠藤が相手に食い付いたことでチャンネルランで背後を取ったLIHのギュンドアンにRCBの板倉が引っ張り出される場面もあり、ミドルブロックのディテールは詰める必要がありそうだ。

4:30のギュンドアンのチャンネルラン 【Gyo Kimura】

他にも31:53のようにミドルブロックの中央を割られる場面があり、まだまだミドルブロック時の個々の立ち位置やプレスのかけ方などは改善が必要だろう。

4-4-2プレス

ガンガンハイプレスに出るというよりかは構えてプレスに行けそうであれば全体でプレスをかけるスタンスだった日本。回数こそ多くはなかったが、ハイプレスをかけた時にはドイツのパスコースを限定することができていた。

9:12では鎌田がハイプレスのスイッチを入れてLCBのリュディガーへとプレス。アンカーのジャンに対して遠藤が前に出て圧力をかけて、LSBのシュロッターベックへは伊藤が連動してプレス。シュロッターベックからGKのテアシュテーゲンへのバックパスには上田が反応してサイドを返させずにリュディガーへパスを誘導。最終的にリュディガーは蹴らされる格好となりボールはタッチラインを割った。

9:12の日本のプレス 【Gyo Kimura】

ドイツはRSBのキミッヒがボランチの位置へ入るので左サイドによった3バックへと可変する。従って日本はリュディガーとシュロッターベックのいるドイツの左サイドへと誘導してボールを奪う意図が感じられた。チームの共通認識としてプレスは適切なタイミングで入れることができていたように思う。

多彩なモビリティ

後半はシステムを3-4-2-1に変更したことでボール保持よりもカウンター狙いが増えたが、前半は立ち位置を工夫して必要に応じて動きを加えながらボール保持して、前進する狙いが見受けられた。

4-1-2-3でプレスをかけるドイツに対して日本はRCMの遠藤をアンカーに置き、LCMの守田とトップ下の鎌田がIHのようなタスクで中盤に逆三角形を作った。するとシステムの噛み合わせ上、ハヴァーツの背後で遠藤が浮きやすくなった。4:05のようにCBから遠藤がハヴァーツの背中でボールを受けて捌くような場面は前半多くみられたプレーだ。

4:05の日本のビルドアップ 【Gyo Kimura】

この場面でハヴァーツのプレスバックで圧力を受けた遠藤はバランスを崩しながらパスを出したことで伊東へパスが通らなかったが、相手のFWの背後で受けて素早く次へ繋げるスキルが遠藤には今後更に求められるだろう。

マークの撹乱

ドイツは日本の4-1-2-3のビルドアップの形に対してギュンドアンとヴィルツのIHを遠藤と守田のダブルボランチに当てることで対応してきた。しかし、日本はトップ下の鎌田が大外のRSB菅原-RWG伊東の間に流れることでドイツのマークを撹乱。10:25では鎌田が右のワイドに流れることで3vs2の状況を作ったところからプレス回避することができた。

鎌田の外へ流れる動き 【Gyo Kimura】

この場面で守田が敢えてヴィルツを引き連れてボールサイドから離れることで遠藤にスペースを提供。RSB菅原からパスを受けた遠藤に対してギュンドアンが鎌田を消しながらプレスをかけるが、遠藤はそれを利用してターンから逆サイドのLWG三笘へとサイドチェンジ。

10:25の遠藤のサイドチェンジ 【Gyo Kimura】

この前進によって相手陣内深い位置までボールを運べたことで結果的に伊東の1点目が生まれた。

中盤の数的優位

そしてこの試合先発でCFを務めた上田について言及する必要があるだろう。得点もあげて決定機もあった上田だが、ビルドアップの局面で重要な働きをしていた。

上田のポストプレーは日本がビルドアップでハマられた時でも、ある程度ラフなボールを収めてくれることで前進することを可能にした。14:33ではLCB冨安からのラフなロングボールをリュディガーとジャンに挟まれながらもキープして鎌田へと繋げたことで一気に相手ゴールに迫ることができた。

14:33の上田のポストプレー 【Gyo Kimura】

盤面上ではハメられてしまっているが上田が収めたことで日本はボールを失わずに攻撃を続けることができた。

また特筆すべきは上田の偽9番の動きだろう。ドイツと日本の中盤の数はお互い3人ずつなのでドイツが人を基準に守備をした際に日本の中盤の選手はマークされてしまう。そこで上田が最前線から1.5列目に下りてくることで中盤に数的優位を作り出していた。17:14の場面を見てみると上田がアンカーの脇に下りてくることでアンカーのジャンはピン止めされる。守田と遠藤のダブルボランチはヴィルツとギュンドアンにマークされているが、鎌田は浮くことができる。鎌田と菅原のパス交換でLSBのシュロッターベックを釣り出させて、その背後のスペースに伊東が抜けた場面は中盤の数的優位からチャンスを作った良い攻撃だった。

伊東の背後への抜け出しはオフサイドとなる 【Gyo Kimura】

上田の偽9番の動きだけでなく、両SBの伊藤か菅原のどちらか内側に入ってきて中央に人数を増やし、三笘と伊東のWGのところで1vs1を作る工夫なども見ることができた。どちらかと言うと伊藤が内側に入り、菅原は後方からオーバーラップやアンダーラップで伊東や鎌田をサポートするプレーが多く、この辺はSBの特長によってタスクを変化させているはずだ。いずれにしてもW杯からSBのタスクは大きく変化が見られるポイントである。

