【決勝戦 スティーラーズ戦】激闘の末に見えたスピアーズの誇り
このチームで戦う最後の一戦。
そして、ある者にとってはこれまで30年間プレーしたラグビー、最後の試合。
NTTジャパンラグビー リーグワン2025-26 決勝戦。50,451人の観衆が訪れたMUFGスタジアム(国立競技場)で、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの選手たちが見せたもの。この試合を最後にスパイクを脱ぐ選手たちが見せたもの。
それは、国内最高峰のプレーや、自身のキャリアで磨いた卓越したスキルのみにとどまらない。
信頼、チームへの愛情、不屈の精神、そして誇り。彼らが見せたものは、チームのビジョンである「Proud Billboard」そのものだった。
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プランを信じて徹底した前半、そして「GRIT」し続けた劣勢の後半
今季、リーグ屈指の攻撃力を誇るスティーラーズ。レギュラーシーズンの対戦成績は1勝1敗。数シーズンをかけてともに成長してきた両者が、「どちらが本当に強いのか」を決する大一番――すべての舞台は整っていた。
しかしスピアーズは、準決勝・ワイルドナイツ戦での消耗が大きく、フッカーのマルコム・マークス選手、フランカーのタイラー・ポール選手が欠場。それ以外の出場選手も負傷を抱え、決して万全の布陣とは言えない状況だった。
それでもマキシキャプテンは「コンディションに問題はない」と言い切る。足を引きずりながらも胸を張るその姿には、この試合への覚悟、そして「このチームで、このラグビーで勝つ」という揺るがぬ信念が表れていた。
昨シーズン決勝での敗戦。ブレイブルーパスに敗れた悔しさを、チームは決して忘れていない。「今年こそ優勝する」という強い覚悟は、決勝週の練習からも感じられた。どこか吹っ切れたように、ただまっすぐに勝利だけを見据える空気がチームを包んでいた。
試合当日。空は曇り、時折雨が落ちる。その光景は、昨季決勝後に降った雨と重なり、あの悔しさを鮮明に呼び起こす。
そして迎えたキックオフ。前半開始直後、昨シーズン決勝と同じようにキャプテンの強烈なタックルから試合は幕を開けた。
試合後、フランヘッドコーチも「前半は自分たちがゲームをコントロールできていると感じていましたし、チャンスも得点につなげられていました」と振り返る。
司令塔のフォーリー選手を中心に、徹底したコンテストキックで相手陣深くへボールを運び続けた。そこに全員の粘り強いディフェンス、そしてフォワードによる安定したセットプレーが噛み合い、主導権を握ったまま試合を進めていく。
アタックに転じれば、まずはグラウンド中央でフォワードが体を張ってディフェンスをこじ開ける。そこからバックスへ展開すると、両ウィングがタッチライン際で前に出る。チームとして狙い通りの形が随所に見られた。
しかし、この日のスティーラーズは一味違っていた。接点でのインパクトはレギュラーシーズン以上。どのエリアでも素早く人数をかけてボールキャリアを囲み、押し返し、ブレイクダウンで強烈なプレッシャーをかけ続ける。
互いに一歩も引かない高強度の攻防に、スタンドからはレフリーの笛が鳴るたびに大きな拍手が送られた。
前半10分までは、ほぼ相手陣でプレーし続けたスピアーズ。そして16分、フォーリー選手のペナルティゴールで先制に成功する。スティーラーズもすぐにペナルティゴールで応戦。試合は早くも緊張感のある展開となる。
次の均衡が破れたのは23分。再び敵陣22m付近で得たラインアウトから連続攻撃を仕掛けると、展開の中で逆サイドに構えていた根塚選手にボールが渡る。この日、同様の場面で止められていた根塚選手は、ここで絶妙な判断を見せる。相手の裏に糸を通すようなキックを転がし、自らキャッチ。一気にゴール前に迫った。
すかさずフォワード陣がラック周辺で鋭く突進し、最後は為房選手が仲間の後押しを受けながらボールを押さえる。このトライ後のゴールも成功し、スコアは13対3。チームの勢いが一気に高まる瞬間だった。
しかし、ここからがスティーラーズの真骨頂だった。29分、スピアーズのディフェンス裏へ転がされたキックに競り負け、トライを献上。ゴールも決まり、再び点差は3点に縮まる。
終盤にかけてスティーラーズはミスを減らし、徐々に勢いを増していく。敵陣に入られれば一気にスコアされかねない、その攻撃力の高さを改めて突きつけられる時間帯となった。
それでも廣瀬選手のスティールなど、要所でチームを救うプレーが飛び出し、粘り強く耐え続ける。だが前半終了間際、ペナルティゴールを決められ、スコアは13対13。同点に追いつかれたまま、試合はハーフタイムへと突入した。
開始3分、ペナルティゴールで勝ち越しに成功すると、12分にもさらに3点を追加。点差を6点に広げる。
一方のスピアーズは、その間にショーン選手がゴールを狙うも決まらず、得点を返すことができない。
スティーラーズはボールを保持して攻め続けることでエリアを掌握。ブレイクダウンでも優位に立ち、スピアーズは自分たちのペースに持ち込めない時間が続いた。
流れを変えるべく、12分にオペティ選手を投入。
15分には敵陣ゴール前ラインアウトという、この後半最初のチャンスを得る。しかし、ここでも、得点には結びつけることができなかった。
前半はエリア、ポゼッションともに優位に立ち、反則数も互いに4本と規律ある試合運びだったスピアーズ。だが後半は一転、修正を施してきたスティーラーズに対し、反則数はこの後半だけで11本。試合をコントロールすることができず、劣勢は明らかだった。
