デーヴィッド・ブルブリング/長い旅に、一つの区切り――”つながり”を愛した仕事人からのメッセージ

チーム・協会

デーヴィッド・ブルブリング(David Bulbring) ◼ ポジション:LO(ロック) ◼チーム在籍年数:7シーズン(2019~) ◼ チーム初キャップ:2019年6月29日 トップリーグカップ2019釜石シーウェイブス戦(秩父宮) ◼チーム公式戦キャップ数:89(2026年5月29日現在) 【 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

お兄さんで、お父さんで、先生で、リーダーで、お手本で…プレーヤーとしても人間的にも本当に素晴らしくて…僕は彼から全てを教わりましたし、その全てを目標にしていました

昨シーズンまで共に汗を流した元チームメイト・松井丈典の言葉である。この人を語るに、これ以上の言葉はあるだろうか。でも、それが決して大げさではない事はチームの誰もが知っている。
デーヴィッド・ブルブリング。
“DB”の愛称で親しまれ、7シーズンに渡り文字通りチームの大黒柱として活躍してきた"仕事人”。現役引退を間近に控えた今、その胸の内とスピアーズでの日々を振り返ってもらいました。
(2026年5月9日、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、クラブハウスにて取材)

4月21日、記者会見でのDB選手の笑顔。一緒に会見に臨んだフォーリー選手、ラピース選手の言葉に耳を傾け”うんうん”と頷いているところにもDB選手の人間性が滲み出ていた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

さよなら”を言うのは本当に辛い。

ーーとても寂しい話ですが、スピアーズでの残り時間もあとわずかとなってしまいました。今の率直な気持ちを聞かせてください。

「自分の気持ちの中ではクリアになっています。今シーズンで最後と決めた今は残りの時間、残りの試合に向けてどれだけ自分をベストの状態に持っていけるかという事に集中しています。でも、実際のところは…やっぱり少し感傷的にはなってしまうところはあります。“さよなら”を言うのは本当に辛い。スピアーズに対しても、ラグビーというスポーツに対しても。自分は 19歳からプロとして長い時間ラグビーをやってきて、本当に良い“旅”をしてきたと思っています。だから、次の旅、人生の次のチャプターへの楽しみな気持ちはあります。でも今は、次の試合を楽しみにしています」

ーー引退を決めた瞬間のようなものはあったんでしょうか?

「これだけ長い時間、元気にプレーできるとは思っていなかったので、本当に”これ”という瞬間はないのですが…2年前ぐらいから“そろそろかな?”というのは頭の中に少しありました。でも、そのシーズンを終えたとき、もう1年続けようとなって。でも、今シーズンが始まるときには「今シーズンで引退しよう」と決めました。もちろん日本は大好きなんですが、家族の事もありますし、いろんなタイミングも含め、今は自分が下した決断に対して幸せに感じています」

ーー引退という決断をした事で、砂時計をひっくり返すような、これまでの見え方が一変するような感覚もあったかと思いますが、気持ちの面で一番変わったことは何でしょう?

「引退を決めた事で、確実にこれまでには無い、これまでとは違う感情が湧いてきています。小さな物事、いろんなことを含め、終わりを迎える事は分かっていたので、一つ一つの事に対するエンジョイの仕方だったり、練習やビジターゲームへの移動の際も”これが最後かもしれない”みたいな感情が湧き上がってくるのを感じる事がありました。スピアーズでの全て物事に対して終わりが近づいているという事を分かっているからこそ、その終わりを良い形で締めくくろう、チャンピオンになろうっていう気持ちで日々を過ごしています」

ーースポーツ選手の幕の引き方にはいろんな形があります。ケガで辞めざるを得ない選手もたくさんいますね。

「ラグビーは激しいコンタクトのあるスポーツなので、続けたくても途中でリタイアしなくてはならないという選手はたくさんいます。そんな中、自分自身で引退を決断できたというのは嬉しい事ですし、これだけ続けられてきた事に感謝しています。だけど、まだ仕事は終わっていません。これから先の試合に勝ち切って、とにかく優勝して終わりたいです」

ツインタワーを組んできたルアン・ボタ選手(右)と優勝カップに歓喜のキス。もう一度、それがDBの想いだ。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ーー現役最後のチームがスピアーズになりました。

「長年スピアーズで過ごしてきて、本当にここはホーム、私の家だと思っています。ここに来る前に在籍していたチームもあるけど、スピアーズに来て本当にハッピーでしたし、自分がベストな瞬間を過ごせたのはここ、スピアーズだと思っています」

ーーDB選手にとってラグビーとは何ですか?

