勝敗を超えて示したもの――クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、成長の2025-26シーズン/vol.1 42週間の証明

チーム・協会

勝者と敗者が決まり、歓喜と悔しさが交差する場所。今季のリーグワンの頂点を決める舞台に、クボタスピアーズ船橋・東京ベイは2年連続で帰ってきた。結果は、またも準優勝。2025-26シーズンを通して、チームが描いてきたものとは 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

2026年6月7日、東京・国立競技場。その日の空は1年前と同じように、くすんでいた。
コベルコ神戸スティーラーズとの決勝戦で、今年もクボタスピアーズ船橋・東京ベイは歓喜の瞬間をつかむことはできなかった。
2年連続の準優勝。結果だけを見れば、再び悔しさの残るシーズンだった。
それでも、この1年で積み上げてきたものが消えるわけではない。過去4年間で3度の決勝進出。それは2023年の初優勝が一瞬の輝きではなく、スピアーズが継続して頂点を争うチームへと進化してきた証だった。
42週間にわたる準備、シーズンを通して掲げた「GRIT」、そして誰か一人に頼らないチーム作り。2025-26シーズンの歩みを振り返る。

4年間で3度の決勝へ。“一貫性”が示したスピアーズの現在地

決勝直後、選手たちに言葉を送るフラン・ルディケHC。敗戦の痛みも、次へ進むための学びとして受け止めていた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

2年連続の準優勝。結果だけをみれば、今年もあと一歩及ばなかった。しかし、フラン・ルディケ ヘッドコーチの胸に残ったのは、敗北の悔しさだけではない。この4年間で3度の決勝進出。それは、2023年の初優勝が一過性の成功だったわけではなく、チームが毎年、コンスタントにリーグの頂点を争えるチームになったということだ。フランHCが語る。

「今シーズンは本当にエキサイティングなシーズンだったと思っています。過去4年間で3回目の決勝進出となりました。それは、私たちのプロセスがうまく機能していることを反映していますし、毎シーズン多くのことを正しく行えている結果だと思います。それが一貫性を示しているからです。
一貫性というのは、どんなビジネス、どんなチーム、どんな関係においても、プレッシャーの中で成果を出し、パフォーマンスを発揮し続けるために極めて重要だと思います。私たちのラグビーという仕事において、それはとても肝心な要素です。結果を出すために、毎週毎週、安定したパフォーマンスを繰り返すことができるかどうか、ということです」


決勝の舞台に戻ってきたスピアーズの姿は、昨年とは違っていた。東芝ブレイブルーパス東京と対峙した、1年前の国立競技場。リードを許した前半。追いかける展開となったスピアーズは最後の20分で流れを引き戻すも、5点差で敗北。後日の取材で、フランHCは「あと5分あれば……」とその胸中を吐露した。

しかし、今年は違った。コベルコ神戸スティーラーズを相手に、スピアーズは最初から勝負の中にいた。追いかけるのではなく、自ら勝利を掴みにいく80分を戦った。

「今年の決勝は、しっかりと戦えていたと思います。試合の入りから自分たちのラグビーを表現できましたし、プレーをコントロールし、スコアでも相手にプレッシャーをかけることができました。キッキングゲームからもチャンスを作れていました。
昨年の東芝戦は、最後の20分で流れを変えて追い上げる展開でした。でも今年は違います。神戸戦では、最初からその戦いの中にいました。一つひとつのプレーで競争し、最後まで戦い続けることができた。昨年とはまったく違う決勝だったと思います」

昨年とは異なる決勝の入りを見せたスピアーズ。バーナード・フォーリー(SO)のペナルティーゴールで先制し、自分たちのペースで試合を進めた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

その変化は、決勝の80分だけに現れたものではない。レギュラーシーズンを3位で終えたスピアーズは、プレーオフトーナメントを準々決勝から戦うことになった。頂点へ辿り着くには、3週連続で負けられない試合を勝ち抜く必要がある。一方で、レギュラーシーズン2位以上のチームは準決勝からのスタート。一見すれば、スピアーズは不利な道のりをたどったかのように思える。

「いえ、そうは思いません。対戦するごとにプレーが良くなっていきました。我々には『ブロック』がありました。バイウィーク明けに戻ってくるたびに、そのブロックの3試合目が常にベストゲームでした。シーズンを通してそうでした」

