62時間ローラー台に乗って1828キロ走ったヤスミンさんに3つの質問をしてみた
【(c)Jasmijn Muller】
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そんな退屈極まりない固定ローラーでのトレーニングに、救世主のように現れたのがZWIFT(ズイフト)。自転車の前に画面を置き、自分のデータをオンラインで繋いで、世界中のライダーと一緒にリアルタイムでバーチャルライドができるサービスです。オンライン上のイベントも多く開催されていて、例えば別府史之選手と一緒にライド、みたいなことも可能なのです。
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どこまでも平坦を走り抜くヤスミンさん 【(c)Jasmijn Muller】
質問1 サドルの上にいる間、何を考えていましたか?
ヤスミンさんの答えはこうです。
「『今この瞬間』と、このチャレンジ以外のことは何も考えないようにしていました。人生ってストレスだらけ。でも自転車って、頭を空っぽにする機会を与えてくれるのです。自転車と自分とだけでその環境にいることができる(オートルートほうが環境的には私のローラー台が置いてあるベッドルームよりは刺激的だけど!)。私はネガティブな考えをポジティブなものでブロックできるような個人的な“呪文”をいくつか持ってて、それを唱えることにしています。ほんのちょっとしたことなの。例えば今回の挑戦中に唱えていた呪文のひとつはこれ。『沸騰したお湯はじゃがいもを柔らかくもするし、卵を硬くもする。大事なのは状態ではなくそれが何で出来ているかだ』。私のスタッフ達が『卵になれ』って書いてある帽子をかぶってくれてて、それを見るたび危うい時間を乗り越えられました。
同じように、アウターからインナーへ、集中したり意識を移したりできるよう練習するんです。自分の内側に意識を集中すると、あらゆる痛みやつまらないあら探しが気になるもの。でも周りの環境に意識を集中すると、そういうものをブロックできる。私のこの挑戦の場合、それはズイフトのバーチャルの中で、前を走るライダーに追いつこうとすることでした。オートルートに挑戦されたあなたの場合は路上の穴を避けたり、登りの途中で残りのキロ数が表示されたサインを見ることだったでしょうね。
自分の痛みを良い方向へ導くこともできます。現状ものすごくサドル痛がある状態ですが(抗生物質と痛み止めをまだ飲んでる状態で、椅子にも半分だけ腰掛ける感じ)、呼吸に集中して、自分のからだの外の場所……例えばペダルのリズムとか、肩をあまりすくめないようにするとか、そういうことに意識を向ければいいんです。それと、『パフォーマンス イン マインド』のジョセイフィン・ペリーのようなスポーツ精神科医のアドバイスを受けることもおすすめします。多くの人は自転車機材やジャージ、トレーニングプラン作りやダイエットにお金をかけますが、ライドの距離やハードさが増すにつれて重要性が増してくる“精神力”という部分のことは見逃しがちです。私は強い肉体とともに強い精神力も得ようと努力してきましたが、そのためのメンタルトレーニングは人生の他の部分においても大変役だっていますね」
62時間中、腫れ上がる筋肉を休めしばしの休憩 【(c)Jasmijn Muller】
挑戦中の補給食はフルーツが多かった 【(c)Jasmijn Muller】
質問2 予想されるサドル痛に対してどんな準備をしましたか?
「本に書かれてある『サドル痛を避ける方法』みたいなものはぜんぶ試したけれど、いまだに究極の解決法は見つけていません。今回、乗るのを止める決断をしたのも、実はサドル痛が原因でした。脚も精神力もまだまだ行けたんだけど、いったん自分で決めていた世界新記録というゴールを過ぎてからは、痛みが耐え難いほどに強くなってモチベーションが低下してしまったの。
多くのアスリートはアンダーヘアを除去していますが、私はビキニラインを処理しないようにし、自分が快適だと思うサドル(Cobb V Flow Max)を選び、信頼できるシャモアクリーム(Ozone Elite endurance chamois cream)を塗り、心地よいビブショーツ(Ale)をはいて、さらに6時間毎にクリームを洗い落として塗り直し、ジャージもビブも着替え、ビブショーツをダブルではきました。2つめのビブショーツは裏表にしてはくと摩擦が少し減少してサドルの上でちょっとだけ楽になるんです。そしてこの挑戦の前には長いセッションに耐えられるようにトレーニングしました。外を走る場合は24時間走れても、インドアの固定ローラーでは6時間しか耐えられないのです。つまり、外を走る時とまったく同じセットを使ったとしても固定ローラーはやはり違う。というのも自転車は全く動かないし、大きい扇風機を回し続けたとしても、外よりももっと汗をかいてしまうから。
こういうエクストリームな挑戦をするときにすべてを一気に解決する魔法の杖みたいなものがあるかどうかは、私もわからないんです。ただ、最近『Infinity Seat』というサドルを買ったのですが、もしかしたらこれが私が探し求めていた答えなのかもしれない。このサドルの評判はよく、何人かの人にはとても効いたようなんですが、私が商品を受け取ったのはこの挑戦のたった数日前だったので、何もテストもなく72時間乗り続けて100%シュアなポジションを出すことはできなかった。サドル痛対策は永遠にトライ&エラーの繰り返しで、人によっても答え違うと思います」
ヤスミンさんがサドルを下りた瞬間 【(c)Jasmijn Muller】
質問3 どんなサドルを使いました? 立ち漕ぎはどのくらいやりました?
「使ったサドルはCobb V Flow Maxで頻繁にサドル上でのポジションを変えました。時々立ち漕ぎを交えましたが、あまり長く立っていないように気をつけました。大腿四頭筋が疲れてしまうし、この挑戦で使ったTTバイクはあまり立ち漕ぎに適してないから。膝がパッドに当ってしまうんです。何度か、サドルの痛みがひどくなった時間帯があって、その時は私のスタッフに自転車の両側に立ってもらい、彼らの肩にちょっとだけ寄りかかって痛みをやり過ごしました。ズイフトで長距離を乗るには、もっとサドルの角度をテストしてみることと、サドルとビブショーツの組み合わせを考えることが鍵だと思っています。可能なら質問2で答えた“ダブル・ビブショーツ”のトリックを使うのも手。誰もがサドル痛を感じるのだから、あとはそれをどうつきあうか、がポイント。私は大音響の音楽がけっこう助けになるなと思いました。特に、ペダリングとリズムが合うような音楽が。あとは痛みから意識をシフトして痛みを受け入れるか、もしくは忘れるかすることです」
いかがでしたでしょうか。大挑戦の後だというのにこんな長文で答えてくれたヤスミンさん。今回のチャレンジで得た賞金はすべて恵まれないこどものための基金に寄付したそうです。今後の彼女の活動、応援したいですね。
世界記録樹立の瞬間のヤスミンさん。おめでとう! 【(c)Jasmijn Muller】
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