「チームマン」ニック・フィップスは、GR東葛の「勝利の使者」となるか

NECグリーンロケッツ東葛
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【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

■新春特別インタビュー:本物の「チームマン」ニック・フィップスは、グリーンロケッツ東葛の「勝利の使者」となるか

 トップリーグ時代のNECグリーンロケッツでキャプテンや監督を務め、現在はグリーンロケッツ東葛のスカウトを務める浅野良太は、開幕前にこんな言葉を繰り返していた。
「ニックはすごい! 彼は本当の“チームマン”ですよ」
 ニックとは、ご存知、オーストラリア代表ワラビーズのSHとして72キャップを持つニック・フィップスのこと。今季加入の超目玉戦力だ。

 浅野の目に映ったのは、こんな光景だった。
 たとえば――大雨のなかで行われた練習後に、グラウンドに残ってジャッカルの個人練習に励む亀井亮依を見つけるや、自然に歩み寄って練習の相手役になる――。
 あるいは、練習試合後にテントを片づけているスタッフを見ると自らすすんで手伝い、練習や試合では、常に大きな声で「行きましょう!」と日本語で仲間に呼びかけてチームの士気を高める。
 何より、毎日のように新しい日本語を覚え、それを使いながらコミュニケーションを図るところに、いち早くチームに、そして日本に、溶け込もうという意欲が見て取れる――そう思った浅野が理由を問うと、ニックはこう答えた。
「これが、日本の文化に対する自分なりの尊敬の意思表示」なのだと。
 チームマンとは、常に“For the team ”に徹し、チームのために労をいとわないメンバーを指す言葉。ラグビーをプレーする者にとって、何よりも嬉しく光栄に思うのが、この称号なのである。

 浅野がそんな称号でニックのことを話していると伝えると、ニックは少しはにかんだように笑って、こう言った。
「はは、そう呼ばれるようになりたいと、常に思っているよ」
 そして、表情を引き締めて、こう続けた。
「今は、チームメイトのラグビーに対する純粋な気持ちをとても大切に思っている。だから、常にみんなのために自分のベストを尽くそうと考えているんだ。みんながより良くプレーして、リーグワンで良い結果を残すことができるよう、自分自身もハードワークを続けるつもりだし、そうやって、自分にできる限りのことをやり続けるのが僕の仕事。チームメイトのことは、みんな大好きだよ。だって、とっても面白いメンバーばかりだからね(笑)」
 好漢という言葉がぴたりと当てはまるのが、ニックという新戦力なのである。

SH ニック・フィップス 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

 もちろん、ニックのすごさは、人柄だけにとどまらない。
 身長180センチ、体重87キロの体躯は、SHとしては超大型。恵まれたフィジカルを活かして放るパスは、長くて早い。加えて高さのある正確なキックと、コンタクトに力負けしない強さで、ときには相手からボールを奪い、防御での危機管理をいとわない。
 キャプテンのレメキ ロマノラヴァは「エンジンがすごい!」とそのフィジカルを絶賛。長いパスが新しいシェイプ(攻撃の形)を生み出して、今季の「プラスになっている」と話す。
 しかし、本人は冷静だ。
「僕自身は、どちらかと言うと、努力家タイプ。だから、練習中から努力する姿をみんなに見せてきた。選手たちも、そういう僕を見て刺激されたのか、努力を惜しまなくなった。僕もまた彼らに刺激されて、さらに努力を重ねている。これからもそういう循環が続けば、チームはさらに良くなると思う」
 ラグビー・ワールドカップ2015イングランド大会で決勝戦のピッチに立った男は、自らのスキルや能力をアピールするのではなく、それらを支える「努力」をグリーンロケッツ東葛に植えつけようとしているのだ。
 それが、「チームマン」としての自然な振る舞いなのである。

 そんなニックが、開幕から2節で1勝1敗という成績を踏まえて、これから勝利を積み上げていくためにチーム全員が何をすべきだと考えているのか――胸の内を明かしてくれた。