ここでいう「ブロック」とは、シーズンを小さな期間に区切ったサイクルのことを指す。3週連続で試合があり、休みの週(バイウィーク)に入る。これが1ブロック。

スピアーズはシーズンを通して、ブロック単位で成長する流れを作ってきた。だからこそ、プレーオフの3連戦も、それは消耗ではなく、自分たちの現在地を確かめる時間になった。

準々決勝では、昨季決勝で敗れた東芝ブレイブルーパス東京をノートライに抑えて勝利。準決勝では埼玉パナソニックワイルドナイツとの接戦を制し、再び国立の舞台へ辿り着いた。積み上げてきたものは、間違っていなかった。フランHCは決勝前の1週間をこのように振り返る。

「決勝の週としては、間違いなく良い流れを作ることができていました。もちろん、多くの選手が怪我を抱えていたので、誰が出場できるのか最後まで判断を待たなければならない状況もありました。
さらに台風の影響で、2、3日は思うように練習ができませんでした。ただ、その時間が逆にチームの勢いを作る機会になったんです。バーベキューではありませんでしたが、みんなで楽しめるイベントを行いました。
ただ、それは単に楽しむためではありません。一人ひとりが自分の役割を確認し、自分たちのプロセスに戻るための時間でした。大事だったのは冷静さ、やるべきことの明確さ、そして自信と信頼を作ること。それが決勝の週にフォーカスしていたことでした」


準々決勝から戦うことは、決してハンディではなかったという。むしろ、それはチームが一年を通して設計してきた成長曲線と重なるものだった。

では、なぜスピアーズは、そこまで自分たちを信じることができたのか。その答えは、決勝の舞台ではなく、シーズンが始まる前から積み重ねてきた日々の中にある。時計の針を、約半年前に戻そう――。

GRITが生んだ“誰かに頼らない強さ”

プレシーズン最初のミーティング「DAY1」でチームの方向性を示すフラン・ルディケHC。42週間に及ぶ挑戦は、ここから始まった 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

始まりは、シーズン開幕よりもずっと前にあった。

2024-25シーズン、あと一歩のところで届かなかった頂点。その悔しさを胸に、スピアーズは新しいシーズンへの一歩を踏み出した。フランHCいわく、決勝という舞台にたどり着くまでには、42週間にわたる積み重ねがあった。

「まず、成功とは何か、成功するチームとはどういうものなのかを理解するところから始めました。そして、プレシーズンが始まった42週間前の“DAY1”から、そのプロセスを積み上げてきました。
最初に取り組んだのは体作りです。選手それぞれが個別のプログラムに取り組み、ウラさん(浦山真吾ヘッドS&Cコーチ)とともに、より強く、より速く、よりフィットした体を作っていきました。まず体を作り、その上にスキルを積み上げる。それが、より良いシーズン、より良いチャレンジをするための私たちの土台でした」

体作りから始まったというプレシーズン初日。背もたれに頼らないダンベルショルダープレスは、単なる筋力だけではなく、強い姿勢を保つ力も求められる 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

そんなフランHCが2025-26シーズンの印象深い試合として挙げたのが、開幕戦のコベルコ神戸スティーラーズ戦(25年12月13日、ノエビアスタジアム神戸)だ。

「どの試合も印象に残っていますが、まず挙げるなら開幕戦の神戸戦です。最後のプレーで相手にラインブレイクされました。でも、ルア(マキシ ファウルア)が戻り、チーム全員が戻って、相手のアタックを止めることができました。そこでターンオーバーを奪い、ペナルティにつなげ、あの試合に勝つことができた。
それは偶然ではありません。プレシーズンから積み上げてきたものが、シーズン最初の試合から表れた瞬間だったと思います」

フランHCが印象に残った試合として挙げたのが、開幕戦のコベルコ神戸スティーラーズ戦。先制点こそ許したものの、33対28で勝ちきった 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ラインブレイクされた瞬間、誰か一人が救ったのではない。15人が同じ絵を見て、同じ方向へ走った。そこには、このシーズン、スピアーズが追い求めてきたものが詰まっていた。その中心にあった言葉が、チームスローガンにもなった「GRIT」だった。