「自分とってラグビーはたくさんの、そして深く大きな意味を持っています。もちろん一つのスポーツではあるのですが、自分の人生にいろいろなチャンスをくれた”スポーツ以上のもの”として、ラグビーに感謝したいと思っています。日本で7シーズンもプレーを続ける事ができて、日本の文化だったり、日本の人たちに会うという貴重な経験させてもらった事も、ラグビーをしていたからこそ。自分はウェールズでも 3年プレーした経験があるので、それぞれの国の文化の違いも経験できました。あとはやはり、人との関係性、つながりの部分ですね。選手、スタッフはもちろん、いろんな人とたくさんの繋がりを築けたことはとても大きな事です。仕事としてラグビーを続け、たくさんの試合をしてきましたが、チームメイトと一緒に過ごした時間は自分にとっては大切です。自分にとっても家族にとっても、ラグビーは本当に大きなものですね」

ーー一番の思い出や印象に残っている試合、エピソードを聞かせてください。

「思い出はたくさんあるのですが、日本人を中心にトンガ、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、フィジー…いろんな文化が一つになってスピアーズを作り上げてきたという事自体がとても印象深いですね。そんな中でも一番印象に残っているというか、一番恋しいと思うことは…スピアーズのみんなとロッカールームでいろんな話をした事、一緒に過ごした時間です。トゥイ(ジニングスツヨシ)のような楽しい仲間と、そうした時間を過ごせた事は本当に忘れられません」

チームデビュー戦となった2019年トップリーグカップの釜石シーウェイブス戦。チームに合流してわずか1週間でありながらサインを全て覚え、少しでも早くチームに貢献しようという姿勢を示してくれた。今もそれは変わらない。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ーーDB選手にとってオレンジアーミーの存在とは?

「オレンジアーミーの愛情と情熱と敬意を持って応援しに来てくれた事はすごく心に残っているし、ものすごく感銘を受けています。今シーズンであれば雪が降ったえどりくのD-Rocks戦や、鈴鹿まで応援に来てくれたヒート戦も、たくさんのオレンジアーミーが応援に来てくれました。本当にスピアーズへの情熱がすごいし、晴れでも雨でも雪でも、どんな時どんな場所でも応援しに来てくれました。この前の引退記者会見もそうです。オレンジアーミーが私たちに示してくれた愛情と敬意はずっと自分の心の中に残っています」

オレンジに包まれて。チーム内外で「アニキ」のような存在だった。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

これが自分の仕事

ーーDB選手は入団した時、すぐにサインを全部覚えて試合に出場するなど、当初からチームに馴染もう、役に立とうとする姿勢を見せてくれました。DB選手にとって「仕事」とはどういうものでしょうか?

「自分はプロフェッショナル選手としてラグビーをしている以上、そういう姿勢もプロとして大切だと考えています。必要とされてここに来たのであれば、やっぱり”来てくれて良かった”と思ってもらいたいですから。そのためには自分という選手がチームにとって、試合に出られる、使える状態である事をいつも示す事が大事だと思っています。だから、怪我をせず練習に参加し、試合に出られるようなコンディションに自分自身を高めて行くことが自分の”仕事”だと思っています。
純粋に”仕事”について言えばラグビーは外からは見えにくい仕事だったり、役割がいっぱいあります。例えば分析の仕事だったら、週の最初にラインアウトやアタック、ディフェンスについて分析した映像を出して、コーチ陣とトレーニングプランを立てるといったものがそうです。また、選手たちの中にも、その週の試合に出ない選手たちがいます。その選手たちは、チームのために相手チームの役を務めてくれるのですが、そういった部分は本当にリスペクトされるべき仕事だと思っていますし、怪我をしてしまった時でも裏方としてやれる事をやるといった姿勢もそうだと思います。自分では、その他にもできるだけチームに貢献でき、手伝えるような状況…他の選手を成長させられるような機会を作る事もスピアーズでやってきたつもりです。こうした姿勢は、引退後に母国に戻ってからの仕事(ツールカンパニーの経営)でも活かせるのではないかと思っています」

黙々と”仕事”への準備をするDB。チームのために。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ーースピアーズで、日本で 7年間プレーしました。その中で、故郷に持って帰りたいカルチャーはありますか?

