私のミッション・ビジョン・バリュー2022年第2回 楠本卓海選手「目の前の“今”を大切に」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⒸMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが2020年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2022年第2回は楠本卓海選手です。

(取材・構成 佐藤拓也)

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Q.このミッションビジョンバリューを作るのに、面談を決行したと思うんですけれども、どのぐらい行いました。
「1時間ぐらいの面談を4回行いました」

Q.自分の原体験からいろいろ振り返ったと思うんですけれども、そういう話を他人にするという経験は今までありましたか。
「ないですよね。特に新しい発見をすることもなかったのですが、今まで起きてきたことをいろいろ話せたかなという印象です」

Q.できあがったミッションビジョンバリューを見てどうですか。
「自分が今まで考えてきたことをそのまま言葉で表すことができました」

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Q.まず、ミッションについて聞かせてください。「ブレずに地道にやり続ける」。この言葉にはどんな思いが込められていますか?
「自分は特に飛び抜けているものがあるわけではなく、良い時も悪い時も地に足をつけて頑張るということをずっと続けてきました。それをこれからもブレずにやり続ける。その思いを言葉にしました」

Q.意識して取り組んだのいつぐらいからですか。
「プロに入ってからですかね。ただ、大学の時も自分はずば抜けたタイプではなかったので、今と同様に地道にやっていこうって思っていた記憶はあります。ただ、意識して取り組むようになったのはプロに入ってからです」

Q.東京の大成高校出身です。全国大会に出場することができませんでしたが、そこからプロにたどり着いた要因は何だと思いますか?
「当時、目標や夢について話すときは『プロサッカー選手になりたい』と言っていましたけど、今振り返ってみるとそこまで本気で思ってたことはありませんでした。ただ、高校2年の後半に行われたあるセレクションでいい結果を残せたことにより、今までよりは明確にプロを目指すようになったということはありました」

Q.そのセレクションというのは選抜チームでしょうか?
「スポーツメーカーによる海外に選手を派遣するセレクションですね。一学年上は現在名古屋に在籍している仙頭啓矢君がいました。そういう人たちが選ばれてきた中で、いい評価をいただいたことによって、少し明確にプロを目指しだしました」

Q.でも、そうやって評価されたということは、急にレベルアップしたわけではなくて、積み上げてきたものがあったからこそだと思います。それが評価されたっていうことは自信になったんじゃないかなと思うんですが。
「そうですね。高校の時は全国大会にも出場できず、選抜とかも無縁だったので、無名の存在でした。なので、そうやって選ばれたことは、努力が結実してきてるなという実感はありました。その時は努力どうこうというより、『良かった』とか『嬉しい』と漠然と思っていました」

Q.大学は東京国際大学へ進学します。部員が多い学校で有名ですが、その中でトップチームに入るのは大変だったのでは?
「年度はじめには4学年で400人ぐらいいましたね。自分の場合、運良く、先ほど話した海外派遣のセレクションに選ばれた実績が評価されて、いきなりトップサブというカテゴリーに入れてもらうことができたんです。なので、下のカテゴリーのチームから頑張って上がっていったわけではなく、運よくそういうカテゴリーに入れて監督から見てもらえる環境にいたことが大きかった。地道に努力した成果というわけではありませんでした」

Q.では、大学生活は順風満帆だったのでしょうか?
「そこから苦労したんです。トップチームに入ることはできたんですけど、試合に出られなくて、下のカテゴリーの練習に行くように言われ、数カ月間毎日2部練習をしていました。その時は地道にこの状況で頑張っていこうと思っていました」

Q.そこで頑張れたのは試合に出たいという思いが強かったからでしょうか?
「プロになりたいというより、とにかく試合に出たかった。同学年でトップチームの試合に出ている選手もいて、負けている感じもあったので、悔しくて毎日練習を頑張りました」

Q.反骨心を持ってコツコツと努力したんですね。試合に出られるようになるまで、どのぐらいかかったんでしょうか?
「スタメンで試合に出したのは3年生の時ですね。2年生の時から試合に出られるようにはなったのですが、スタメンではありませんでした。状況が変わったのは3年生になってからでした」

Q.そういうコツコツやり続けることの大切さを築いたんですね。
「いや、その時は気付いてませんでした。とにかく試合に出るために頑張っただけで、コツコツやり続けようと思ってはいませんでした。自分が一番苦しんだのはプロになってからなんです。プロ1、2年目は特に苦しかった。3年目もですね」

Q.何が苦しかったのでしょうか?
「1年目なんて何もできず、ただただ過ごしてたなという感じでした。何もできないけど、何をしていいかも分からなかった。そんなしんどい時期が続きました」

Q.その状況でブレなかったことって何でしょうか。
「当時の山口のスタッフがいつも声掛けをしてくれたんです。『お前は才能があるんだから頑張れ』と励ましてくれる人たちが周りにいたことが大きかった。そういう声をかけられて、何度も『やるしかない!』という思いにさせられました。やってダメなら終わるだけなんだから、とにかくやりきろうって思うようになりましたね」

Q.それから意識して取り組んだことは?
「当たり前のことを当たり前にやることを意識していました。ちょっと試合に出はじめるようになって、いいパフォーマンスができた時、その試合についてあまり振り返ることがなかったんです。で、次の試合でやられてしまうということを繰り返していました。それがプロ2年目。なので、いいパフォーマンスを見せた試合の後もしっかり足元を見つめようと意識するようになりました。徐々に習慣化していき、4年目くらいでちゃんとできるようになったという感じでした。調子に乗ることなく、いい時も悪い時も毎日の練習とすべての試合をちゃんと振り返るようになったんです。それが昨年です」

