【水戸】私の「ミッション・ビジョン・バリュー」 第8回岸田翔平選手「仲間や家族への感謝をピッチ内外で表現する」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

水戸ホーリーホックでは、プロサッカークラブとして初めての試みとなるプロ選手を対象とした「社会に貢献する人材育成」「人間的成長のサポート」「プロアスリートの価値向上」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。

多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。

その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。

ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針

原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。

17名の選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
第8回目は岸田翔平選手です。


(取材・構成 佐藤拓也)

【ⓒMITOHOLLYHOCK】

Q.岸田選手は昨年もMVVを策定しましたか?
「しました。今年のテーマは『感謝』です。先日、オンラインで水戸のスポーツ少年団の子どもたちに向けてお話をさせていただきました。そこでも『感謝』をテーマにお話をさせていただいたので、今年のMVVも『感謝』をテーマにしました」

Q.MVVを策定するために昨年から面談を定期的に行っていると思いますが、自分の人生を振り返って新たな発見はありましたか?
「目に見えた変化は分かりません。でも、面談を重ねるにおいて、自分で気づけなかった自分の考えに気づくことがありました。話をしているうちに、自分の体験したことが強く意識に残っていて、無意識で取り組むようになっていたみたいなことに気づけました」

Q.人生を振り返る機会はあまりないですからね。
「なので、めちゃくちゃ面白かったです。機会がないと自分の過去を振り返ることはありませんし、少なくとも僕自身は今まであまりしたことがなかったので新鮮で、面白かったです。また、人に指摘されることによって気づけることもたくさんありました」

【Mission】

Q.「Mission」は「サッカー人生を通して、応援してくれる人たちへの感謝をプレーで返していくこと」と書いてあります。
「僕の家族に対する思いが込められた言葉です。僕は母子家庭で育ちました。そして、僕は双子(兄は岸田和人(いわてグルージャ盛岡))なんです。今自分が父親になって子どもを育てるようになり、自分が気づかなかった親としての苦労に気づくようになりましたし、目に見えないところでたくさん母親に迷惑をかけてきたんだろうなと理解できるようになりました。今は水戸にいるから、『水戸のサポーターのために』という思いも強いのですが、まずは育ててくれた母親や家族に対して、自分がプロの世界で活躍することによって恩返しをしていきたいと思って、このMissionにしました」

Q.親のありがたみは、自分が親になった時にすごく感じますよね。
「今、娘は2歳なのですが、それでも大変なことがたくさんあります。双子だったらと思うと、本当に大変だと思うんですよ。しかも、1人で育てるとなると、さらに大変ですよね。すごく迷惑をかけたとつくづく思うようになりました」

Q.学生時代、進路に関しても、家庭のことを考えて悩むことがあったようですね。
「大学進学の時が一番悩みましたね。お金がかかることが分かった上で、大学進学を決めました。双子揃って学費免除といった特待生的な条件で誘いを受けた大学がありました。そこの大学に行けば、金銭的な面で母親に苦労をかけないだろうなとは思ったのですが、その先のプロという目標を考えた時に可能性は低くなると思ったんです。ならば、学費がかかっても、福岡大学に進んだ方が可能性は広がるよなと双子で話し合って決めました」

Q.母親にも相談されたんですか?
「僕たちが悩んでいる時から『お金のことは気にしなくていいから好きな道を選びなさい』と言ってくれたんです。双子で話をしているうちに2人とも『プロになりたい』という気持ちが強かったので福岡大学に決めました。ただ、福岡大学はレベルが高いので、試合に出られる確証もありませんでしたし、進学してもプロになれるかどうか分かりませんでしたが、福岡大学に進んだ方がプロへの近道だと思ったので、選びました」

Q.それだけ強い気持ちで進学しただけに充実した大学生活を送れたのでは?
「周りに流されなかったかというと嘘になりますが(笑)、双子揃って同じ大学に行ってよかったと思っています。2人で切磋琢磨してサッカーに打ち込めたことはプロになれた大きな要因だと思っています。本当に母親に感謝しています。だからこそ、プロの世界で結果を出して恩返しをしたいという思いが強いです」

【Vision】

Q.「Vision」は「一人ひとりが仲間や家族を思いやり、感謝し合えるような社会」とあります。ここでも「感謝」という言葉が出てきます。
「昨年、僕と大原彰輝(おこしやす京都AC)でスポンサーの会社にインターンシップで伺わせてもらいました。そんな取り組みは他のクラブではやっていません。クラブをサポートしてくれる会社の社長さんから直接お話を聞かせてもらったり、仕事の内容を教えてもらったり、すごくいい体験をさせてもらいました。そういう機会をもっと増やしていくといいと思います。水戸はJリーグの中で最もいろんなことにチャレンジしているクラブの一つだと思うんですよ。僕たち選手ができることがあれば、積極的に参加していきたいと思います。それによって選手の価値が高まると思いますし、クラブの価値を高めることにもつながる。クラブが大きくなる時にクラブだけが大きくなるということはないと思うんですよ。選手やスタッフ含めて、1人1人が成長することによって、クラブは大きくなっていくんだと思います。選手として成長するためにも、チームメイトを大切にしていきたいですし、家族も大切にしていきたい。すべてはつながっているので、すべてのことに感謝しながら、日々の練習を全力で取り組んでいきたいと思っています」

