集中力UPのカギは、脳ではなく、筋力にあった!

STANDS!

【STANDS!】

一歩前進するための、脳とカラダとの上手な付き合い方とは。

「デキる人は本当に走っているのか?」「走ることは脳にいいのか?」という疑問を、脳科学の観点から解説していただいた前編。池谷さん曰く、「記憶力は確かにUPするが、仕事がデキることとは無関係。ただ、カラダを動かすことが、突き抜けるヒントにはなる」という。

 そこで後編では、「歩くこと、走ることの独特の魅力」と、「脳とカラダと集中力の関係」という観点から、一歩、前に進むための具体的なポイントを伺いました。

相手に縛られない。自分で時間をコントロールできる、歩くこと・走ることの面白さ。

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――池谷さんは長距離を走るのが好きじゃない、ということですが、何か運動をされているのですか?

池谷 部活はやっていなかったんですけど、学生時代から自転車で通学していたのもあって、今も自転車で通勤しています。なので、自転車は好きかもしれません。あと、散歩するのは好きです。

 散歩だけじゃなく、ランニングもそうですけど、自分が時間をコントロールしている感じがあるじゃないですか。ペースを早くするも遅くするも、途中でやめてしまうのも自分次第なワケで。自由に時間を使っている感じがあるので好きですね。

 仕事をしていると、今日のこの取材みたいに、「11時に東京大学の赤門にお越しください」という依頼をもらえば、所定の時間に所定の場所にいかなくちゃならない。言ってみれば、時間に自分が制御されている、縛られているということになりますよね。

 でも、「歩こう」「走ろう」というのは、自分の意思でスタートするわけで。「もっと早く、もっと遅く」ということも、「疲れたからやめよう」ということも、全部、自分の意思で決められる。そう、自分で時間をコントロールできる感じがしますよね。
――確かに、仕事をしていれば、基本的に時間を誰かに制御されてしまいますね。その考えは、新鮮ですね。

池谷 あと、外に出てカラダを動かすことって、海馬の大きさ(記憶の製造場所。大きいほど、記憶力が上がると言われている)も変わってくるじゃないですか? ピッツバーグ大学の研究チームが発表したように(※1)。海馬が縮小した状態は、俗に言う、“うつ”のような症状だと言われていて。そんな状態の時、あまり家から出ないし、当然走るという選択肢もないですよね。つまり、刺激が全くないということです。

 そういう観点から外に出て走るというのは、自分一人でプレイできるものだし、自分との対話ですから、誰かと話す面倒くささもない(笑)。リハビリのメニューに散歩やランニングがいいと言われているのも、うなずけます。

(※1)2011年ピッツバーグ大学の研究チームが、有酸素運動を半年続けると、海馬が約2%大きくなるという論文を発表。

集中力を向上させるには、脳ではなく、いい姿勢が重要。

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――仕事と脳の関係について再度お聞きしたいのですが、脳がどんな状態だったら集中力は向上するのですか?

池谷 脳と集中力は、実はあんまり関係ないです。集中力に関しては、姿勢と筋力が密接に関係しています。結局、何をするにしても足腰を使っているじゃないですか? 歩くときはもちろん、座ってる時もそう。足腰が悪かったり、筋力が衰えたら姿勢を維持できないわけですし、結局、集中できない。

――脳ではなく、つまり姿勢が集中力UPのカギを握っていると。

池谷 はい。集中力の持続が短くなるのは、脳が衰えてるとかじゃなくて、姿勢を維持できないせいだと思います。そして、その姿勢を維持するためには、筋力が重要ということになりますね。

 たとえば、読書するシーンを思い浮かべてください。若い時は2時間3時間とか、本を読めると思うんですけど、40代、50代にもなると、30分で疲れちゃうという声も聞きます。「集中力がなくなった=脳がおとろえた」、みたいな連想をされるかもしれませんが、これは脳ではなくて、筋力の衰えから来ているものなんです。

 本を持つ姿勢を維持しているということは、姿勢を維持する筋肉を使っているということ。だから、筋力、体力が必要になるわけです。

――集中力を維持するには、いい姿勢を維持することが重要で。そのために、筋力が必要に…納得です。

池谷 それと、いい姿勢の重要性に関しては、論文としても過去に発表されているんです。猫背で、いかにも自信なく物事を決断するより、胸を張ったいい姿勢で決断した方が、その後の結果に自信が持てるというデータが出ているんです。

 これは、「楽しいから笑う」じゃなくて、「笑っているから楽しい」と同じで、「姿勢がいいから自信が持てる」ということなんでしょうね。あと、学生とかが大学の講義をふんぞり返ってつまらなそうに聞いているじゃないですか? あれって実はつまらないからふんぞり返っているワケじゃないんです。ふんぞり返ってるから、つまらなく感じるんですよ(笑)。

 逆に、前のめりになって、「なんでだろう、どうしてだろう」という姿勢で話を聞くときのほうが、同じ話でも面白く感じられているというデータも出ているようです。

 そう、姿勢が脳の状態、つまり感情をコントロールしているといえるかもしれません。その姿勢をつくるための根本的な筋力を持っていないと、そもそも 感情をうまく維持できなくなる。脳以前の話ですね。だから、筋力をつけたいなら、若い人は走った方がいい。その方が効率がいいから。年齢を重ねて、走るのがきついのあれば、ウォーキングをすればいいと思いますよ。
――まずはカラダありきで、脳があるということですね。少し脳の可能性に頼りすぎていた気がします。

池谷 そうです、脳から何かを発信することはできません。世の中全体が、少し「脳の活性化」というモノに頼りすぎかもしれませんね。スポーツに限らず、カラダを動かすことで脳の活動は活発になると言われていますが、「脳が活性化するから走ろう」、「海馬が鍛えられるから走ろう」というのは、何か違うなと思います。

 カラダを動かすのが好きならともかく、走るのが好きじゃない人はきちんと目的を持って走らないと、継続しないわけで。ですから、「アタマが良くなるから走ろう」ではなく、「●●を実現したいから、走って脳を活性化しよう」みたいな目的が、やっぱり大事だと思いますね。脳を活性化させることが、人生の目的ではないと思いますから。

――「脳を活性化することが、人生の目的ではない」、確かにそうですね。本日は貴重なお話、有難うございました!


池谷裕二 Ikegaya Yuji
1970年、静岡県藤枝市生まれ。98年、東京大学・大学院薬学系研究科で薬学博士号を取得。2002年から約2年半、コロンビア大学生物学講座博士研究員を経て、現在、東京大学薬学系研究科・准教授に。著書は、『進化しすぎた脳』など多数。今年、優れた研究能力を有する若手研究者を顕彰する、日本学術振興会賞を受賞。
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著者プロフィール

「スポーツをプラスすれば、毎日はもっと楽しくなる」をコンセプトに、カラダを動かすことの楽しさや面白さを伝えるWEBマガジンです。STANDS!では、スポーツをはじめるにあたり、行動に移せていない潜在層に対して、「スポーツ×ビジネス」という独自の観点からのインタビュー記事や、健康に関するコンテンツ、注目イベントの紹介・レポートを配信することにより、「カラダを動かすきっかけ」を提供しています

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