【対談】熊本県フットボールセンター内企業主導型保育園 松下×津留
【©Kumamoto Football Association】
フットボールセンターを、さまざまな体験ができる場所 そして、熊本を愛する気持ちを育む場所に
(対談参加者氏名)
(株)熊本フットボールセンター 代表取締役
一般社団法人 熊本県サッカー協会 事務局長
松下涼太さん
社会福祉法人 くすの実福祉会 理事長
津留貴裕さん
熊本県フットボールセンター(仮称)の建設がスタート
―――「熊本県フットボールセンター(仮称)」建設の経緯と施設の目的を教えてください。
松下
熊本県サッカー協会では、田川前会長時代の2015年に、「熊本県を全国で有数のサッカー王国に育てる」という目標を掲げました。それを達成するための核となるのが、今回の「熊本県フットボールセンター(仮称)」の建設です。それを受けて建設委員会が立ち上がり、2016年の熊本地震による計画の一時中断を経て、前川現会長の尽力で昨年ようやく建設地の嘉島町と合意することができました。そして2021年8月から官民連携事業として、いよいよ建設がスタートしています。
完成イメージ図 【©Kumamoto Football Association】
―――そうした施設に保育施設を併設する理由や目的は?
松下
センター建設のコンセプトに掲げている「スポーツを通じたまちづくり」という観点で考えた時に、単にサッカーグラウンドだけではまちづくりには繋がっていきません。そこで、より多くの方が集う場所にするためにカフェやシェアオフィス、多目的スタジオなどを併設する計画を立てました。保育施設もその中の一つで、これまでサッカー協会がキッズ年代の子どもたちの育成や普及に取り組んできた知見を、保育の分野にも生かせないかと考えての計画です。
また、スポーツ施設の場合、どうしても利用が平日は夜、それ以外は土日・祝日に集中し、平日の日中は閑散としていることが多いのが現状です。そこに保育施設を併設することで、園児たちには広いグラウンドや広場を有効に活用してのびのびと成長してもらえるのではないかと考えました。
―――津留さんが理事長を務める「くすの実こども園」は、そうしたサッカー協会の趣旨に賛同して、施設運営に名乗りを上げられたわけですね。
津留
当会の創立者(祖父)が掲げた園のコンセプトは、「子どもは土の側でこそ育つ」というもので、昔からよくその言葉を耳にしていました。また、私自身も幼いころサッカーをやってきて、スポーツによって養われるものの大切さを、身をもって体験していたというところもあります。
「熊本県フットボールセンター(仮称)」の環境は、まさしく自然と土がすぐ側にあり、さらにスポーツに触れる機会と場所も充実しており、子どもたちの可能性を無限に育める環境だなと感じました。こうした環境は、望んでもなかなか得られるものではありませんので賛同させてもらいました。
【©Kumamoto Football Association】
全国的にも例の少ない試み 保育施設が地域交流の“繋ぎ役”
津留
私の知る限り、こうした事例を見たことがありません。全国でも例の少ない試みではないかなと思います。人口が密集する都市部では、十分な面積を確保できる土地が少なく、保育施設の専有面積は非常に限られています。そうなると当然、子どもたちは室内で遊ぶ機会が圧倒的に増えてしまいます。「熊本県フットボールセンター(仮称)」では、都市部に隣接していながら、そうした部分を払拭できるのが大きいですね。
―――全国的にも珍しい保育環境の中で、子どもたちにはどのように成長してほしいとお考えですか?
