私のミッション・ビジョン・バリュー2024年第6回 長尾優斗選手「厳しさを楽しむ」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

2024年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2024年第6回は長尾優斗選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.MVVを作成するために面談を行ってきたと思いますが、いつぐらいからどの程度行いましたか?
「昨年10月ぐらいからはじめて、計5回行いました。1回1時間ぐらいでしたけど、1時間を超えることもありました」

Q.今まで第三者に自分の内面や過去を深く話した経験はありますか?
「大学ではそういったミーティングをよく行っていたので、話す機会はありました。ただ、これだけしっかり自分の言葉にして話す機会ははじめての経験でした」

Q.完成したMVVを見ての感想は?
「自分が大事にしている言葉が表現されていますし、自分らしさが出たと思います。MVVの言葉が記されたプレートももらってロッカーに置いてあります。毎朝練習前に見てから、グラウンドに向かいます。自分がしっかり考えて作った言葉なので、それを意識しながら日々取り組んでいます」

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Q.まず、ミッションから聞かせてください。「夢を与える」。こちらはどんな思いが込められていますか?
「小さい頃、プロの試合を見に行って、『この舞台に立ちたい』とか、『プロになって活躍したい』と憧れを抱いて、『プロサッカー選手になる』という夢をもらいました。今、実際にプロサッカー選手になれたからこそ、次は自分が夢を与える側の人間になりたいと思ったので、この言葉を選びました」

Q.それはガンバ大阪の試合ですか?
「そうです。ホームの試合はほとんど見に行っていました。当時、G大阪は優勝争いをしていて、遠藤保仁選手を中心とした攻撃的なサッカーを繰り広げていました。純粋にカッコいいと思って見ていましたし、自分も絶対にここでプレーしたいと思って見ていました」

Q.高校からG大阪のアカデミーに入りました。トップチームと関わりはありましたか?
「当時はU-23チームがあったので、トップの選手と一緒にプレーすることはありました。自分として、すごく成長できました。遠藤選手などトップチームの主力選手とは直接的に関わることはなかったのですが、横のグラウンドで練習していたので、憧れの選手を間近で見ることができるすごく刺激的な環境でした。僕もトップに昇格して、この人たちと一緒にサッカーしたいとずっと思って過ごしていました」

Q.すごく貴重な経験をしましたね。
「高校生の自分にとってはすごく大きな経験だったと思います。水戸に来てプロになったからこそ、自分が夢をもらったように、与える立場にならないといけないという使命感があります。そういうことを意識して取り組んでいます」

Q.夢を与えるために、どういうことが大事になると思いますか?
「もちろん、オンザピッチのプレーは大事だと思います。小さい子どもが見ても分かるような驚くプレーやゴールに絡むプレーをしていきたいと思っています。オフザピッチでも、水戸は地域の方々との関わりを大切にしているクラブなので、そういった機会で話をすることを心がけています。たとえば自分はエスコートキッズを何回か経験したことがあって、そこで選手から話しかけられた時、すごく嬉しかったんです。だから、自分が試合に出る時はエスコートキッズの子どもに声をかけるようにしています」

Q.アツマーレでの公開練習日には多くのファンが集まります。中には子どももいますが、その時も話しかけるようにしていますか?
「自分から声をかけることや笑顔で接することは大切にしています。何気ない一言が大事だと思うので、そこは意識しています」

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Q.次はビジョンについて聞かせてください。「何か1つでも夢中になれるものを」。こちらはいかがでしょうか?
「実際、僕はこれまでサッカーをしてきて、サッカーを通じた人とのつながりとか、試合に勝った喜びとか悔しさ、責任感、楽しさなど感情的な部分や発信力、主張力といった人として大切な要素を得ることができたと感じています。自分にとって唯一夢中になれたのがサッカーでしたけど、人それぞれ何か夢中になれるものがあれば、人生が豊かなものになると思うんです。だから、何か一つでも夢中になれるものを持ってほしいと思って、この言葉を選びました」

Q.サッカーをやめようと思ったり、道を外れそうになったりしたことはありますか?
「やめたくなったことはありません。苦しい経験をたくさんしてきた中、プロになる夢を絶対に諦めたくなかった。そこに対するブレはなかったです」

Q.ミッションの思いを持ち続けていたことが大きかった?
「すごく負けず嫌いな性格なんです。サッカーをやっていたら、楽しい経験より苦しい経験の方が多いと思っています。苦しくても、そこで踏ん張って耐えられるか、もう一度昇っていけるかが大事なんです。絶対にやり遂げたいという強い気持ちが自分にはあったので、ぶれずにやってくることができました」

Q.振り返ってみて、苦しかったけど、乗り越えたターニングポイントになった経験はありましたか?
「大学2年生の時ですかね。1年の時はAチームだったんですけど、2年でBチームに落とされて、現実を受け止めきれないことがありました。あの時は本当に苦しかったんですけど、そこから這い上がっていける選手はなかなかいないと思いましたし、そのまま落ちていきたくなかった。しっかり踏ん張って、自分の夢を再確認して、気持ちをぶらすことなくできたことが良かったと思っています」

Q.その経験で強くなれた?
「その経験がプロでも生きると思っています。プロになっても、うまくいくことばかりではありません。その時にどれだけポジティブに、前向きに、自分の目標をぶらさずにできるかが大事になると思っています。その経験が今の自分の人生において大事なっているので、踏ん張れてよかったと思えています」

