アナリストが語るGR東葛の強みとこれからの観戦注目ポイント

NECグリーンロケッツ東葛
チーム・協会

【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

注目はバックスリー! 今季のグリーンロケッツ東葛には「まだまだ伸びしろがある!」  〜アナリストが語るGRの強みとこれからの観戦注目ポイント〜

 チームスタッフのなかに「アナリスト」と呼ばれる職種がある。
 名前からしてラグビーのさまざまな局面を分析する仕事だということは、なんとなくわかる。しかし、では実際に彼らアナリストたちは日常的にどういう仕事をしているのか。そして、チームの現状をどう見ているのか。そんな“素朴な疑問”を渡邉周馬アナリストに率直にぶつけてみた。
 あわせて、5日のホストゲーム、埼玉パナソニックワイルドナイツ戦(柏の葉公園総合競技場 14時30分キックオフ)以降に向けた、これからのグリーンロケッツ東葛の見所や注目点も教えてもらった。以下は、その一問一答だ。

【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

――アナリストと聞くと、対戦相手の映像を、目を皿のようにして分析して「コーチ、相手にはこんな弱点がありました!」みたいな感じで報告して勝利に貢献する――そんなイメージがあります(笑)。でも、実際にはどういう仕事をしているのか、教えてください。

 まあ、そのイメージも間違ってはいないのですが(笑)、僕は、アナリストはコーチと選手の手助けをする道具――そういうイメージを持っています。
 練習や試合を撮影するときも、その映像をもとに分析するときも、常に後から選手やコーチが見やすいように、と心がけていますし、同じような考えで画像の編集もしています。
 たとえば、FWの選手に向けては、過去の何試合にもわたって対戦相手のスクラムだけをまとめた映像を作りますし、バックスの選手には、たとえば相手のバックスリー(WTB及びFB)がどういうキックを蹴る傾向があるのかを、映像と数値で出します。
 他にもいろいろと仕事はあるのですが、一番大切なのは何かというと、実際に戦う選手や、その土台を作るコーチの要望に添って、どういう映像や数値を求めているかを直接聞いたり、考えたりして、材料を提供すること。そうしたコミュニケーションをとりながらの作業が大事だと考えています。アナリストが何かをすることではありません。
 さっきの例で言えば、もちろん、僕たちから「相手にはこういう弱点があります」という形でアプローチすることはありますが、その情報をもとに最終的に戦い方を決めるのはコーチです。
 僕たちが伝える情報が事実だったとしても、コーチが「いや、この試合はこういう戦い方で行く」と考える可能性もあります。だから、僕の方から「こうした方がいい」とは、あまり伝えないようにしています。

 ――板前さんに、「こんないい魚があります、こんないいお肉があります、こんなに新鮮な野菜が入りました」みたいな形で、優れた食材を提供する仕事――というイメージですね。

 そうですね(笑)。いいマグロが手に入ったけど、それを使うか使わないかを決めるのは、板前であるコーチの判断、といったイメージです。
 僕たちが、映像を100本用意したとしても、それがすべて使われるわけではありません。
 使うか使わないかは選手やコーチが判断することです。戦術の提案も、コーチが必要だと思えば提供しますが、基本的にはサポートが僕たちの仕事。選手やコーチがやりやすい環境を作っていくことが、僕たちのメインの仕事なのです。
 一般的に考えれば働く時間も長いし、正解があるかどうかもわからない。データをとった後で、統計上の意味がなければ、それは意味のないデータということになってしまう場合もあります。

 ――大変な仕事ですね。

 確かに厳しい仕事かもしれません。でも、他のアナリストはどうかわかりませんが、僕の場合は、ラグビーが好きだ、ということが大きなモチベーションになっています。
 自分自身は、選手としては上手くならなかったけれども、今チームにいる選手たちといっしょに戦いたい、この人たちといっしょにラグビーに関わっていたい――そう思うからこそ、僕にできることをやっている。好きだからこそ、いっしょに戦いたい。
 そういう気持ちでいるので、仕事は辛くないですね。むしろ、楽しく仕事をしています。

 ――アナリストの目から見た今季のグリーンロケッツ東葛の特徴を教えてください。

 第1節から第3節までのデータでは、グリーンロケッツ東葛がトライ数でディビジョン1全体の3位でした。こうした爆発力が、チームの持ち味であると言えるでしょう。
 もちろん、まだ失点が多く、これまでのところ結果がついてきてはいませんが、その分、まだまだ伸びしろがあると考えています。それも、2年後、3年後の話ではなく、今季の後半に伸びる可能性を秘めている。あとほんの少しのことが変わるだけで、チームの成績がガラリと変わるのではないか――僕はベスト8以上を狙えると考えています。
 第5節までのデータを見ると、グリーンロケッツ東葛は他のチームに比べてタックル数が圧倒的に多いのが特徴的です。それから、確かに失点は多いのですが、実は、失点の割にはタックル成功率がそれほど低くない。だから、もしタックルの数を減らすことができれば、たぶん成功率はもっと上がる。今は、タックルに入る機会が多いので、疲れが出て成功率を押し下げていると考えられますが、平均的なタックル回数くらいまで数字を減らせば、もっといいタックル成功率を出せると思います。
 その分、アタックする時間も増えるわけですから、アタックする時間が増えれば、本来の持ち味である爆発的な得点力が生きてくる。先ほど「ほんの少しのことが変わるだけで」とお話ししましたが、これがその「ほんの少し」の例になるかと思います。
 だから、クルーのみなさんには、いかにディフェンスで相手からボールを奪えるか。そして、奪ったボールから、いかに長くアタックを継続できるか。その辺りを注目して試合を見ていただけると、面白さが増すのでは、と思います。
 アタックの時間が長ければ、それだけタックルする回数も減るわけで、1回辺りのタックルの質も上がるでしょう。そうすれば、ディフェンスから相手のボールを奪って、また新たなアタックにつなげることができる。そういう好循環が生まれれば、成績もがらりと変わるでしょうね。

