【FC町田ゼルビア】沖縄からJへ。負けず嫌いの18歳が駆け上がった軌跡
「小さな時から負けず嫌いで、めっちゃサッカーが好きでしたね」(徳村楓大)
どんな大きな相手だろうと果敢な仕掛けで挑んでいく。幼少時から持つ闘争本能を武器に18歳とは思えない“度胸”を見せつける半年シーズンだった。身長は168cm。プロの世界では決して体格に恵まれているとは言えないが、ボールを持った時の緩急あるドリブルは、日本トップリーグのJ1でも十分に通用した。
「徳村は18歳の選手だが、物怖じすることなく戦ってくれていることに好感が持てる」
町田を指揮する黒田剛監督もシーズン中にそう評した肝の据わった“大物ルーキー”。6月に閉幕したリーグ戦では得点という結果は残せなかったが、夏から始まる新シーズンでも活躍が期待されるアタッカーだ。
小さな時から臆することなく立ち向かう少年だった。四つと二つ離れた二人の兄の影響で、いつの間にか父が指導するサッカー少年団に小学1年生から入っていた。場所は南国・沖縄県。家の近くに海はあったが、遊ぶのは海水浴ではなく、もっぱらサッカー。家の近くの公民館や公園に友達を集めてはボールを蹴り、家の中でも兄とサッカーに熱中した。その兄は上手なプレーヤーだったが、憧れではなく、「負けたくない」。当時から憧れていたブラジル代表のネイマールの真似をしたり、兄と自主練習にも繰り出して技を磨き続けた。
そんなサッカー少年の転機となったのが、小学4年生の時だ。翌年から二つ上の兄が佐賀県にあるサガン鳥栖U-15に加入することが決まり、「自分も行きたい!」と親へ直訴。セレクションを受けようとしたらインフルエンザにかかってしまったが、完治した後に練習参加をさせてもらい、無事に小学5年生からサガン鳥栖U-12への加入が決定。父と兄、楓大の3人での佐賀県生活がスタートした。
レベルの高い鳥栖のサッカーはやはり楽しかった。沖縄にいた頃のチームは県でベスト8ぐらいだったが、鳥栖U-12は全国大会にも出場する強豪クラブ(2025年に全国初制覇を達成した)。チームのエースだった沖縄時代とは違い、「チームに一番うまい選手がいたので、そいつがエースでしたね。仲も良かったですし、勝手にライバル視していました」。ただ、周りのレベルも高かったこともあり、自然と自身も成長していったという。
「どういう練習というよりも、レベル自体、すごく高かったので、常にそこで練習することで自分の技術は向上したと思います。練習している相手とか指導者の質が高かったですね」
中学校進学後はそのままサガン鳥栖U-15へ昇格した楓大だったが、再び大きな転機が訪れる。中学2年になるタイミングで二つ上の兄が鳥栖U-18へ昇格し、寮生活を送ることが決定。同じ頃、父も仕事の都合で沖縄へ戻ることになった。楓大自身もU-15に寮がなかったため、父とともに佐賀を離れざるを得ない状況となった。
「沖縄ではサッカーを辞めて、勉強を頑張ろうかな」
そんなことも頭をよぎった中、鹿児島の強豪が手を差し伸べる。
「父と一緒に沖縄に帰る予定だったんですが、そのタイミングで寮のある神村学園中等部から声をかけてもらいました」
近年の高校サッカー界をけん引する神村学園高等部と同じく、中等部も全国中学校サッカー大会に毎年のように出場する実力校だ。かつてFC町田ゼルビアに所属した髙橋大悟(現北九州)や現在はドイツリーグでプレーする福田師王、大迫塁(現セレッソ大阪)らを輩出した鹿児島の名門で再スタートが始まった。
中学2年から始まった神村学園の雰囲気は楓大に合っていた。親元を離れた生活だったが、苦労を感じることなく、仲間たちと一緒に切磋琢磨した。
「レベルも高くて、寮生活もあって、楽しかったですね」
途中出場が多かった2年次に全国中学校サッカー大会で初優勝を果たすと、3年次には全国3位。一つ上の学年には、名和田我空(現ガンバ大阪)がおり、同期にも福島和毅(現アビスパ福岡)や日高元(現RB大宮アルディージャ)、中野陽斗(いわきFC)と後にプロ入り選手を多数擁する“黄金世代”だった。結果もそうだが、何よりも個性を伸ばす神村学園の風土が楓大をより成長させた。
「伸び伸びプレーさせてもらいました。神村は自由に自分の武器をどんどん出させてくれるスタイル。みんな足元も上手で、自由にやらせてくれました。自分のストロングがどんどん磨かれていったと思います」
順調にステップアップしていった楓大は、そのまま神村学園高等部に入学。高校1年の秋にトップチームに初めて昇格した際はレベルの違いから付いていくのに必死だったと言うが、苦労に感じたことは「それぐらい」(徳村)。中学時代とは違い、高校ではより練習の強度が上がり、辛い日も多くあったが、何よりもチームが勝つために仲間と励まし合った。