Q.それがパフォーマンスに影響しましたか?
「それから常に考えながらプレーできるようになりましたし、思い通りプレーできる機会が増えました」

Q.そして、今季水戸に移籍してきましたが、その取り組みは続けているのでしょうか?
「水戸はそういう取り組みに力を入れていて、僕は試合を振り返ったレポートを強化部に提出しているんです。今までは個人の映像を見るだけだったんですけど、それを文字に書くことによってより、さらに整理することができています。水戸に来てからさらに成長できているというか、まだまだ自分にとって必要なことがいっぱいあるということに気づかされています。なので、まだまだ成長できるなと実感しています」

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Q.次はビジョンについて聞かせてください。「"今"に集中する大切さを、自分の背中で見せ続ける」。この言葉にはどんな思いが込められていますか?
「僕自身、昔から目立つタイプでもなかったですし、経歴を見ていただいたら分かると思うんですけど、第一線でやってきたわけでもないんです。プロに入ってからも1年目からバリバリ試合に出て活躍してきたわけでもない。だからこそ、先を見据え過ぎず、今できることを100%やることを意識して、ここまできました。それが『"今"に集中する大切さ』という言葉で表現していて、『自分の背中で見せ続ける』というのは、過去の実績が乏しい人でも工夫次第ややり方次第で成長できるんだっていうことを見せていきたいという思いです。あまり自分で発信するタイプではないので、プレーや態度で示していきたいと思っています。それで『背中で見せ続ける』という言葉を使いました」

Q.いつぐらいからこういうことを考えていますか?
「それも昨年ですね。自分にとって昨年は本当に転機になっているんです。特にオフザピッチの大切さに気付きました。まず、サッカーを見るということからはじめました。山口の時には明確にプレーモデルっていうのがあって、こういうプレーをしてほしいっていうチームとか選手が示されていたので、そのチームや選手を見るようにしていました。加えて、自分のプレーの振り返りですね。自分のプレーを見て、考えて、練習のテーマを決めて取り組んでいました。車での帰り道に1日の練習の反省会を一人でするようにしていました」

Q.ここまでプロとしてキャリアを積み上げることができている理由は何だと思いますか?
「めちゃくちゃ負けず嫌いってわけでもないですし、なんか変なプライドとかも特にないんですけど、やるなら行けるところまで行きたいし、その過程で妥協はしたくないという思いがあるからですかね」

Q.昔からずっとそういう思いでやってた感じですか。
「今まで何回か練習で妥協した経験があって、その時のモヤモヤした感じがすごく気持ち悪かった。それからきつい練習から逃げたくないというか、妥協したくないと思うようになりました。やるならとことんやってみたいし、無理ならそれでそこまでだったのかなって諦められるところまで100%でやり続けたいなと思っています」

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Q.では、次にバリューについて聞きたいのですが、4つありますね。まず一つは「良くない時こそ踏ん張り時」。これは先ほどもお話がありましたね。
「これも山口の時の話になるんですけど、良くない時って何かに逃げたり、何かのせいにしたりっていうのは、割とみんなに共通する部分なのかなって思うんですけど、やっぱりそういう時こそやらなきゃいけないっていうのを、いろんな場面で感じたんです。先ほどの妥協の話ではないですけど、適当なことをした時っていうのは振り返ってみると、つらいことから逃げただけだったので、モヤモヤして気持ち悪かった。何のためにやっているのかを考えた時に、やっぱり自分はサッカーが好きだし、上に行くためにやっているので、こういう時もあるだろうって思いながら、やり続けることを大切にしています」

Q.次は「良い時こそ平常心で」。
「自分はちょっと調子に乗っちゃうタイプだったので、先ほどお話した通り、良い時に振り返ることができませんでした。良くない時だけでなく、逆も然りと言いますか、良い時でもしっかり足元を見つめて調子に乗らずにやっていくことが大事だと思っています」

Q.3つ目は「未来にとらわれ過ぎず、目の前のことに集中する」。
「自分の目標はもっと上にあるので、そこを目指さないといけないですけど、先を目指しすぎて今をおろそかにしてしまうのがよくない。しっかり土台作りをして、先に進んでいくことが大事だと思っています。やっぱり先を考えすぎると足りないものが見えすぎてしまうことがある。なので、一歩一歩積み重ねていくという感覚で取り組んでいます。今の自分のことを認めつつ、その中でできることをやっていこうと思っています」

Q.これまでの歩みを見ると、着実に積み重ねていますよね。
「自分でもその手応えを少しずつ感じているところもあるので、今の取り組み方が自分に合っているんだろうなという気がしています」

Q.最後は「自分の理想イメージを追求する」。
「これも一つ前のものと通じる部分があると思うんですけど、夢や目標、自分の理想というものは絶対に持っておかないといけないと思いますし、持っていないと何を目指していいのか分からなくなると思う。今サッカーをやっていて、どこを目指してるのかがはっきりしていれば、これから何が必要で、何が足りないのかを逆算できると思うんですよ。なので、まずは理想やイメージをはっきりさせた中で、そこから逆算しながら取り組んでいくことを意識しています」

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Q.最後にスローガンについて聞かせてください。「目の前の“今”を大切に」とありますが、今まで話をしてきた通りの言葉だなと思うんですけど、あらためてこの言葉の思いを聞かせてください。
「どんな時でも、今がおろそかになってないかとか、先のことにとらわれすぎて自分のことが雑になってないかとかっていうことと向き合うようにしています。自分が一番大切にしている言葉をスローガンにしました」

Q.シーズン終盤はいろんなプレッシャーとの戦いになります。その時こそ「今を大切にする」姿勢が強さなるような気がします。
「11人が個で負けなければ、チームとして負けることはないと思っているので、まずは自分のことをしっかりすることが大事で、その上でチームのことがある。なので、どんな時でも自分のことをおろそかにせずに取り組んでいこうと思っています」
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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