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フォート・キシモト

【記録と数字で楽しむ第105回日本選手権】女子800m・1500m・5000m

日本陸上競技連盟

6月24日〜27日に大阪(ヤンマースタジアム長居)で行われる「第105回日本選手権」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。「上限5000人」とはいえ有観客での開催となったのは、喜ばしい限りだ。

なお「10000m」の日本選手権は5月3日に、「混成競技」は6月12・13日に終了。「リレー種目」は、10月22〜24日に愛媛・松山市で実施される。

「日本一」と「五輪代表」を決める試合なので、全種目についてふれたいところだが、原稿の締め切りまでの時間的な制約があったため、「五輪代表争い」が熾烈であったり、「日本新」が期待されそうな種目を中心とした種目のみの紹介になったことをご容赦いただきたい。

また、過去に紹介したことがあるデータや文章もかなり含まれるが、可能な限り最新のものに更新した。
スタンドでの現地観戦やテレビ観戦の「お供」にして頂ければ幸いである。

「五輪代表選考要項」は、
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/201907/01_171958.pdf
を、

「代表内定選手」は、
https://www.jaaf.or.jp/athletes/tokyo2020/?event=8#searchbox
を、

選考に関わる世界陸連の「WAランキング」は、
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14737/
をご覧頂きたい。

・記録は、6月20日判明分。
・記事中の「WAランキング」は6月15日時点のもの(毎週火曜日に発表されるので、日本選手権直前の6月22日時点のものを盛り込みたいところだが、原稿の締め切りの都合で6月15日時点のものとした)。
・記事は、6月20日時点での情報による。直前に「欠場」となった選手については、文中に 【★*月*日に欠場を発表★】 と付記した。
・現役選手については敬称略をご容赦いただきたい。

なお、日本選手権の期間中、以下の記事で取り上げることができなかった種目以外の情報(データ)も日本陸連のSNS(Facebook or Twitter)で「記録や数字に関する情報」として、その都度発信する予定なので、どうぞご覧くださいませ。

【女子800m・1500m・5000m】

田中希実が3種目にエントリー!

★田中希実の出場種目は?★
2020年から21年シーズンの5000mまでの女子中長距離種目は、田中希実(豊田自動織機TC。同志社大4年生だが学連には登録していない)を中心に動いてきていると言ってもいいだろう。
20年7月に3000mで18年ぶりの日本新(8分41秒35)。8月には1500mで14年ぶりの日本新(4分05秒27)。10月の日本選手権では1500mで優勝し、サブ種目の800mでも4位入賞。12月の長距離・日本選手権5000mで優勝して19年ドーハ世界選手権での「五輪参加標準記録(15分10秒00)」突破の15分00秒01(14位)と合わせて「五輪代表内定」。21年も勢いは続いていて、1月の初10000mで31分59秒89。1500mでは20年7月4日から21年6月6日まで負け知らずの12連勝中。800mでも20年7月に2分04秒66の自己新(従来は、18年10月の2分07秒28)、21年5月には2分03秒19へとベストを短縮。

21年シーズンは、3月21日から5月15日まで毎週レースに出場してきた。

1.17 西京極 10000m 1)31.59.89
2.27 福岡 8kmCC 4)26.22.
3.21 屋島 800m 1)2.09.10
3.21 屋島 1500m 1)4.15.18
3.29 明石 800m 1)2.08.53
3.29 明石 3000m 1)9.09.57
4.03 駒沢 3000m 1)8.57.27
4.04 駒沢 1500m 1)4.13.09
4.10 熊本 1500m 1)4.09.31
4.18 加古川 800m 1)2.06.60
4.18 加古川 3000m 1)9.11.39
4.25 神戸 1500m 1)4.10.14
4.29 広島 5000m 3)15.11.82=日本人トップ
5.03 袋井 800m 2)2.03.19
5.09 国立 1500m 1)4.09.10
5.15 長良川 3000m 1)8.58.54
6.01 長居 1500m 1)4.10.06
6.06 新潟 1500m 1)4.09.06


