中村俊輔の輝き続ける才気とその行方=W杯での失意乗り越え、再び光放つ
ひとりの競技者として向き合った現実
W杯唯一の出場となったオランダ戦では見せ場をつくれず、悔しい思いを味わった 【Getty Images】
プロ入り以来初とも言える不振にあえいだ中村は、2010年南アフリカW杯を視野に入れ、古巣の横浜FMに戻った。しかし、故障を引きずりコンディションは上がらず、絶対的存在だった代表でも不振を極め、その結果、大会直前にベンチ要員に降格した。グループリーグ第2戦、敗れたオランダ戦で20分ほど出場するにとどまり、ベスト16に進出してお祭り騒ぎに沸いたチームを悄然(しょうぜん)と見守ることしかできなかった。
「(2002年日韓W杯落選は)かすり傷だね」
彼は決勝トーナメント1回戦で日本代表がパラグアイに敗れた後、淡々と語っている。
「出られないのは何かの試練だと思ってきた。自分はそういう経験を今までプラスに変えてきたから。今回は自分の実力が足りなかったということ。本当にすごい選手はどんな戦術でもやれる。そうは言っても、予選から中心でやってきたわけだから、本番に出られなくて悔しくないはずはない。出られなかった選手はみんなそうだけど、この経験を何とかして生かさないと。でも山あり谷あり、その方が面白いでしょ?」
プロ14年目の彼は邪気を振り払うように言い、たとえ強がりでも競技者として現実と向き合った。
今もまばゆい光、消えることなき道標として
「攻撃の場面では必ず俊輔が絡んでくれる。当然だけど、周りに対して与える影響は大きい」と木村和司監督はたたえる。
中村がW杯までの華やかさを取り戻すことは、決して簡単ではない。本田圭佑(CSKAモスクワ/ロシア)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)らの台頭は著しく、プロスポーツの世界は激しく移り変わっていく。しかし、彼が放つ光は今もまぶしく、例えば17才のルーキーFW小野裕二の成長にも中村が一役買っている。
「やっぱりシュンはサッカーを知っているよ。若いやつは見習うべき」とあるベテラン選手も評する。横浜FMはW杯再開後、少しずつ順位を上げており、来季のAFCチャンピオンズリーグ出場が現実味を帯びてきた。
11月6日、平塚競技場。対湘南ベルマーレ戦、開始早々のPKを落ち着いて決めた彼はその後も自在にパスを振り分け、4−1の勝利に貢献した。手練れのコンダクター。空気を察する指揮には味わいがあった。
その明かりは消えることなく粛々と、周りを明るく照らす道標として。
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