「以前よりも楽しめている自分、楽しもうとしている自分がいる」馬場雄大、ヴェルカ3年目のシーズンを語る
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◆Bリーグオールスター前は「五島でホカンス」
「今日はどんな話を引き出してくれるのかなー」
クラブハウスの階段を一緒に下りながら、こちらを少しおちょくるように馬場雄大が言った。語尾にはたぶん、音符マークがついていたと思う。ルンルン、という感じ。昼過ぎに練習を終えた後だからか、あるいはBリーグオールスターブレイク中だからか、馬場はなんだかゴキゲンだ。
「内野さん(筆者)に聞かれると、なんか色々喋っちゃうんだよなー」
こう言ってもらえるのは嬉しいが、この男、なんというか……「人たらし」である。もちろん、良い意味で。マイペースかつイノセントな言動で周囲をその気にさせる、愛すべき人たらしだ!
馬場は、1月16日から18日にかけてハピネスアリーナで開催されたBリーグオールスターに出場した。Bリーグオールスターの前週、ヴェルカはチーム全体で1週間のオフを取った。写真を撮りながら、馬場に「オフの間、何してました?」と聞いたら、意外な答えが返ってきた。
「五島(列島)に行ったんですよ。最近流行りのあれ、なんて言うんでしたっけ? 旅先でずっとホテルで過ごすっていう……あ、ホカンス!」
ホカンスとは「ホテル」と「バカンス」を組み合わせた造語で、観光地巡りではなくホテル滞在そのものを目的とした休暇の過ごし方である。日本代表チームの中心選手であり、直近のオフシーズンはNBAサマーリーグにも参戦した馬場の人生に「休み」はほとんどない。あ、ひょっとしてゴキゲンなのは、五島でリフレッシュできたから?
「今回はもう、休みに『全振り』しましたね。こんなにガッツリ休んだのは、本当に久しぶりです。すごくリフレッシュできて、休みって大事なんだな、って思いました(笑)」
◆3人の新外国籍選手がチームにもたらした「良いエネルギー」
ヴェルカに電撃加入してから3年目となる今シーズン前半、馬場は30試合全てに先発出場。相変わらず攻守に渡ってフル回転の活躍で、前半戦を27勝3敗で終えたチームの快進撃を牽引している。
今シーズンが開幕する約1か月前、昨年9月に行ったインタビューで馬場に「チャンピオンシップ進出という目標を達成するため、チームとして何が必要だと思いますか?」と尋ねた時、馬場からは「勝つという経験」と返ってきた。ヴェルカは今、「勝つという経験」を着実に積み重ねている。チームが変わってきている、という手応えはあるか?
「あります。今シーズンはもう、今までの僕たちではない、っていう自信はありますね」
その自信はやはり、勝利を積み重ねることで徐々に芽生えてきたものなのか? そう尋ねると馬場は、今シーズンから加入した3人の外国籍選手がチームにもたらしている「エネルギー」について語った。
「良いエネルギーって……いや、良くも悪くもですけど、エネルギーってすごく伝染するなと思っていて。今のチームだと、まずスタンリー(・ジョンソン)。その次に(イ)ヒョンジュン。そしてアキル(・ミッチェル)。もし順番をつけるなら、この順番かなという風に僕は思ってるんですけど、彼らの『負けるわけないじゃん』っていう自信にはすごく……僕も影響されている気がします。ああ、そうだよね、って。このメンバーがいて、ここまで練習をやってきて、そりゃ負けないよね、って。そういうものを特に感じさせてくれているのが、彼らかなと思っています」
NBAで449試合出場の実績を持つスタンリーは、開幕直後から圧倒的なプレーを見せつけて、今シーズンのBリーグで最も注目を集めている選手の一人だ。「スタンリーは本当にこう、周囲に積極的に声をかけて、ミーティングの時も自分から発信をして……」と馬場が言うように、クラブハウスでもリーダーシップを発揮している。
◆「ヒョンジュンがいるから周りの選手のシュート成功率も上がってる気がする」
そして、スタンリーと共に今シーズンのBリーグを沸かせている「HJ」こと、ヒョンジュン。韓国代表のエースである彼は、シーズン前半戦でリーグ最高級シューターとしての地位を確立した。
「ヒョンジュンはこう、なんだろうな。本当にバスケットボールをただ純粋に楽しんでいて、そのスキルがすごく長けているというか。もちろん相手もいるけど、周りに流されないというか、自分はこのスタイルでいこう、っていう確固たるものがあって。これ、他の人に話すと『それってどうなのよ?』って言われたりするんですけど、ヒョンジュンがいるから周りの選手のシュート成功率も上がってる気がするんですよ。彼のシュートに対するあの姿勢、あの確率で決めるあの姿を間近で見てるわけじゃないですか、自分たちは。それで、僕らもシュートに対するプレッシャーが良い意味で減ってるのかな、と思ったりします」
ヒョンジュンは現在、3ポイントシュート成功率が46.9%でリーグ2位だが、馬場も42.2%で8位につけている。馬場の3ポイント成功率は昨シーズンから10%以上アップしているが、「ヒョンジュン効果」もあるのかもしれない。そしてもう一人、馬場が名前を挙げたアキルは、これまで10か国以上のプロリーグを渡り歩いてきたベテランである。