3種目にエントリーした今回の日本選手権で田中が出場する種目が気になる人は多いだろう。
各種目のスケジュールを整理すると、

<1500m>
・決勝/6月25日 19:00

<800m>
・予選/6月26日 13:20 3組2着+2
・決勝/6月27日 16:15

<5000m>
・決勝/6月27日 16:50

だ。

2日目(25日)の1500mでは、「4分04秒20」の五輪参加標準記録にチャレンジする。これに届かなくとも6月15日時点での「WAランキング」は33位で「ターゲットナンバー(出場枠)」である「45人」の圏内にいるので、こちらで出場できる可能性は高い。

問題は、最終日27日の800m決勝のフィニッシュから5000mまでの間が30分ほどしかないことだ。
普通に考えれば、800mか5000mのどちらかに絞ることになるだろう。
が、具体的なタイムテーブルが発表される以前の話ではあるが、田中のコーチでもある父・健智さんは、800m決勝のあとに5000mがあることを承知の上で、
「1500mと800mの走りをみて出場を決める。(強い)メンバーのなかでどこまで粘りきれるか。逃げずに走ることができれば、五輪本番でも自分を信じて走ることができる」
とコメントしている。

また、田中自身も6月1日の木南記念の時に、
「3種目に出ると決めているわけではないが、800は2分2秒以内で、1500は最低限優勝、5000はメンバーがそろう未知の5000なので楽しむことを大事にしたい」と述べた。
さて、どうなるか?

800mと5000mの両方に出場といった場合の「予行演習」になるようなレースも経験している。20年9月15日の神戸市中長距離記録会では、18時01分に1500mを4分12秒81でフィニッシュ。それから42分後の18時43分にスタートした3000mにも出場して、8分56秒18で走った。
この時の1500mは、1100mまではチームメイトの後藤夢がトップを引き、100m17秒5前後のほぼイーブンペース(1500m換算4分22秒5のペース)だったが、ラスト400mで田中が一気にスパート。残り1周を日本人女子では歴代最速の60秒4でカバーした。続く3000mはスタートから独走。1000m2分58秒、2000m6分03秒(3分05秒)で、ラスト1000mを2分53秒で上がった。

上記ほどタイトな日程ではなかったが、21年3月21日にも高松で800m(2.09.10)と1500m(4.15.18)を2時間9分の間隔で、3月29日には明石で800m(2.08.53)と3000m(9.09.57)を2時間53分の間隔で、4月18日にも加古川で800m(2.06.60)と3000m(9.11.39)を1時間52分間隔で走った。

田中の出場が3種目か2種目なのかはわからないが、出場確実なのは大会2日目の1500m。
以下、タイムテーブル順に各種目についてみていく。


★1500m/田中のターゲットは「4分04秒20」、卜部も五輪出場を目指す★
・決勝/6月25日 19:00

2020年までは予選が組み込まれていた(19年は、出場者が減り一発決勝に変更)が、今回は当初から出場枠が18人となり、一発決勝となった。1500mと800m、あるいは1500mと5000mを兼ねる選手にとってはありがたいことだろう。

田中のターゲットは、上述の通り、「4分04秒20」の「五輪参加標準記録」の突破で、それを達成できれば当然「日本新」でもある。

2020年8月23日のゴールデン・グランプリで田中が日本新をマークした時の100m毎のペースは下記の通り。日本陸連科学委員会の分析で、
「アスリートのパフォーマンス及び技術に関する調査研究 データブック2020」に掲載されたもの。
200m毎、300m毎、500m毎は筆者が加筆した。

