「仕事師」細田佳也、GR東葛で公式戦100キャップ達成!
【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
勝利を知る男が語る、GR東葛巻き返しへのマインドセットとは?
その間、トップリーグや日本選手権、プレーオフトーナメントなど、グリーンロケッツ東葛での公式戦出場が100の節目に到達した。
細田佳也。
チームには欠かすことができないベテランの「仕事師」だ。
日本大学を卒業後、2011年に入団してから192センチの長身を活かしたラインアウトはもちろん、タックルに、密集戦でのファイトに、LO/FLとして身体を張り続ける。
グリーンロケッツ東葛での99試合目となった三菱重工相模原ダイナボア―ズ戦では、69分にフェトゥカモカモ・ダグラスと交代でピッチに入るや、すぐに相手防御を突破。久しぶりのラインブレイクで秩父宮ラグビー場の芝を気持ち良く駆け、終盤の逆転劇に貢献した。
ボール争奪とディフェンスを“仕事場”とする細田にとっては、久しぶりにボールを持って走った晴れ姿でもあった。
「あまりラインブレイクに慣れていないので、ちょっとビックリしました。でも、気持ちいいですね(笑)」
細田は少しはにかんでそう振り返ったが、13シーズンにわたってトップレベルでプレーしながら、ボールを持って走ることを「慣れていない」と語るところが、仕事師の真骨頂だ。
ロバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)も、「細田は常にハードワークをいとわない素晴らしい選手。プレーの水準も高い」と絶賛する。
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しかし、細田はすぐに前を向いた。
12日の東芝ブレイブルーパス東京戦(柏の葉公園総合競技場 14時30分キックオフ)を始め、まだ今季はゲームが残っている。しかも、ホストとして戦う試合が、ブレイブルーパス戦も含めて4試合もあるのだ。
「今日はチームがやろうとしていることができなかったけれども、それをしっかり遂行できれば勝利につながる。だから、自信を持って次節のブレイブルーパス戦は戦いたい。そのためには、チームのなかでの自分の役割をもっと明確にして、それを80分間全うできるようなマインドセットを持たないといけない。自分に自信を持って、やれることをしっかりとやっていきたいと思います」
そんな細田がルーキーだった11年度は、グリーンロケッツ東葛がベスト4に入り、プレーオフに進出したシーズンだ。
細田も、第3節のトヨタヴェルブリッツ戦で、後半に入った54分に途中出場してデビュー。このシーズンは11試合に足跡を残した。
同期には、横浜キヤノンイーグルスに移籍した田村優、村田毅(現・花園近鉄ライナーズ)、田中光、森田洋介(いずれも引退)とルーキーイヤーから活躍した選手が揃い、チームを大いに活性化した。
また、チーム内でのポジション争いも激しく、それが細田のパフォーマンスを伸ばした。
16年度には日本代表に選ばれて2キャップを獲得。その年から新設されてスーパーラグビーに参戦したサンウルブズにも選ばれて、世界トップレベルと渡り合った。
一方で、練習に熱心に取り組み、試合ではボール争奪の最前線で身体を張り続けたことから、たびたび負傷に見舞われた。入団3年目の13年度は、トップリーグのレギュラーシーズンで試合出場がかなわず、治療とリハビリに明け暮れた。
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「同期はもうチームにはいませんが、毅と優はまだラグビーを続けている。そういうところでは刺激を受けています。田中と森田も、違うところで頑張っている。淋しい部分はあるけど、刺激にはなっています。
僕自身はケガが多くて、2年目くらいから毎年のようにケガと戦うようになった。特に、ジャパンやサンウルブズといったチームに選ばれるようなチャンスのときにケガすることが多くて……自分ではケガをしないようにプレーしているつもりですが、それでもケガをして、メンタル的に少し落ちたことが何度もありました。実際、ケガをしないようにプレーすることが毎年の課題でしたからね」
特に悩んだのが、「休む」ことを決断することだったという。
「無理をするかしないかという判断では、ずいぶん葛藤しました。たとえば、肉体的に違和感を覚えたときに練習をするべきか休むべきか、とか、治療した方がいいのかどうか、ということです。僕は休むことが苦手で、無理してでも練習するタイプだったので、休む勇気を持つことが難しかった。でも、いろいろな経験を経て、今では休むことの大切さを学びました」
参考になったのが、チームメイトやジャパン、そしてサンウルブズで接したプロフェッショナル選手たちのアプローチだった。
「プロフェッショナルの選手たちを見ていると、休むことをすごく大切にしている。僕も、会社員ではありますが、入社したときから『ラグビーで生きている』という自覚を持っていました。だから、プロとしてのマインドを持つことを心がけた。代表でも、そういう選手たちから学びました。
そういうなかで身につけたのが、ケガしたときには、メンタル的に落ちるところまで落とそうという対処(笑)。まずは、とことん落ち込むことにしたのです」
度重なるケガとの戦いも、練習を休むことへの葛藤も、真面目な仕事師だからこその悩みだった。
だからこそ、今は「感謝」という言葉を大切にしていると細田は言う。
実際、試合を終えたピッチで、妻の恵美(めぐみ)さん、娘の楓乃(かの)さん(2歳)から花束を贈られたときのスピーチも、感謝の気持ちに溢れていた。
「若い頃は、ケガをしたストレスからメディカルスタッフにちょっと反発したこともあったのですが、それでも支えてもらって今がある。家族も含めて、いろいろな人たちの支えがあったからこそ、ここまでできた。1人ではここまで来られなかったからこそ、感謝という言葉が自然に出るのです」
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細田自身は「存在意義」という言葉で、自分の働き場所を次のように話す。
「若い頃は、基本的には自分のラグビーのパフォーマンスを上げることにフォーカスしていて、あまりチームのことまで考える余裕はありませんでした。ただ、どんどん経験を積むうちに、視野も広がっていった。チームの在り方と同時に自分がチームにいる存在意義を考えるようになったのです。チームにどれだけ貢献できるか、どういう仕事ができるかといった、僕の価値を考えながらプレーするようになりました。そのなかで自分も成長していければ、という思いで、今はラグビーに取り組んでいます」
「自分の役割」を「80分間全うするマインドセット」にこだわる細田が、仕事師としての「価値」を試合の勝負所で存分に発揮すれば、チームは必ずや活性化される。
それが、ラインブレイクのような華やかな活躍になるのか、それとも目をこらさなければわからないようなブレイクダウンでの「いぶし銀の働き」になるのか――。
細田佳也の101試合目となるブレイブルーパス戦は、自身とチームがさらに輝くために記す、新しい一歩になる。
(取材・文:永田洋光)
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