プロバスケチームが、なぜ「こども食堂」を? 秋田ノーザンハピネッツと地域が育む、誰もがホッとできる“第3の居場所”
なぜ、勝敗と直接関係のない「こども食堂」をプロバスケットボールチームが持つ必要があったのか。運営の背景、継続の仕組み、利用者に起きている変化、そして地域へ広がる手応えを、秋田ノーザンハピネッツ株式会社で「みんなのテーブル」を担当する小原諒平さんに聞いた。
プロクラブが“食卓”を持つ理由
「もともとは、クラブとして、選手にちゃんとした栄養のある食事を提供したいという思いがありました。ただ、バスケはスポーツチームの中でも選手やスタッフの人数が少ないので、そこだけのために整備するのがコスト面でも大変で、なかなか進まない事情がありました」
一方で秋田には、別の課題がある。全国的にこども食堂が増える中で、秋田県ではまだ十分に広がっていない現状があり、利用したくても「行きづらい」という声もあったという。そこで浮上したのが、“県民球団”を掲げる秋田ノーザンハピネッツのスポーツで地域を盛り上げるというミッションとの共通点だった。
「スポーツチームがやることで地元との連携や地域を支えることができる。僕らはプロバスケットチームですが、エンタメ・娯楽を主流にしているので、こども食堂の行きづらいというイメージを“明るく楽しい”ということにアップデートできるんじゃないかと。だとしたら我々こそやる意味がある、というところで始まったのがきっかけです」
常設の「みんなのテーブル」は2021年10月に開店。当時はコロナ禍で、社会貢献活動に助成金が出る制度があった。初期費用のかかるこども食堂だからこそ、「採択いただけた」ことが大きかったと振り返る。
「常設」する地域への思い
「単発が意味がないとは決して思っていないです。単発でもすごい集結力で子どもの居場所づくりになっている団体さんはたくさんある。ただ、一人親家庭を支援したいとなると、なるべく多く営業することで、気軽に寄って生活の一部の助けになってほしいと思いました」
「みんなのテーブル」を、“支援を受けに行く場所”ではなく、“いつでも立ち寄れる場所”へ。だからこそ空間づくりにも工夫がある。居抜き物件でコストを抑えつつ、照明を増やし明るい雰囲気をつくる。象徴的な大きなテーブルは、明るく楽しい食事をという思いから「みんなで囲む」体験そのものを形にした。
「子どもたちがまた来たいと言ってくれれば、保護者も使いやすいと思うので、対話をすごく大事にしています。ボランティアの方や学生スタッフにも、誰とどんな会話をしたかをメモしたり、次の会話に役立てることをしています」
訪れる子どもは、人見知りの子もいるという。そんなときは、好きな授業や食べ物の話から始めたり、宿題を手伝うことも。小さなやり取りの積み重ねから信頼が生まれ、「また行きたい」へと変わっていく。
「みんなのテーブル」ができて4年半。来客は1日平均30人、総来店者数は2万人を超え、リピーターだけではなく新規の方でも気軽に利用する方が着実に増えている。
“第3の居場所”が育つとき
その中で軸になるのは、地元企業からの協賛金と食材寄付だ。
「我々の活動にご理解いただいて継続的に支えていただく協賛金があります。“自社ではできないから、代わりにやってほしい”と真摯に思いを伝えてくださることもあります。そういった熱意を無駄にしないように、というのがまず原則としてあります」
収益面では「会社として許容できる範囲内」での持ち出しもあり、現状は赤字。それでも続けられているのは、現場で確かな変化が見えていることも大きい。
「設立から4年半経ちましたが、変化だらけです。食育で言うと、家だと残すけどここだと食べてくれる、嫌いなものが食べられるようになった、料理に興味を持ったとか。良い反響をいただいています。あと、お兄さんやお姉さんに言われたら勉強する子も多いようで、そのためにここに来るという子もいます(笑)」
さらに大きな変化は、親同士のつながりだ。ひとり親の場合、家での孤食や外食回数も少なくなる中、周囲との連携も希薄になりがちだ。親が「話す相手」を得ることは、孤立の予防にもつながる。
「親御さん同士の交流が増えました、話し相手ができて、地域のコミュニケーションが広がっていくことはとても大事だと思っています」
今後の展望として小原さんが挙げるのは、「スポーツチームらしさ」をもっと出すこと。2店舗目となる「秋田ノーザンゲートスクエア店」が2025年10月に開店した。その理由の一つは、選手が関われる導線をより強くするためだった。
「当初想定したよりも選手の交流は現状できていない。2店舗目はチームのホームアリーナ練習場に隣接している場所。より来店される方と選手との関わりを生むことになればと考えています」
さらに近年、小原さんたち秋田ノーザンハピネッツは「こども食堂のリブランディング」にも着手している。日本財団の助成を受け、秋田県内25市町村を訪問しながら、子どもの居場所づくりと機会格差を是正していくプロジェクトだ。
キッチンカーとプレーカー機能(遊び・運動)を兼ね備えた「プレイキッチンカー」で、「移動する居場所」を届けている。
単に食事を提供するだけではない。選手やスタッフが一緒に体を動かし、鬼ごっこをし、遊び道具を持ち込む。「まずは遊ぶ」ことから始め、そのあとに食卓を囲む。
「こども食堂は、“困っている人が行く場所”というイメージがあると思います。でも、楽しい場所、みんなで集まる場所なんだよ、ということを体験で伝えていきたい」と小原さんは話す。
「将来的には複合的な支援モデルを確立して、BリーグやJリーグなどの他地域のプロスポーツチームにも、必要性のある地域には導入をしていただき普及することを目指しています」
改めてスポーツチームが地域に関わる意味を尋ねると、小原さんはこう話す。
「県民球団として、より愛されるクラブを目指していく中で、『みんなのテーブル』のように日常の中で関われる場所を持つことに意味があると思っています」
勝敗の外側にある場所が、クラブの“使命”と結びつくとき、地域との距離は確実に縮まる。
もし自分のまちに、応援しているチームがあったら。試合の日だけではなく、日常でも顔を合わせられたら――。「みんなのテーブル」は、その問いに対する一つの答えを、常設のこども食堂として提示している。
text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
写真提供:秋田ノーザンハピネッツ
※本記事はパラサポWEBで2026年3月に掲載されたものです。
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