<田中希実の1500m・日本記録(4.05.27)時のペース>
距離 通過時間 100毎 200毎 300毎 400毎 500毎
100 16.68 16.68
200 33.55 16.87 33.55
300 49.75 16.20 49.75
400 1.06.15 16.40 32.60 66.15
500 1.22.12 15.97 1.22.12
600 1.38.68 16.57 32.53 48.93
700 1.55.17 16.48
800 2.11.63 16.47 32.95 65.48
900 2.28.10 16.47 49.42
1000 2.45.33 17.23 33.70 1.23.21
1100 3.02.15 16.82
1200 3.17.60 15.45 32.27 49.50 65.97
1300 3.33.05 15.45
1400 3.49.13 16.08 30.53
1500 4.05.27 16.14 (32.22) 47.67 (63.12) 1.19.94
   (前半2.03.4+後半2.01.9/前後半差△1.5)
・前半と後半は、700mと800mの通過タイムからの推定
・ラスト1000mは、2.43.15(公認日本記録は、2.41.08/杉森美保/2002.06.19)
・ラスト800mは、2.10.10
・ラスト600mは、1.37.17

上記のタイムの1200mまでの1周につき0秒3ずつ、ラスト300mを0秒2短縮できれば、「4分04秒17」の計算になる。

このレースでは、1100mまで田中の背後に卜部蘭(積水化学)がついたが、ラスト400mで一気に突き放しての「日本新」だった。卜部も4分11秒75でベストを2秒77破ったが田中には、6秒48の差をつけられた。

田中が目標とする「4分04秒20」をイーブンでならすと、100m16秒28、400m65秒12 だ。
これについては、6月1日の木南記念(長居)でのレース後(4分10秒06で優勝。ラスト400mは61秒7=筆者の計時)、
「今日はラスト1周だけでしたが、67秒で回して60秒で上がるとか、65秒平均で押していければ理想的です」とコメントしている。

6月25日のレースで田中がどんなレースを展開して、「4分04秒20」に挑むかに注目だ。

参考までに田中が20年9月15日に神戸でラスト1周を「60秒4」の自己最速で走った時は、下記の100m毎だった。

・「Youtube」にアップされていた動画(01moroyaさん撮影)から筆者が計測。
距離 通過時間 100毎 200毎 300毎 400毎 500毎
100 17.3 17.3
200 34.3 17.0 34.3
300 51.8 17.5 51.8
400 1.09.3 17.5 35.0 69.3
500 1.27.3 18.0 1.27.3
600 1.44.7 17.4 35.4 52.9
700 2.02.3 17.6
800 2.20.1 17.8 35.4 70.8
900 2.37.6 17.5 52.9
1000 2.55.0 17.4 34.9 1.27.7
1100 3.12.4 17.4
1200 3.27.3 14.9 32.5 49.7 67.2
1300 3.42.3 15.0
1400 3.57.4 15.1 30.1
1500 4.12.81 15.4 (30.5) 45.5 (60.4) 1.17.8
   (前半2.11.2+後半2.01.6/前後半差 △9.4)
・前半と後半は、700mと800mの通過タイムからの推定
・ラスト1000mは、2.45.5
・ラスト800mは、2.10.5
・ラスト600mは、1.35.2

1100mまでを上記よりも100mで0秒8ずつ速い16秒7で刻み、ラスト1周をこの時と同じ60秒4で上がれれば、「4分04秒10」となる。

もしも「4分04秒20」には届かなくても、6月15日現在の「WAランキング」では出場枠45人のところの「33位」にいるので、五輪出場の可能性は非常に高い。この種目での「五輪出場」となれば、日本人にとって「史上初」となる。

ただし、五輪本番の競技日程は、

7月30日 19:00 5000m予選
8月2日  9:35 1500m予選
8月2月 21:40 5000m決勝
8月4日 19:00 1500m準決勝
8月6日 21:50 1500m決勝

田中にとって「本命種目」の5000m決勝の12時間あまり前とはいえ、同じ日の午前に1500mの予選が組まれている。予定通りに「5000mで決勝に進出」ができれば1500mの出場は回避する可能性が高いのではないかと思われる。が、まあそれは1カ月後の判断ということで……。

