【第106回日本選手権展望】男子中長距離編:3000m障害物・三浦が会場を熱狂の渦に包み込む!5000m・遠藤は連覇で世界選手権への切符を狙う!
【フォート・キシモト】
オレゴン世界選手権の出場資格は、昨年の東京オリンピックと同様に、ワールドアスレティックス(WA)が設定した参加標準記録を突破した者と、各種目におけるターゲットナンバーを満たすまでのWAワールドランキング上位者に与えられる。日本における選考は、日本陸連が定めた代表選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202112/16_191504.pdf )に則って進められるため、日本選手権で即時内定を決めるためには、3位以内の成績を上げたうえで、日本選手権での競技を終えた段階で参加標準記録を突破していることが条件。まず、これを満たした競技者が、第1次日本代表選手として大会翌日の6月13日に発表され、以降、条件を満たした段階で随時追加がなされ、参加標準記録有効期間が終了する6月26日以降に、全代表が出揃うことになる。
即時内定とならなかった場合でも、日本選手権における成績(順位)が大きな鍵となるだけに、どの種目でも大激戦となることは必至。ここでは、オレゴン世界選手権代表の座を巡る戦いに焦点を当てて、各種目の注目選手をご紹介していく。
※エントリー状況、記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は6月1日判明分により構成。ワールドランキング情報は、同日以降に変動が生じている場合もある。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
【男子800m】
川元は8年ぶりの日本記録更新で7度目の王座を狙う
今期は800mでも日本GPシリーズをはじめとする主要大会では、オレゴン世界選手権参加標準記録(1分45秒20)を見据えた展開のレースが行われ、ハイレベルな戦いが繰り広げられている。誰が勝ってもおかしくない状態ができつつある。この種目は、世界選手権資格記録有効期限直前となる6月22日に、ホクレンディスタンスチャレンジの20周年を記念して、北海道(深川)で記録挑戦会が予定されている。記録を狙うチャンスが別にあることで、日本選手権が順位を意識した戦いになる可能性もあるが、ぜひとも長居でも日本記録(1分45秒75)や参加標準記録を上回るタイムで複数がフィニッシュラインになだれ込むようなレースで、ファンを熱くさせてほしい。
【フォート・キシモト】
【男子1500m】
昨年、3選手が従来の日本記録(3分37秒42、小林史和、2004年)を上回った男子1500mは、800mよりひと足早く新たな歴史の扉が開いたといえるだろう。充実期に入っている年代の選手にとどまらず、若手の成長も著しく、さらには5000mや3000m障害物など他種目をメインとする選手たちも参戦して好記録を残している。オレゴン世界選手権の参加標準記録は、東京オリンピックと同じ3分35秒00。800mと同様に、「世界」を意識する方針で進む強化のなかで、着実にその差を縮めている。
昨年は、まず、荒井七海(Honda)が5月に3分37秒05の日本記録を樹立。そのなかで行われた日本選手権は、河村一輝(トーエネック)が混戦を抜けだしてラスト勝負を制し、3分39秒18で初優勝を飾った。河村は、その3週間後に、ホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会で、世界選手権参加標準記録に0.42秒まで迫る3分35秒42をマークして日本記録を更新。このレースでは、当時、洛南高3年だった佐藤圭汰(現駒澤大、ダイヤモンドアスリート)が日本歴代3位(当時)となる3分37秒18(U20日本記録、高校記録、U18日本記録)をマークしたほか、東京オリンピックで5000mに出場した坂東悠汰(富士通)も日本歴代6位(当時)となる3分37秒99を記録した。
【フォート・キシモト】
このうち、今回の日本選手権では、佐藤と板東は5000mのみ、三浦は3000m障害物のみのエントリーで、1500mには出場しない。ディフェンディングチャンピオンの河村は、日本GPシリーズで精彩を欠き、シーズンベストも3分47秒01にとどまっていて、どこまで調子を上げてこられるかが気になる。また、参加標準記録突破済みの状態で臨む5000mと2種目でエントリーしていた遠藤は、5000mに絞っての出場を選択している。
こうみていくと、戦績・記録ともに最も安定感を印象づけるのは飯澤千翔(東海大)か。日本学生個人選手権、木南記念、関東インカレと3連勝。木南記念では3年ぶりの自己新となる3分38秒55をマークして、初優勝が見える位置にいる。経験を積んだ大学4年目の今年、思い描いた通りのレースができるようだと面白い。
【フォート・キシモト】
【フォート・キシモト】
【男子5000m】
5月のゴールデンゲームズinのべおか(GGN)で日本歴代2位の13秒10秒69をマークして、オレゴン世界選手権参加標準記録の13分13秒50をクリアした遠藤日向(住友電工)が、王手をかけた状態で、日本選手権に挑む。
長年目指してきた東京オリンピック出場に向けて、このレースで参加標準記録(世界選手権と同じ13分13秒50)を突破するしかない状態で臨んだ前回大会は、オープン参加のケニア人選手たちのつくるハイペースに乗って攻めるレースを展開したが、終盤でペースを上げられず13分28秒67。日本チャンピオンの座に収まったにもかかわらず代表入りはかなわなかった。その無念を糧として強化に励んで迎えた今年は、4月には1500mでも日本歴代3位の3分36秒69をマークするなどスピードに磨きをかけてシーズンイン。GGNでは、国内の実業団に所属するアフリカ勢が17名出場したなか、ラストの競り合いを制して勝ちきるレースを披露した。悔しさをバネに、地力を大きく高めることに成功している。
初めてとなる世界選手権代表の座は、日本選手権を3位内でフィニッシュすれば手にすることができるが、それでよしとするタイプではない。世界選手権本番を意識してのレースを展開し、連覇でオレゴン行きチケットを掴みにくるだろう。
【フォート・キシモト】
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【男子3000m障害物】
昨年、男子3000m障害物の日本記録を3回も更新し、世界水準といえる8分09秒92まで引き上げて、アフリカ勢がひしめくこの種目で2021年世界リスト7位にランクインするとともに、東京オリンピックで7位入賞を果たした三浦龍司(順天堂大)が、ガチガチの大本命。よほどのアクシデントでもない限り、連覇は確実とみてよいだろう。東京オリンピックと同じオレゴン世界選手権参加標準記録(8分22秒00)は、日本記録をマークした東京オリンピックの予選と、決勝(8分16秒90)で、すでに2回突破済み。初出場となる世界選手権行きチケットも、あとは握りしめるだけといった状況といえる。
今年度は一段とスケールアップを果たしている。1500mに臨んだ金栗記念では、専門外のこの種目で日本歴代2位となる3分36秒59をマーク。続いて臨んだ織田記念には5000mに出場して13分32秒42で優勝。3000m障害物にはセイコーGGPで初戦を迎え、8分22秒25をマーク。2位に5秒以上の差をつけて優勝。5000mに出場した関東インカレでも、会場を大きくどよめかせる圧巻のスパートを見せて圧勝している。他選手には失礼ながら、「別格」という言葉を用いてしまうことにためらいがないほどの地力の差だ。
日本選手権では、確実に代表内定を決めるのと並行して、世界選手権本番に繋がっていくようなレース運びをしていくだろう。序盤からハイペースで押して独り旅を楽しむのか、それとも海外勢との駆け引きを想定しながらの波のあるペースをつくるのか、はたまた今季各レースで試している圧巻のキックを見せつけるのか。展開を想像するだけもワクワクしてくる。
【フォート・キシモト】
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