「GRITという言葉は、シーズンを通して毎日、毎週、自分たちが体現してきたものです。ただ掲げるだけではなく、その意味を深く掘り下げてきました」

“やり抜く力”、“逆境でも折れない精神力”を意味するGRIT。その一つひとつの文字には、スピアーズが目指すチームの姿が込められていた。

「『G』はGrowth(成長)。毎日1%でも成長すること。『R』はRelentless(妥協しない)。妥協せず、やり続けることです。山を登る時、途中で止まったら前には進めません。だから止まるという選択肢はない。試合の中でも、キックチェイスや戻る動き、次のプレーへの準備。そういう連続した努力が大事になります。
『I』はImperfection(不完全さ)です。完璧である必要はありません。大事なのは、そこから何を学ぶかです。日本には『金継ぎ』という文化があります。割れたものを金でつなぐことで、以前より価値あるものになる。成功も失敗も、汗も涙も、そのすべてが成長につながります。
そして『T』はTrust(信頼)。自分自身を信じること。チームメイトを信じること。そして、自分たちが積み上げてきたプロセスを信じることです」


その信頼は、言葉だけでは終わらなかった。42週間かけて積み上げてきたものは、チームの形そのものを変えていった。誰か一人がチームを救うのではない。誰か一人の力に頼るのでもない。どんな状況になっても、次に立つ選手が同じスタンダードで戦う。それこそが、今季スピアーズが追い求めてきた姿だった。

前川泰慶ゼネラルマネジャーが証言する。

「優勝した次の(2023-24)シーズン、結果的に6位になりました。そのときはマルコム(マークス)がいなかったり、(バーナード)フォーリーが欠場したり、主力選手を欠いた中で、うまくいかない時期がありました。
でも、それではダメだよね、という話はフランともしていました。誰か特定の選手がいるから勝てるチームではなく、誰が出ても同じスタンダードで戦えるチームにならなければいけない。そこは僕とフランの中でも共通認識としてありました」


ちなみに、前川GMが印象に残った試合として挙げたのが、第3節の東京サントリーサンゴリアス戦(12月27日、秩父宮ラグビー場)である。79対20のスコアで快勝を収めたこの一戦を、「僕らが現役のころは逆のスコアで負けていました。サントリー相手にああいう試合ができるようになったところにチームの成長を感じました」と感慨深げに振り返った。それだけ、プレシーズンから積み上げてきたものがシーズン序盤の段階から形になっていたという実感があったのだろう。

昨年10月のチーム方針発表記者会見で抱負を語る前川GM。描いてきたチーム作りは、2025-26シーズンに確かな形となって表れた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

そうしたチーム作りを象徴したのが、福田陸人、大熊克哉、そして岡田一平ら、普段は公式戦での出場機会が限られていた選手たちが、勝負どころでチームを支える活躍を見せたことだった。彼らの存在について聞くと、フランHCは誇らしそうに目を細めた。

「それは私にとって、もう一つの大きな“勝利”でした。もちろん、トロフィーを手にすることはできませんでした。でも、チームにとって非常に大きな成果だったと思います。イッペーは、自分がどれだけこのチームを大切にしているか、このカルチャーにコミットしているかを示してくれました。彼はチームのリーダーの一人です。ただ、他の選手たちの状態が良かったことで、なかなかチャンスが巡ってこなかっただけでした。
でも、その機会が訪れたとき、イッペーも、ベアー(大熊克哉)も、リクト(福田陸人)もステップアップしてくれました。それは、この環境が彼らを成長させ、彼ら自身もシステムの中で成長し続けてきたからです。試合に出ていない期間も、チームの学びは彼ら自身の学びでした。だからこそ、彼らの活躍は自分たちのプロセスが正しく機能している証明だと思います」


前川GMも「シーズン前から『誰かに頼るのではなく、チーム全員で勝つチームにしたい』という話をしていました。それをしっかり体現し、形にしてくれた。チーム全員で勝てる集団を作ってくれたことに、本当に感謝しています」と語る。同時に、頼れるベテラン、そしてチームの未来を担うニュージェネレーションズの台頭にも手応えを口にした。