田中を追う一番手は、卜部だ。18年日本選手権2位の卜部が19年は初優勝(4.15.79。800mも2.02.74の自己ベストで制して二冠)。その時に0秒44差で2位だった田中(4.16.23)が20年は優勝した(4.10.21。卜部は、1400mでは2位にいたが最後に失速して4位=4.16.33)。

卜部の6月15日現在の「WAランキング」の順位は、「ターゲットナンバー(45人)」に対し「46位」で、「五輪出場切符」に「あと1人」と肉薄している。とはいえ、日本選手権と同じ期間や五輪出場資格者のポイントが確定する6月29日までに他の国でもたくさんの競技会が行われているので微妙なところだ。6月15日時点での「45位」の選手との差は、上位5大会平均ポイント平均で「3点差(卜部が1161点。45位が1164点)」だ。

田中との直接対決では、20年2月15日のハミルトン(ニュージーランド)でのレース(卜部3位4.16.48、田中4位4.16.74)で勝ったのを最後に20年8月23日以来8連敗中。
このところの状況からしても今回の日本選手権で田中に勝つのは厳しそうな状況だ。が、確実に「2位」の順位ポイント「80点」をゲットして、45位の選手を抜くには卜部の現時点での5番目の大会のポイントである「1128点(記録1093+着順35)」を押し出して、日本選手権で「1191点」を獲得する必要がある。順位が2位(80点)とすると必要な「記録ポイント」は「1111点」。具体的には、「4分12秒05以内」がそのターゲットである。

卜部の自己ベストは4分11秒75(2020.08.23)で、21年4月の金栗記念でも風の強い中で4分11秒94のセカンドベストを出している。他国のライバルたちの今後のポイント上乗せを踏まえると、日本選手権では上で述べた「4分12秒05」ではなく、「4分10秒以内」で、0秒01でも速く走っておきたいところだ。

「WAランキング」で卜部に続く選手は、田中と高校(兵庫・西脇工高)以来のチームメイトである後藤夢(豊田自動織機TC。田中と同じく同志社大4年だが学連には登録していない)で、その順位は「58位」。後藤が日本選手権で卜部に先着して田中に続いて2位(80ポイント)になったとしても6月15日時点での「45位」の選手を抜くには、記録ポイントで「1163点」を稼がなければならない。その「1163点」は、田中の日本記録に迫る「4分05秒39」で、自己ベスト4分13秒24(2020.04.10)の後藤にとって、そのハードルは限りなく高い。


★1500m/日本選手権・決勝での「着順別最高記録」★
1)4.10.21 2020年/4.07.77 1991年=外国人
2)4.11.00 2006年
3)4.14.63 1997年
4)4.15.60 1997年
5)4.17.46 2019年
6)4.17.68 1997年
7)4.17.86 1997年
8)4.18.84 1997年

29年前にツドリタ・チドゥー(ルーマニア)さんがマークした大会記録の4分07秒77の更新は間違いないところだろう。田中の「日本新」に、2着以下の「着順別最高記録」もたくさん更新される可能性がある。


★800m/北村夢が「3度目制覇」の最有力候補★
・予選/6月26日 13:20 3組2着+2
・決勝/6月27日 16:15


続いて、800m。
2014年以降の優勝者(所属は、当時のもの)は、下記の通り。

2014 2.05.05 大森郁香(日大・4年)=初出場・初優勝
2015 2.08.20 山田はな(東学大・3年)=初出場・初優勝
2016 2.05.92 福田翔子(松江北高・3年)=初優勝
2017 2.04.62 北村夢(日体大・4年)=初優勝
2018 2.02.54 北村夢(エディオン)=2連覇
2019 2.02.74 卜部蘭(Nike Tokyo TC)=初優勝
2020 2.03.54 川田朱夏(東大阪大・3年)=初優勝 

