バーナード・フォーリー/稀代の10番、現役引退の舞台裏ーー「オレンジアーミーには大きな“借り”がある。ラグビーを続けられたのはファンのおかげ」
(2026年5月1日、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、クラブハウスにて取材)
優勝のタイトルを手にできたことは、特別な転機だった
「引退するという決断は、一朝一夕に下したものではありません。この決断について、そしてこれから進む道については、ここ1年ほどで多くの人と何度も話し合ってきました。特に母や兄たち、パートナーとはよく会話していましたね。スピアーズで長い間一緒にプレーしてきたラピース(ピーター“ラピース”ラブスカフニ選手)やDB(デーヴィッド・ブルブリング選手)、G(ゲラード・ファンデンヒーファー選手)、ハル(立川理道選手)とは『みんな同じタイミングで引退したいね』と話していて、自分のタイミング的には今が自然な流れなのでは、と感じて決めました」
「仲間たちと過ごせる最後のシーズンであることを踏まえて、スピアーズでの毎日を楽しみ、瞬間瞬間を大切にしたいと思っています。ラストシーズンである点がトリガー、いい意味での“きっかけ”になっているのです。スタンドにいる大勢のファンたちの前でプレーする機会は、もうそんなに多くはないでしょう。その実感が今になって湧いてきています。ファンのみなさんが私たちの試合を観て喜ぶ様子を目の当たりにできることは、本当にすばらしいことです。そうした瞬間を心から味わおう、かみしめようと努めています」
「特に印象に残っているのは、2023年の決勝戦で勝利し、優勝できたことです。チームにとって、優勝は史上初の快挙。長年関わってきた人が多くいる中で、私たちがずっと目指してきたタイトルをついに手にできたことは、本当に特別な転機だったと思います。去年は決勝まで進んだものの、優勝には届きませんでした。だからこそ、今年は決勝戦に駒を進めて、いいかたちで締めくくりたいと思っています」
「たくさんありますね。スピアーズに来て、さまざまな文化を持つ人々とラグビーをプレーする機会を得られました。フィールド上で私が学んだことの一つは、チームとして協力し、一つの文化を作り上げることの大切さです。日本、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど、さまざまなラグビースタイルが存在するなか、どれだけ全員が一丸となってプレーできるかという点は、非常に重要だと思います。また、プレースタイルに関する知見をたくさん得ると同時に、人々の考え方がこれほどまでに異なるのだということを理解する機会にもなりました。日本の文化に適応し、なじんでいくことで吸収できたと思います」
「オーストラリア人はみんなコミュニケーション上手(笑)。いろんな人と出会えるのはすばらしいことですし、人を歓迎することは難しいことじゃない。とても簡単なことです。誰にでも礼儀正しく振る舞い、歓迎することには何のコストもかかりませんから。人を歓迎することは、大きな家族を持つようなもの。人とのつながりをはぐくむためには、相手に関心を持ち、交流することが大切だと思います。そうすれば、より大きなものを得られるのです」
「おっしゃる通りです。10番はプレー中に要求したり指示を出したりするポジションで、ゲームをコントロールする役割を担います。若い頃から、いい10番になるには声を張り上げ、話し続け、多くの人とつながらなければならないと学んできました。これは間違いなく、人とのコミュニケーションを築く能力の一部だと感じています」
フラン・ルディケHCの熱心な姿勢は、スピアーズの大きな原動力
「彼と一緒にラグビーができて、本当に光栄でした。フランはものすごくハードワーカーで献身的、チームを成長させてきた人です。多くの試合を分析し、ミーティングにも数多く参加するなど、スピアーズのために熱心に取り組んでいます。それは彼自身がチームの成功を願っているからであり、実際に大きな原動力となっていました。
もう一つ言えるのは、フランが人としてもコーチとしても、信じられないほどの変化と成長を遂げたということです。当初は彼自身が正しいと思ったやり方で進めていましたが、なかなかうまくいかないことがあった中、ここ数年あらゆる面で進化し、現代のラグビーに適用して変化することができたと思います。彼の成長と進化する能力には本当に感銘を受けています。
フランについて特筆すべき点は、彼がフィードバックや批判に非常にオープンなことです。意見に耳を傾けてくれ、真摯に受け止めてくれます。そういったことが、すべてチームのためになると理解しているのです。先ほどもお伝えしたように、フランはチームファーストで、常に物事をよりよくしようと意欲的ですから。自分のスピアーズでのキャリアにおいて、彼は本当にすばらしい存在でした」
「自分は……ハルミチ(笑)。一番の親友のような存在です」
日本でのラグビーワールドカップは、かけがえのない経験に