松下
併設の保育施設の目的は、園児たちにサッカーをしてほしいというものではありません。整備されたグラウンドだけでなく、周囲は田畑に囲まれ、すぐ近くには加瀬川や江津湖が流れる自然豊かな環境を生かしながら思い切り体を動かすことで、将来自分のなりたいものになれる土台づくりになればと考えています。
もちろん、その中からサッカー選手になる子が出てきてくれれば嬉しいことですが、まずは社会で活躍できる人になるためにベースを固めていってほしいと思います。
【©Kumamoto Football Association】
私も同感です。スポーツを通して子どもたちの中に、優しさや挑戦する強い心が根付いていってほしいですね。さらに、自然やスポーツと触れ合うことでたくましい体もつくり上げていってもらいたいと願っています。
また、複合施設である「熊本県フットボールセンター(仮称)」」には、地域の方々を始め多世代が利用する場所になります。保育施設の子どもたちには、そうした方々が交流する際の“繋ぎ役”の役割も果たしてくれると期待していますし、園としてもそうした機能を発揮していかなければと考えています。
―――多世代や異世代間の交流が増えることは、サッカー協会が目指す、「スポーツを通じたまちづくり」にも繋がりますね。
松下
施設内に設けるシェアオフィスにさまざまな企業・団体の方が入ったり、コワーキングスペースで園児やサッカーの練習に来ている子どもたちの父母が仕事をしたり、多目的スタジオで中高年の方々が趣味のサークルに興じたりと、センターはいろいろな方々の利用を想定しています。
ただ、それだけでは単に幅広い世代が利用しているだけで、「交流」は生まれません。私は、そのハブ(繋ぎ)役になるのが保育施設と、その子どもたちではないかと期待しています。例えば、施設を訪れる高齢者と園児たちとの交流イベントを開催するなども、一つのアイデアだと思います。
日常的な多世代との交流が 10年後、20年後のモデルに
津留
スポーツ施設に保育施設が併設されるという、全国でも例の少ない試みなので、そこで育った子どもたちが、10年後、20年後にどんな成長を遂げたかという実例を作っていくことは、これから各地でフットボールセンターの計画を立てる際にも役立つと思いますし、この手法が全国にも広がっていけばと思います。
さらに、ここで育った子どもたちに郷土愛が育まれ、将来、「地域に貢献したい」「熊本で暮らしたい」と思ってくれれば、今回のフットボールセンターのコンセプトは成功と言えると思います。
―――施設内にはコワーキングスペースも設けられる予定ですが、保育施設に子どもを預けて、お母さんはコワーキングスペースで仕事をするという利用も考えられます。親にとっても、子どもにとっても、お互いに近い場所に居られるというのは、いい環境ですよね。
松下
そうした形は、センターの理想的な姿の一つだと思います。他にもカフェやコインランドリーなども併設することで、保育施設+仕事+αと多角的に使ってもらえる施設にできると考えています。また、施設内には施設の管理者やシェアオフィスの利用者、カフェのスタッフなど、常時20〜30人の大人の目があり、ある意味、子どもたちの見守り役にもなります。そうした環境が、子どもを預ける保護者にとっては一つの安心感に繋がるのではないでしょうか。
津留
保護者の立場からすると、そうした安心感がとても重要な要素ですね。一方で、子どもの側から考えると、例えば3〜5歳ぐらいの年齢の時に、自分の父親や母親がコワーキングスペースやシェアオフィスで働いている姿を見られるのは、とてもいいことだと思いますし、お預かりする我々としても、もしそういう機会があれば、子どもたちにしっかりと親の働く姿を見せてあげたいですね。
―――では、保育施設を含めた、センターの目指す将来像について教えてください。
松下
まずは、今計画にあるグラウンドや保育施設、シェアオフィスなどの事業をしっかりと軌道に乗せることが大前提だと思っています。ただ、センターが立地する土地は54.000平米と広大です。しかも、自然や田畑に囲まれているにも関わらず、高速のインターや市街地にも近いという恵まれた環境が得難いものです。この環境を活かし、サッカーだけにとどまらず、他のスポーツやアート、農業などの分野も体験できるような事業や施設にしていきたいと考えています。もちろん、サッカーを中心にしながらも、10年後、20年後に、「ここに来ればさまざまな体験ができる」と言ってもらえる施設になっていたいですね。
津留
ここ2〜3年、社会全体で「SDGs」、つまり、持続可能な社会活動や個人の自立的な行動が大切だという風潮になっています。
フットボールセンター併設の保育施設で育つ子どもたちには、それぞれの個性を伸ばしていけるような関わり方、保育の在り方を模索していきたいと考えています。
しかし、それは決して個人だけを尊重するということではなく、「社会の中で活かされる個=個として社会に貢献していく」という意欲も同時に育成していく必要があります。この園を発信地として、熊本で育つ子どもたちが持続的に良い環境で良い教育を受け、個人の大切さと社会性・協調性に目を向けながら生きていくという循環を作っていくことが目標です。
【©Kumamoto Football Association】
松下
まだどこにもないものだからこそチャレンジする意義がありますし、それを成功させることが、引いては熊本への貢献であり、熊本を盛り上げることに繋がるのではと思っています。
津留
私はサッカーも好きですが、それ以上に熊本が大好きです。高校、大学と東京で過ごしましたが、それでも将来自分が暮らす場所は、熊本以外にイメージできませんでした。保育施設、そしてセンターに集まる子どもたちには、もちろんサッカーも好きになってほしいですが、それにも増して、「熊本」という場所を好きになってもらいたいですね。人生の中で離れることがあっても、やっぱり熊本のことが大好きで、戻って来たくなる。そういう環境を、このセンターを通じて作っていければ、これほど夢のある話はないと思います。
だからこそ、この事業やセンターに関わる人は、誰もが「熊本を好き」であってほしいですね。
※本記事は2021年8月に「プラスソーシャルインベストメント(株)ホームページ」に掲載したものです。
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