「シーズンは、まだ14試合も残っている。試合の間隔が短くて、長い準備期間をとれないので、何か新しいことに取り組んでチームを大きく変えるようなことは難しい。だから、これまで積み重ねてきたことに、よりハードに取り組み、精度を高めていくしかない。
 つまり、これから取り組むのは、大がかりなことではなく、ゲームのなかで果たすべき小さな役割を向上させることになる。ディフェンスのなかで1人ひとりが果たす役割や、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)に駆けつけるスピード。そして、的確な判断を下すこと――そうした勝つために必要なことは、みんなが日々小さな努力を積み重ねて初めて、今より良い状態に持っていくことができる。これは身体をガッツリ鍛えるようなトレーニングではなく、とても繊細で頭を使うトレーニング。難しい部分もあるけれども、チームのみんなは勝利に飢えている。そういうハングリーな気持ちでいれば、アタックの機会も増えるし、攻撃の継続性も出てくると思う」
 小さな努力の積み重ねが、勝利という大きな果実に結実するというのだ。

SH ウィル・ゲニア(花園L)との対戦 【NEC GREEN ROCKETS TOKATSU】

 ホストゲームとして迎えた開幕戦で、グリーンロケッツ東葛は花園近鉄ライナーズに36対34と勝利。そのとき、ニックと同じ背番号9をつけたライナーズのSHはウィル・ゲニア。こちらもオーストラリア代表として110キャップを持つレジェンドだ。
 しかも、ワラビーズでは、ゲニアが先発で9番を背負い、ニックは21番をつけてベンチスタートということが多かった。いわばチームメイトであり、世界一を目指した戦友であり、同時に長年のライバルだった男と、日本での最初の公式戦で直接対決したのだ。
 しかし、どちらのSHも火花を散らして対抗意識をぶつけ合うのではなく、チームの戦略に沿って、それぞれの持ち味を出した。世界的に名声をはせた2人の直接対決は、両者のチームマンぶりを際立たせて終わったのである。
 そして、試合後。
 ロッカーの前では、楽しげに歓談する3人の姿があった。
 ゲニアとニック、それに2人がワラビーズでプレーした時代の監督だったマイケル・チェイカDOR(ディレクター・オブ・ラグビー)だ。
 試合が終われば、最前まで激しく戦った者同士が友情を育むノーサイド精神の象徴のような情景だが、ニックは、「ゲニアはワラビーズで10年以上いっしょに戦ってきた仲間。今日はトイメンとしてのプレーを楽しめた。だから、試合後に旧交を温めたんだ。チェイカさんも交えてね」と、さらりと受け流した。
 まるで、ラグビーをプレーしている以上そんなことは当たり前じゃないか、と言わんばかりに。

 ニックとゲニアがふたたび直接対決するのはレギュラーシーズン最終戦まで待たなければならないが、8日にはニックがふたたび柏の葉公園総合競技場のピッチに立つ。
 相手はコベルコ神戸スティーラーズ(14時30分キックオフ)。
 グリーンロケッツ東葛に加わったチームマンが、ふたたびチームを奮い立たせて勝利に導くことができるか――クルーの熱い視線が注がれるホストゲームで求められるのは、クルーに勝利という「お年玉」を届けることだ。
 それが、ニック・フィップスの、2023年の「初仕事」になる。
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著者プロフィール

NTTジャパンラグビーリーグワンに加盟するラグビーフットボールチーム。 日本選手権優勝3回、マイクロソフトカップ優勝1回の実績がある。2021年にリブランディングを行い、千葉県東葛エリアをホストタウン(千葉県我孫子市、柏市、松戸市、流山市、野田市、鎌ケ谷市、白井市、印西市)とし、チーム名を「NECグリーンロケッツ東葛」に改称。柏の葉公園総合競技場で開催されるリーグワンの試合をホストゲームと位置付けて運営している。「WIN THE RACE」をスローガンとし、日本一を目指す。

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