「今年無理だったら帰ろう」覚悟を決めた山本理仁 シント=トロイデンVV躍進の“キーワード”【VOICE OF MIRACLE】
今季、16シーズンぶりとなるプレーオフ1(上位6クラブによる優勝決定戦)への進出を果たしたシント=トロイデンVV(以下、STVV)。昨季の残留争いという苦境から一転、チームはいかにして現在の成績へと歩みを進めてきたのか。
本記事は、現在クラブが展開中の『MIRACLE STVV PROJECT』の一環として配信する特別連載です。経営陣、現場スタッフ、選手、そしてファンの皆様の「声(VOICE)」を通じて、今シーズンのSTVVの変化を多角的に振り返ります。
連載第2弾となる今回は、攻守において今季のチームの要となっているMF山本理仁選手の「声」をお届けします。
■レギュラーシーズン最終節を終えて5ゴール6アシスト
「自分自身の手応えとしては、得点とアシストが取れています。数字に表れているし、そういったのも自分の自信につながっています。今すごく伸び伸びとプレーできているので、手応えはもちろんあります」
「今思うと、相当雰囲気やばかったな、と思います。これが落ちるチームなのかな、という嫌な感じは正直していました。チーム内でも噛み合わないところが色んな局面で出てしまったので、難しかったなとは思います」
チームとしてうまく機能しなくなると、シーズン中に2度の監督交代。「喧嘩という喧嘩ではないですけど、選手それぞれの持つ文化だったり、個性があるなかでうまく噛み合わなかった感じですかね」混乱のなか、ピッチ上でも自己中心的なプレーが目立つようになってきた。
最終節までもつれた争いだったが、他会場の結果に助けられて残留。「できれば味わいたくないですけど。今の緊張感とは違ったものだったので、それは一つ経験にはなったかなと思います」と、今だから笑って振り返る。何はともあれ、ここで踏みとどまったからこそ今季があるからだ。
そして、苦しむチームとともに山本自身も難しい時期を過ごした。パリ五輪後にはスタメン出場が多かったものの、徐々にベンチを温める時間が増えていく。ベルギー1年目は右のウイングを経験し、本職のボランチで勝負したはずの1年。もどかしい思いもあったが、地道に努力を積み重ねた。
「出られない分、違うところで成長しようと、休みの前とかにもジムに行ったり、パーソナルのトレーニングに来てもらってやったり。ピッチではもちろんサッカーに集中していますけど、それ以外のところでもしっかりとやることはやれたのかなという1年でした」
元々、ポジティブな性格で、気持ちを切り換えるのは得意。それでも、過ぎていく時間に「焦りは常にありました」と明かす。「正直、シーズン始まる前は、今年無理だったら帰ろうかなという気持ちでした。それくらいの覚悟で入りました」。熱い思いが、目に見える数字で現れてきた。
「やっぱりこっちで評価されるのって、うまいプレーとかではなくて。結局なんでもいいから点を取るとか、なんか惜しいパスを出すとか、そういう分かりやすいのが評価されるので。そういうところを、今年は前面に出せているのかなと思います」
数字を残す上でより意識しているのは、「しっかり相手のボックスまで入っていく、止まらないというところ」。それを象徴するようなゴールが生まれたのは、第26節のデンデル戦だった。ペナルティーエリア内で相手ディフェンスに囲まれながらも、強引に掻いくぐって左足で打ち抜いた。
「その前のシーンで(谷口)彰悟くんが引き出されていたので、センターバックの位置でクロス対応をしていました。そこからカウンターでしっかり出ていって、相手のペナルティーエリアの中まで入っていけているというのが、成長を示せたシーンなのかなと思っています」
さらに、攻撃面だけではなく「守備のところでもガツンとボール奪いきれるシーンが増えたなとは思いますね」と自身でも成長を実感する。目指している選手像は、「何でもできる選手」。Jリーグではお目にかかれないような屈強な相手にも、当たり負けしないフィジカルが際立ってきた。
怪我を避けるためにも、シーズン中には大胆な肉体改造は行えないサッカー選手。それでもコツコツと積み上げた成果が出ており、「確実に成長はしています。1年目は飛ばされていました。今と比べたら、写真も見るからに弱そうなんですよ」と笑う。実際に写真を見比べてみてほしい。
■ワウター・ヴランケン監督のもとで生まれた「一体感」
「去年は負けが続いてしまうと、どうしても次の日の朝とか、チームのクラブハウス自体が暗い雰囲気はありました。今年は勝ったらもちろんみんなハッピーで来ると思いますけど、負けたときにその前の雰囲気を持ち込まないというか、そういうのが連敗しない理由なのかなと思います」
