102年目の快挙、欧州の舞台へ――。現地ブランドマネージャーが見たスタジアムと街の熱狂とはー?【VOICE OF MIRACLE】
◾️ベルギーでのマーケティング部門のキーマンが見た「奇跡」のシーズンとは
■スタジアムの熱狂と「ハスペンゴウの精神」の融合
「個別の試合ごとに一般チケットを購入する人が非常に多く、平均観客数が増えました。さらにプレーオフ1の試合をスタジアムで後押しするために、約6,000人のサポーターがプレーオフ1のシーズンチケットを申し込みました」
「チームの洗練されたフットボールと、ハスペンゴウ特有の闘争心が融合しているので、サポーターは非常に熱狂しています。そのため、観客数が増えただけでなく、スタジアムの雰囲気もさらに熱いものとなりました。まさに私たちのモットーである『Voetbal, Volk & Vuur(フットボール、人々、そして情熱)』そのものです」
クラブが見せる快進撃の影響は、スタジアムの壁を越えて街全体へと波及している。例年と比べても、街におけるクラブの存在感はかつてないほど高まっている。サポーターたちのクラブへの誇りは、グッズショップの売上だけではなく、さまざまな形で表れているとバートは語る。
「街では常にSTVV話題の中心になっていることです。誰もがクラブを誇りに思い、職場のランチタイム、バーのカウンター、自宅の食卓など、いたるところでクラブについて語り合っています。サポーターも自宅の窓から自主的にSTVVの旗を掲げる姿なども見られます。プレーオフ1の期間中はシント=トロイデン市の中央広場へと続くすべての道路にSTVVの装飾を見ることができます。さらに、5月22日(金)には、シント=トロイデン市当局から公式な表彰式に招待されています。すべての選手、スタッフ、従業員が参加し、サポーターの皆さんと共にこの歴史的なシーズンをお祝いする予定です」
■日本人選手たちの活躍と、地元サポーターとの深い絆
「ハスペンゴウの人々と日本人には多くの共通点があります。私たちは共に、規律を守り、親しみやすく、そして勤勉さを重んじています。そのため、STVVのサポーターや関係者は日本人選手に非常に強い親近感を抱いています」
それぞれの選手に対するファンからの愛情などは様々なところで現れている。小久保玲央ブライアン選手や、松澤海斗選手、後藤啓介選手にはファンによって独自のチャントが作られ、畑大雅選手はインスタグラムでのファンアカウントができるほどだ。
「主力に成長したヤマ(山本理仁選手)は、たえ間ない笑顔と親しみやすさで親しまれていますし、イトウ(伊藤涼太郎選手)は、若いSTVVサポーターの間で最大のアイドルの1人であり、STVVの枠を超えても、ベルギーで技術的に最も優れた選手の一人と見られています」
■日本人経営陣との歩み寄り、透明性が生んだ相互理解
しかし、ここ数年で印象が大きく向上する背景には、過去の試行錯誤があったという。
一部のサポーターからは、マンチェスター・シティやチェルシーの事例のように、海外の企業による買収によって、破格の投資が行われスポーツ面で大きな成功をもたらすのではないかという過度な期待があった。もう一方では、もう一方では、当然文化的な違いもあったという。しかし経営陣同士が大きく歩み寄れた理由について、バートはいくつかの重要な要素を挙げた。
「まず、STVVの経営陣が、クラブ内部でストレートでオープンなコミュニケーションを選択したことです。サポーターの皆さんも、この姿勢に自分たちと通じるものを感じてくれています。次に、CEOの立石氏がサポーターとの対話に多大な努力を傾けてくれたことです。例えば、少なくともシーズンに1回はファンミーティングを開催しサポーターの質問に真摯に答えたり、ここ数シーズンはSNSで『T-Time』というコーナーを設け、“ミスターT(立石氏)”がその時々のホットな話題について切り込んでいきました。そういったコミュニケーションがサポーターに受け入れられ、相互理解へと繋がったのです」
「ベルギーの多くのチームが財政的な負債を抱え込む中、私たちは堅実にリソースを管理し、一歩一歩着実に財政的成長を遂げる道を選んだのです。サポーターの皆さんも、日本のオーナーやパートナーの皆さんによる多大な支援のおかげであるということを非常によく理解しています。このメッセージを一貫して発信し続けることで、サポーターも長期的なビジョンに共感し、そのビジョンがスポーツ面で確実に実を結んでいることを実感してくれています」
