証言(尾又選手・大和田選手):ピッチでは何が起こっていたか 第3節 コベルコ神戸スティーラーズ戦
【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
「自分たちのラグビーを100%出せて初めて勝利は見えてくる!」 〜試合の流れを変えた2人の“ゲームチェンジャー”14番尾又寛汰と20番大和田立の証言〜
しかし、「流れ」は目に見えるわけではなく、しばらく時間が経ってから気づくもの。まして、スタジアムで試合を見ているときには、なかなか感じ取ることが難しい。
それでも、「試合の流れを変えるプレー」は確実に存在する。
コベルコ神戸スティーラーズに立ち上がりの10分間で0対19と一方的にリードされながら、最終的に33対43と追い上げて試合を終えたNECグリーンロケッツ東葛にも、やはり流れを変えたプレーが確かにあった。
前半30分にWTB尾又寛汰が挙げたトライに至る一連のアタックと、直後のリスタートからの攻防で途中出場のFL大和田立が決めたジャッカル――この2つが「流れを変えた」のだ。
尾又のトライが生まれる前のスコアは7対31。
16分にHO新井望友のトライで追い上げたものの、その後の10分間でスティーラーズに2トライを奪われ、スタンドのクルーの手拍子も湿りがちだった。
けれども、キャプテンのレメキ ロマノラヴァが自陣からカウンターアタックを仕掛け、あえてタッチライン際の狭いサイドに走り込んでチャンスを作ったところから、スタンドはよみがえった。
「おお!」というどよめきが広がり、張り扇の手拍子に元気が宿ったのだ。
タッチライン際でパスを受けた尾又が前進してチャンスを広げ、最後はレメキからのパスを受けてトライ――今季、三重ホンダヒートから移籍してきた尾又にとって、これがグリーンロケッツ東葛でのデビュー戦で決めた初トライであり、同時にディビジョン1での記念すべき初トライだった。
「あれは、あそこにいれば誰でもできるようなトライでした(笑)。でも、WTBの仕事はトライを獲ること。それを考えれば、トライを獲れて良かった」
尾又はそう謙遜して笑った。
確かにトライ自体は、パスミスのこぼれ球を拾ったレメキから、尾又がノーマークでラストパスを受けたもの。しかし、起点となったカウンターアタックからトライに至るまで、尾又はレメキが走るコースを忠実にサポートしていた。このサポートがなければ、トライは生まれなかったはずだ。
尾又が、秘訣を教えてくれた。
「マノさんとは(ヒートで)ずっといっしょにラグビーをやっていたので、ついて行けばボールがもらえるかな、トライが獲れるかな、みたいな感覚でいるんです。この辺は抜けてくるだろうな……と、常日頃から思っているし、走るコースもなんとなくわかる(笑)。あの人のすごさは誰よりもわかっているつもりですから」
「マノさん」ことレメキは14年度から19年度までヒートに在籍。尾又も17年度にヒートに入った。つまり、三重で生まれた“師弟関係”が、東葛の地で復活したのだ。
尾又が言葉を続ける。
「今日は、特別な思いというよりは、今までやり続けたことをやるだけだと思って試合に臨みました。人を抜いて行くのが僕の仕事なので、良くないランもあったのですが、そういう点は少しお見せできたかな。ただ、ラグビーではボールを持って走る時間は本当に短い。だから、ボールを持たないところでどれだけチームに貢献できるか――そこをもっと突き詰めたい。今日いっしょにプレーしたFBトム・マーシャルは、ボールを持っていないときの動きや、動き出すところが上手い。判断も的確だしワークレートも高いので、いいお手本にしようと思っています」
そんな向上心が導いたトライでスタンドに活気が戻り、試合はホストゲームらしい盛り上がりに彩られていく。
流れは確実に変わったのである。
尾又 寛汰 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
32分。
トライ後のリスタートからの攻防で、グリーンロケッツ東葛はスティーラーズに攻め込まれる。このままスティーラーズに得点を許せば、変わりかけた流れが元に戻ってしまう。そんな場面だ。
大和田は、タックルされたスティーラーズの選手に素早く働きかけてジャッカルを決め、ノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘った。
さらなる追撃のために何よりも大切なボールを奪い返したのだ。
前半の間に追加点を加えることはできなかったが、後半に入って52分にグリーンロケッツ東葛がペナルティトライをもぎとるまで、スティーラーズは無得点のまま。
やはり流れは変わったのである。
大和田は、このジャッカルだけではなく、持ち味の力強いボールキャリーでチームを積極的に前に出した。スタンドにまで闘志が伝わるようなプレーぶりだった。
大和田が言う。
「実は、去年の夏に首を手術して今日が復帰戦でした。手術のあとは、ラグビーを続けられるかどうかわからないような状態でしたけど、メディカルスタッフやチームのみんなのおかげで、今日はメンバーに入ることができました。だから、恩返しではないですけど、自分に与えられたプレー時間のなかでチームにしっかり貢献しようと思って頑張りました。
僕は今年31歳になるので、もう若手ではない。自分の経験をチームに還元する立場になりました。でも、なおかつ若手には負けられないという気持ちもある。(ロバート・)テイラーHC(ヘッドコーチ)もチームのなかで競争が激しくなることが底上げにつながると言っていますが、そういう気持ちが、今日のアグレッシブなプレーに出たと思います」
感謝とチームへの貢献。そこにベテランの意地が加わったパフォーマンスだったのである。
大和田は、試合の最後まで見せ場を作った。
試合終了を告げるホーンが鳴った直後のラストプレー。
自陣22メートルライン付近でボールを持つと、防御をはね飛ばして大きく前進。19点差を追う展開で始まったゲームを7点差以内の接戦に持ち込むトライを狙ってディフェンダーを引きつけ、左にサポートした途中出場のHOアッシュ・ディクソンにパスをした。
しかし――戻ってきたスティーラーズのLO張碩煥がインターセプト!
クルーの熱気が一気に悲鳴に変わった。
「惜しいプレーでしたね。でも、相手も上手かった。パスをしようとしたところに戻ってきて、間に入られてパスをとられた……」
大和田は、ラストプレーをそう振り返ったあとで、こう言葉を続けた。
「前半の10分間で3トライ奪われたのは反省点ですが、今季はチームの総合力が上がり、アタックもシンプルになって、自分たちの強みを出せるような形ができてきた。これまでなら足が止まってしまうような場面でも、1人ひとりがマインドを変えて頑張れる。今日も、立ち上がりを除けば、獲られたらすぐに獲り返して、自分たちが“追いつけるぞ!”と思える展開にできた。だからこそ、最後にトライを獲れれば良かったのですが……」
そして、次節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦 (14日 江戸川区陸上競技場 14時30分キックオフ)に向けて、こう抱負を語る。
「今日は、最後の場面でトライを獲り切るところと、立ち上がりに連続トライを奪われたのが自分たちの課題だと思いました。その点を修正して、次の試合で勝てるようにしたい。相手は昨季ベスト4のスピアーズなので、そこで勝つことが、自分たちがベスト4にどこまで近づいたかの指標になる。そういう勝利を目指して頑張りたい」
大和田 立 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】
「準備期間は短いですが、あくまでも僕たちはチャレンジャー。失うものはない。だから、スピアーズに思い切りぶつかりたい。自分たちのラグビーが出せて初めて勝利は見えてくるから、自分たちのラグビーを100%やることを意識して準備したいと思います」
劣勢の試合を接戦に変えた、2人の「ゲームチェンジャー」が語った決意と覚悟。
今週末も、グリーンロケッツ東葛のチャレンジは必見だ!
(取材・文:永田洋光)
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