【準決勝 ワイルドナイツ戦】プレーオフのコントラストが映し出された瞬間
試合前も、ハーフタイムでも、フラン・ヘッドコーチはその言葉を繰り返した。
「その瞬間を制する」その意味を胸に刻み、後半が始まる。
スピアーズは一つひとつの小さな勝利を積み重ね、徐々に試合の流れを引き寄せていった。
そのすぐ横には、オレンジのベースボールシャツをまとい、選手たちを力強く鼓舞し続ける観客席の姿があった。
木田選手のトライにつながったスクラム。
ヴァイレア選手のキックチャージ。
そして、2点差という極限の緊張の中、ショーン選手と根塚選手のダブルタックルでノーサイドの笛が鳴った、その瞬間も。
初夏を思わせる空と、それぞれのチームカラーに染まったスタンド。
芝の上では、同じ色を背負う選手たちが、スタンドの想いを受けて戦っていた。
負ければ夢は途絶える。
プレーオフ特有の張り詰めた空気が、その一瞬の明暗を鮮やかに映し出す。
フルタイムの瞬間、スタジアムには歓喜と悔しさ、対照的な感情が交差する。
そしてそこに浮かび上がったのは、より色濃く刻まれたプレーオフのコントラストだった。
※リンク先は外部サイトの場合があります
数々の名勝負を生んだ秩父宮の埼玉WK戦。激戦再び、2点差の死闘で決勝へ
秩父宮ラグビー場で、埼玉パナソニックワイルドナイツと対戦した。
奇しくも昨シーズンの準決勝と同カード、同会場での一戦。
昨シーズンは28対24で勝利を収めたが、今シーズン第11節では同じ舞台で30対32と敗れている。
この2シーズン、秩父宮でのワイルドナイツ戦は常に激戦となり、名勝負を生み出してきた。
その期待を裏付けるように、チケットは完売。試合当日には18,695人が詰めかけ、秩父宮ラグビー場は青とオレンジが鮮やかなコントラストを描いた。
この一戦に向け、スピアーズは前節からメンバーを変更。
負傷したロックのボタ選手に代わり、好調のアキラ選手が先発に名を連ねた。さらに、14番には根塚選手が入り、リザーブにはオペティ選手が復帰。
19番のラピース選手や23番のハラトア選手とともに、後半のインパクトプレーヤーとして勝負どころを託された。
スピアーズボールでキックオフされた前半40分は、両者の激しいディフェンスが際立つ中、アタックでのミスや反則が続き、スコアが動かない展開となった。
序盤、スピアーズは立て続けの反則によりゴールライン際まで攻め込まれるが、マルコム選手のスティールでピンチを脱出。
迎えた中盤、自陣からのアタックで相手の反則を誘うと、ショーン選手が40m超のペナルティゴールを成功させ、前半10分に先制する。
その後、10分を過ぎると両者が本来のパフォーマンスを発揮。
キックを巧みに使うワイルドナイツが次第にエリアを奪い返し、17分にはゴール前のモールを押し込まれて逆転を許した。
以降もワイルドナイツが主導権を握り、スピアーズを押し込む展開が続く。
それでもマルコム選手やフォワード第3列を中心としたボール争奪で踏ん張り、幾度となく相手の攻撃を食い止めた。
前半終盤、相手のシンビンにより数的優位を得ると、流れを引き寄せる。
敵陣へ入り、ラインアウトからバックスへ展開すると、HIAにより一時退いた根塚選手に代わって出場したヴァイレア選手が抜け出し、逆転トライ。
コンバージョンも決め、10対7と限られたチャンスを確実に得点へと結びつけた。
前半は劣勢の時間が長かったものの、このトライにより、会場の流れはスピアーズへ。
そのままリードを保ってハーフタイムを迎えた。
ファーストスクラムでペナルティを獲得すると、以降はスピアーズがボールを支配する時間が増えていく。後半10分にはフォーリー選手がペナルティゴールを決め、13対7と着実にリードを広げた。
風上を活かしてキックを巧みに使うと、全員の献身的なフォローもありこぼれ球がスピアーズに転がる好循環が生まれる。
そんな展開と共に、会場の雰囲気も次第にスピアーズへと傾いていった。
あと一歩で主導権を完全に引き寄せる――そんな局面で、後半初めて自陣深くへと押し込まれる。
13対7。1トライ1ゴールで逆転され得る緊張の場面で、すぐ横から響いたのはオレンジアーミーの大声援だった。
スタンドの声に背中を押されてスクラムから脱出すると、フォーリー選手がキック。
相手のカウンターキックを確実に処理し、素早く左へ展開。リカス選手がラインブレイクを決めると、最後は木田選手へとつなぎ、そのままライン際を駆け抜けた。
20対7。このトライで流れを一気に引き寄せた。
26対12で迎えた残り9分。通常であれば勝利を手繰り寄せた展開。しかし、この両者の対戦に「安泰」はない。
残り5分、スピアーズはワイルドナイツの猛攻を受ける。
37分、自陣ゴール前で粘り強く守るも反則が続き、メルヴェ選手がシンビンで一時退場。直後にトライを許した。徐々に勢いを取り戻したワイルドナイツは、そのままトライとゴールを重ね、26対24。残り1分で、ついに2点差まで詰め寄られた。
スタジアムのボルテージは最高潮へ。逃げ切りを願うオレンジと、逆転を信じるブルーの声援が交錯する。
センターラインでスクラムが組まれると同時に、後半40分のホーンが鳴る。
ワイルドナイツはすぐさまバックスへ展開。
次の一瞬を制したものが勝者となる。この1プレーを制したのはスピアーズだった。
ショーン選手が相手をつかまえたその瞬間、内側から根塚選手が押し出す。
ボールキャリアはタッチラインの外へ。
次の瞬間、ノーサイドを告げるホイッスルが響き渡った。
征服すべきは山の頂上ではなく、自分自身
それでもフラン・ヘッドコーチは前を向く。
「完璧なメンバー選考ができない中で戦うことは、トロフィーを手に入れるために必要なことです。メディカルチームが良い仕事をしてくれるとともに、代わって出る選手たちも自分たちの役割を理解しています」
試合後、この日80分を戦い抜いたアキラ・イエレミア選手は、その場に仰向けで倒れ込み、空を見つめた。その胸に去来した思いを問うと、こう言葉にした。
「幸福感と疲労感、そして決勝でトロフィーを手に入れる権利を得られたこと。来週につなげられたこと。さまざまな気持ちが入り混じっていました」
そう、まず手にしたのは頂へと挑む権利。それこそが大きな一歩だ。
GRITの強化スローガンを掲げ、リーグワンという険しい山を不屈の精神で登り続けてきたスピアーズは、21戦目にしてようやく頂上へと到達する機会を掴んだ。ここで足を止める理由はない。
世界最高峰エベレストに人類で初めて登頂したニュージーランドの登山家、エドモンド・ヒラリーは、こう語っている。
「征服すべきは山の頂上ではなく、自分自身だ」
勝負の鍵は、目の前の相手だけではない。自分たちが積み重ねてきたものを、どこまで信じ抜けるか。
疑うな。自分たちを信じろ。
試合後、マキシ・キャプテンは観衆に向け、あらためてその思いを言葉にした。
「信頼することが大切だと思って、自分たちのプロセスを信じたことが結果に繋がりました。決勝はタフな試合になると思いますが、チーム一丸となってオレンジアーミーとともに戦います」
頂点まで、あと一歩。試されるのは、自分たち自身だ。
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