ソフト界のイチロー・山田恵里<世界女子ソフトボール選手権2018>
“ソフトボール界のイチロー”とも称され、卓越したバッティングセンスを持つ日本が誇る打のレジェンド。20歳で出場したアテネ五輪では全試合1番で起用され、銅メダル獲得に貢献。北京五輪では主将として決勝のアメリカ戦で追加点となるホームランを放つなど、初の金メダル獲得の原動力となった。その後も日の丸を背負い続け、2012年の世界ソフトボールで42年ぶりの金メダル獲得、2014年大会では連覇達成など輝かしい功績の中心には常に彼女の姿があった。しかし、世界選手権3連覇がかかった2016年の世界ソフトボールではチームの主軸として期待されながらも打率.273と苦しみ、決勝でアメリカに敗戦。試合後、チームの円陣で涙を流した。
数年前から早朝の素振りをほぼ毎日行うなどストイックにソフトボールと向き合い、ベテランと言われる年齢になってからもイチローが取り入れている初動負荷トレーニングを実践し、「目指すは打率10割」という目標に向かい日々進化を追い求めている。その努力の成果が日本リーグ通算安打・本塁打・打点などあらゆる歴代最多記録に繋がり、「打てないボールはない。打ち損じはあっても打ち取られたと思ったことはない」と語るほどの経験を積み上げるに至った。
そんな彼女にとって最大のモチベーションとなるのが36歳で迎える東京五輪。北京五輪で悲願の金メダルを獲得し、日本中がソフトボールブームに沸いた2008年。その後、五輪競技から外れ、一気に世間の熱が引いていったソフトボール界。その様子を一番間近で見てきた彼女にとって、2016年にソフトボールの五輪競技復帰が正式に決まった瞬間に語った「止まっていた時計がやっと動き出した」という言葉は嘘偽りのない思いだったに違いない。
そして、もうひとつ彼女には東京五輪を目指すべき理由がある。それは2014年の世界ソフトボール直前に急逝した父・良彦さんの存在。「東京五輪の開会式の日が父の命日の日なんですよ。それも意味があるなって本当に思う」。東京五輪が開幕する7月24日は父の命日という数奇な運命。夢の舞台での金メダルを再び父に捧げたいという思いが彼女を突き動かすひとつの要因になっている。
五輪出場と世界一、ソフトボールの五輪競技復帰、父との別れ。あらゆることを経験してきた彼女にとって「当たり前なことはなにひとつない」という気持ちで臨む8月の世界ソフトボール。去年から再び日本代表の主将に就任し、歴代最多6大会連続出場となる打のレジェンドは、誰よりも世界一奪還へ、熱き闘志をみなぎらせている。
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