私のミッション・ビジョン・バリュー2024年第10回 尾野優日選手「サイドバックの常識を変える」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2024年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2024年第10回は尾野優日選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.MVV作成のための面談はいつぐらいから、何回行いましたか?
「面談は昨年の11月ぐらいからスタートしました。チームに入る前から行っていました。それから合計4~5回行って、MVVを作成しました」

Q.自身の過去や内面を第三者に話す経験は今までありましたか?
「なかったですね。あらためて、こういう人生を歩んできたなんだなと自分で思い出すことができました。自分にとって、一番きつい時期はいつだったのかとか、ターニングポイントはどこだったのかとか、今まであまり意識したことがなかったので、整理できてよかったです」

Q.完成したMVVを見ての感想は?
「自分の思っていることがそのまま表れていると思いますし、非常に分かりやすくまとまっている印象があります。スローガンもずっと口にしている言葉ですし、しっくりきています」

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Q.まず、ミッションについて聞かせてください。「人を感動させる・人の心を動かす」。こちらはどんな思いが込められていますか?
「Jリーグの試合を見たことがサッカーをはじめるきっかけとなりました。スタジアムでサッカーを見て興奮して『サッカーをはじめたい』と思ったんです。今度は自分が誰かの活力になりたいですし、心を動かせるようになりたいと思ったので、この言葉を選びました」

Q.どういったプレーに心を動かされましたか?
「ゴールですね。シュートが決まった瞬間、スタンドが一気に沸いた時に心が動かされました。自分もこういう舞台でゴールを決めたいと思ったんです」

Q.見る人を「感動させる」「心を動かす」ために、どういったプレーを見せたいですか?
「まずは戦う姿勢ですね。もちろんテクニックも大事ですけど、それ以前に気持ちの部分で最後まで走り切るとか、ファイトする姿勢が人の心を動かすことにつながると思います」

Q.まさに水戸ホーリーホックが大事にしている「やりきる 走りきる 勝ちきる」ですね。
「僕個人としても大事にしています」

Q.まだ出場機会はないですが、スタンドの盛り上がりは感じていると思います。早く試合に出て、ミッションを成し遂げたい気持ちが強くなっているのでは?
「スタンドから見てサポーターの熱量をすごく感じているので、自分も早くピッチに立ちたいと思っていますし、ワクワクしています」

Q.同期の齋藤俊輔選手がプロ初ゴールを決めた光景をどのように見ていましたか?
「観客が一つになった瞬間でしたね。齋藤選手のゴールだけでなく、ゴールが入ると観客が盛り上がるので、自分も観客を沸かせるようなプレーをしたいと思って刺激になりました」

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Q.次はビジョンについてです。「お互いの違いを尊重できる社会」。こちらはいかがでしょうか?
「自分が通っていた中学校は制服がなくて、私服登校だったんです。学校でよく言われていたのが、『互いの違いを尊重し合おう』ということでした。私服登校にはそういう意図があったんだと思います。それはすごく大事だと思っていて、スポーツは人の心を一つにする力がある。世界にはいろんな人がいますけど、スポーツを通して、一つにしたいと思っていますし、平和にしていきたいという思いを込めてこの言葉にしました」

Q.私服登校で問題とかはありませんでしたか?
「中学生で『互いの違いを尊重し合う』ことは難しいことだと思うんです。でも、認め合うことが大事だと思いますし、自分と違う考えを持った人も、それがその人の個性であり、考え方なんだということを学ぶことができました。サッカーにおいても、いろんなプレーやスタイルがある。それを尊重することによって、チームは良くなっていくと感じています」

Q.「違い」を認められず、嫌な思いをしたことはありましたか?
「人によって好みや価値観が違う。何かを決める時にいろんな意見が出るのは当たり前なんです。人の意見を尊重しないで、否定して、自分の意見を通そうとする人がいると、話し合いが進まない。そうなると嫌な気持ちになるので、なくしていくべきだと思っています」

Q.組織として強くなるためにも「互いを尊重し合う」ことが大事になる?
「分かりやすいのはプレー中のコミュニケーションですね。お互いに思っていることを伝え合うことが大事で、その上で考えをすり合わせていくことが大切なんです。それでうまくまとまらなくてもいいと思っています。相手の意見を理解するための努力をすることが大事で、自分の意見があっても、一回相手の意見を聞いてみるべきだと思っています」

Q.日大藤沢高校は個性的な選手が多かったですね。それでもチームとしてしっかりまとまっているように感じました。
「メディアではよく『タレント揃い』という表現をしてもらっていました。本当に特長のある選手が多かったと思いますし、いい選手が揃っていると感じていました。だからこそ、お互いに意見をぶつけ合うことがよくありました。その時にしっかり言い合える関係だったのが良かった。あとはお互いに話を聞いて、すり合わせる時間をチームとして設けてくれたことが大きかった。我慢をしている選手はいなかったと思います。日本一を狙えたチームだったと思っています」