「もちろんあります。スピアーズは本当にファミリーのようなチームです。自分は仲間と一緒に良い時間を過ごすことを大切にして生きてきましたが、スピアーズで素晴らしい人間関係を築き、友情を育むことができました。そのスピアーズの“ファミリーカルチャー”を持って帰りたいです。あとは日本の人たちが持っている”規律”の部分ですね。時間をしっかり守ることであったり、自分の仕事に対し誇りを持って臨む姿勢…例えば、駅員さん一人見ていても、本当にプライド持って仕事をしているのを感じます。それはラグビーに限った話ではなく、どのジャンル、どの世界、誰にとっても重要なことだと思うので、そうした“規律”の文化も持って帰りたいです」

ーー日本から「規律」を感じたと言いましたが、 DB選手はご自身をどのような人間だと思っていますか?

「のんびりしたタイプの人間だと思っていますが、ラグビーというスポーツが自分に規律というものを教えてくれました。チームでは試合に向けたスケジュールに合わせてトレーニングプログラムが組まれているのですが、それに対して規律と誇りを持ってハードワークする姿勢というのは、日本で身に付けたと思っています」
ーーDB選手が抜けた後を担う若い選手たちに期待していることはありますか?

「若手選手たちはすでに成長、進歩をしていて、チームの中でも大切な役割を果たしていると思います。スピアーズには本当に良い若手選手がたくさんいますが、ハヤテ(江良)、タメフサ、ユウヤ(廣瀬)、コウガ(根塚)はとても高い意識を持ってラグビーと向き合っているのを感じますし、チームトークでも他の選手をリードしてくれています。だから本当に心配はしていません。チームが進んでいる方向も正しいと感じますから、これからはそこを更に、どこまで良くしていけるかというところが大事なのではないかと思います」

トレーニングに取り組む姿勢、試合への準備、プロフェッショナルとして若手の鑑となっていた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】


ーーDB選手の言葉で心に残っているのが「来た時よりも良くなってチームを出ていく」です。ご自身が良くなったところや、スピアーズが良くなったところ、教えてください。

「まずは日本というこの国が自分を変えてくれたと感じています。いろいろな物事の進め方、文化、生活様式も含めてなのですが、本当に素晴らしいものがあると感じています。例えば…単純な話に聞こえるかもしれませんが…自転車で駅に行って、そこから電車に乗って移動するといった、とてもシンプルな事に対する安全性も含め、生活そのものがとてもエンジョイできました。そうしたライフスタイルも含め、日本が自分を変え、成長させてくれたと思っています。ラグビーに関して言うと、どんな状況でも、とにかくハードワークをして物事をより良くしていこうとする日本の人たちの勤勉性から多くを学ばせてもらいました。チームとしては、試合でも練習でも、チームとして少しでも何かを良くする、何かを変えていくという努力を怠りませんでした。それはフランHCがそういった方針でチーム全体をリードし続けてくれたからというのもあるのですが、そこを大切にしてきたことは間違っていないですし、実際にちゃんとできていると思います。その中で、自分がスピアーズで経験させてもらった事に本当に感謝していますし、そういう時間を過ごせて良かったと思っています」

トライをした選手、倒れている選手、怪我をした選手…いつもそばにいて手を差し伸べる。本当にどんなときも”そこにいる”のがデーヴィッド・ブルブリングという人間だ。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

ーー最後に、オレンジアーミーの皆さんにメッセージをお願いします

「どんな天気でもどんな場所でも、いつも応援に駆けつけてくれたオレンジアーミーのみなさんの心意気に心から感謝しています。みなさんのその行動力に驚かされると同時に、これ以上ない愛をいつも感じていました。皆さんが応援してくれたおかげで頑張れたシーンは今まで何度もありました。私たち選手にとって、皆さんの存在は大きな大きな意味があります。引退した後は、私もオレンジアーミーになりますが、引き続きスピアーズが前へ進めるようサポートして、皆さんと一緒にスピアーズを応援をしていきたいと思っています。ありがとう!」

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

取材・文:オフィス男気大陸
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、日本ラグビーの最高峰「ジャパンラグビーリーグワン」に所属するラグビーチームです。。1978年創部し1990年にクボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市の(株)クボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備しました。「Proud Billboard」のビジョンの元、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っています。またSDGsの推進や普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進しています。

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