ステップアップを目指す若手の登竜門という一面もあるジュピラー・プロ・リーグ。そのため、チームよりも個のアピールを優先する選手も多いが、「今年のシント=トロイデンは、ちょっと違うかなと思います」。昨年4月に就任したワウター・ヴランケン監督が、「一体感」を大切にしているのだ。
「監督がそういったことを求めます。クオリティを持っていても、そういうことをやらない選手は使わないぞ、というスタンスなので。そういうことを、みんな理解してやれているなと思います。ベテランの彰悟くんをはじめ、チームにいい影響を日本人が与えているのかなというのもあります」
「何より最初、勝てていたので。それで、これで合っているんだな、というのを、ベルギーだったりこっちの選手たちも感じ取ってくれているのはあるかなと思います。最初、負けなしで何試合かスタートできたというのは、僕らにとっても大きかったのかなと思います」
転機となったのは、ホームにヘントを迎えた開幕戦だった。1-1の同点で迎えた後半43分に勝ち越すと、同アディショナルタイムに追加点。3-1で好スタートを切り、「ヘントはベルギーのなかでは大きいクラブだし、そういった相手に走り倒して勝てたのはすごく自信になった」と振り返る。
「どのシーズンもそうですけど、開幕してみないと分からないところはあるじゃないですか。俺ら大丈夫なのかな、みたいな不安は、毎年どのチームもあると思うんです。そういった不安を初戦で一発で抜け出して、そこから勝ち続けられたので、そういった自信は絶対に大きかったなと思います」
第13節から第17節まで5連勝を飾ると、1敗を挟んで第19節から第22節まで4連勝。ロッカールームでは「優勝」「CL(UEFAチャンピオンズリーグ)」といったワードが飛び交うようになる。「去年と真逆」という状況だが、「もうそこを目指すしかないだろ」と全員が同じ方向に向かっているのだ。
■はっきりと口にした「絶対にブレない一つの目標」
「そう見えますよね。でも実際にやっていると、そんなの関係ないな、というのは感じます。全然、僕らのほうがしっかりとフットボールするし、上位っぽいサッカーをできているなと、僕らは感じられているので。そういうのは関係ないと思います」
そして、町にもちょっとした変化が生まれている。「今年はけっこう声をかけられますね。去年までは特に何もなかったですけど、車の窓を開けて『きょう頑張れよ』みたいなことをよく言ってくれます」。選手やスタッフだけではなく、サポーターや町全体まで含めての「一体感」だ。
欧州サッカーと言えば、過激なフーリガンを想像する人もいるだろう。そんなイメージとは裏腹に、STVVのサポーターは「めっちゃ温かいです。びっくりしますよ」と言うほど。昨季の残留争いのなかでもブーイングはなく、「あれだけ負けても、まだ拍手してくれるんだ」と驚いたと明かす。
「挨拶に行ってもずっと歌ってくれました。そういう苦しいのを一緒に乗り越えた人たちに、今年しっかりと恩返ししたい。町としても盛り上がってくれたら嬉しいなと思います。スタジアムもそんなに大きくないので、いい意味で一緒に戦っている感じを、感じることができています」
「絶対にブレない一つの目標は、ワールドカップです」
パリ五輪では準々決勝でスペインに0-3で完敗。「オリンピックでスペインに負けて帰ってきて思ったのは、もう一回ああいう舞台に立ちたいなということ。そうなると、次はワールドカップだと思いました」。まだA代表に選出されたことはないが、次の4年間が勝負だと力を込める。
「ずっと目標にしてきたところですが、次の夏と考えると、まだ僕は一回も招集されていないので。もちろん隙があったら入りたいですが、現実的には難しいだろうなと思っています。ただ、このワールドカップが終わったら、もう入らないといけないという思いが逆に強いです」
STVVからは谷口彰悟、後藤啓介が3月の英国遠征にも招集されており、身近なところからも刺激を受ける日々。「よくスタジアムにもスタッフが足を運んでくれるので、ここでの活躍をしっかりと見てくれているのは実感します」。その一方で、代表入りのためにステップアップが必要とも考えている。
「次のステップは、プレミア以外かなと思っています。プレミア以外でしっかりと結果を残して、プレミア挑戦というのが僕は一番いいかなと。僕はバーっと行くタイプではないので、しっかりと段階を踏んでいったほうがいいなと思って、地に足をつけたステップアップができたらなと思います」
Jリーグでは東京ヴェルディ、ガンバ大阪でプレーした山本。「今年になって、より日本からの声援は感じています」と期待に応えたい思いは強い。強敵が揃うプレーオフ1で優勝、CL圏内を掴むには、もう1度“奇跡”が必要だ。STVV、そして山本の物語を、しっかりと目に焼き付けたい。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