 ――選手から「こういうデータや映像が欲しい」というようなことを言われることはありますか。

 あります。僕は選手ファーストだと思っているので、可能な限り対応するようにしています。
 たとえば、試合の2日前にメンバーが発表されたとき、相手のHOやPRに、これまでほとんど試合に出ていなかった選手の名前があれば、すぐに過去の練習試合も含めて映像を探し出して、スクラムの映像を集めたものを、なるべく早くフロントローの選手に渡します。それが、選手の力になりますからね。有名な選手については選手もデータを持っているのですが、あまり試合に出ていない選手や新人は、そうしたデータが少ないのです。

 ――それでは、最後にアナリストの視点から見た、今季のグリーンロケッツ東葛の注目ポイントや、観戦のヒントを教えてください。

 ラインブレイク数のデータから見ても、マノさん(レメキロマノラヴァ)は、ボールを持ったときに何かをしてくれる選手です。これはもう圧倒的に示されています。
 ただ、マノさんに限らず、今季のバックスリーは、全員が強いものを持っています。
 個人的にも、WTBの選手は誰が試合に出てもおかしくはないし、また誰が出ても活躍してくれると期待しています。児玉健太郎選手は第6節の静岡ブルーレヴズ戦で今季初出場を果たしましたが、宮島裕之選手や宮宗翔選手も、いつメンバーに選ばれてもおかしくない状態です。
 ひとくちにWTBといっても、選手の個性によって違いはあります。
 たとえば後藤輝也選手ならスピードが圧倒的ですし、杉本悠馬選手は身体の使い方が上手くて、ステップで相手を抜くことができるし、相手に囲まれても状況を打開できる強さがあります。今季から加入の尾又寛汰選手は、一瞬でトップスピードに入る初速の速さと、フィジカルの強さが特徴的です。
 このように、単純に「足が速い」というイメージで見られているWTBにも、さまざまな個性や特徴がある。そうした違う個性が集まっているところがグリーンロケッツ東葛らしさだと感じています。だから、みなさんの注目はマノさんに集まりがちですが、今後、新しく出てきたバックスリーの選手にも注目していただきたいですね。
 もちろん、FWのスクラムとラインアウトは、アナリストの仕事が問われる重要なプレーなので、こちらも絶対に見て欲しい。
 スクラムは間違いなく強くなっています。
 昨季のトップ4のチームからもペナルティをとっていますし、チームの強みになっています。どういうスクラムが良いスクラムなのかは正直なところ定義するのが難しいですが、クルーのみなさんには、スクラムで相手からペナルティをとったときの、フロントローの顔に注目して欲しい。
 大げさに言えば、フロントローの選手たちは、その瞬間に「命をかけている」ようなところがあるので、絶対に見逃さないで欲しいですね。
 ラインアウトからのモールでは、グリーンロケッツ東葛が、今季初めてクボタスピアーズ船橋・東京ベイからモールでトライを獲ったチームになりました。その前にスピアーズと対戦した東京サントリーサンゴリアスも、横浜キヤノンイーグルスも、モールからはトライが獲れなかった。それだけグリーンロケッツ東葛のモールには威力がある、ということだと思います。上手くモールを組めれば、かなりの確率でトライになると思っていただいてもいいかもしれません。
 そうした強みを発揮するには、まずラインアウトの獲得率を高めることが必要で、さらには相手のゴール前でマイボールのラインアウトを多くするにはどうすればいいかといったことも、僕たちアナリストの仕事になってきます。
 グリーンロケッツ東葛には、今までお話ししたように、ほんの少しのきっかけで持っている力を発揮できる下地が整いつつあります。それだけ、伸びしろのあるチームなのです。その点を、ぜひわかっていただいて、さらなる応援を、よろしくお願いします。

――ありがとうございました!

【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

■プロフィール
渡邉周馬(わたなべしゅうま)1999年6月17日生まれ●帝京高校出身。高校時代はラグビー部に所属。ユーティリティ・プレーヤーとしてFL、WTB、FBなどのポジションをこなす。卒業後は医療系の仕事を目指して進学するが、ラグビーへの思いを断ちがたく、中退してアナリストに。クリタウォーターガッシュ昭島を経て今季からグリーンロケッツ東葛に入団。

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著者プロフィール

NTTジャパンラグビーリーグワンに加盟するラグビーフットボールチーム。 日本選手権優勝3回、マイクロソフトカップ優勝1回の実績がある。2021年にリブランディングを行い、千葉県東葛エリアをホストタウン(千葉県我孫子市、柏市、松戸市、流山市、野田市、鎌ケ谷市、白井市、印西市)とし、チーム名を「NECグリーンロケッツ東葛」に改称。柏の葉公園総合競技場で開催されるリーグワンの試合をホストゲームと位置付けて運営している。「WIN THE RACE」をスローガンとし、日本一を目指す。

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