山本祐大トレードを考える。DeNAは松尾汐恩に何を託し、尾形崇斗に何を見たのか

note
チーム・協会
【これはnoteに投稿された拓斗さんによる記事です。】
衝撃のトレードが発表された。ファイターズファンであるが、セ・リーグではベイスターズを応援している私には無視できないものでもある。

DeNA山本祐大捕手と、ソフトバンク尾形崇斗投手・井上朋也内野手による2対2の交換トレードが成立した。山本はまだ27歳。2023年に71試合、2024年に108試合、2025年に104試合に出場し、今季も捕手陣最多の28試合に出場していたと報じられている。つまり、衰えたベテランの整理でも、余剰戦力の放出でもない。主戦捕手をシーズン途中に動かした、かなり異例の決断だった。

では、なぜDeNAはここまで思い切れたのか。私なりに考察していきたい。

感情を抜きにして見るなら、このトレードの軸は二つあると思う。ひとつは、松尾汐恩に捕手としての機会を本格的に渡すこと。もうひとつは、尾形崇斗という球界上位クラスの速球資産を、今なら獲れると判断したことだ。

まず、松尾の存在である。

山本を出した理由を「松尾を育てたいから」とだけ書くと、少し浅い。松尾を育てたいだけなら、山本を残したまま週に何試合か起用する方法もある。実際、若手捕手を少しずつ経験させる形なら、主戦捕手を放出する必要まではない。

ただ、捕手の育成は単なる出場機会では足りない。

打者なら打席数、投手なら投球回や球数が成長機会として分かりやすい。しかし捕手の場合、本当に必要なのは「マスクを被る回数」だけではなく、「試合を動かす判断回数」だ。投手の状態をどう読むか。カウントごとにどの球を選ぶか。ピンチでどこまで攻めるか。勝ちパターンの投手をどう落ち着かせるか。連敗中、僅差、交流戦、終盤の一点差。そういう場面で任されて初めて、捕手としての経験値は増えていく。

山本がいる限り、松尾はどうしても「試される捕手」に留まりやすい。大事な場面、主戦投手、勝負所では山本が優先される。これは現場としては自然な判断だ。だが、編成やデータ管理の目線では、そこに松尾の成長機会を削るコストが発生しているとも見える。

つまり今回のトレードは、松尾にただ出場機会を与えるためではなく、正捕手としての判断機会を前倒しで渡すための決断だったのではないか。

まとめると
松尾を使うとしても、週1〜2試合。
相手や先発を選んだ起用。
大事な試合は山本。
終盤の勝負所も山本。
若手捕手は「経験」は積むけど、「チームを背負う経験」までは増えない。

ここにデータ管理的な機会損失がある。

つまりDeNAが見ていたかもしれないのは、単純な「山本のWAR」と「松尾のWAR」ではなく、山本を残すことで松尾の成長曲線がどれだけ遅れるかということ。

もちろん、それだけならまだ説明は足りない。山本はまだ若く、実績もあり、捕手としての市場価値も高い。現場目線なら、普通は出さない。特に捕手はサイン、投手との信頼関係、ベンチとの連係、相手打者への情報まで背負うポジションだ。しかも交流戦前に動かした今、両チームともサインや情報管理の再構築が必要になる。これはかなり重い。実際にこれからの数試合の影響にも間違いなくかかわってくるだろう。

だから、松尾への移行だけではなく、もう一つの条件が必要になる。そこで尾形崇斗だ。

尾形は今季10試合で防御率3.00、150キロ台のストレートを武器にする投手と報じられている。さらにトレード後には「DeNAで日本人最速を狙う」と語った記事も出ている。ソフトバンク公式のコメントでも、尾形はDeNAについて「テクノロジーが発展している印象。そういうものを活用するのが好き」と話している。ここはかなり象徴的だ。

DeNA側から見れば、尾形は単なる中継ぎ補強ではない。まだ役割が完全に固定されていない一方で、速球の天井は明確に高い。つまり、ソフトバンク内で絶対的な勝ちパターンに入り切る前だからこそ、山本という高価値カードで獲りに行けた可能性がある。

これが今回のタイミングの本質ではないか。

尾形がすでにソフトバンクの勝ちパターンに完全定着していれば、獲得はもっと難しかったはずだ。逆に、まだ一軍戦力として見込みが薄い投手なら、山本を出すほどの価値にはならない。今の尾形は、その中間にいる。球界上位級の速球を持ちながら、役割はまだ最大化されていない。DeNAはそこに価値のズレを見たのだと思う。

そしてDeNAは、そういう「内容」を見る球団でもある。

DeNAは2025年シーズンからAIプロダクト「投手AI」を本格導入し、投手の現在地と一軍レベルとの差をスコア化する取り組みを進めていると報じられている。つまり、実成績だけではなく、球質、制球、改善余地、到達可能性を見て選手を評価する土台がある球団だ。

だから今回も、表面上の実績だけで山本と尾形を比べたのではないだろう。

山本を残した場合の捕手安定。
松尾を前に出した場合の成長曲線。
尾形を加えた場合の投手陣の天井。
井上朋也を加えた場合の右打者としての将来価値。
そして、山本を出すことで発生するサイン再構築や情報流出のリスク。

そうした要素を、同じテーブルに乗せた上で、DeNAは山本を出す方に傾いたのではないか。

井上については、大変失礼ではあるが、主目的というより追加資産に近いと思う。もちろん、2020年ドラフト1位の右打者候補であり、まったくの数合わせではない。ただ、今回のトレードの中心にあるのは、やはり尾形だろう。井上は、尾形獲得に厚みを持たせるアップサイド枠。尾形が投手陣の天井を上げ、井上が将来的に右の打力として立てば、山本放出のリスクを複数方向で回収できる。

ただし、

捕手の価値は、データが最も読み違えやすい領域の一つだ。打球速度や球速、コマンド、空振り率は比較的数値にしやすい。しかし捕手が投手を落ち着かせる力、試合の間を読む力、失点後に投手を戻す力、ベンチと投手の間に立つ力は、簡単には数値化できない。

だからこのトレードは、先進的である一方で、かなり冷たい判断にも見える。

DeNAは山本を見切ったわけではないと思う。むしろ、山本の価値を高く見ていたからこそ、今動かした。山本が高く売れる今だから、尾形を獲れる。山本がいる今だから、松尾の正捕手機会を前倒しで作れる。山本の現在価値を、松尾の判断機会、尾形の速球資産、井上の将来打力に変換した。そう見ると、今回のトレードは単なる世代交代ではなく、ロースター全体の再設計に近い。

では、このトレードの評価はどこで決まるのか。

山本がソフトバンクで活躍するかどうかだけでは決まらない。山本が戦力になる可能性は高い。問題は、DeNA側がこのトレードで作った新しい構造を、本当に勝ちに変えられるかだ。

結論として、DeNAは今季を捨てたわけではない。
ただし、今季だけを見ているわけでもない。

山本祐大という現在価値を手放し、松尾汐恩に正捕手としての判断機会を渡し、尾形崇斗という速球資産を獲りに行った。そこに井上朋也の将来性も加えた。

このトレードは、感情的にはかなり受け入れがたい。だが、編成目線で見れば、DeNAが「安心できる現在」よりも「次の勝ち方の期待値」を選んだトレードだったのかもしれない。

だから今後見るべきは、山本を出した是非そのものではない。

松尾は“育成のために使われる”のか、“勝つために任される”のか。尾形は“便利屋”で終わるのか、“投手陣の天井を上げる駒”になるのか。

この二つが見えてきた時、今回のトレードの本当の意味も見えてくるはずだ。


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