【Pit Crewに聞く】「目指すは皆のアシスタントコーチ」 今野達朗コーチ
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
ラグビーという競技は、それらすべての要素が複雑に絡み合う。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手たちがピッチ上で表現するそうしたプレーに、私たちは手を握りしめ、胸を熱くし、思いを乗せる。
だが、プレーせずとも、グラウンドに入らずとも、選手と同じように戦っている存在がいる。チームの裏方として共に戦うスタッフの存在だ。
そうしたスタッフを今季チームでは”Pit Crew”と呼んでいる。そんなPit Crewにオレンジリポーターが取材をし、チームや仕事への思いを聞いていく連載記事【Pit Crewに聞く】
今回は今野達朗コーチに、オレンジリポーターのポルコさんが話を聞いた。
----------------------------------------------------------------------------------------------
コーチ初年度、結果には満足
点数をつけるのは難しいですね。現役時代からコーチの手伝いのようなことをしていたこともあり、完全にコーチになってからまだその延長のような思いがあります。だからこそ、完全にコーチとして大きく貢献できたかというと微妙です。
--そんな中で過去最高の三位と言う結果に満足感もあったと思いますが?
ある程度、満足はしています。その理由としては、多くの選手たちが出場して得られた結果だったからです。現役時代からの課題として、試合に出られる選手が限られる中で、試合に出てない選手のサポートをどのようにするかという点に難しいところがありました。その中で、私が引退した一昨年は全選手の50%程度しか出場できなかったのが昨シーズンは70%強の選手が試合に出場することができました。今まで機会がない選手をどうしていくか、どうスキルやモチベーションを上げていくかということに自分がフォーカスしていたので、主力と言われる選手を欠くような状況下でこうした選手が出場してある程度遜色のないプレーができたことに満足しています。
--象徴的なのは柏の葉での中田選手の初出場時のウイングス席(試合ノンメンバー席)での拍手が起こっての登場シーンなどですか?
そうですね、それに序盤戦だと年齢は上ですが千葉選手、松井選手、才田選手や青木選手。青木選手はウヴェ選手に代わって急遽出場となった場面でしっかりと準備ができている状況が作れていた。初キャップだけではなく、誰でも何時でも対応出来るように準備が出来るようになったと言うところはコーチとして色々やってきたところだったので良かったことだと思っています。
--同時にコーチになられた後藤コーチ、お二人は元々コーチとしての素養があったんだと思いますが、それぞれの特徴はありますか?
後藤さんと自分はかなりタイプが違う部分があると思います。後藤さんは一対一でしっかり面倒を見るタイプでハッパも掛けると言う感じです。区別するなら後藤さんはウエット、自分はドライ。
--5人のアシスタントコーチの役割分担に関して、チームによってはオフェンス/ディフェンス、フォワード/バックスなどの分け方をされていますがスピアーズはそう言う肩書はないですが実際はどうですか?個人的には今野さんはフォワード、ラインアウト中心のイメージを抱いています。
そうですね、私の場合はメインでフォワード、特にラインアウトを見ています。ですが、それぞれほかのコーチにもメインの担当があり、その時はそれぞれのメニューのアシスタントに入ります。良く言えばみんなのアシスタントですね。
--コーチ同士の連携はかなり密にやられているんですか?
はい、コーチミーティングは毎日あります。今はそこまでないけど、シーズンが始まると試合に出るメンバーと出ないメンバーとに別れて、出ないメンバーの方を僕が結構見ますけど、そういう時に仮想相手チームと言う感じで相手の動きをコピーしたりとか、試合でメンバーが受けるプレッシャーよりもっと強いプレッシャー出せるようにしたりとか、他のコーチやディフェンスコーチとか連携してコーチたちが想定している動きに対してこう言う絵を見せてほしいと言うところを作り出せるようにやっています。なので、全体練習の合間を縫って、色々落とし込んでいます。
選手とコーチ、そしてトップレベルのコーチ、それぞれの違い
そうです、現役時代のケガをしている時、2017年にトップコーチの資格を取りました。今はS級コーチになっています。
--教えることと自分がプレーするのでは感覚的には大幅に変わると思うのですが、戸惑いのようなものはありませんでしたか?
