ミラノ・コルティナオリンピック フィギュアスケート男子シングルフリー
男子競技が始まる時間、にこまるはカナダの図書館にいました。なんと館内でパブリック・ビューイングを開催中。もしやこの大きな画面でフィギュア観戦できるのでは、と期待しましたが、ほぼホッケーとカーリングでした。フィギュアスケートのチームカナダ、思いのほか(失礼)大活躍なのに、残念。
いつもは印象に残った選手それぞれの演技に想いを馳せるのですが、今大会は「オリンピックの怖さ」が最も印象に残りました。スポーツに絶対はないのですね。
上手すぎる鍵山優真選手にミスが続き、強すぎるイリヤ・マリニン選手がまさかの崩れ。そんな中、「もしかしたらメダルを取れるかもしれない」という位置にいたミハイル・シャイドロフ選手が金メダル。本人も驚いた様子で、嬉しいというより信じられない、という表情でした。
アメリカのフィギュアスケート解説者ジャッキー・ウォンさんによると、これほど予想外の試合は見たことがないとのこと。強いて言えば、名選手が多数出場した1994年リレハメル・オリンピック男子シングルに近いそうです。
ブライアン・ボイタノ(1988金)、ビクトール・ペトレンコ(1992金)、エルビス・ストイコ(1994・1998銀)、フィリップ・キャンデローロ(1994・1998銅)らスターが並ぶ中、優勝したのはロシア代表20歳のアレクセイ・ウルマノフ選手。そのウルマノフが指導しているのが、シャイドロフ選手です。勝負運まで伝授したのでしょうか。
予想外の結果に、にこまるは25歳で夭逝した同郷のデニス・テンさん(ソチ五輪銅)が見守ってくれたのかも、などと思ってしまいました。シャイドロフ選手もテンさんにインスパイアされたとプレスカンファレンスで語ったそうです。
余談ですが、中野園子コーチが「坂本香織選手の成功はコーチの強運のおかげ」と話されていたのを聞いたことがあります。一流選手でさえ、やるべきことをやったら、あとは天に任せるしかない。人間ってすごいけれど、小さな存在でもあるのだなと感じました。
では、演技も少し振り返ってみます。
上位3選手
昨シーズン、美しい高難度ジャンプを武器に世界選手権で銀メダル(イリヤ・マリニン選手に次ぐ)。実力はすでに証明されています。
しかしオリンピックへのプレッシャーか、今シーズンは思うような演技ができていませんでした。ご本人も相当な重圧を感じている様子で、カザフスタンからの期待も大きかったように見受けられます。応援団も目立っていました。
今回のフリーは、トリプルアクセル+4回転サルコウという彼にしかできないコンビネーションジャンプからスタート。
4回転ルッツはやや乱れましたが、その後は教科書のように美しいジャンプを次々と成功させ、着実に得点を重ねていきました。
正直、この結果を予想していた人はほとんどいなかったのではないでしょうか。
点数が出た瞬間の表情には、解放感、そして涙。
優勝が決まった直後は、あまりの驚きにすぐには笑顔になれず、少し時間が止まったようでした。
その後コーチとともに観客の声援に応え、会場にはカザフスタン・コールが響き渡りました。
ウルマノフ・コーチ、耳元で何を言っています。
誰かインタビューで聞いてほしいです。
幸運を掴むのに、早いも遅いもありません。
本当におめでとうございます。どうか引退しないでください。
音楽が始まった瞬間、まるでエンジンが搭載されているかのようなスピードで滑り出す、圧巻のスケーティング。
勢いに乗った4回転サルコウは着氷が乱れ、緊張感を漂わせながら挑んだ4回転フリップは転倒。攻めの構成でした。
だんだんと表情がこわばっていく中、小さなミスも重なりました。
それでも彼は、フィギュアスケートの美しさと「滑る喜び」を体現する選手だと改めて感じました。
この試練は、次のオリンピックで成就するためのものではないでしょうか。
彼のために演奏された特別なプログラム。その完成形をどうしても見たいです。
後から記事で知ったのですが、北京五輪後に羽生結弦選手、宇野昌磨選手が引退。
トップ選手としての重圧、怪我、SNSのコメントに傷つくことなど、さまざまな困難があったそうです。
いつも楽しそうに見えた姿の裏には、相当な葛藤があったのかもしれません。
昔なら「金を逃した」と報道されたかもしれませんが、今回はコーチも関係者も国民も選手を称えている雰囲気でした。
