中村俊輔の輝き続ける才気とその行方=W杯での失意乗り越え、再び光放つ

小宮良之

ひとりの競技者として向き合った現実

W杯唯一の出場となったオランダ戦では見せ場をつくれず、悔しい思いを味わった 【Getty Images】

 2009−10シーズン、中村はスペインのエスパニョルに移籍したものの、現地の関係者に「欧州を渡り歩いてきた選手なのに、これほどコミュニケーションに難があるとは思わなかった。今後、スペインのクラブが日本人選手を獲得することはしばらくない」と失格の烙印(らくいん)を押され、無惨な失敗に終わっている。

 プロ入り以来初とも言える不振にあえいだ中村は、2010年南アフリカW杯を視野に入れ、古巣の横浜FMに戻った。しかし、故障を引きずりコンディションは上がらず、絶対的存在だった代表でも不振を極め、その結果、大会直前にベンチ要員に降格した。グループリーグ第2戦、敗れたオランダ戦で20分ほど出場するにとどまり、ベスト16に進出してお祭り騒ぎに沸いたチームを悄然(しょうぜん)と見守ることしかできなかった。

「(2002年日韓W杯落選は)かすり傷だね」

 彼は決勝トーナメント1回戦で日本代表がパラグアイに敗れた後、淡々と語っている。

「出られないのは何かの試練だと思ってきた。自分はそういう経験を今までプラスに変えてきたから。今回は自分の実力が足りなかったということ。本当にすごい選手はどんな戦術でもやれる。そうは言っても、予選から中心でやってきたわけだから、本番に出られなくて悔しくないはずはない。出られなかった選手はみんなそうだけど、この経験を何とかして生かさないと。でも山あり谷あり、その方が面白いでしょ?」

 プロ14年目の彼は邪気を振り払うように言い、たとえ強がりでも競技者として現実と向き合った。

今もまばゆい光、消えることなき道標として

 南アフリカW杯後、横浜FMでのプレーに専念した中村は調子を上げつつある。左足のスルーパスで得点をおぜん立てし、天皇杯3回戦のサガン鳥栖では久々に左足FKをたたき込んだ。スペインから帰った直後は周りの選手たちが中村の存在感に圧倒されたのか、連係面で難があった。だが、プレーを重ねる中、次第に調和が取れつつある。

「攻撃の場面では必ず俊輔が絡んでくれる。当然だけど、周りに対して与える影響は大きい」と木村和司監督はたたえる。

 中村がW杯までの華やかさを取り戻すことは、決して簡単ではない。本田圭佑(CSKAモスクワ/ロシア)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)らの台頭は著しく、プロスポーツの世界は激しく移り変わっていく。しかし、彼が放つ光は今もまぶしく、例えば17才のルーキーFW小野裕二の成長にも中村が一役買っている。

「やっぱりシュンはサッカーを知っているよ。若いやつは見習うべき」とあるベテラン選手も評する。横浜FMはW杯再開後、少しずつ順位を上げており、来季のAFCチャンピオンズリーグ出場が現実味を帯びてきた。

 11月6日、平塚競技場。対湘南ベルマーレ戦、開始早々のPKを落ち着いて決めた彼はその後も自在にパスを振り分け、4−1の勝利に貢献した。手練れのコンダクター。空気を察する指揮には味わいがあった。

 その明かりは消えることなく粛々と、周りを明るく照らす道標として。

<了>

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著者プロフィール

1972年、横浜市生まれ。2001年からバルセロナに渡り、スポーツライターとして活躍。トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年から日本に拠点を移し、人物ノンフィクション中心の執筆活動を展開する。主な著書に『RUN』(ダイヤモンド社)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』(角川書店)などがある。

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