データで導く現役捕手ランキング

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「捕手は守れさえすれば良い」といった言説を聞いたことはないだろうか。昔の野球において、捕手は他のポジションに比べ守備面で求められるスキル、タスクが多いため、打撃面まで高い能力を備えた選手がほとんどいなかった。野村克也(元南海など)は例外のような存在だ。

 しかし近代化が進むにつれ、徐々に打力も備えた捕手が増加しはじめる。古田敦也(元ヤクルト)、城島健司(元ダイエーなど)、阿部慎之助(元巨人)などだ。現代野球においてもやはり捕手の攻撃力は低い。それゆえに彼らのような捕手のいる球団は、他球団との間に圧倒的なアドバンテージを築くことになった。順位争いに選手単独で大きな影響力を与えうる大きな差だ。現代野球においては捕手が守備力を備えているのはもはや当然。それプラスどれだけ打てるかどうかが重要な意味を持つようになってきている。捕手は打てなくても良いという時代は終わったのだ。

 今回は、2019年から21年までの3シーズンに合計800イニング以上捕手として守備に就いた現役選手19名を対象に、当該期間の成績で「打てる捕手ランキング」を作成した。

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解説

現役捕手の中で、突出した打力を持つ森友哉(西武)【写真は共同】

 ランキング作成にはwRC+(weighted Runs Created Plus)という指標を用いている。wRC+はリーグ平均の野手を100とした場合の1打席当たりの打撃傑出度を表した指標だ。OPS(出塁率+長打率)のような打者の総合的な打力が、より精緻に計算されており、値が150であればリーグ平均の野手の1.5倍の攻撃力を持っていると考えられる。また球場の影響を均す補正も施されているため、本拠地の狭さ、広さが有利、不利に働くこともない。今回は2019年から21年までの3シーズンの間に合計800イニング以上捕手として守備に就いた選手19名を対象にランキングを作成した。

 1位となったのは森友哉(西武)。これは多くの人の想像どおりだったのではないだろうか。3年間のwRC+は141に到達。リーグの平均的な打者の1.4倍得点を増加させる働きを見せていたことになる。ちなみに、後ほど紹介する2位の打者の値は114。1位の森とは大きな差が開いている。森は20年シーズンに大不振に陥ったが、その成績を含めてもなお、捕手の中ではこれだけ突き抜けた攻撃力を有しているのだ。セイバーメトリクスの観点からも重要な一般的なスタッツで言うと、出塁率は.392、長打率は.474とともに好値を記録している。

 現代野球においてもなお、捕手は他のポジションと比べても攻撃力が低い打者が集まりやすい。今回のランキングでもリーグ平均野手の基準となるwRC+100をクリアしたのは3名だけだった。捕手の攻撃力はリーグ平均に届かないのが普通なのだ。そういった状況の中で平均を上回るだけでなく、圧倒的な差をつけることができるのは、現在の球界では森しかいないだろう。文句なしで球界最強の打てる捕手と言っていいのではないだろうか。

昨季、初めて規定打席に到達した坂倉将吾(広島)。今季はここまで全試合で5番を打つ【写真は共同】

 2位は坂倉将吾(広島)がランクインした。坂倉はまだチームで確固たる捕手のレギュラーとなっているわけではない、昨季打者としてブレイクを果たした捕手だ。3シーズンのwRC+は114。リーグ平均野手の基準となる100を越えた3選手のうちの1人となった。出塁率.367、長打率.439ともに森に次ぐ2位の値となっている。森のいるパ・リーグと違い、セ・リーグには打撃で圧倒的な違いをもたらせる捕手が存在しない。今後そういった存在になりうる筆頭と言えるのがこの坂倉だろう。

 セ・リーグの球団であれば捕手は投手の手前の8番を務めることが多いため、成績もややよく出やすい。しかし坂倉は上位打線で起用されることが多いにもかかわらず、これほどの成績を残している。これも評価するべきポイントの一つだろう。また坂倉は現在23歳と森に比べても3歳若い。打撃にはまだまだ伸びしろがありそうだ。今後の成長次第では、冒頭で述べた古田、城島、阿部といった歴史的な捕手に肩を並べる存在になる可能性も十分ありえる。

 3位は會澤翼(広島)。坂倉と同じ広島に所属する中堅捕手が3位に入った。wRC+は110と坂倉にわずかに及ばない値となっている。通常であれば、このランキング上位に入るような打力のいる捕手が1名でもチームにいれば大きな強みになる。しかし広島の場合、上位の捕手を2名も保有することができているのだ。捕手が弱点のチームからすると、うらやましくて仕方ない状況だろう。

 ただ會澤にとって今回採用した19年から21年という条件はやや不利なものとなっている。20年、21年は會澤の中でそれほど打撃好調なシーズンではなかったからだ。同じ3シーズンでも17年から19年を切り取ると、會澤のwRC+は130に到達。森に迫る値となる。逆に言うと好調なシーズンを切り取らなくとも3位に入る、確かな実力を持っている打者と言えるかもしれない。

