腕は振らない方が速く走れる?? 楽RUNメソッドで正しい腕振り

細野史晃

常識を覆した伊東浩司の理論

 話は飛んで1998年のバンコクアジア大会。とある日本人選手が100m走の準決勝のレースで速報タイム9.99秒を出しました。正式タイムは10.00秒で惜しくもアジア人初、黄色人種初の9秒台はなりませんでした。

 その選手の名は伊東浩司。100mを10.00秒、200mを20.16秒で走る、当時の日本人最速スプリンターでした。彼に注目が集まったのは記録だけではありませんでした。独特の走り方にも注目が集まりました。

 彼の走りは脚を上げない、腕を振らないという今までの常識を覆す理論で驚くべき記録を打ち立てたのです。

 さて、なぜこの話題を出したのかというと、短距離の動きも長距離の動きも力の発揮が違うだけで動きの基本は変わりません。そして何よりも長距離の方が短距離よりも動きが小さいため脚は大きく上げませんし、腕も大きく振りません。なのに短距離でも腕とか脚の動きを強調しなくても速く走れる。こう考えると私たちの今までの常識を覆されませんか??

 そうです、楽RUNメソッドでの腕振りは、お察しの通り腕を振りません。全身でタイミングをとるという理由で使います。ここで、もう一度腕振りがどんな動きか想像してみてください。今度は箱根駅伝やオリンピックのトップ選手の動きをできれば想像してください。思い浮かべてみると腕を振っているというよりも小刻みにタイミングを取るように、リズムを取っているように見えませんか? そう、腕振りはタイミングを取るのが一番の目的です。このタイミングが合うと全身のバネが出てきます。このタイミングをより強調したり、全身でバネを感じるようになれるとより力強い走りができるようになってきます。

 腕を振らないというのはこの理由からです。

タイミングに合わせて腕や上半身でリズムを取る

 また、走りは重心移動です。その為には前回お話しした楽RUNポジションから動くことが重要になります。つまりエンジン・モーターはこの楽RUNポジションなのです。ここに「腕を振る」とか「腕を動かす」と言った意識を入れると腕回りにもう一つエンジン・モーターを仕込むことになります。そして腕の意識が強くなればなるほどこのエンジンの身体に対する影響力は強まります。そうなるとどうなるか? 二つのエンジンが異なる力を発揮するわけですから動きがぎこちなくなりますよね? これが腕を振らないという理由のもう一つになります。

 ではどうしたら良いか?

 脚が地面につくタイミングに合わせて腕や上半身でリズムを取る。それだけです。そんな動きでいいの? それで走れるの? と思うかもしれませんが走れます。大丈夫です。こちらが正しい動きです。

 正しい腕振りを動画で見てみましょう。

 いかがでしょうか? 脚の動きと連動しているのが分かりますよね? そして弾ませるようにポンッポンッとタイミングをとるだけの動きなのも良く分かると思います。

 短距離で全力疾走をするとなるとちょっとまた、意識が少し変わりますが、基礎基本は一緒です。それこそ、マラソン・ランニングレベルでしたら問題なくこの動きで走れます。そして記録向上も十分目指せます。

 次回以降は「来期のマラソンピークシーズンに向けて春・夏の間にやっておくべきトレーニング」を紹介して行きます。

 お楽しみに!

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著者プロフィール

ランニングコーチ・スポーツコンサルタント。 Sun Light History 代表 1985年、京都生まれ、東京育ち。都立小石川高校(現・東京都立小石川中等教育学校)→国立埼玉大学→株式会社リクルート HR マーケティングを経て、ランニングコーチとして独立。中学から陸上競技を始め、高校から三段跳へ転向、大学時に日本ランキング入りを果たす。指導者がいない競技人生を経験し、よい指導者や指導法との出会いはスポーツをより豊かにするという思いから指導者を志す。自身の経験と学びから『楽RUNメソッド』を開発。短時間の指導でも自己記録更新まで導く手腕には定評がある。指導者のみならず、スポーツの価値を高めるためのアドバイザーとしても精力的に活動している。 主著「マラソンは上半身が9割」「マラソンは三日坊主で大丈夫!」

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