「“待てる”選手になれ」。中村充孝が子どもたちへ伝える“怖がらない技術”。
そう言いながら、中村充孝は子どもたちの足元を見つめていた。
2025シーズン限りで現役を引退した中村は現在、アントラーズスクールのコーチとして新たな日々を送っている。
現役時代は、独特の間合いと細かなボールタッチで相手を外し続けてきた“感覚派”のアタッカー。その男が今、子どもたちへ伝えようとしているのは、“ボールを怖がらなくなるための技術”だ。
「結局、ボールを持つのが怖いから逃げたくなるんですよ。でも、“絶対取られへん”って感覚があれば、もっと楽しくなる。だからまず、“怖くない”を作ってあげたいんです」
現在のスクールで重視しているのは、ドリブルだ。
ただ、それは派手なフェイントを教えることではない。一対一で相手と向き合ったとき、自分でボールを持ち、自分で状況を変えられる感覚を身につけること。そのための技術だった。
「一対一って、みんな怖いものなんですよ。取られるかもしれんし、失敗するかもしれん。でも、サッカーって一対一の塊なので。そこを怖がっていたら話にならない」
最近は、子どもたちへ“間合い”についてもよく伝えているという。
「例えば、『相手がどれぐらい近づいてきたら怖いのか。その距離を自分で理解しよう』という話をしています」
ここまでは怖くない。でも、この距離に入ってきたら反応しなければいけない。
その感覚を持てるようになると、相手が入ってくる瞬間を“待てる”ようになるという。
「変なフェイントとか、いらないんですよ。結局、相手が入ってくるタイミングを見てかわしたらいい」
その感覚は、中村自身が現役時代に磨き続けてきたものでもあった。
「自分の中では、一瞬だけ速ければいいと思っていたんです。ずっと速く走るんじゃなくて、そのスピードをどこで使うか」
速い選手は、それだけで武器になる。
ただ、中村は「スピードだけで行ける時期はいずれ終わる」とも話す。
「そのときに、“じゃあ、どう相手を抜くのか”という感覚を持っているかどうか。それを今から体に馴染ませておかないと、後からやれと言われても無理やと思うので」
もっとも、中村自身はまだ、指導者としての自分を探っている最中でもある。
引退後、なぜスクール年代から始めようと思ったのか。その問いへの答えは、中村らしかった。
「一番、難しいと思ったからです」
上のカテゴリーなら、自分の感覚や言葉はもっと伝わりやすいかもしれない。
ただ、小さな子どもたちは違う。
「自分が指導者に向いているのかどうかも、正直まだ分からない。でも、やりながら探っている感じです」
そのなかで、周囲のスクールスタッフから学ぶことも多いという。
「若いスタッフとかを見ていても、すごいなと思うことがいっぱいあります。子どもたちを盛り上げる力とか、“ああいうのはプロやな”って」
見せるだけでも伝わらない。言葉だけでも届かない。
だから今、中村は自身の“感覚”を少しずつ言葉へ変えようとしている。
「今できる必要はないと思っているんです。いつも子どもたちには『今が一番下手くそでいい』って言っています」
技術は、半年後、一年後に突然つながることがある。だから今は、“知っている状態”を作ることが大事なのだという。
「今は分からなくても、“そういうことやったんやな”って、後から思ってくれたらいい」
感覚派だった男は今、自分の感覚を子どもたちへ託そうとしている。
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