データで導く現役捕手ランキング
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NPBで最高の守備力を持つ捕手は誰だろうか。捕手の守備力といっても要素はさまざまだ。リード、肩の強さ、ワンバウンド処理能力の高さなど、捕手には多くの守備スキルが求められる。それらを総合した場合、誰が最も優れていると言えるだろうか。今回は現役捕手をデータ分析により守備力で格付けしてみたい。
今回は捕手の守備スキルの中でも、盗塁阻止、そして投球の後逸を防ぐブロッキングについて評価を行う。数多ある守備スキルの一部で評価していることを念頭にランキングを見てほしい。対象は2019年から21年。この期間に800イニング以上捕手として守備イニングをこなした選手だ。ランキングを見ていこう。
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具体的に解説しよう。まず盗塁阻止だ。一般的には盗塁阻止率で評価されるが、この指標が能力を反映しているとは言い難い。大きな問題として考えられるのが、走者の能力を反映していない点だ。シーズン40盗塁を決める俊足の選手と、ヒットエンドランの際にしかスタートを切らない鈍足の走者。刺すのが難しいのはどちらだろうか。当然前者だろう。盗塁阻止率にはこういった走者のスキルが加味されていない問題がある。そこで今回の盗塁阻止評価では、盗塁成功率の高い走者をアウトにするとより加点が大きくなり、成功率の低い走者をセーフにすると減点が大きくなる仕組みを取り入れた。これによって、より適切に捕手の盗塁阻止能力を測ることができるはずだ。
ブロッキングについて、一般的に利用される指標は暴投や捕逸である。暴投は投手、捕逸は捕手の責任とされる。しかし暴投について捕手の責任が全くないのかと言うとそんなことはない。他の捕手が簡単に止められるイージーなワンバウンド投球を逸らしたのであれば、捕手の責任も大きいだろう。
今回は評価を行うにあたり、いくつかの要素からブロッキングの難易度を算出。その難易度が高い投球をブロッキングした場合加点が大きく、低い投球を逸らした場合は減点が大きくなる仕組みをとった。難易度は具体的に、投手・打者の左右、ワンバウンドの有無、投球コース、また捕手の構え位置からのミット移動距離によって決まる。例えば、ワンバウンドしてさらに逆球となった投球は、非常に難易度が高い。そのためブロッキングに成功した場合、加点が大きくなるというわけだ。
この盗塁阻止能力、ブロッキング能力を測る指標を使い、捕手の守備力ランキングを作成した。
1位となったのは、やはり甲斐拓也(ソフトバンク)だ。部門別に見ると甲斐は盗塁阻止、ワンバウンド投球に対してのブロッキングでそれぞれ9.1点、5.5点と高得点を記録している。この数字は平均的な捕手が同じだけ出場した場合に比べ、どれだけの失点を防いだかを表している。つまり甲斐は平均的な捕手に比べ、盗塁阻止で9.1点、ノーバウンド投球のブロッキングで0.9点、ワンバウンド投球で5.5点失点を少なく抑える守備を見せていたことになる。総合点は15.5点。これは12球団断トツの数字である。
甲斐は盗塁阻止能力の高さで知られているが、実は盗塁阻止率が特別高いわけではない。21年こそトップだったが、19年はリーグ4位、20年は2位と、常に最上位にいるわけではないようだ。しかし今回使用した走者のスキルも加味した指標を使うと、やはりその阻止能力は抜きん出ている。すでに「甲斐キャノン」の威力は十分に知れ渡っているが、盗塁阻止率で見た場合には過小評価される捕手と言ってもいいかもしれない。