「青木(祐樹)もそうですよね。三菱重工相模原ダイナボアーズ戦(2月21日、スピアーズえどりくフィールド)は、青木のラインアウトスティールがなければどうなっていたかわからない試合でした。決勝でも、マルコムがいない中で(江良)颯が出場し、あれだけのパフォーマンスを見せてくれました。
さらに言えば、(立川)理道が出られない中、(廣瀬)雄也が出てきてくれた。少し前なら『理道がいないとミッドフィールドのパフォーマンスを維持できない』というチームだったと思います。でも今年は、その不在を感じさせなかった。そういう意味でも、本当に全員で勝てるチームを作ってくれたと思います」

3月1日、大分での横浜キヤノンイーグルス戦で、2018年以来となる公式戦出場を果たした大熊克哉(HO)。後半36分から出場すると、密集でボールに絡みスチールを決めて存在感を示した 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

その「チーム全員」とは、試合の日にジャージーを着る23人だけではない。ピッチに立つ選手、メンバー外で準備を続ける選手、そしてスタッフ。誰か一人でも欠ければ、チームは成り立たない。

フランHCが大切にしてきたのは、グラウンド上の80分だけではなく、クラブハウスで過ごす時間、日々の振る舞い、そのすべてだった。「チーム作りは24時間、週7日続いている」と、フランHCは表現する。

「試合に出ていないメンバーのことを、私たちは『24/7』と呼んでいます。24時間、週7日。いつでも準備ができていなければならない、という意味です。
横浜キヤノンイーグルス戦(3月1日、クラサスドーム大分)では、試合直前にトア(ハラトア・ヴァイレア)が外れて、カンジ(二村莞司)が入りました。トヨタヴェルブリッツ戦(4月4日、ヒマラヤスタジアム岐阜)の週も、月曜日に(ルアン)ボタが離脱し、火曜日にはDB(デーヴィッド・ブルブリング)、そしてキャプテンズランではメルヴェ(オリヴィエ)も出られなくなった。ロック陣が次々と離脱する状況でした。
でも、選手たちは全員が『24/7』で準備していました。だからこそ、そのたびに次の選手がステップアップし、パフォーマンスを発揮することができました。
それは、彼らがチームを大切に思い、自分の役割を理解し、コミットしている証です。試練が訪れたとき、選手は立ち上がらなければならない。そのときこそ、自分たちの“GRIT”を示すときなのです」


そういったチーム文化をどのように築いてきたのか。そこで重要なのは「『リアル』であり『正直』であること」だという。

「大切なのは、選手自身が成長を感じられることです。人を大切にし、その人に価値を見出せば、その人もチームに価値を与えてくれるようになります。そこに信頼が生まれ、コミュニケーションが生まれる。楽しさがあり、ファミリーのように一つになる。それこそが本物のチームです」

もちろん、全員が同じ役割を担うわけではない。試合に出る選手がいれば、そのチャンスを待ち続ける選手もいる。だからこそ、グラウンドに立つメンバーだけでなく、24/7の選手たちにも同じ基準と同じ環境を求めてきた。フランHCはF1レースになぞらえて、その考え方を語った。

「24/7の選手たちにも試合の機会を作っています。今年で言えばシェルパ(メンバー外)のメンバーです。彼らがプレーするときも、良いパフォーマンスを発揮できる環境を作るために努力しています。
F1と同じです。レースを走る車とバックアップの車がある。でも、その2台は同じように準備されています。同じ気持ちで戦っているんです。大切なのは、人間関係、コミュニケーション、そして正直なフィードバック。それがチームを機能させるものです」


誰か一人の存在で勝つチームではなくなった。どんな状況でも、次に立つ選手が同じスタンダードを守り、さらに高めようとするチームへ。それは、42週間かけて積み上げてきたプロセスの答えでもあった。(つづく)

前川GMがチームの成長を実感したという東京サントリーサンゴリアス戦。79対20の完勝を収め、シーズン序盤からチームが積み上げてきた力を証明する一戦となった。マルコム・マークス(HO)は2025-26シーズンのベストフィフティーンにも選出された 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

取材・文:藤本かずまさ(筋肉ジャーナリスト)
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、日本ラグビーの最高峰「ジャパンラグビーリーグワン」に所属するラグビーチームです。。1978年創部し1990年にクボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市の(株)クボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備しました。「Proud Billboard」のビジョンの元、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っています。またSDGsの推進や普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進しています。

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