日本一の準備──小牧日菜多が貫く勝者のマインド【東京山九フェニックス】インタビュー
東京山九フェニックスのプロップ・小牧日菜多(こまき・ひなた)は、その爆発的なパワーから「進撃のゴジラ」の異名を持ち、チームの最前線で体を張り続ける選手だ。
2021年W杯での悔しさを糧に、海外挑戦も見据えて名門フェニックスの門を叩いた彼女は今シーズン、新キャプテンとしてさらなる高みを目指している。
そんな彼女の原点と、内に秘めた熱きマインドに迫った。
じゃんけんで負けて始まったラグビー人生
当時、地元のチームに女子選手が3人おり、大会出場に必要な「あと2人」を探していた。そこで白羽の矢が立ったのが、運動会で俊足を見せていた小牧だった。クラスメイトの父親がコーチを務めていたことから声がかかり、「じゃんけんに負けたら入れ」と誘われた。勝負の神様は、彼女を楕円球の世界へと引きずり込んだ。
「元々、体が大きくて運動神経が良かったのが理由だと思います。でも、始めた時はあまりやりたくなかったんです。練習が『吉本新喜劇』の放送時間と重なっていたので、見られなくなるのが嫌で行きたくないと言ってました。笑」
笑いながら当時を振り返るが、この「じゃんけん」が、後に日本代表へと続く道の第一歩となったのである。
京都の「怪物コンビ」からライバルへ
京都JOINUSへの加入は、タグラグビーチームでの活躍に注目したコーチから声をかけられたのがきっかけだった。
小学時代から163cm、60kgという恵まれた体格と高い身体能力で活躍した小牧と、チームにはもう1人、小学生にして170cmを超える長身の選手がいた。2人は当時の京都で「怪物コンビ」として注目されていたのだ。
「タグラグビーの大会でJOINUSのコーチに誘われたのがきっかけです。私ともう1人の子がすごく大きくて目立っていたみたいで『二人とも一緒にやろう』と声をかけてもらいました。そのチームメイトは現在三重パールズでプレーしている中村沙弥選手。2024年の全国大会決勝で彼女と初めて対戦できた時は、めちゃくちゃ嬉しかったです」
かつての盟友が、今は日本一を争う最大のライバル。その再会は、彼女にとって特別なエピソードとなった。
吉田沙保里から学んだ「日本一の準備」
そんな彼女の考えのベースとなったのは、意外にもラグビー界の外にいた。
レスリング界のレジェンド吉田沙保里氏だ。高校時代に手にした吉田氏の著書が、彼女の意識を根本から変えた。
「『勝ち続けるものには勝ち続ける理由がある』という言葉、そしてその準備の難しさに感銘を受けました。日本一になりたいなら、目標として持つだけじゃなく日本一になれる練習をしなければならない。自分たちにも『日本一の準備』が必要だと、毎日思いながら取り組むようになりました」
競技の垣根を越え、勝負の真理を説く言葉を胸に、小牧は日々のトレーニングと向き合った。日本一になるために必要な準備とは何か。その積み重ねが、今の彼女のプレースタイルを支えている。
フェニックスへの決断と「社会人」としての自覚
「次のW杯までに海外へ挑戦したい」という強い思い。そのタイミングで当時のフェニックス四宮洋平GMからかけられた言葉が、彼女の心を揺さぶった。海外挑戦を見据えたビジョン、そして社会人としてのキャリア。その両立を考えた末、彼女は山九株式会社への入社とフェニックスへの加入を決意した。
「海外に挑戦できる環境があり、社会人としての経験も積んでいきたいと考えていたので、出社や社業のキャリアも両立できる環境を選びました。競技だけでなく、1人の人間としても成長したい。それがフェニックスを選んだ理由です」
アスリートとして、そして社会人として。小牧は2つのフィールドで全力疾走を続けている。
「1cmでも1mmでも前へ」貫く執念のスタイル
幼少期から、ゲームや卓球でも勝つまでやめないほどの「超」がつく負けず嫌い。その性格が、フィールドで凄まじい推進力へと変わる。
そのプレースタイルの核心にあるのが、高校時代の監督の言葉「1cmでも1mmでも前に出ろ」という教えである。どれほど相手の圧力が強かろうと、泥臭く、執拗に前進を試みる。その意識は、今の彼女の血肉となっている。
「高校時代の監督から言われた言葉を、今でも徹底しています。アタックやディフェンスはもちろん、スクラムのようなセットプレーにおいても、この『前へ』を強く意識しています」
相手をなぎ倒すアタックだけでなく、一歩も引かないディフェンス、そしてFWの魂であるスクラム。あらゆる局面で、彼女はひたすらに前を向き続けている。
挫折を知り、手にした新キャプテンの覚悟
「代表で試合に出られない時期を経験して、腐ることなく努力を続ける仲間の存在や、試合に出る重みを改めて感じました。試合に出れないメンバーも含めて全員で強いチームを作っているんだという意識。これは常に試合に出続けてきた私にとって、初めての経験でした。結果としてチームへの愛が深まりました」
その深い愛を持って、今シーズン、小牧はキャプテンに就任した。前任者の背中を追うのではなく、「私らしく」あることを選んだ彼女。フェニックスの強みである「個々の良さを引き出せるチーム」を目指し、先頭に立って体を張り続ける。
海外挑戦で見据える「世界」と「人としての成長」
シドニーの「Southern District women’s rugby team」へ加入し、3ヶ月間の短期留学を決断したのだ。
今回の挑戦を決めた理由は明確だ。
1つは、自身の長所を伸ばし、短所を克服するため。世界基準のフィジカルに身を置き、さらなる進化を求めている。
「得意なボールキャリーでは、自分より大きな相手にも負けない強さを身につけたい。また、課題であるスクラムについても、週1回のペースで試合があるので日本の倍近く組むことができるし、大きな相手と対峙することが、成長への近道だと考えました」
もう1つの理由は、人間力の向上。
過去2度の留学経験から、海外での出会いや体験を通じて自分を一回りも二回りも大きくしてくれると確信している。
「快く送り出してくれたチームメイトやスタッフ、会社の皆さんに感謝を伝えたい。不安や緊張もあるが、少しでも成長した姿を見せられるよう頑張りたいです。日本一奪還に向けてチームへ還元できるよう、多くのことを学んできます」
ラグビーの技術のみならず、人間としても一回り大きくなって帰還する。
その覚悟が、彼女を南半球の激しい戦いへと突き動かしている。
オフの顔は「アクティブなこだわり派」
最近、新たに気付いた特技は「蟹を捌くこと」だと笑って語る。
「家族旅行で福井へ行った時、もう食べるところがないくらい綺麗に捌いて食べていたら、家族に認められました(笑)。」
昨年からラテアートにもハマっているそうだ。
「W杯のご褒美でエスプレッソマシンを買ってからハマって、毎朝起きたら一杯のコーヒーを入れて練習しています。遠征先で豆を買ってきて、上手くできたらチームメイトに見せ合ったりするのが楽しいです」
海や山などの自然が好きで、1〜2日の休みでも遠出をするアウトドア派でもある。
仲間たちとサーフィンや旅行を楽しむなど、チームメイトとの絆はグラウンドの外でも揺るぎない。
小牧が新キャプテンとしてグラウンドで躍動し、前へと突き進む時、東京山九フェニックスは再び頂点へと駆け上がるだろう。
彼女の視線は、すでに次のW杯、そしてその先にある「世界」を見据えている。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