自分がプレーしている時もある程度どうやって行くかを考えてやっていたのでそれを当て嵌めつつ、あとは知っている選手達なので微調整しながらやっている感じです。ただ、やはり難しいです、こういう風に教えたらこういう風にできるという訳じゃない。あとは、選手のレベルによって、こっちの方が良いんじゃないかとか、俺にはこう見えているけどどう見えているとか。あとは、外国人選手とかだとむしろ教えてもらうとか、俺はこう思うけどどうしたら良くなるって相談して、こうじゃないかって感じのやり取りをしています。学生とかに教えるのとはまた違うって感じていますね。
例えば、マルコム・マークス選手、彼に教えることはほぼないので、彼のプレーを見ながら、「これちょっと違うけど何か変えた?」って聞いて、その理由を探ります。その理由をほかの選手にも共有して、活かすところは活かすし、活かさない場合もある、といった形です。
--社員として勤務をされていますが普段はどんなお仕事をされているんですか?
今はフルタイムのコーチです。選手の時は農機の部門に所属していました。それで、コーチになるに当たってスピアーズを管轄している部門に異動しました。
--選手時代は練習と仕事で大変でしたか?
はい、でも、フルに業務をやられている方に比べればボリュームが違うって言うところもありますし、仕事すること自体がリフレッシュになることもありました。フォーカスするところが違うので、ずっとラグビーやっていて、それで試合に出られないとメンタルが苦しくなってくる場面もあります。そんな中会社に行くことで、また違った自分の役割を果たすと気分転換になりました。
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
新シーズン、優勝を目指すために
優勝できてないので、全体的にレベルアップする必要があると言うのが先ずあります。フォワードでいうとモール。昨年大きいフォワードを軸に戦っていた、そこにどうプラスアルファして行くかを意識してやっています。大きい柱で言うと、スキルセットとストラクチャーとマインドセットが中心になります。スキルセットは本当に個人のところで、ベーシックなキャッチパス、タックル、ボールキャリーとか細かいところの個々のスキルを上げていく。そこが上がるとストラクチャーでチームの決め事や、その選択肢が増えていくし、やりたいところの精度が上がっていくと思っています。最後マインドセットの所は自分のゴール設定とか、どうやったら自分の最大のパフォーマンスが出せるのか。選手、コーチも各自が理解しようとすることで、スキルセットの向上にも繋がって来るし、ストラクチャーの理解とか精度の向上にも効果が期待できると考えています。
ここ数年ニュージーランド人のメンタルコーチに指導してもらっている影響もあり、チームとしてメンタル面で成長していて、これがマインドセットの向上に繋がっていると感じています。
--スキルの所は元々高いレベルの選手たち、それを更に上げていくのは逆にハードル高い気もしますが?
確かに元々上手い選手を大きく伸ばすのは難しいです。しかし、フロントローの選手だとバックスに比べるとスキルは劣りますよね。でも、地道にやっているとうまくなるんですよ。毎日やっていると、今まで同じことやってきてちょっと自信なさそうだったところも、毎日することで「大丈夫ですよ」ってなって来る。伸びしろのある選手を上手くして平均を上げて行く。そうすると、例えばプロップが来たから次のパスのオプション出来ないって言うのが無くなって、プロップが行ったとしてもパスもできるので、チームとしてのオプションが増えることにも繋がります。
--今年この選手を見て欲しいという選手は居ますか?