「アキルは自信も責任感も強いですし、特別な雰囲気を持っています。スタンリーやヒョンジュンはたぶん、今僕が話したようなことを本人たちはそんなに深くは考えてないというか、自分が心赴くままに行動して、それがチームにエネルギーをもたらしているんですけど、アキルはすごく経験のある選手ですし、『どうしたらチームが良い方向にいくか』っていうのを熟知している感じはありますね。本当にこの3人が、すごく自分たちに力を与えてくれているような気がします。プレーだけじゃなくて人間性も良くて、たとえば3人が独走状態でもやれると思うんですけど、彼らはチームのために動いてくれるし、みんなを引き上げようとする姿勢もすごく見えます」
◆3ポイント成功率が10%以上アップした理由
馬場自身も、彼が名前を挙げた選手たちに劣らぬ活躍を見せている。今シーズンは得点力のある選手たちが加わったことにより、馬場の1試合平均12.4得点は昨シーズンより2点以上低いが、それでも日本人選手としてリーグ6位。何より、相手のエース級選手をことごとく封じる鉄壁のディフェンスをはじめ、スタッツに表れない部分での貢献も多い。
昨シーズンのヴェルカは、馬場とジャレル・ブラントリーの二枚看板にプレータイムが偏っており、両者の負担がかなり大きかった。ブラントリーは今シーズン、平均プレータイムが昨年より5分以上短くなり、今は「試合の最後4分まで集中することができています」と言う。馬場も、昨年9月のインタビューでこう語っていた。
「昨シーズンはコート上で1から10までやっていたというか、最終的にそうなってしまったというか。ディフェンスでは相手のベストプレーヤーを追って、同時に点数も取らないといけない。ゲームメイクもしないといけない、っていう、本当に全てを任せてもらったシーズンだったと思います。今シーズンはメンバーもガラッと変わって、自分がやらなきゃいけないことというのは狭まっているのかなとは感じています。なので今の段階では、まず自分の強みをしっかりチームに還元できたらなとは思ってます。今まで全部任せてもらって、でも全ての分野の自分自身の100%を表現できていたかと言われると、できていません。なので、今シーズンは本当に自分の強みと言えるもの、自分の100%の力をコートで表現したいなと思っています。余計なものを削ぎ落として、自分がやるべきことを洗練させていく、っていうのがチームに求められることなのかなと、まだ始まったばかりですが、今年のモーディのバスケを見て感じているところですかね」
シーズンの前半を終えて、昨年よりも自分の良さを出せている、という手応えはあるか?
「あります。開幕前のインタビューで言ったことが、本当にそのままできているイメージです。チーム内で役割が分散できて、個人としてのフォーカスポイントが少なくなったが故に、ひとつひとつに注ぎ込めるエネルギーが大きくなったというか。良い意味で、割り切るところを割り切れています」
先述の通り、馬場は今シーズンの3ポイントシュート成功率が42.2%で、昨シーズンから10%以上アップしている。「スタッツは(選手の中では)あまり見ない方だと思う。数字に振り回されたくないので」と言う馬場だが、この事実は本人も認識していた。本人が口にした「ヒョンジュン効果」以外に、単純にシュートの技術が上がったのか、あるいは余裕のある状況でシュートを打てる機会が増えた結果か、あるいはその両方か。
「両方です。技術面では昨夏、(NBAサマーリーグ参戦のため)アメリカに行く前にケビン(・アンゼンバーガーアシスタントコーチ)と練習していて、少しシュートフォームの修正というか改善をしました。それに加えて、今のチームは『吸引力』がすごい選手が多いので、良いシチュエーションで打てる場面は確実に増えています。目の前にディフェンスがいて、ストレスがある中で打つのではなく、完全なワイドオープンで、自分のリズムで打てていることも大きいと思います」
シュートフォームを変えることに抵抗はなかったか、と尋ねると馬場は「結構な時間を費やしたので」と笑った。確かに昨シーズン終了後、人がまばらなクラブハウスのコートで馬場は来る日も来る日も、ケビンと一緒にシュートを打ち続けていた。
◆圧倒的な成功体験から来る「絶対にやられない」という自信
オフェンス面での貢献に加えて、2023-24シーズンにベストディフェンダー賞を受賞したディフェンスは今シーズンも健在。196センチというサイズに似つかわしくない圧倒的なスピード、相手の動きに対する反応の早さ、読み、野性的な嗅覚とも言うべき勘の良さ。あのディフェンスは、頭で考えずとも身体が勝手に反応しているのか、それとも頭で「相手はこう攻めてくるはず」と思考した上で動いているのか、あるいはその両方か。
「両方です。相手の気持ちみたいなものは、瞬時に読み取れているのかなと思います。『こういう動きをしてこっちに行きたいんだろうな』っていうのが、瞬間ごとに頭に入ってくるというか。プラス、そこに反応できるような身体能力にも恵まれて、ついていけるという感じでやってますかね」
たとえば、相手選手の目の動きだったり、ちょっとした手足の動きだったりを、細かく観察している?