「練習はキツかったですね。走りの日が週に1回あるのですが、それがメッチャ、キツい。トレーニング自体も強度が高かったです。嫌になることもいっぱいありましたけど、強くなるために頑張っていました。みんなで声を掛け合って乗り越えたことが一番の思い出ですね」
タフに鍛えられた楓大らを擁する神村学園の“黄金世代”は、3年次になると夏の全国高校総体で初優勝を果たすと、冬の全国高校サッカー選手権も初制覇。史上6校目となる夏と冬の“二冠”を達成した。
「選手層も厚いと思っていましたし、試合をやるにつれて仕上がっていたので、全国を狙えるイメージはありました」
順調な成長曲線を描いていた中、楓大のプロ入りが現実味を帯びたのは、高校3年次だった。「プロになりたいと思っていましたが、あまり進路のことは考えていなかった。チームが勝つにつれて個人もどんどん評価してもらい、いろいろ声をかけてもらいました」(徳村)。夏になると、高校2年の時から楓大に注目していた町田を含む4チームのJクラブの練習に参加。その中でゼルビアを選択したのは、やはり自分のさらなる進化のためだった。
「代表選手も多いですし、練習参加した時もレベルが高かったので成長できるかなと思って選びました」
2025年11月7日、2026シーズンからの加入内定が町田から発表された。
プロデビューのインパクトは十分だった。2月17日、AFCチャンピオンズリーグエリート・リーグステージ第8節、中国の成都蓉城をホームに迎えた一戦。前線の一角で初先発となった徳村は、試合前の「どんどん仕掛けていきます」との言葉どおり、デビュー戦とは思えない堂々としたプレーを見せた。
相手は180cm近い大柄なDFばかりだったが、楓大に恐れる様子はない。主に左サイド付近にポジションを取り、25分に白崎凌兵のゴールをお膳立て。さらにボールを持てば鋭いカットインで相手を一人、二人とかわしていく。沸く観衆。86分、相手を見事な股抜きドリブルで抜いた瞬間にペナルティーエリア付近で倒されファウルを貰ったのに続き、88分にも鋭い突破からカットインして右足でシュート。大きく枠を外して頭を抱えた楓大だったが、結果的にチームは3-2で勝利した。
「シュートまでは行けていたので手応えはありましたが、決め切れなかったのでまだまだ」
試合後の本人は悔しさばかりを口にしたが、そんなルーキーのデビュー戦に黒田監督は及第点を与えた。
「高卒ルーキーで試合に出ると緊張して空回りすることも多い中で、本人のスピードやフットワークを生かして、あまり深く考えずに自分の特長を出すようにと伝えて送り出しました。十分に持ち味を発揮しましたし、チャンスも多く作り、決められそうな場面もありましたが、決められなかったことは今後の課題です。初出場にもかかわらず素晴らしい活躍をしてくれました」
最終的に『明治安田J1百年構想リーグ』は18試合中9試合に出場。一時は左サイドで4試合連続で先発の座を掴んだ時期もあった。だが、プロとして求められる“数字”の部分で結果を残せず、本人に満足感はない。
「手応えをつかめている部分はありますが、その中で課題も多く見つかっています。自分の仕掛けやスピード、運動量の部分は負けない部分はありましたが、決め切る部分やフィニッシュの質は自分の課題だと思っています」
プレースタイルとしても、目指すべきは、町田のエースとして得点やアシストで結果を残す相馬勇紀だ。
「やっぱり相馬君は突破やシュートの部分は参考にしないといけないですし、常にトレーニングしながら見て学んでいます」
楓大の第二章は始まっている。休む間もなく、6月2日からは、U-19日本代表として北中米遠征に出発した。現地ではメキシコやアメリカのU-19代表チームとの試合に加え、ワールドカップを戦う日本代表チームとの練習試合が組まれた。これ以上ない、刺激のある遠征だ。
「楽しみです。一つひとつのプレーの質や自分と似たプレースタイルの選手のドリブルやフィニッシュなどを見て学びたい」
現日本代表で楓大のお手本となるのは、同じく左サイドをメインにドリブルで切り裂いていく中村敬斗だろう。初戦のオランダ戦では、カットインから見事な同点ゴールを奪っている。現地では実際に世界基準の日本代表プレーヤーの技を観察し、体験し、自身の力へと変えていく。それがいつか、自身の目標に繋がると信じて。
「まず町田で結果を残し、海外に行って、チャンピオンズリーグに出たいです」
世界で名を刻むために、楓大の町田での戦いは続く。
FW 34 徳村 楓大(トクムラ・フウタ)
2007年11月26日生まれ、18歳。
神村学園高等部から2026年にFC町田ゼルビアに加入。1年目から『明治安田J1百年構想リーグ』では、プレーオフラウンドも含めて10試合に出場。準優勝に終わったアジアチャンピオンズエリートでも2試合に出場した。5月にはU-19日本代表にも選出されるなど、将来を期待されるアタッカーだ。
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