2位は若月健矢(オリックス)。3シーズンで平均的な捕手に比べ、8.7点分多く失点を防いだと評価されている。1位の甲斐は盗塁阻止能力に強みがあったが、若月は甲斐と比較するとブロッキングに特化した捕手だ。ノーバウンド、ワンバウンド投球ともにブロッキングの値は12球団トップ。総合8.7点の評価のうち7.7点をブロッキングで稼いだ。いわゆる捕手の「壁性能」としては12球団最高と評価して良いのではないだろうか。また盗塁阻止についても0.9点と平均を上回っている。守備の総合力が高い捕手であるようだ。
3位と4位はあわせて紹介したい。3位は4年目の楽天・太田光、4位は中日の木下拓哉となった。それぞれ平均的な捕手に比べ6.6点、5.5点多く失点を防ぐ守備を見せている。
2位の若月がブロッキング特化であるならば、この2選手は盗塁阻止特化捕手だ。それぞれ盗塁阻止で5.4点、6.0点多く失点を防いでいる。これは1位の甲斐に次ぐ数字だ。ただ2選手とも3シーズンにおける守備イニングが甲斐の半分程度であることを考慮すると、甲斐に近いレベルの盗塁阻止能力を持っていると評価できるかもしれない。
5位は小林誠司(巨人)。平均的な捕手が同じだけ出場した場合に比べ、4.8点多く失点を防いだと評価されている。守備型の捕手と聞くと、小林の名前が思い浮かぶ人も多いのではないだろうか。もしかすると5位という結果に落胆しているファンもいるかもしれないが、小林は1000イニングに満たない守備機会にかかわらず、このランキングで5位に入ってきている。3位の太田、4位の木下と比べても総合点は大差ない。もし出場機会が多かった場合、さらに上位に食い込んだ可能性は高そうだ。小林というと盗塁阻止能力の高さが印象的かもしれないが、今回の評価においてはワンバウンドのブロッキングで3.8点と、より優れた成果を残している。
6位は伏見寅威(オリックス)。若月とポジションを争う選手だが、こちらも上位に入ってきた。平均的な捕手が同じだけ出場した場合に比べ、4.7点多く失点を防いでいるようだ。こちらも3位太田、4位木下同様、盗塁阻止が3.4点と貢献の大半を占めている。
7位の中村悠平(ヤクルト)は4.2点。盗塁阻止による得点は平均的だが、ノーバウンド、ワンバウンドあわせたブロッキングのみで4.1点を積み上げた。これは若月、甲斐に次ぐ3番目の数字だ。
8位は大城卓三(巨人)。総合で4.1点多く失点を防いだ。大城は5位に入った小林との対比で、打撃型の捕手と見られがちだが、実は守備についても高い能力を有している。今回の評価項目では全項目で平均以上。特にワンバウンドのブロッキングで2.2点と好成績を残した。
9位は會澤翼(広島)、10位は宇佐見真吾(巨人/日本ハム)。ともに平均的な成績を残した。會澤のような打撃に秀でた捕手は、その分守備が弱点というケースも多い。それだけに會澤のマイナスを作らない守備能力は価値が大きい。
データで分析した松川虎生の捕手能力
さて、ここまでランキングベスト10の選手を紹介してきた。ここからは、ベスト10から漏れた主要な捕手を紹介しておこう。阪神の梅野隆太郎は11位。このランキングでは総合0.0点と、平均レベルの捕手と評価されている。梅野といえばブロッキング能力の高さで知られているが、今回はワンバウンドに対する処理が-2.7点と高く評価されていない。意外な欠点があるのだろうか。
また甲斐に負けず劣らずの強肩ぶりが注目される加藤匠馬(中日/ロッテ)だが、こちらはその肩を生かす盗塁阻止評価が-1.9点と振るっていない。昨季はロッテ移籍後に多くの出場機会を得た加藤だが、盗塁企図12のうち盗塁刺が1つで阻止率は.083。19年、20年についても阻止率は3割に達しておらず、そもそも阻止自体が多くないようだ。肩が強いというイメージによって、走者を走らせていないと言えるかもしれない。
そして注目の森友哉(西武)は総合-8.9点で、今回の対象19選手中最下位となった。森は盗塁阻止評価が1.5点と平均を上回ったものの、ノーバウンド、ワンバウンドのブロッキングがそれぞれ-2.5点、-8.0点と最も悪かった。この部分についてレベルアップは必要になりそうだ。