【Value】

Q.「Value」では「コンディション管理を徹底し、いい状態でTRに臨む」とあります。
「自宅から練習場まで約40分かかるんですよね。今まで在籍したチームは長くて20分でした。移籍してきた昨年は肉離れをしてしまって、本調子ではない時期が結構長かったんです。移動時間が長いのが理由かどうかは分かりませんが、今までとは異なる環境に身を置いたことによって、あらためて『準備の重要性』に気づくことができました。それと、水戸に移籍してきて選手の意識の高さに驚かされました。練習に対する準備に関しては、今まで在籍したどのチームよりも徹底して行っていました。僕も年齢は上の方でしたが、年下の選手から学ぶことが多かった。水戸に来て、『練習への準備』の意識が変わったと思います」

Q.「ケア(フィジカル、メンタル)を心がける」とあります。
「フィジカルに関して言うと、練習後のマッサージを入念に行うことや筋トレなどフィジカルを強化することを意識しています。そして、メンタルに関しては、家族ができた中で子どもがいると、どうしても自分のリズムで生活ができない状況でも安定させることを心がけています。子どもが癒しになる部分もあれば、その逆になることもある。それでも、うまくメンタルをコントロールするように意識しています。また、最近、子どもに我が出てきたので、僕自身考えることも増えました。子どもを思い通りにしたいと大人は思いがちですが、子どもは自分のしたいことをしようとするんですよね。その時に変えるのは自分しかない。子どもに合わせて、自分を変えることも大切だと気づきました。なので、子どもができて、自分自身も成長できているのかなと感じています」

Q.「周囲とのコミュニケーションを重視し、自分のプレーを周囲に伝える」とあります。コミュニケーション能力は岸田選手の強みですよね。
「僕自身、そんなに意識したことはないんです。僕はA型で心配性の几帳面なんです。サッカーも私生活も気になったら確認したくなっちゃうんです。失敗をしないように徹底的に準備をしてしまうタイプ。それがサッカーの部分に出ているのかなと思います。僕は周りを生かすプレーヤーだとは思っていなくて、自分が生きるためには周りに生かしてもらわないといけない。そうじゃないと、僕は生き残っていけない。そのためにも自分の意志を伝えて、自分の価値を高めていきたいと思っています」

Q.アウェイの大宮戦で岸田選手は控えだったのですが、飲水タイムにベンチから出ていって、試合に出ている選手にアドバイスをしている姿が印象的でした。試合に出ていない選手が出ている選手にアドバイスすることは簡単にできることではないと思います。
「その時はベンチから気づいたことがあったので、言おうと思ったんだと思います。でも、水戸の選手はそういうことができる選手が多いんですよ。僕が試合に出ている時も出ていない選手からアドバイスをもらうこともあります。秋葉監督が『選手たちに主体性を持たせたい』と言ってくれていることも影響があると思っています。みんなが意識的に自分の感じたことを周囲に伝えるようになっているし、試合をいい形で進めるためにはどうすればいいのかをよく考えるようになりました。そういう効果が出ているんだと思います」

Q.「ピッチ内外で、常に感謝を表現する」とあります。「感謝」に関しては、今までお話されてきた通りだと思いますが、それを「表現する」ということはどういうことだと思いますか?
「今年はコロナ禍でピッチ外のサッカー選手のあり方が変わったと思っています。SNSを通じての発信の重要性が高まった一方、人と会った時の対応もより重要になったように感じます。特にスタジアム内では知らない方でも入場許可証を身につけている方はスポンサーや関係者の方なんですよね。なので、そういう方にもしっかり挨拶をしなければいけない。もし、スポンサーさんだということが分かれば、ちゃんと感謝の言葉を伝えることも大切だと思います。まだ僕もできているわけではないので、これからちゃんとできるようにしていきたいと思います。自分がすることによって、周りの選手にも広がればいいですよね。あとは母親に対しても、今まであまり言葉で感謝の気持ちを伝えたことがないので、これからちゃんと伝えていきたいと思っています」

【スローガン】

Q.スローガンは「仲間や家族への感謝をピッチ内外で表現する」。今までの話をまとめた言葉ですね。ピッチ外の話は伺いました。ピッチ内の場合だとどういう表現になりますか?
「自分のプレーによって、周りに勇気を与えることもその一つですね。いろんな感謝の思いを持つことによって、一つひとつのプレーの重みをより感じることができると思うんです。そういう部分を出していきたいと思っています」

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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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