日本のスポーツ環境、あるいは哲学が変わってきているのでしょうか。
暫定2位の時点で、にこまるは「佐藤選手、また惜しい位置で悔しいだろうなぁ」と思っていました。
団体戦で王者マリニン選手の後という緊張感の中、素晴らしい演技を披露し、世界中のファンを驚かせた佐藤選手。
個人戦フリーでは、後半やや疲れが見えた印象もありましたが、それでも最後まで滑り切りました。
シーズンを通して力を尽くしてきた選手が掴んだ銅メダル。
最終的には素晴らしい結果なのに、キス・アンド・クライでは先生も珍しく落ち着いたリアクション。
そこもまた、オリンピックの意外さを感じさせます。
今気づいたのですが、SP9位から総合3位へ。
本当に順位が忙しい大会でした。
これから観客を引き込む力をさらに磨き、オリンピックメダリストとしてさらに上を目指してほしいです。
惜しくもメダルを逃した選手
ミラノ・コルティナオリンピックで「最も美しい選手」に選出されたとか。本当なら妥当すぎる結果です。
韓国選手権10回優勝。韓国はルックス重視……?いえ、もちろん実力も確かです。
冒頭の4回転サルコウは素晴らしい出来。
続く4回転トウループで転倒しましたが、
転倒後、気持ちを切り替えて心のこもった演技を披露しました。
技術もさることながら、「表現することが好きでたまらない」という気持ちが伝わってきます。
カナダ中継の女性解説者は “elegant” を連発し、うっとり。
北京五輪から一つ順位を上げました。着実な歩みです。
今シーズン好調のゴゴレフ選手。
カナダ解説はすでに応援モードで、「なんとか10位以内にとどまってほしい」と祈るようなトーン。
冒頭の4回転サルコウ。
カート・ブラウニングさんの“細かすぎるジャンプのブレード音解説”に、
にこまるは完全に置いてきぼりです。ついていかなくては。
エッジの入り、踏み切りの音、空中姿勢……情報量が多い。
3本目のジャンプが決まった瞬間、カートさん思わず
「え〜、not just surviving, thriving!」
とびっくり仰天。落ち着いてください(笑)。
すべてのジャンプを成功させた後のステップシークエンス。
「今だ、観客を引き寄せろ、スティーブン!」と完全にコーチ目線のカート。
それでもゴゴレフ選手は落ち着いて、淡々と、しかし確実にステップを刻んでいきます。
点数待ちの間も解説は「10位入賞してほしいなぁ」とどこか控えめな推し方。
キス・アンド・クライは派手さこそありませんが、フリー2位、総合5位という素晴らしい結果で大会を終えました。
翌朝、カナダのオリンピック特番にも出演。
ドゥオモを背に、まるで裁判判決を読み上げるレポーターのような落ち着いた面持ちで、澱みなく自身の演技を振り返ります。文字起こしすると、実はかなり熱量のある内容。
最後に観客席にいたノバク・ジョコビッチの話題を振られた時だけ、テニス好きらしく少し笑顔がこぼれました。
そのギャップもまた印象的でした。
お疲れ様でした。
大きなミスはない演技に見えましたが、回転不足判定が多かったようです。
静かな舞台を観ているようなプログラム。動きに無駄がなく、抑制された世界観。
カナダ解説によると「省エネルギー作戦」。
効率的なジャンプを評価しつつも、「もう少しエネルギーが欲しい」とのこと。
ロシア芸術に対してなかなかの無茶振りです。
キス・アンド・クライではコーチとシルクハット姿。
演技とのギャップが可愛らしく、思わず和みました。
ロシア選手の国際大会参加については今後も議論が続くでしょうが、情勢とは別に、選手には自分らしいスケート人生を歩んでほしいと思います。
ショートで輝いたトップ選手の「13日の金曜日」物語
以前ご紹介したことがあるのですが、
「ショートでパンク → フリーでごぼう抜き」が様式美。
ショートが揃うと逆に不安になるタイプ。
オリンピックで“らしさ”が出てしまいました。
ショートのラストシーンから始まるコンセプチュアルなフリープログラム。
彼にしかできない独創的な世界観。そして圧倒的な身体能力。
しかしジャンプの軸が傾き、どうしても苦戦。
向かい風の中を全力疾走しているような感覚だったのではないでしょうか。
フリー12位。
次の五輪は自国開催。その時こそ、彼らしい爆発を見せてほしいです。
怖くて見返せないので、うろ覚えですが……
4回転アクセルが抜ける。ループが2回転に。
え……?