現役を退いた福田さん以外の5人が今回もエントリーしている。
田中希実が出場するのかどうかは、5人にとっても気になるところだろう。

至近7年間の内、初優勝が6回。唯一の連覇は北村夢(エディオン)だが、20年は故障のためシーズン第一戦として日本選手権に臨んだものの、予選最下位の屈辱を味わった。
社会人となって4年目だが、日体大4年生の17年・日本インカレでマークした2分00秒92(日本歴代2位)を更新できず、18年2分02秒54(日本選手権は2連覇)、19年2分05秒22、20年2分04秒99と苦しいシーズンが続いた。が、その悔しさを胸に秘め冬季を乗り切って、21年シーズンは復活してきてた。

21年は4月10日の初戦が2分05秒56、4月24日が2分05秒47、5月3日の「静岡国際」は2分03秒05と18年以来の2分03秒台をマーク。5月16日の「中国実業団」ではケニア人選手(テレシア・ムッソーニ/ダイソー/2.02.92)に先着を許し2分04秒91だったが、6月1日の「木南記念」が2分03秒67、6月6日の「デンカチャレンジ」も2分04秒40で優勝。20年11月1日から21年にかけて、大学主催の競技会を含め日本人選手には負け知らずの7連勝中だ。

今季の唯一の「ピンチ」は、5月3日の「静岡国際」。
田中に最後の局面で追い込まれたが、0秒14差で逃げ切った。
その時の両者の100m毎と通過順位は、以下の通り(筆者の計時)。

距離 北村夢 田中希実
100m 2)14.3 14.3 9)15.3 15.3
200m 2)28.8 14.5 7)30.1 14.8
300m 2)44.7 15.9 7)45.7 15.6
400m 2)1.00.8 16.1 4)1.01.1 15.4
500m 1)1.17.6 16.8 4)1.17.9 16.8
600m 1)1.33.1 15.5 2)1.33.2 15.3
700m 1)1.48.0 14.9 2)1.48.2 15.0
800m 1)2.03.05 15.1 2)2.03.19 15.0


ディフェンディングチャンピオンの川田朱夏(東大阪大・4年)、19年に1500mとの二冠に輝いた卜部蘭(積水化学)が北村を追う形だ。卜部は、5月の東日本実業団で800mにエントリーしていたが、前日に股関節の違和感を覚え、大事をとって欠場。日本選手権が800mの今季第一戦となる。

田中が出場した場合、序盤はこれらの選手にかなり遅れをとるかもしれないが、次第に追いついてきて、最後はトップ争いに食い込んでこよう。

さらに、今季好調の広田有紀(新潟アルビレックスRC)もここに加わってきそうだ。広田は、20年春に秋田大医学部を卒業し、医師国家試験にも合格している。本来ならば研修医になるところだが、五輪への挑戦は「今しかできない」と競技続行を決意した。が、「コロナの中、医師免許を持つ自分が走っていてもいいのか」という葛藤もあった。「やるからには悔いのないよう全力で!」と、残り少ない競技生活への思いのすべてを2分あまりにぶつけてくる。

川田の高校時代からのライバル・塩見綾乃(立命大・4年)も本来ならば、上位にからんでくるところだが、3月中旬に400m(56秒07)と800m(2分09秒17)に出場したあとに故障。その後は1レースにも出場していないのが心配である。どこまで立て直してくるか? 日本選手権は、2016年から6・3・2・3・2位と5年連続入賞中で、至近4大会は川田(2・3・2・1位)と一緒にすべて表彰台に立っている。


★800m/日本記録(2.00.45)のペース★
北村は、「今年中には日本記録を出したい」と話している。
その日本記録を杉森美保さん(現姓・佐藤/当時、京セラ)が2005年大会で出した時の100m毎は下記の通り。

<杉森美保/2.00.45=2005.06.05>
通過時間 100毎 200毎 400毎
100m 13.8 13.8
200m 27.7 13.9 27.7
300m 42.6 14.9
400m 57.8 15.2 30.1 57.8
500m 1.13.0 15.2
600m 1.28.5 15.5 30.7
700m 1.44.1 15.6
800m 2.00.45 16.4 32.0 62.7(前後半差▽4.9)