「国中が一体となって、ブレイブ・ブロッサムズ(ラグビー日本代表)だけでなく他のチームを応援し、ワールドカップを観戦するために日本を訪れた人々を温かく迎えていたことです。本当にすばらしい大会で、その一員になれたことはとても幸運でした。オーストラリア代表の視点から見れば結果はあまりよくなかったし、個人のパフォーマンスもそこまでいいものではありませんでした。ですが、日本でワールドカップを経験でき、かけがえのない時間を過ごせました。日本が見事に大会を運営したこと、日本のファンがどこへでも足を運んでラグビーを心から応援してくれたこと、そして自分たちのために時間を割いてサポートしてくれたことーー。その記憶が私から消えることはありません」
「行きましょう! オーストラリアでのワールドカップがとても楽しみです。熱量を持った多くのファンが集まり、ラグビーという国際的なスポーツを祝うすばらしい機会ですから。ブレイブ・ブロッサムズがどのような活躍を見せるか、とてもワクワクしています。スピアーズの選手たちがたくさん出場することで、日本代表は強くなると考えています。
2027年のワールドカップは、オーストラリアのラグビー界にとって非常に大きな出来事です。これまでオーストラリアでは、ラグビーは新聞の一面を飾るスポーツではありませんでした。ワールドカップの開催は、ラグビーという競技がいかにすばらしく、グローバルなものかを示すショーケースになるのではないでしょうか」
ーーフォーリー選手が好きなオーストラリアのスタジアムを教えてください。
「シドニー・フットボール・スタジアム(アリアンツ・スタジアム)は、日本のみなさんがきっと楽しめると思います。また、2027年のワールドカップで日本代表vsフランス代表の試合が行われるブリスベンのサンコープ・スタジアムもすばらしいスタジアム。ワラビーズ(ラグビーオーストラリア代表)の対戦成績がよく、私にとって非常に縁のある場所です。スタジアムでの試合だけでなく、観光やオーストラリアの文化も楽しんで、充実した時間を過ごしてほしいと願っています」
スピアーズのロッカールームで仲間との絆が生まれた
「まず思い浮かぶのは、スピアーズのロッカールームです。仲間たちととても楽しい時間を過ごしました。ここでジョークを言い合ったり、ディスカッションを重ねたりして、すばらしい絆が生まれたのです。ロッカールームにはコーヒーマシンも置いてあって、私たちの集いの場になっています。
日本食は、お寿司やラーメンがすばらしい! 家の近所に行きつけのお寿司屋さんがあって、そこの握りは全般好きですが、最近食べてめっちゃおいしかったのはブリ。ラーメンはとんこつが好きだけど、ちょっとデブになる(笑)。そばが入った広島風のお好み焼きもお気に入り。場所でいうと原宿、青山、渋谷エリアは雰囲気がとてもクールで、小さな通りのこじんまりとしたカフェやショッピングも恋しくなりそうです」
ーーフォーリー選手は日本各地を旅しているとお聞きしました。
「熊本、大分、宮崎、福岡など九州の各地を巡る旅のほか、沖縄本島や石垣島、京都、大阪、あとはスキーが好きで長野によく行きました。なかでも京都は印象的。僕は歴史が本当に大好きなんです。日本の祖先について学べるすてきな場所でした」
「小さな頃から自分自身ラグビーをするにあたって、ハッピーな気持ちでチームメイトとどれだけエンジョイできるかということを第一に考えてきました。プレーすることを“楽しみながらみんなと一生懸命頑張る機会”と捉え、そこから勝ち負けがついてくると思っているのです。プロ選手としてのキャリアに進んでからも、この考え方は常に続いています。小さな子どもや若手の選手たちには『あまり深刻になりすぎないで。しっかりハードワークして、コーチの言うことも聞きつつ、ラグビーをエンジョイできるかという点に重きを置いてほしい』と伝えたいです」
ーーフォーリー選手は生まれ変わってもラグビー選手になりたいですか?
「もちろんです。ラグビーに関われたことでエンジョイできたし、さまざまな経験をさせてもらえました。他の仕事だったら、自分の旅はここまでのものにならなかったかもしれません。人とのつながりや思い出もラグビーのおかげでできたので、次もラグビー選手がいいですね。ただ、他になるとしたら、ゴルファーはあり得るかもしれません」
ーー生まれ変わっても10番ですか? 他にチャレンジしたいポジションはありますか。
「スタンドオフ一択です。もしプロップだったら、もうやらないかな(笑)」
「オレンジアーミーのみなさんには感謝しかありません。自分がこれだけ楽しむことができ、ハッピーでいられたのも、みなさんのおかげです。オレンジアーミーには大きな“借り”があるのです。というのも、毎試合雨でもひょうでも、ものすごく暑い日でも、笑顔でスタジアムに応援に来てくれました。これは、自分がここまでスピアーズで現役を続けられた主な理由でもあります。ファンがいてくれたからこそ、日本での旅がいいものになりました。今後もぜひサポートを続けてください。オレンジアーミーの存在がチームを変えますから」
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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