ただ注意しなければならないのは、これによって森が捕手失格とはならないことだ。森は打撃面において、他球団の捕手に圧倒的なアドバンテージを奪っている。この打撃によるプラスは守備のマイナスよりはるかに大きく、打撃・守備を総合すると12球団で最も優れた捕手と評価することができる。もしここからブロッキング能力に改善が見られなかったとしても、必ず捕手で起用すべき選手だ。
また今回はランキングとは別に、注目の新人・松川虎生(ロッテ)についても同様の項目で評価を行ってみた。松川について今季ここまでの評価を見ると、盗塁阻止では-0.8点、ブロッキングはノーバウンドで0.1点、ワンバウンドで0.5点となった。合計すると-0.2点という評価だ。
盗塁阻止-0.8点は今季出場した全48捕手中46位。シーズンはまだ始まったばかりではあるが、ここまでは盗塁阻止面でやや後れをとっているようだ。ただブロッキングについては、ノーバウンドの0.1点は全体7位、ワンバウンドの0.5点は全体4位と、すでに12球団上位クラスの数字を残している。145km/h以上、フォークボールといった難しい投球に限定しても、変わらず上位に位置していたようだ。佐々木朗希の凄まじいスピードの球をいとも簡単に処理し続けていることからもわかってはいたが、データから見てもそのブロッキング能力の高さは確かなようだ。シーズンを通してどの程度の成果が出せるだろうか。
変革が起きる「フレーミング」
さて今回、盗塁阻止、ブロッキングに絞って捕手の守備力ランキングを作成した。これは捕手の守備能力のほんの一部でしかない。このランキング順に捕手の能力が高いというよりは、捕手のさまざまなスキルの一部をピックアップするとこのような評価になったと考えてほしい。リードや投手とのコミュニケーション能力など、捕手に求められる守備スキルはまだまだ評価が難しい領域である。
捕手の守備スキルについては、この10年で大きな変革が起こっている。投球をトラッキングするシステムの導入により、捕手が捕球によりどの程度見逃しストライクを増加させているのか測ることが可能になったのだ。審判のストライクコールを誘発する捕球技術、「フレーミング」である。
アメリカの研究により、このフレーミングが試合に与える影響は極めて大きいことがわかっている。現在のMLBでは盗塁阻止よりもこのフレーミングのほうが、他選手との間により差がつきやすい重要なスキルであるという認識が強まっているようだ。
だからといって今回評価対象とした盗塁阻止やブロッキングが重要でなくなったわけではない。ここ数年は、フレーミングの重要性が広く認識されたことで、どうすればストライクを多く誘発できるか、捕球技術、練習のノウハウも広がった。これによりフレーミングスキルでつく捕手間の差は当初よりも小さくなっている。
またスキルの進歩を見せたのは捕手だけではない。球審も同様だ。トラッキングシステムの導入は、どのような判定ミスをしたか、試合後に球審がフィードバックを得ることも可能にした。これにより、ここ数年MLBでは球審の判定ミスが大幅に減少しているようだ。フレーミングはいわば判定ミスを誘発するプレーでもある。そもそもの判定ミスが減少すれば、当然スキルが有効となる機会も少なくなる。
こうした事情により、フレーミングを取り巻く状況は短いスパンで大きな変化を遂げている。もし今後ロボット審判が導入されるようなことがあれば無用のスキルにもなりうる。他のスキルに比べると、やや脆い状況にあると言っていいかもしれない。そういった意味で、盗塁阻止やブロッキングといった基礎技術はある程度普遍性があると言えるのではないだろうか。盗塁阻止やブロッキングは、今後も重要なスキルとしてあり続ける可能性が高い。
※ロッテ・松川を評価したデータは5月8日終了時点のもの
文:大南淳(DELTA)、企画構成:スリーライト