「プレー中は無意識なんですけど、そう言われてみると確かに、相手の微妙な動きとかを見て、過去の自分の経験から瞬時に、次に来るであろう動きを割り出しているのかもしれないですね」
プロ選手なら誰でも、それなりの経験に基づく脳内データベースがあるはずだが、だからといって誰もが馬場のようにプレーできるわけではない。サイズやスピードといった身体能力の差はひとつあるとして、たとえば反応の良さとか勘の良さ、駆け引きの強さみたいなものって一体何なんでしょう? 「超一流」と「一流」の差は、どこにあるんでしょう?
「うーん、なんだろう……」
馬場は考え込んだ。目の前で30秒ほど沈黙した。こちらも30秒無言で待った。やがて馬場から出てきた言葉。
「成功体験は……すごく大きい気がします、僕の中で。『抜かれる』とか『苦手だな』と思い始めたら、もうダメな気がするんですよ。たとえ能力的には優れていても。僕の場合、『止めた』という成功体験が圧倒的に多いっていうのがまずひとつあって。じゃあ、なんでその成功体験が多いか、っていう話ですよね。うーん……難しいですね(笑)」
馬場は続ける。
「成功体験から来る自信って、自分の中だけに収まってるものじゃないと思うんですよ。たぶん、対峙した相手が感じるエネルギーみたいなものがあると思うんです。相手が『抜けない』と思ったらもう、その時点で100と100でぶつかってないんですよ。相手はそう感じた瞬間に、エネルギー値が100から80、70、60……と下がっていっちゃって、本当だったら抜けるのに、エネルギー値が下がってるから抜けない、みたいな。そういう部分もあって守れているな、っていう感覚もあります」
「エネルギー」の話に戻ってきた。ちなみに、その「エネルギー」って、いわゆる「インテンシティ」とは別物ですか?
「そうですね、インテンシティを上げるだけだと、たぶんできないので。そこに関しては、なんだろうな…… 圧倒的な自信みたいのものって、どこから来るんですかね。僕は『絶対にやられない』って自信があるんですよ。相手がどこからどう来ようが、フルパワーの自分にできないことはない、って思ってるんですよ、心のどこかで。少なくとも今、Bリーグでプレーしている中では、絶対に抜かれない、っていう自信がありますね」
◆「研究結果をもとに言わせてもらうと……」
今回のインタビューは、こちらが「今日は雄大さんと『共同研究』したいんです!」と言って始まった。
勝手に設定した研究テーマは「トップアスリートの身体感覚を言語化する」。記事では端折ったが、こちらの質問に対して馬場は「研究結果をもとに言わせてもらうと……」「あ、これじゃ研究にならないですね(笑)」などと、時にドヤ顔で、時に爆笑しながら、愛嬌とユーモアたっぷりに語ってくれた。コート上の鬼気迫る姿と、ギャップがあり過ぎるのである。やっぱり、愛すべき人たらしだ!
インタビューの時だけでなく、練習中の様子などを見ても、心なしか昨シーズンより楽しそうに、そしてリラックスしているようにも見える。長崎で3年目を迎えて環境に慣れた結果か、それともチームが勝てていることが大きいのか。
「過去2シーズンは……僕の中では、今よりもう少しピリピリしていたというか、それこそ鬼気迫る感じもあったかもしれません。やっぱり、結果が残せなかった2シーズンだったので。今シーズンは、自分の中で少し態度が変わって、以前よりも楽しめている自分、楽しもうとしている自分がいます。鬼気迫るようにやっていたから結果が出なかったのか、それとも結果が出なかったから鬼気迫っていたのか。今は楽しんでるから良い結果になっているのか、それとも良い結果だから楽しいのか。ちょっとまだアンサーは出てないんですけど、やっぱり楽しんでる時はチームメイトや周りの人たちともやりやすいですし、上下関係とか気にせずじゃれ合ったりとかもできますね。今シーズンはすごく心に余裕を持ちながら、居心地良くやれていると思います」
雄大さん、貴重なお話をありがとうございました。後半戦も楽しみにしています!
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