 4位は中村悠平(ヤクルト)がランクインした。wRC+は97。野手の平均である100は割ったが、捕手としてはかなり優秀な成績である。

 中村の特徴は出塁能力の高さだ。3位までの3選手はいずれも長打力にも優れた打者であるが、中村はこの3シーズンでわずか7本塁打。これはランキングベスト10の中でも最少タイの数字となっている。しかし出塁率.356は2位の坂倉(.367)、3位の會澤(.365)と比べてもそれほど劣っていない。後に登場する5位以下の捕手と比べると、この部分が決定的な違いとなっていた。そしてその出塁率の高さは四球の多さによって保たれている。このランキングは打てる捕手をランキングしたものだが、中村については「選べる捕手」と形容したほうが適切かもしれない。

 5位は甲斐拓也(ソフトバンク)となった。wRC+は95。甲斐と言うと、「甲斐キャノン」をはじめ守備能力の高さで知られているが、実は打撃についても球界で上位に入る捕手なのだ。

 打者・甲斐の強みは長打力だ。この3シーズンで放った本塁打は34本。これはトップ森の43本に次ぐ数字である。3シーズンの打率は.234と振るわなかったものの、出塁率.322、長打率.372ともに捕手としては十分すぎる値を記録している。下位打線を務めることが多いこともあり、チーム内で見た場合それほど目立たないが、他球団の捕手と比較すると打力の高さは際立つ。決して守備型捕手というわけではないのだ。

昨季、自身初となる2桁本塁打(11本)を達成した大城卓三(巨人)【写真は共同】

 6位は大城卓三(巨人)だ。wRC+は90。3シーズンの本塁打数は森、甲斐に次ぐ3位の26本を記録している。しかもこの期間に森が1498打席、甲斐が1293打席立っているのに対し、大城の打席は1023に過ぎない。本塁打を放つことに関してなら、捕手の中でもトップクラスの能力を持っていると言えるだろう。

 7位は梅野隆太郎(阪神)だ。3シーズンのwRC+は89となった。梅野というとルーキーイヤーの14年にわずか265打席で7本塁打を放った、長打力に魅力のある打者という印象を持っている人もいるかもしれない。ただ、近年の梅野はそれほど高い長打力を発揮しているわけではない。3シーズンの合計本塁打は19本。250打席以上少ない大城に7本もの差をつけられている。ただ出塁能力は一定のものを見せているようだ。3シーズンでの出塁率は.320。捕手としては十分な数字だろう。かつては長打に特化した打者だったが、キャリアを重ねるにつれ出塁型の打者にモデルチェンジしているようだ。

 8位は木下拓哉(中日)だ。こちらも甲斐同様、ディフェンス面で高く評価される捕手だが、打撃能力の高さも魅力だ。3シーズンのwRC+は88。特に広いバンテリンドームを本拠地としながら、760打席で19本塁打を放つ長打力が魅力だ。長打率は.402を記録。今回のメンバーで長打率が4割を超えたのは、上位3選手とこの木下だけだった。

 9位は伊藤光(DeNA)。wRC+は78となっている。伊藤も中村や梅野同様、出塁能力に強みのある打者だ。3シーズンの打率は.236ながら、出塁率は.333を記録。これは本ランキングで5位に当たる好成績となった。

 10位は田村龍弘(ロッテ)。wRC+は71となった。田村は打率.233と伊藤に近い値を記録しているものの、出塁率は.300。出塁率.333の伊藤にはこの部分で劣り、これが決定的な差となった。それほど高い攻撃力には見えないかもしれないが、打力の高くない捕手が集まるロッテの中で考えた時、田村の攻撃力は貴重だ。

昨季、46試合の出場ながら5本塁打を放った頓宮裕真(オリックス)【写真は共同】

 11位以下の選手に目を向けると、やはりここまで挙げた選手に比べ打力で劣る選手がずらりと並ぶ。出塁率で.300を超えた打者は1人もいない。

 そんな中、注目したいのがオリックス勢だ。今回条件を満たした中では、12位に伏見寅威(wRC+67)、14位に若月健矢(wRC+53)が入った。wRC+を見ればわかるよう、彼らは優れた攻撃力を持っているわけではない。ただ目を見張る部分もある。長打力だ。伏見はこの3シーズンで11本塁打、若月は9本塁打を放っている。昨季はこの2名に加え、長打力が魅力の若手捕手・頓宮裕真も起用され、オリックス捕手陣は12球団トップタイとなる14本塁打を放った。この捕手の長打力もリーグ優勝の重要なピースとなっていたはずだ。

 ここまでwRC+のランキングに沿って選手の解説を行ってきた。振り返ると2010年代中盤、阿部が捕手から退いてからは球界内に打撃で大きな差をつくる捕手がほとんどいなくなったこともあった。しかし近年は森の成長、また坂倉の台頭など、捕手の打撃について明るいニュースも増えてきている。

 NPBでは打撃を生かすため、打力のある捕手が他のポジションにコンバートされるケースも多い。今回ランキング上位となった森や會澤にもそういった時期があった。しかしセイバーメトリクスの観点からすると、それは発想が逆だ。打てる捕手を起用できるチームは少なく、だからこそ差をつけやすい。打撃を生かすためにこそ、打てる捕手は捕手として起用すべきなのだ。

文:大南淳(DELTA)、企画構成:スリーライト

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