Q.「互いの違いを尊重し合った」ことが全国大会出場につながったのでは? そして、それが尾野選手にとって大きな成功体験になっているのでは?
「チーム全体で考えを共有できていたチームでした。それはスタメンの選手だけでなく、ベンチの選手もそうですし、ベンチ外の選手までやるべきことが統一されていた。もちろん、ぶつかることもありましたけど、本当にまとまりのあるチームでした。ぶつかった時に当人だけの問題にするのではなく、チームの問題として考えることができていました。夏のインターハイで3位に入り、冬の選手権では負けてしまいましたけど、神奈川県の代表として全国大会に出られたことは自分にとって大きな財産になっています」

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Q.次はバリューについて聞かせてください。「人に合わせない」「自分のスタイルを貫く」「サイドバックの常識を変える」「今まで日本サッカーにいないサイドバックに!」「短所を補うより長所を伸ばす」「目的にあった正しい努力をする」の6つです。
「全部自分が大事にしている言葉ですね。まず、この世界で生き残っていくためには個性が大事だと思っています。比較も大事ですけど、それよりもまずは自分にフォーカスを当てて、人と同じ道を進む必要はないと思っているので、自分の道を開拓して、自分にしかできないものを体現できるようにしたい。だからこそ、いい意味で『人に合わせない』ことは大事だと思っています」

Q.人に合わせてしまいそうな時はありますか?
「今までのサッカー人生において、これだけ試合に出られないのははじめての経験。サッカー人生で一番きついときなので、試合に出ている選手に合わせたくなってしまいたくなるんです。それが監督の求めている選手なのかなと思ってしまう。もちろん、監督が求めていることをタスクとしてまっとうしないといけないと思っています。それはあくまで大前提。でも、それを意識しすぎて、自分の長所が消えてしまったらダメだと思っています。そういう意味で『人に合わせない』ことが大事だと思っています。『人に合わせない』というより、『人に流されない』方が正しい表現かもしれませんね」

Q.2つ目は「自分のスタイルを貫く」です。
「高校の時から自分のスタイルはブレていません。そのスタイルを絶対に持っておきたい。自分に持っていないものを持っている選手を羨ましく思うこともあります。でも、自分にしかないものあると思っています。自分のスタイルを証明するためにも、スタイルを曲げないようにしたい」

Q.尾野選手の「スタイル」とは?
「3つ目の『サイドバックの常識を変える』につながっているところがありますけど、DFの中では技術の部分では高いと思っています。サイドバックはDFですけど、攻撃のスイッチにしたいと自分は思っているんです。自分で相手をはがしたり、相手を抜いたり、ドリブルでゴール前に持って行ったり、攻撃に変化をつけられるサイドバックになりたいと思っています。『サイドバックの常識を変える』という言葉にはサイドバックが攻撃の中心になるという思いが込められています」

Q.参考にしている選手はいますか?
「ヴィニシウス・ジュニオール選手(レアル・マドリー)ですね」

Q.サイドバックではなく、ウイングの選手ですね。
「そうなんです。ドリブルする時、左足より右足でタッチする方が得意なんです。左サイドから右足でコントロールして仕掛けるということにおいて、ヴィニシウス・ジュニオール選手が一番自分に合っているように思うんです」

Q.今季高卒として水戸に加入しましたが、まだ公式戦出場がありません。それでも、自身のプレースタイルに手ごたえを感じることができていますか?
「自分の長所に関して、とても手ごたえを感じています。ありがたいことに、水戸は練習試合を多く組んでくれるんです。その中でプロ相手でも自分の技術が通用するなという手ごたえをつかむことができています。同時に試合に出られない理由も明確だと感じています」

Q.3つ目は「今まで日本サッカーにいないサイドバックに!」です。
「高校の時も今までにあまりいないタイプのサイドバックだったので、いろんな方から注目していただきました。自分が新しいサイドバック像を作りたいという思いが強いんです。それで自分が活躍すれば、『自分もサイドバックでプレーしたい』と思ってくれる選手が増えるかもしれない。いろんな人から『2列目でプレーした方がいいんじゃない?』と言われることも多いです。それも違うような気がするんです。DFというポジションで、自分の器用さを出すことによって、差別化を図れると思っています。そういった意味で、新しいサイドバック像を自分が作り上げたいという思いが強いです」