・スタンド記者席からの筆者の計時


★800m/日本選手権・決勝での「着順別最高記録」★
1)2.00.45 2005年
2)2.03.29 2001年
3)2.03.87 2019年
4)2.04.33 2018年
5)2.05.35 2019年
6)2.05.72 2019年
7)2.07.09 2018年
8)2.07.51 2017年

1着の最高記録でもある「日本記録」と2着の最高記録は15年以上も前のものだが、3着以下は、2017年以降の記録。「層の厚み」は増してきている。

ただ、五輪参加標準記録は日本記録を1秒近くも上回る「1分59秒50」。6月15日時点の「WAランキング」で最上位の塩見が「74位・1133点」、北村が「80位・1126点」。6月15日時点で「ターゲットナンバー(48人・1175点)」に入るには、日本選手権優勝の順位得点「100点」を加えても、1分56秒台で走らなければならない。五輪に出るには「1分59秒50」を破るしかない。


★5000m/五輪内定の田中希実、1万mで内定の新谷仁美&廣中璃梨佳が激突?★
・決勝/6月27日 16:50


田中希実(豊田自動織機TC)は800mとの兼ね合いもあって5000mに出場するのかどうかは未定。だが、10000mで内定済みの新谷仁美(積水化学)と廣中璃梨佳(日本郵政グループ)もエントリー。3人とも出場となれば、陸上ファンにとってはそれこそ「垂涎もののレース」となる。

20年12月の長距離種目の日本選手権5000mでは田中と廣中がデッドヒートを展開。ラスト1周のバックストレートからのスパートで田中が廣中を振り切って、1秒46差で「五輪切符」を手に入れた。その時の10000mでは、新谷が30分20秒44の「特大の日本新」で五輪内定。廣中は、21年5月3日の日本選手権10000mを参加標準記録突破で制し内定を決めた。五輪本番の10000mを見据えて新谷が5000mに出場するかどうかは微妙という報道もあるが……。廣中については、2種目めを目指して出場することを明言している。

この「内定組」以外の選手では、有効期間外だった20年7月に参加標準記録(15分10秒00)を上回る15分05秒78で走った萩谷楓(エディオン)が最有力。有効期間内の21年5月9日の「READY STEADY TOKYO」では、序盤のスローな展開が災いして、「あと1秒84」及ばなかったのが悔やまれる。このレースでは、廣中に1秒02、新谷に6秒37先着。2月27日の日本選手権クロカン(8km)でも優勝(25分54秒)し、4位だった田中(26分22秒)に大差で勝っている。6月15日時点の1国3人以内の「WAランキング」では「31位相当」で、「ターゲットナンバー(42人)」の圏内。だが、この種目は世界での参加標準記録突破者数が「ターゲットナンバー」をすでに上回っていて、「WAランキング」による出場の可能性はない。日本選手権で何としても「参加標準記録」を突破するしか萩谷には「五輪出場」の道は残っていない。

2017・18年を連覇し、萩谷とともに「五輪切符」に挑むはずだった鍋島莉奈(日本郵政グループ)が左足舟状骨疲労骨折のため残念ながら6月12日に欠場届を提出することになった。


★5000m/日本新の可能性も……★
当日の気象状況にもよるが福士加代子(ワコール)が2005年7月8日にローマでマークした日本記録(14分53秒22)の16年ぶりの更新にも期待がかかる。自己ベストは新谷が日本歴代2位の14分55秒83(2020.9.20)、廣中が同じレースで同歴代3位の14分59秒37、田中が歴代4位の15分00秒01(2019.10.5)、萩谷が歴代7位の15分05秒78(2020.7.15)、さらにオープン参加のカリウキ・ナオミ・ムッソーニ(ユニバーサルエンターテイメント。15.03.01)とバイレ・シンシア(日立。15.07.13)がいるので、日本記録に向けて「ちょうどいい相手」になってくれそうである。