■「奇跡」は102年の歴史的なターニングポイントを迎え、舞台は欧州へ
「この出場権獲得が私たちにとって何を意味するのか、言葉で言い表すのは難しいです。STVVのサポーターは102年もの間、トロフィーを掲げることも欧州大会を体験することもなく、純粋なクラブへの愛情が、STVVのファンである理由でした。カナリーズとして、私たちは何度も落胆や降格を経験してきましたが、それでも心の中の情熱が消えることはありませんでした。これほどの長い時間を経て、そのクラブ愛がついに報われたのです」
「プレーオフでアンデルレヒトに勝利し、ヨーロッパへの大きな一歩を踏み出した時、私自身、目に涙を浮かべていました。スタンドで周囲を見渡したとき、そうだったのは決して私だけではありませんでした。今や人々は来シーズンのヨーロッパでの対戦相手に胸を膨らませています。STVVと共に海外でのアウェイ戦を体験することは、彼らにとって一生の記憶に残る素晴らしい経験になるはずです」
この歴史的快挙は、ジャーナリストからの問い合わせや、SNSチャンネルのフォロワー数増加など注目度にも劇的な変化をもたらしている。しかし、バートはこの成功を通過点に過ぎないと位置づけている。
「個人的には、この出場権獲得はゴールではなく、始まりに過ぎないと考えています。これまでの歴史から、アナリストたち、そして時には私たち自身のサポーターでさえもは以前、STVVを『スモールクラブ』と表現していました。しかし、今やより長期的な視点で上位争いに定着し続けようという野心が確実に生まれているのを感じます」
■ベルギーと日本の架け橋に――独自のマーケティング戦略とは
「私たちのすべてのコミュニケーション、STVVというクラブの特徴は、『フットボール文化』を重んじ、非常に『ストレート』であり、そして『ジャイアントキラー』としてビッグクラブを脅かす存在であるということです。さらに、私たちはシント=トロイデンをその中心に据え、ハッセルトからハンニュイ、ティエネンからトンゲレンにまで至る『大ハスペンゴウ(Groot-Haspengouw)』という非常に特定の地域にフォーカスしています」
大ハスペンゴウのライトファンをスタジアム観戦に誘うため、華やかな試合前ショーや試合当日のバックステージツアー、スタジアム内でのアフターパーティーといった試合前後も楽しめる工夫を凝らしているという 。そこからさらにシーズンチケットホルダーへの引き上げを図り 、最終的にはサポーターの声に耳を傾け経営に反映させることで、彼らにクラブの「アンバサダー」になってもらうための取り組みも怠らない 。
具体的には、クラブ側が一方的に発信するのではなく、サポーターの声に深く耳を傾けて経営やスタジアム作りに反映させるなど参加の機会を重視している。例えば、スタジアム内に描くレジェンド選手10人の壁画をサポーターの投票によって決定したり、熱狂的なファン4人が立ち上げたファンポッドキャスト(BINK podcast)をクラブが後押しし、今では数千人が聴取する公式規模のメディアへと成長させたりしている。このようにファン自身に当事者意識を持たせ、クラブとの強固な絆を築くことで、サポーターが自発的に新しい仲間をスタジアムへと連れてくる好循環を生み出している。
「日本のコミュニティに対しては、ベルギーと日本の双方にいるスタッフが連携し、日本人選手たちをはじめ魅力的なストーリー作りに尽力しています。日本人選手が海外移住し、そこでフットボールプレイヤーとして、また一人の人間として成長していく姿を見るのは、非常に興味深いことだと想像できます。ベルギー国内でも、私たちは日本人選手に関するニュースを定期的に発信しています。そして逆に、日本に向けてもハスペンゴウでの生活についての情報が発信されています。この日本とハスペンゴウの間で行われる相互の文化交流こそが、このクラブをこれほどユニークで強力なものにしている理由です」
今シーズンSTVVの活躍によって、UEFAヨーロッパリーグ プレーオフ出場という結果を引き寄せた。その「奇跡」はSTVVの新たなる未来へのスタートに過ぎないのかもしれない。
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