さらに消耗も激しく、各ポジションで負傷者が出る厳しい状況に。
18分にハラトア選手、24分にはヴァンジーランド選手とラピース選手を投入し、総力戦で流れを引き寄せにかかる。
それでもスティーラーズの圧力は止まらない。後半24分、ゴール前スクラムで始まるスティールの攻撃。誰もがスティーラーズのトライは時間の問題と感じたその場面で、スピアーズはゴールラインを背に驚異的な粘りを見せる。
スクラム前、選手たちは綺麗な円を描くハドルを固く組む。
その直後のディフェンスで集中力を極限まで高め、12フェイズにわたる猛攻を耐え切り、ついにピンチを脱出した。
この一連の攻防にスタジアムは大きく沸き立つ。
スピアーズが掲げる今シーズンのスローガン「GRIT」。その言葉の意味を体現した瞬間だった。
このタイミングで加藤選手、福田選手、ブリン選手を投入すると、試合は再び大きく動き出す。29分、スクラムからバックスへ展開すると、木田選手が抜け出し、相手ゴールラインへキックを転がす。これに投入直後のブリン選手が反応し、懸命に追いついてボールに触れる。しかしトライまであとわずか1メートルという位置で、無念にもボールがこぼれた。
それでも攻め続けるスピアーズは、34分にはフォワード陣が近場で体を張り、ゴールライン目前まで迫る。しかしここでも反則を取られ、得点には至らず。流れを引き戻すことはできないまま、エリアを返される結果となる。
残り5分、1トライ1ゴールで逆転。勝機はある。
なおも逆転を狙い中盤での再獲得を目指すが、39分、自陣でスピアーズが反則。スティーラーズはペナルティゴールを選択し、これを確実に決めてスコアは13対22となる。
残り1プレー。最後までトライを諦めず押川選手を投入し、リスタートにすべてをかけた。しかしボールは相手に渡り、そのままタッチへ。
ここでフルタイムの笛。
2年連続の決勝への挑戦は、無念の敗戦という形で幕を閉じた。
結果は敗戦、しかしプレーを通して滲み出たチームの根源
「本当に素晴らしい戦いでした。決勝というのは常に特別なものです。前半は自分たちがゲームをコントロールできていましたが、後半は一つか二つの小さな、そして大きな瞬間をモノにすることができませんでした。決勝とは往々にしてそういうものです」
敗戦という現実を受け止めながらも、その言葉はそこで終わらない。続けて語られたのは、このチームが何よりも大切にしてきた価値だった。
「しかし、選手たちのパフォーマンス、特に後半のディフェンスからチャンスを作ろうとした姿勢は誇りに思います。ここから学び、より準備を整えて戻ってきます。選手全員のパフォーマンスを非常に誇りに思っています」
また、マキシキャプテンも悔しさを噛み締めながら語った。
「うまく言葉にできないですが、本当にチーム、仲間を誇りに思います。チームメートには、今日はやり切ったということを伝えたいです」
ゴールラインを背負った局面で組まれた、あの固いハドル。
満身創痍のなかでも走り続け、体を当て続けたディフェンス。
最後までトライを諦めず追い続けた姿勢。
そして、敗戦の直後であっても仲間を称え、スタンドに手を振ったその表情。
その一つひとつの行動にこそ、このチームの根源にある「誇り」が表れていた。
そしてこの試合を最後に、引退を表明している選手たち。
彼らのプレーには、その「誇り」がより濃く、より強く滲み出ていた。
フォーリー選手は、この試合でも正確なキックでチームに貢献。
シーズン終了後、彼はチームメートにこう語った。
「チームのために投資し続けること、チームを最優先にすること、そして人とのつながりや絆を大切にすること。それを続けていけば、きっと自分が与えた以上のものを、このチームから受け取ることができます」
5歳からラグビーを続けてきたフォーリー選手は、この日も仲間に声をかけ続け、劣勢の中でもプレーでチームを引っ張った。後半には、身を挺したセービングでチームを救う場面もあった。
「みんな本当によくやりました。ロッカールームの雰囲気も良くて、チームとして一体感がありました。正直、体はかなり消耗しているけど、最後までやり切ったと思います。ラグビーへの名残惜しい気持ちよりも、チームや環境、関わった人たちへの感謝の気持ちが強いです」
13歳から続けてきたキャリアの最後に、その言葉には彼らしい仲間への想いが詰まっていた。
後半24分のあの粘り強いディフェンスの裏には、ラピース選手の存在があった。
だが、それ以上に印象的だったのは、その声だった。スクラムの前、プレーが止まるたびに、仲間を鼓舞する聞き慣れた声がレフリーマイクを通じて聞こえていた。
「チームのスピリットやエネルギー、それは非常に特別なものでした。日本でプレーできたことは本当に光栄で、すべての瞬間が特別でした」
特に引退する選手たちからは、そのキャリアのすべてを凝縮するかのような姿勢が見て取れた。
そして、それはチームも同じだった。決勝戦の結果は敗戦。だがそこには、このチームが積み上げてきた時間と、選び続けてきた在り方が確かに表れていた。
結果には表れない、しかしこのチームに本気で関わってきたものだからこそ滲み出るもの。それこそが、これからの未来を築いていく。
この決勝戦でスピアーズが示したもの。
それは、揺るがない「誇り」に他ならない。
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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