Q.今年はU-19日本代表に選出されました。自身のスタイルが代表でも通用するという手ごたえもつかめたのでは?
「攻撃ではアピールできたと思いますし、長所は通用すると感じています。ただ、対戦相手のウインガーがすごく速かったんです。自分も足が速い方なんですけど、縦に抜かれてしまって、はじめて『やられた』と感じました。そういう選手が世界にはいるんだと感じましたし、自分の短所だと痛感しました」

Q.現代サッカーにおいて、4バックのサイドバックはサイズも求められますし、高い守備力が必要になります。
「高校時代と比べて、プロではサイドバックの個人のタスクが非常に多くなりました。局面局面のバトルで制する力が必要になると思っています。高校時代は周りの選手がカバーに入ってくれましたし、チーム全体でサポートしてくれていましたが、プロでは決められたゾーンではその選手が責任を持って対応しないといけないんです。そのタスクが重くなったように感じます」

Q.5つ目は「短所を補うより長所を伸ばす」です。
「いろんな考え方があると思います。でも、自分が学生時代から『短所は平均値まで上げればいい』と思っているんです。もちろん、短所は改善しないといけない。でも、短所にばかり目を向けて、長所を伸ばすのを怠ったら、自分自身でなくなってしまう。この世界はやはり武器が必要。武器を磨くことをやめずに続けていくことが大事だと思っています。大げさな表現になりますけど、短所を補うぐらい、長所を磨くことの方がプロの世界で生き抜けると思うんです。長所を忘れないという意味でも、この言葉を選びました」

Q.そして、「目的にあった正しい努力をする」です。
「正しい努力が大事だと自分は思っていて、努力しているだけではダメなんです。努力していることに満足している人も少なくないと思うんですよ。そうではなくて、そのトレーニングは何のために行っているのかが大事ですし、それ以前に『自分はどうなりたいのか』というビジョンがないといけないと思うんです。先を見据えて行動しないと無駄になってしまう。居残り練習をすることが努力ではなくて、目的を持って居残り練習をすることが大事なんです。そうじゃないと、努力は報われないと思います。だからこそ、『何を伸ばすのか』というところを常に意識しています」

Q.現在は具体的に何を伸ばしていますか?
「今は狭い局面の打開ですね。サイドバックははまってしまうポジションなので、狭い局面を自分がはがせるかを意識してトレーニングしています。そのためにフェイントのバリエーションやボールタッチにすごくフォーカスして取り組んでいますね。元々の長所である広い局面の1対1だけではなく、囲まれた時のドリブルも自分の武器にしようと思っています」

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Q.最後にスローガンについて。「サイドバックの常識を変える」。これは新加入会見の時から口にしている言葉ですね。
「高校時代から言っていました。今までにない、自分にしかできないような、サイドバックになる。そして、サイドバックの常識を変える。そのために一番大事なのは、自分が攻撃のスイッチになるということ。そして、自分が得点に絡む。どこにでも顔を出して、攻撃を活性化させる。分かりやすく言うと、サイドバックを攻撃の中心にしたいんです。今までのサイドバックの常識だと、縦への突破や上下動が一番の仕事だと思うんですけど、自分は中にも行けますし、外にも突破できる。幅広いプレースタイルを活かして、攻撃を仕掛けていくサイドバックになりたい」

Q.チーム戦術の中でスタイルを曲げることはありますか?
「チームが何を求めているかを理解することが大事ですし、それを表現することが大前提です。その上で何か自分にしかできないものをアピールしないと、試合には使ってもらえないと思う。見ている人が驚くような攻撃力を出していきたい。自分はプロでサイドバックとしてプレーしていくと決めたんです。高校時代、いろんな強豪大学からボランチやトップ下、サイドMFとして起用したいと声をかけていただきました。でも、自分の武器を前のポジションで発揮するんじゃなくて、DFで発揮するから面白いと思っているんですよ。10番のポジションでプレーしてもいいんですけど、もっとうまい選手と差別化が図れなくなってしまう。よくいるタイプの選手になってしまうと思うんです。DFで発揮することによって、自分の武器となるんじゃないかと。目の前のことだけを考えれば、前のポジションでプレーした方が試合に出られる可能性が高いかもしれません。でも、長くプレーしたいと思っているポジションはサイドバックなので、サイドバックで自分の攻撃力を発揮したいと思います」

Q.リーグ戦は残り4試合となりました。試合に出たい思いが強いのでは? 今後に向けて、意気込みをお願いします。
「まず、試合に出ることはマストだと思っています。ただ、もし出場機会が回ってこなくても、来季につながるようなトレーニングや行動をしていきたい。U-19日本代表に選ばれて、チームメイトだった同世代の選手が試合に出ているのに、自分は出られていないことに対する焦りを感じることもあります。でも、これもいい経験だと思って、腐ることなく、粘り強く、最後まで試合に出ることを諦めることなく、アピールし続けたいと思っています」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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