それでもマリニンには超人的な後半がある。そう思っていました。
しかし何が起こっているのかわからない展開に。
北京五輪で苦しんだワリエワ選手も、ここまでの崩れ方ではなかったと思います。
それほど衝撃的でした。
それでも演技後、優勝したシャイドロフ選手を祝福。
インタビューにもきちんと応じる姿は、まさに王者の品格。
総合8位。
おそらく彼にとっては金以外いらない大会だったでしょう。
フィギュアスケートの技術レベルを一段引き上げた、レジェンド級の存在。
きっとまた、すさまじい演技を見せてくれると信じています。
全体的にジャンプの軸が傾き、なんとか降りている印象。
回転不足がいつにも増して気になります。
着氷がだんだんギリギリになり、トリプルルッツで転倒。
それでも自国開催のオリンピックで、良い演技を見せたいという思いは強かったはずです。
課題だった表現面は、確実に成長中。
彼らしいスケートが少しずつ確立されてきたように感じました。
チーム戦からの長い戦い、本当にお疲れ様でした。
アイスダンスの審査問題について
アイスダンスはそれほど詳しくないので、現地観戦組の意見を中心にまとめます。
ロランス・フルニエ=ボードリー/ギヨーム・シゼロン組と、マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。
実力を出し切ったのはチョック/ベイツ組だった、という意見が多いように感じました。完成度、安定感という意味では納得の滑りだったと思います。
ただ一方で、シゼロンは他の選手よりもスケーティング技術が頭一つ抜けており、実際に会場で見るとスピードや滑りの伸び、動きの雄大さが際立っていたという声もありました。映像では分かりにくい差が、リンク上でははっきり感じられたとのことです。
それに比べると、アメリカ組はやや「小さく」見えた、という意見も。
フラメンコという演目の性質上、動きがコンパクトになりやすいのでは、という分析もありました。
ツイズルのミスについては評価が分かれています。
「確かにミスだが、その後の構成や完成度で十分取り返した」という見方もあれば、
「トリプルアクセルの着氷乱れをイーグルでさらりと流したような感覚」と評する方もいて、受け止め方は様々でした。
さらに、ジャッジ間で評価の差が大きかったことが議論を複雑にしているようです。技術点と演技構成点のバランス、どこを重視するかで見え方が変わる競技であることを改めて感じました。
にこまる的には、正直なところ――
両者とも素晴らしすぎて、簡単に優劣をつけられない、というのが本音です。
五輪という舞台で最高の滑りを見せた二組。その価値は揺るがないと思います。
日本のみなさんは早朝観戦お疲れ様です。残り2種目も一緒に楽しめたら嬉しいです。
今までのオリンピック観戦記はこちらです。ご興味があれば、ぜひのぞいてみてください。
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