オススメの女性スポーツ映画 「松原渓のスポーツ百景」

松原渓

サッカー『ベッカムに恋して』

【松原渓】

 サッカーをテーマにした映画は、見ている本数も多いため、好きな作品が多い。マラドーナら南米のスターを生み出したブラジル・リオデジャネイロの貧民街を独特の世界観で描いた『シティ・オブ・ゴッド』(2002/ブラジル)、敵対するサポーター同士の抗争と、その間に生まれる愛を描いた『ロミオ&ジュリエット−フーリガンの恋』(09/インドネシア)、イスラム文化における女性の人権問題を扱ったドキュメンタリー『フットボールアンダーカバー』(08/ドイツ)、恵まれない環境にいた天才がスター選手に上り詰めていく『GOAL』(05/イギリス)、デフリンピックに参加した「もうひとつのなでしこジャパン」(ろう者サッカー女子日本代表)をドキュメンタリータッチで追った『アイ・コンタクト』(10/日本)などは特に心に残った作品だ。
 ただ、サッカーといっても、女子サッカーを扱った映画は意外と少ない。その1本が『ベッカムに恋して』(02/英・米・独/出演:バーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ)だ。

 物語のヒロインは、サッカーとベッカムを愛し、公園でストリートサッカーに興じる日々を送っていたインド系の少女ジェス(バーミンダ・ナーグラ)。その公園を通りかかり、彼女の才能をすぐに見抜いたのは、地元女子サッカーチームのエースストライカーであるジュールズ(キーラ・ナイトレイ)だった。生まれも育ちもまったく異なる2人の出会いと成長が物語をドラマチックに展開させていく。

 ジェスの一家はインド系移民で、敬虔なシーク教徒。人前で肌を出してスポーツをすることは宗教的にもタブーで、家族の反対は根強い。しかし、「一生夢を隠して生きることはできないわ」という彼女の強い情熱が、周囲を動かしていく。

 ストーリーにひねりがあるわけではないけれど(失礼!)、友情や恋愛のエピソードも含め、青春を王道でいく爽やかさこそ、この作品の魅力だと思う。民族差別や、宗教的な恋愛観の違いなど、考えさせられるところもある。

 私がこの映画を最初に見たのは中学生の時だ。あらためて見直して、ヒロインたちが見せる真っ直ぐに夢を追いかける姿勢は、年齢を重ねても持ち続けたいと感じる。

 この作品の舞台となったイギリスは、「サッカー誕生の地」。世界中のスター選手が集うプレミアリーグは、ベッカムなど数多くのスター選手を輩出してきたけれど、女子サッカーの世界は働きながらプレーするアマチュア選手も多い現実も描かれる。ヒロインたちがアメリカの華やかな女子プロリーグに憧れる場面や、練習場の様子なども、02年当時の現実に近いものと思われる。

 原題は、『Bend it like Beckham』。直訳すると、「ベッカムのようにカーブをかける」。本物の選手と思われる脇役やエキストラたちに劣らない主役2人のテクニックにも注目したい。地元チームのエース、ジュールズを演じるキーラ・ナイトレイは、この作品を出世作として、今や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズなどで活躍するスター女優となった。作品のラストには、ベッカム&ヴィクトリア夫妻の特別出演も!

ボクシング『百円の恋』

2015年は筋肉質な身体を目指します! 【松原渓】

 本作の主人公である一子(いちこ)は、30歳を過ぎたというのに、部屋でテレビゲームばかり。親のスネをかじりながら実家の弁当屋の手伝いもせず、近所のコンビニで買い食いし、手には常にタバコ……というグータラな毎日を送っていた。そんな一子が、離婚して実家に帰ってきた妹と大げんかをして一人暮らしを始め、百円ショップで深夜のアルバイトをすることに。そのショップに客として来た近所のジムに通うボクサー(新井浩文)との出会いをきっかけに、ボクシングに目覚めていく。

 それまでは、周りに対してもワガママ放題で、何を言われても自分を正当化してきた一子。そんなヒロインがボクシングを通じて自分と真っすぐ向き合うようになる心境の変化は、スポーツの醍醐味(だいごみ)とも言えそうだ。

 ボクシングのトレーニングをこなすヒロインの体型の変化は見応えがある。最初はゆるーいスウェットから背中のお肉がはみ出すぐらいだったのが、どんどん引き締まって筋肉質になっていく過程は圧巻だ。

 仮想の相手をイメージしながら行うシャドーボクシングは、軽快なフットワークと「シュッ!」と風を切る音が聞こえるまでにキレを増す。目つきもどんどん変わっていき、どんよりとしていた目に光が宿るようになる。

 スポーツには人を変える力がある。その理由の1つは、数字や勝敗という「結果」を突きつけられるからだと思う。結果を出すためには、自分が変わらなければならず、自分の弱さと向き合わなければ成長できない。

 近年、ボクササイズやキックボクシングなどがダイエットでも注目を集めているけれど、「こんなパンチが打てて、こんな体型になれるならやってみたい!」と思った。
 演技とは思えないリアリティを見せる安藤サクラさんの役作りが素晴らしい。スポーツをきっかけに何か(生活スタイル、体型など)を変えたいと思う人には、頑張ればこれだけ変われるんだ、という勇気を与えてくれる作品でもある。

(14年/日/出演:安藤サクラ、新井浩文)

『宮古島トライアスロン』

 今後、見たい作品は、15年4月に公開予定の『宮古島トライアスロン』。この大会のスイム・ラン・バイクの総距離は200.195kmに及ぶという。国内で毎年280近くの大会が行われる中でも、特に人気が高く、距離が長い大会を追ったドキュメンタリーだ。



長編ドキュメンタリー映画「宮古島トライアスロン」予告編 - YouTube

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著者プロフィール

サッカー番組のアシスタントMCを経て、現在はBSフジにて『INAC TV』オフィシャルキャスターを務める。2008年より、スポーツライターとしての活動もスタート。日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナのセレクションを受けたことがある。『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生が監督を務める女子芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」にて現在もプレー。父親の影響で、幼少時から登山、クロスカントリー、サイクリングなど、アウトドア体験が豊富。「Yahoo!ニュース個人」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/)でも連載中

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