そこで、福士の日本記録の時の1周毎や1000m毎のペースのデータを探したが、残念ながら見つけられなかった。海外のレースで、そういうデータを掲載する可能性が高い陸上専門2誌の締め切りギリギリのタイミング。両誌ともに冒頭のカラーページに「日本新」の速報写真を載せるのが精一杯だったようだ。1カ月後の号は、世界選手権と全国インターハイの特集号で、ここにも福士のラップが掲載されることはなかった。

そんなことで、新谷と廣中が揃って14分台で走った2020年9月の全日本実業団のデータを紹介する。福士の日本記録との差は「2秒61」なので、十分に参考にはなろう。

なお、以下のデータは、「寺田的陸上競技WEB」で陸上ファンには有名な寺田辰朗氏が、各地点を日本人のトップで通過した選手(といっても、廣中か新谷のどちらかだが)のタイムを計測し、「TBS」のFacebookに分析記事とともに掲載したものだ。
なお、複数の日本人が同時に14分台をマークした唯一のレースであり、新谷の14分55秒83は、日本人が国内でマークした最高記録でもある。

<2020.9.20/全日本実業団・日本人先頭のペース>
距離 日本人先頭 通過 400毎 1000毎
400m 廣中 1.12.8 72.8
800m 〃 2.26.6 73.8
1000m 〃 3.02.5 3.02.5
1200m 〃 3.38.2 71.6
1600m 〃 4.49.6 71.4
2000m 〃 6.01.3 71.7 2.58.8
2400m 〃 7.13.8 72.5
2800m 新谷 8.24.8 71.0
3000m 〃 9.00.9 2.59.6
3200m 〃 9.37.0 72.2
3600m 〃 10.49.0 72.0
4000m 〃 12.01.3 72.3 3.00.4
4400m 〃 13.13.3 72.0
4600m 〃 13.49.0
4800m 〃 14.22.9 69.6
5000m 〃 14.55.83 (66.8) 2.54.5

・前半7.31.6+後半7.24.2(前後半差△7.4)
・ラスト200m、32.9
・ラスト2000m、5.54.9
・ラスト3000m、8.54.5
(前半2500mは、2400mの通過から野口による推定)

基本的には、400mを72秒、1000mを3分00秒の「15分00秒ペース」のほぼイーブンで刻み、ラスト400mで「5秒を削り出した」というペース配分だった。最も効率よくというか、無駄な力を使わずに「14分台」を出すための素晴らしいペースであったといえよう。

★5000m/10000mや1500mのタイムから5000mの記録を予測すると……★
新谷の10000m30分20秒44を世界陸連の採点表にあてはめると「1229点」。それと同じ点数の5000mの記録は「14分26秒69」だ。新谷の5000mのベストは14分55秒83なので、30秒近く短縮が期待できそう、ということになる。

ただし、筆者のこれまでの日本や世界の各種目間の記録の分析では、世界陸連の採点表は、距離が長い種目ほどその点数が少し甘めであるように感じる。逆に言うと、5000mを14分26秒69で走れる長距離をメインとする選手であれば、10000mは30分を切るか切らないかくらいでは走れるであろうというのが、筆者の見解だ。

廣中の自己ベストの世界陸連採点表での点数は、5000m14分59秒37が「1164点」、10000m31分11秒75は「1182点」で10000mのポイントの方が高い。「1182点」に相当する5000mの記録は「14分50秒50」で、その通りで走れれば「日本新」となる。が、上述のように採点表では10000mの得点の方が少々甘いように感じている。

また、1500m4分05秒27の田中の得点は「1164点」。これと同じポイントの5000mの記録は「14分59秒75」で、実際のベスト15分00秒01とほぼピタリ同じ。1回だけ走った10000m31分59秒89の点数は「1139点」で1500mにあてはめると「4分08秒45」、5000mなら「15分12秒71」。1回しか経験のない10000mのタイムは1500mや5000mと比べると低い。今後、経験を積んでいけばまだまだ短縮できそうだ。