Q.大学だといろんな誘惑がありますから、ぶらさないことが難しいですよね。
「大学はいい意味でも悪い意味でも自分次第。不貞腐れていても誰も助けてくれないですし、監督やコーチが手を差し伸べてくれることはありません。そういうのはユースまで。大学からは本当に自分次第で自分の人生が決まってくる。道を外れる選手もいましたし、うまくいかないからやめてしまう選手もいましたが、僕はそうはなりたくなかった。プロになりたいという自分の中の軸はそれぐらいの経験ではぶれることはありませんでした」

Q.それだけサッカーに夢中になれていたんですね。それを多くの人にも気づいてもらいたいということですね。
「夢中になれるものが一つでもあれば、人として成長できると思います。そこで頑張った経験は後々の人生で活きていくと僕は思っています。普通に人生を過ごしても面白くないと思うので、没頭できるものが生きていく上で大事だと思います。それが『自分らしさ』になっていくんだと思っています」

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Q.次はバリューです。一つ目は「コツコツと努力し続ける」。
「周りと比べて進むスピードが遅くても、なかなか結果が出なくてもコツコツ努力することを意識してきました。自分はエリートではないですし、うまかったわけではない。同期がめちゃくちゃ活躍していても、焦ることなく、自分らしく日々の練習を頑張ることを意識するようにしています」

Q.エリートではないと言いますが、G大阪のアカデミー出身という時点でエリートのような気がします。長尾選手はそう思っていないのでしょうか?
「やっぱり、上には上がいるというか、自分の現状に満足したことはありません。G大阪ユースに入った時、同期15人中15番目でした。それでも、上にいる選手に負けたくなかった。その気持ちが自分を頑張らせてくれました。ただ、他の人と比べて、変な方向に進むより、自分なりにコツコツ努力して徐々に進んでいく方が自分には合っている。そこは大事にしています」

Q.そう考えるようになったのはいつ頃からですか?
「中学の時に父親から『お前の良さはコツコツ頑張れること』だと言われていたんです。周りと比べて、進むスピードが遅くてもコツコツ頑張ってきたことによって、G大阪のアカデミーに入れましたし、プロになることができました。父親の言葉は間違っていなかったと思います」

Q.2つ目は「自分に自信を持つ事」です。
「サッカーをやっていく上ですごくメンタルが大事だと思っています。『自分ならできる』と常に思い続けるようにしています」

Q.その思いがあるからこそ、いろいろ乗り越えることができたのでしょうか?
「G大阪U-23の時、森下仁志監督(当時)が何度も何度も『お前ならできる』『お前なら上でできる』と言ってくれたんです。そこで自分に自信を持つ事の大切さを知りました。今もそうですし、サッカーをやっている時は自分に自信を持つ事を意識しています」

Q.自信を持ってプレーするために意識していることはありますか?
「プレーに迷いがないようにすることとか、思い切ってプレーすること。自分が考えたことに対して、自信を持って発言することがいいプレーにつながると思っているので、大切にしています」

Q.そして、3つ目が「前向きに考える」。
「物事をネガティブに考えると、その時間がすごく無駄になると思っています。今季、けがをして離脱した時期が長かったんですが、その状況を前向きに考えた結果、すごくポジティブな時間を過ごすことができました。成長できたと思っています」

Q.後ろ向きに考えてしまうこともある?
「ありましたね。でも、やっぱりその時はうまくいかないんですよ。うまくいかなくても『しょうがない』と切り替えて、前向きに考えながら、日々努力することを大切にしています」

Q.この言葉は自分に言い聞かせている感じでしょうか? それとも元々ポジティブに考える性格なのでしょうか?
「ほぼ言い聞かせてますよね。今年、けがをきっかけにすごく前向きに考えるようになったんです。プロとしてやっていく上でうまくいかない時の方が多い。その時にどれだけ前向きに考えて、自分が目指しているものをぶらさずにやっていけるかが大事だと思っているので、そのためにも前向きに考えるようにしています。今は前向きに考えることを意識していますが、それを無意識で考えられるようにしていきたいと思っています」

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Q.最後にスローガンについて聞かせてください。「厳しさを楽しむ」。この言葉に込められた思いは?
「中学時代のクラブチームのコーチから教えてもらった言葉なんですけど、これまで厳しい環境の中でサッカーをしてきて、自分よりうまい選手がたくさんいることもありましたし、そういった環境を自分なりに楽しめないといいプレーができなかったんです。厳しい状況をどれだけ楽しめるかを自分として大事にしています」

Q.この考えがあるから、『コツコツ努力し続ける』こともできるんでしょうね。
「やっぱり楽しまないといいプレーはできないんですよ。小さい頃は純粋にサッカーを楽しんでいましたし、その気持ちは大人になっても忘れてはいけないと思っています」

Q.プロ1年目、リーグ前半戦はコンスタントに出場機会を得ていましたが、後半戦はけがもあり、出場機会に恵まれない状況が続いています。
「スタートはすごく良くて、たくさん試合に出ることができました。でも、途中から出られなくなって、けがもあり、自分が思い描いていたようなシーズンにはなっていません。でも、これもいい経験だと自分の中で思えています。厳しい状況を楽しみつつ、どうやって切り開いていくかを考えています」

Q.リーグ戦も残り5試合となりました。意気込みをお願いします。
「けがから復帰して、残り5試合どれだけ食い込んでいけるかが今後のサッカー人生に大きく関わってくる。ここは自分にとっての勝負どころ。何としても、爪痕を残してシーズンを終わりたいと思います」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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