これねえ、結構難しいんですよねえ。
基本的にはコーチとしては、全員、出た選手全員注目して欲しいと言いたいです。でも、それも難しいので選ぶとすればロックの日本人選手を見て欲しいです。例えば青木選手は30超えても年々良くなって来ている印象があります。彼は重量級のロックが居る中で、下働きができる。動き続けてその三人とは違った絵を見せられる選手なのでそこをしっかり続けていたら去年以上の活躍ができると期待しています。
あと、その下の選手達。松井、堀部、玉置、オト選手。彼らがどのくらい成長できるのかというところは注目して欲しいですね。若い選手は7月に早めに始動、菅平でスクラム合宿したり、プレシーズンでも出場し、活躍している。ハードルは高いけど、みんな出ればパフォーマンスを出せる選手たちだと思っているので注目して欲しいと思います。
玉置選手(中央)と松井選手(右)に指導する今野コーチ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
菅平合宿中のオト選手(左)と堀部選手(右) 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
「誇りの広告塔」とオレンジアーミー
それは凄い力になっていると思います。僕もアーミーからのリアクションとかあったら嬉しいです。正直自分の現役時代は応援されるのは嬉しいけれど、それほどファンのことは強くは意識していませんでした。それが変わったのは、フランともよく話しますけど、2018年の秩父宮のサントリー戦、あの時スタンドがオレンジに染まって、やはりこう言う景色は凄いなあと。こう言う景色をもっと作りたいと思っていたから、大事にしなきゃいけないよねって言うのが強くあります。ファンの人達も自らオレンジアーミーと言ってくれるし、ほかのチームの人と話してもオレンジアーミー凄いよねって言ってもらえることも多い。チームでProud Billboard と言って自分達が『誇りの広告塔』になろうって言う話をしているんですけど、オレンジアーミーがそれを外にも拡げてくれているって言うので凄く良い影響を与えてもらっていると思っています。
--スピアーズの独特のチームカラーやチームの良さはなんだと思いますか?
そうですねえ、最近仲が良いっていうのを一番推しています。あと文化としてはクボタマンDNAと言う所が結構昔からありましたが、フランが来てからそこをよりクリアにやっています。一貫性を持って取り組むとか、お互いケアしながら、お互いのこと尊重はするけど競争はする。皆が普通ふわっと思っていることを絶対決まりだからやれではなくて、皆が良いと思う所を書いて出すことで段々皆の意識が統一、揃って来ている。それが前提で仲が良いってところに繋がっていると思います。みんなの共通認識がある、それが日本人選手だけでなくチーム全員が持っているっていうのが良いところなのかと思います。
今野コーチとフランヘッドコーチ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
情報発信のきっかけと込めた思い
きっかけは、ちょっと前に引退した、後輩の稲橋元選手。当時は彼を含めて数人しかやってなかった。でも、もうちょっと皆でやった方が良いんじゃないかと言う流れで、自分も初めました。やるからにはスピアーズを好きになって欲しいと言う所と、色んなラグビーファンがラグビー全体観る上で楽しいと思えることをやったら良いと思ってラインアウトの話とかもやるようになりました。
あと、あんまり自分で(SNSを)やってない選手が見てもらいたいという気持ちはあります。試合に出場した際に盛り上がりますし、選手自身も見られている感があるとちょっとしたところでも力になると思います。
--コーチをしていくうえで自分が一番貢献していけるところは何だと思いますか。自分だから貢献できるってことなどはありますか?
さっきもみんなのアシスタントコーチって言いましたけど、そこの部分ですね。やっぱメインのコーチってチームが勝つためのものなので、試合メンバーにフォーカスしがちです。だけど、チーム全体を底上げしていくには試合に出場できないメンバーも上げていかなきゃいけない。そんな中で、自分はこうした選手と他のコーチ陣とのクッション役・調整役になることで、皆のレベルを引き上げていければと思っています。それが、今のところ自分の仕事かなって思っています。
選手との距離の近さも「みんなのアシスタントコーチ」だからこそ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
インタビューを終えて
キーワードとなったチームを支える「みんなのアシスタントコーチ」、Pit Crewとしてチーム皆のために、そしてオレンジアーミーのことも考えて活動される今野コーチ、お話を聞いて益々ファンになってしまいました。
文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーター Porco1958
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