それに関連して、筆者が10年ほど前に分析したデータを紹介する。1986年から2010年までの25年間の男女の日本人選手で、その年の5000mと10000mの両方の種目で日本リストに入傑した選手の記録から、5000mの何倍のタイムで10000mを走ったかということを調べたものだ。例えば、5000m14分00秒の人が、10000mを29分00秒で走った場合は、「29分00秒÷14分00秒」で倍率は、「2.0714倍」といった具合だ。年によって各種目の収録傑数に差はあるが、この25年間では各年概ね200傑から500傑程度。両種目に入っている人数は、それよりも減るが、25年間では、のべ数千人のデータ数になる。

この調査での「5000m:10000m」の平均倍率は、「2.085317倍」。標準偏差は「±0.039937」。これから逆算して、10000mを30分20秒44で走った新谷の5000mのタイムを算出すると、「30分20秒44÷2.085317=14分32秒98」となる。標準偏差を考慮すると「14分16秒58〜14分50秒03」の範囲だ。

廣中の5000m14分59秒37と10000m31分11秒75の倍率は、「2.081179倍」で平均値よりも少し小さな数字になる。

なお、上述ののべ数千人のデータの中には、田中のように普段は1500mと5000mが中心で10000mも走ったという選手も含まれる。そういうタイプの選手の「5000m:10000m」の倍率は、平均値よりも大きな数字となる。また、普段は5000mと10000mが中心でハーフも走るという新谷のような選手の場合は、倍率の数字が小さくなる。筆者の大雑把な感覚では、5000m13分台から15分くらいの選手で10000mやハーフも走るような長距離がメインの人であれば、「5000mの記録の2倍プラス1分」というのが、10000mのタイム予測。逆に「10000mの記録の0.5倍マイナス30秒」が、5000mの予測タイムになる。これをハーフでも日本記録(66分38秒)を持つ長距離型の新谷にあてはめると、「30分20秒44×0.5-30秒」で、「14分40秒22」となる。「14分40秒22:30分20秒44」の倍率は「2.068165」で、長距離型の選手であれば「2.07倍前後」が多いようだ。

これと同様に、1500mと5000mの数千人の倍率の平均値は「3.686470倍」で、標準偏差は「±0.088142」。これを1500m4分05秒27の田中にあてはめて5000mのタイムを予測すると「4分05秒27×3.686470=15分04秒18」で標準偏差を考慮すると「14分42秒56〜15分25秒80」の範囲である。逆に、田中の5000m15分00秒01から1500mのタイムを予測すると「15分00秒01÷3.686470=4分04秒14」で、1500mの「五輪参加標準記録(4分04秒20)」をクリアできる計算になる。

話はかなりそれたが、こういうデータを活用すると、隣接した距離の他の種目の記録を予測したり実際の持ち記録を評価したりすることもできる。体育の分野を専攻している大学生の卒業論文のテーマにもできるかもしれない。


★5000m/日本選手権での「着順別最高記録」
1)15.05.07 2004年
2)15.07.11 2020年
3)15.16.27 2008年
4)15.19.29 2008年
5)15.21.12 2008年
6)15.24.61 2020年
7)15.25.14 2020年
8)15.28.55 2004年

上述のように、新谷・廣中・田中・萩谷のうちの何人が出場するのかどうかは、はっきりしない部分がある。が、少なくと廣中と萩谷の2人が「五輪チャレンジ」で積極的に走るのは確かだろう。これにオープン参加のケニア人選手2人が加わるので、「日本記録ペース」か遅くとも「五輪参加標準切り」でレースが進むはずだ。となれば、好記録続出の可能性が高まる。

他の周回種目のところでもふれたが、長居競技場は「1周すべてが追風」となることもあるので、27日16時50分からの15分間、「風も味方してくれる」ことを祈りたい。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト



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▼【日本選手権】競技日程
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