戦術の幅

日本とドイツで大きな差を1つあげるとするならば戦術の幅かもしれない。カタールW杯以降森保ジャパンは戦術の幅を拡張する試みを行っており、この試合でも4-2-3-1と5-4-1(3-4-3)を使い分けた。一方のドイツは選手を変えたり、システムを変えたりするものの、基本的な戦い方は一緒で臨機応変さは感じられなかった。

洗練された5-4-1

カタールW杯で森保ジャパンの『伝家の宝刀』として5-4-1のシステムが導入されると、守備陣形をコンパクトに保ち、ローブロックで耐え凌いでグループステージを首位通過という結果を残した。

そしてこの試合の後半にも5-4-1へとシステム変更。4-4-2のミドルブロックではゾーンが基準となるゾーンディフェンスだったが、5-4-1では相手を基準にする人を捕まえる守備となる。より個々のマーカーやタスクを明らかにすることでドイツの攻撃を停滞させていった。

50:57では5-4-1から上手くプレスをかけることができた場面だった。RCBズーレへと横パスをトリガーに鎌田がプレスで飛び出すと日本のプレスのスイッチが入り、ダブルボランチも連動して人を捕まえに行く。ジャンは遠藤からの圧力を受けたことでパスの精度をかき、パスミスを引き起こした。

50:57の日本のプレス 【Gyo Kimura】

ボール保持では基本的に前半とタスクは同じなのだが、個々のスタートポジションが5-4-1の立ち位置から始まることが多いので、前半は右サイドでのプレーが多かった鎌田は左サイドでプレーする機会が増えた。56:50では鎌田がアンカーの脇に流れて守田から縦パスを引き出すと日本の攻撃のギアが上がり、最後は三笘のカットインシュートまで持って行くことができた。

56:50の日本の攻撃 【Gyo Kimura】

58分に上田と鎌田を下げて、谷口と浅野を投入してからはボール保持よりも5-4-1のローブロックとカウンターにベクトルを向けて堅守速攻スタイルへとシフトチェンジしていった。ゲームマネジメントや戦況に合わせた戦い方の変更ができるようなったのはW杯以降からの戦術の幅の拡張によるものだろう。2-1で折り返して迎えた後半にカウンターから追加点を取ってゲームを終わらせることができたことや、ドイツにチャンスらしいチャンスを作らせなかったことは洗練された5-4-1の成果である。

ドイツの停滞感

日本が後半から5-4-1にシステム変更してからほとんどチャンスを作れなかったドイツ。前半も日本の4-4-2のミドルブロックを前にサネの1vs1以外に攻め手が見当たらなかったが、後半は日本が5バックに変更して日本陣内でコンパクトな守備ブロックを作ったことで、サネの周りのスペースは無くなり攻撃が停滞した。

ドイツは2CB+アンカーの3枚は後方に残す原則があるように伺えた。時間が経つにつれて後方3人の立ち位置も前のめりにはなっていったが彼らがアタッキングサードに入る機会は少なかったはずだ。日本は5-4-1のブロックなのでドイツが3枚を後方に残す限り、数的優位を作られることはない。ドイツはサイドに人を集めて攻略を試み続けた後半の45分間だったが、下の図のようにサイドでノッキングを起こして5-4-1のブロックの外を永遠と弧を描くようにボールを動かしていた印象だ。

ドイツのサイドでのノッキング 【Gyo Kimura】

選手を入れ替えてギアチェンジを図りたいドイツだが、交代で入ってくるメンバーで先発メンバー以上のインパクトを与えられた選手がいないのはドイツの厳しい台所事情だ。また、選手の立ち位置のローテーションで日本の守備を攻略しようとするが、根本的に密集(狭いエリア)から抜け出す手立てにはなってなかった。ドイツの勿体無い部分で言うとオフザボールの動きは活発なのだが、それはボールを貰うための動きであって他の誰かにスペースを与えるためのものではないことだ。つまり出し手と受け手の関係性で完結してしまっているので、日本の選手たちも予測しやすく守備組織に綻びが生まれない。キミッヒやギュンドアン、ハヴァーツはそれでも自分で考えて動きを工夫していたように見えたが彼らの動き出しとリンクする選手がいないことはゲームを難しくした。

またディフェンダーのボールを扱う能力が限られていることも大きく影響したはずだ。45:45のアンカーのジャンがドリブルで前に運んでからギュンドアンへ縦パスを入れたプレーのような、「運ぶドリブルからのパス出し」ができないドイツのCBは攻撃への貢献度が低いものになってしまった。

45:45のジャンの運ぶドリブルからの縦パス 【Gyo Kimura】

「相手を釣り出してパスを出す」、「次のパスを出す方向へ身体の向きを作る」、「いち早く選択肢を作る」といった基本的な部分ができていない瞬間が多々あった。

日本の3点目を見てみるとドイツは日本の左サイドに人数を多くかけているが肝心の中央に人が少ないので脅威が少ないことと、ゴセンスのリュディガーからのパスの受け方も良くなかった。更に言うとゴセンスへパスを出した後のリュディガーのポジション修正が無いので、ゴセンスがリュディガーへリターンパスをできない状況にしてしまっている。

89:01の日本の3点目のキッカケとなるプレー 【Gyo Kimura】

久保のプレスも角度が良く鋭さがあったのでボール奪取に成功。浅野のゴールをお膳立てした。日本が勝利を決める得点となった。

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