土井貴弘100キャップ達成「スクラムをもっともっと究めたい!」
【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
「スクラムをもっともっと究めたい!」 〜通算100キャップ達成の36歳・土井貴弘はまだまだ成長途上!〜
NECグリーンロケッツ東葛のメンバーが一斉に着用したTシャツが、カクテル光線の光を反射したのだ。
Tシャツには、ヘッドキャップをかぶって左手を伸ばし、チームメイトに指示を飛ばす男の写真がプリントされている。
09年の加入以来「土井チャン」の愛称で親しまれてきたPR土井貴弘の立ち姿だ。
写真の上部には「100cap」の文字。
そう、土井は、この試合でトップリーグ時代から通算で公式戦100試合出場を果たし、「100キャップ」の表彰を受けたのである。
「公式戦通算100試合出場達成」のボードを掲げた土井の傍らには、妻の望穂(みほ)さんと、あめ莉(10歳)ちゃん、えみ莉(2月で6歳)ちゃんの2人の愛娘が寄り添う。
左腕に抱えているのは、愛娘から贈られた花束だ。
満面の笑みを見せて立つ土井は、グリーンロケッツ東葛ひと筋で過ごしてきた。
足かけ14年、首を始め、いくつものケガと戦い、スクラムという奥深く難しいプレーを究めるべく、身体に鞭を打ってきた。
だから、喜びのコメントも感謝の言葉から始まった。
「100キャップは、みなさんが支えてくれたおかげです。チームメイトもそうですし、メディカルスタッフやリハビリに携わったみなさんなどに本当に感謝して、今日は試合に臨みました」
そして、家族に向けて、こう続けた。
「家族からは『おめでとう!』と言われましたが、何か特別な言葉を言われたわけではありません。でも、今日はみんなで試合を見に来てくれて、とても嬉しかった」
その顔は、スクラムを支える百戦錬磨の戦士ではなく、家族を愛する父親そのものだ。
「奥さん(望穂さん)は、もともとラグビーにそれほど詳しくないので、家庭でラグビーの話をすることはそれほど多くない。もちろん、まったくしないわけではないのですが、それが、僕にとってはちょうど良いですね(笑)」
ラグビーと少しだけ距離を置いた安らぎの時間。
そんなホッとできるひとときがあるからこそ、100キャップに到達することができたのである。
土井貴弘 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
クボタスピアーズ船橋・東京ベイに先制トライを奪われた直後のリスタート。
グリーンロケッツ東葛にノックオンがあって、相手ボールのスクラムとなる。ここで土井を筆頭にFWが一気に圧力をかけ、スピアーズから反則を誘って反撃の足場を作った。
前半5分のことだ。
その後に続いた3分間の“スクラム勝負”ではやや劣勢となったが、33分には、自陣ゴール前のピンチに、スクラムでペナルティを獲得してチームを救っている。
100キャップにふさわしい働きをしての、表彰式だったのである。
土井が言う。
「最初のスクラムで相手がペナルティを犯したのは、僕ではなく(石田)楽人のおかげですが、ヒットしてしっかり組んで前に出る、という自分たちがやりたいスクラムができた。それがペナルティ獲得につながったと思います。その後のスクラムでちょっと押し込まれたり、上手くいかなかった場面もありましたが、しっかりコミュニケーションをとって修正はできていた。
でも、今日は、どちらもスクラムは負けたくないという気持ちが強かったですね。
試合前からチームメイトもみんな気合いが入っていて、僕の100キャップもあって、みんなが『しっかり勝とう!』と言っていた。それが励みになりました。みんなを誇りに思います」
実は、トップリーグのラストシーズンから、リーグワンと装いが変わった昨季のシーズン中盤まで、土井は上手くいかないスクラムに悩みを抱えていた。
組む前に相手との間隔(ギャップ)をとることができず、「自分たちのスクラム」が組めなかったからだ。けれども、決して下を向くことなく、フロントローを中心に話し合いを重ねてシーズン終盤には修正を果たし、それが今季も受け継がれている。
昨年4月10日のコベルコ神戸スティーラーズ戦(第12節)の後で、土井はその過程をこう話してくれた。
「チームが新しくなって、スクラムの組み方も今までとは変わったし、新しいメンバーもたくさん入ってきた。そのなかで、『これがグリーンロケッツのスクラムだ』という組み方をつかむまでに少し時間がかかった。今、ようやく相手と間隔を保ってヒットして、その勢いを利用して押し込み、スクラムを有利にすることができてきた手応えがあります。
僕自身もヒットが得意なので、しっかりギャップをとってスクラムを組めれば、いいスクラムになる。HOも含めて、相手とのバランスも考えながら、しっかりと間隔をとれば、僕たちはヒットには自信があるので、絶対に負けない」
そうしたプロセスを経て「いいスクラムのイメージ」が明確になったことが、今季につながっている。
土井が言う。
「昨季の途中からスクラムの『いいイメージ』を持てるようになったので、上手くいかないときでも、すぐに修正できるようになった。それが僕自身の糧(かて)になっています。普段いいスクラムを組めている手応えがあるから、スクラムが上手く組めず、悪かったときでも、なぜ悪かったのかがわかるようになった。いいイメージがあるから、悪いところを見つけられるし、修正できる。それが、新人の頃から見て成長した部分ですね」
【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
「土井チャンの100キャップのうち、90試合以上はいっしょにプレーしたり見ていますが、そのなかでも今日の土井チャンがベストだと思います。若手の頃の最初の10数試合よりも、今日の方が全然良い動きができていた。本当にまだ成長の途中だな、と感じましたね」
土井も、まだまだ自分が成長の途上にあることを強調する。
「新人の頃から比べると、スクラムも成長したと思いますが、ディフェンス面が成長したように思います。自分自身ディフェンスが得意だとは思っていなかったし、派手なタックルを決めることも少ないのですが、相手に低い姿勢でタックルに入って止めることはできている。今日もしっかりとディフェンスに入れた手応えがありました」
そして、最後をこんな言葉で締めくくった。
「スクラムは、もっともっと上手くなれると思う。もっと究めたいです」
今年8月22日で37歳になるベテランにとって、100キャップはゴールではなく、あくまでも成長途上の通過点なのである。
右から:ボリス・ スタンコビッチ(FWコーチ)、土井貴弘、瀧澤直 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
ロバート・テイラーHC(ヘッドコーチ)
「土井は、とても素晴らしいプレーヤーです。そして、チームマン。今日も、前半のスクラムは素晴らしかった。だから勝利で100キャップを祝ってあげたかったのですが……」
昨季キャプテン瀧澤直
「本当におめでたい! 僕自身、今日は土井チャンのために頑張ろうと、いつもと違うモチベーションで臨みました。だから勝利で記念日を飾ってあげたかった」
元キャプテンFL亀井亮依
「土井さんは、一言で言って、本当にレジェンド! トップリーグからリーグワンになって、年々レベルが上がっていくなかでの100キャップはすごい偉業です。何よりも、そのレベルでシーズンを通して出場し続けている証が100キャップなのですから。チームのなかにそういう選手が出ることはすごく良いことだし、若手のみんなも、それを目指して頑張る励みになりますね」
(取材・文:永田洋光)
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