「格闘技ですよね、これ(笑)」熊谷航選手インタビュー
◆「カメラ、なに使ってるんですか?」
バイウィーク中のとある日の練習後。クラブハウスのコート横にあるケアルームで、カメラを持っていた僕に熊谷が尋ねた。「ちょっと借りてもいいですか?」と言うのでカメラを渡すと、熊谷は同じケアルームにいた森川正明と野原陽子アスレティックトレーナーにレンズを向けた。
「めっちゃいいの撮れました」
熊谷はそう言ってカメラを返し、ケアルームを去っていった。熊谷がカメラを手にして10秒で撮影した作品が、こちら。
翌日、チーム練習が終わった後に、ミーティングルームで熊谷へのインタビューを行った。最初の質問は「カメラ、好きなんですか?」。
「いや、趣味を見つけようと模索してるだけです。のめり込んでるものがなくてですね。バスケ以外に」
オフシーズン中にインタビューした時は、ゴルフが好きと話していましたけど、ゴルフは?
「ゴルフも全然、行けてないんですよね。シーズン中は、なかなか。昨日は内野さん(筆者)がカメラ持ってたので、ちょっと見てみようかなと」
コート上ではチームの司令塔として、広い視野でコートを見渡している熊谷は、オフコートでも色々なことにアンテナを張っているようだ。
◆当たり屋? 格闘技? 熊谷がガンガン体をぶつけるワケ
こんな感じで、ゆるゆるとスタートした熊谷のインタビュー。バスケットボールの話をする上で、まず聞いてみたいと思っていたのが、鼻の話。熊谷は11月5日の大阪エヴェッサ戦で、相手選手との接触により鼻を骨折し、後日「鼻骨骨折正復術」という手術を受けた。手術前から熊谷は、試合中にフェイスガードを装着している。
「手術をして、ある程度は元通りになってきたんですけど、もう少しフェイスガードをつけないといけなくてですね。フェイスガードって、上が少し見えづらかったりとか、結構やりにくいんですよ。首とかもこるんですよね」
熊谷は、高校時代にも鼻を骨折したことがあるという。身長173センチの熊谷が、2メートル超えの選手と接触する時、相手の肘の辺りがちょうど熊谷の鼻の辺りに来ることが多い。しかも熊谷は、自分より遥かに大きい相手でも、恐れずにガンガンぶつかっていく。チームメイトの星川堅信は、熊谷のことを「当たり屋」と称していた。
「当たられ屋じゃなくて?(笑) まあ確かに、僕のプレースタイル的にも、ドライブだったりリバウンドとかで中(ペイントエリア)に入り込んだりするので、結構当たりますね」
熊谷のように小さい選手が、大きい相手に向こうから当たられたら負けてしまう。だから、自分の方からぶつかっていく?
「確かに、こちらが構えた状態で相手がスピードに乗って当たってきたら、もう体重が違うので…… 自分からいかないとダメなので、もしかしたらそれでやたら当たってるのかもしれないですね。僕もたぶん感覚的に、こういう時は当たった方がいいとか、こういう時は相手をかわせるとか、ある程度はわかってるのかな。なるべく当たらないようにスルスルといけたらいいんですけど、当たらないってことはほぼ不可能なので」
弓波英人アシスタントコーチによると、熊谷はたとえばピックアンドロールの時に相手ディフェンスに良いタイミングで体をぶつけ、相手との距離を作るのが上手い。本人も「セパレーション、相手との距離を作るのは、自分のサイズだと大事なので」と言う。小柄でもプロの世界で生き延びていくために、上手な体の使い方、ぶつけ方を自然と身につけてきたのかもしれない。とはいえ、接触が多いと怪我のリスクも高まる。
「いやあ、大変ですよ。格闘技ですよね、これ(笑)。こんなにハードにやらずに、かわしながらプレーすることもできると思いますけど、でもそれだと自分の持ち味が出せないので」
熊谷は以前のインタビューで、ポイントガードの面白さは「頭を使うこと、考えること」だと話していた。知性派であると同時に格闘家でもある熊谷は日々、自分より遥かに大きい選手たちと体をぶつけ合っている。
◆「良い意味で、日本人っぽくない」ところ
熊谷は今シーズン、ここまで17試合に先発出場し、平均プレータイムは22分42秒を記録している。持ち前のスピードと技術でボールを動かし、試合の流れをコントロールするだけでなく、3ポイントシュート成功率も39.5%と高確率。そしてヴェルカの代名詞とも言える、強度の高い激しいディフェンス。
「やっぱりディフェンスが、自分の役割では大きくて。常にハーフコートで相手のポイントガードについて、オールコートで当たれる時は当たって、相手に何回もターンをさせて。そうやって、たとえば相手を(ショットクロックの残り時間が)20秒でフロントコートに入らせずに、16秒とか17秒まで遅らせることができれば、その3秒、4秒で相手がやりたいことをひとつ遅らせることもできるので」
熊谷が激しいのは、ディフェンスだけではない。再び弓波ACの言葉を借りると、熊谷には「良い意味で、日本人っぽくない」ところがある。熊谷は日々のコミュニケーションにおいて、言うべきことをハッキリ言う。たとえばタイムアウト中、モーディ・マオールヘッドコーチの指示に対して「それは違う」と思ったら、その場で強く言い返すこともあるという。
「航さんは、コーチに『なぜ、これをやらなかったのか』と聞かれたときに、しっかり説明できるんですよ。ちゃんと理由を持っていて、論理的に説明できるんです。だから、僕も通訳しやすいんですよね」
チームの通訳も務める弓波ACはこう話す。熊谷は前所属チームの秋田ノーザンハピネッツでも、チームメイトの外国籍選手に「それは違う」と思ったことはハッキリ伝えていた。
「もちろん、自分が間違ってると思った時はしっかり聞きますけど、自分の方が合っているなと思うことは、自信を持って言ってるつもりです。正直、(相手が)外国人だから言いやすいっていう部分もちょっとあって、モーディもたぶん、そういう言い合いが嫌いではないかなと思っています。自分の頭の中でしっかり映像化ができていて、その上で自分が正しいと思ったことは言うようにしています」
モーディHCは、以前のインタビューでこう話していた。
「昨年のチームが経験した最大の進歩は「質問をするのが上手になったこと」だと思います。私は、日本人の核となる特性のひとつが「質問をしないこと」だと学びました。誰かの邪魔をしないようにするためなのか、わからないと言うことが悪いことだと認識されているのか、私はまだ完全に理解していません」
積極的に質問をすることと、自分の意見をしっかり表明することは、欧米的なコミュニケーションにおいてセットだろう。言いたいことをハッキリと口にする熊谷のコミュニケーションスタイルを、モーディも信頼しているはずだ。
◆シュートが入らずメンタルトレーニングに取り組んだ過去も
ヴェルカは今シーズン、バイウィークまでの18試合で16勝2敗のロケットスタートを見せた。バイウィークまでの戦いを、熊谷に振り返ってもらった。
「もちろん勝率的にはすごく良い成績ですけど、ラクな試合っていうのはあんまり僕の中ではないイメージで。常に危機感を持って毎試合やっています。最終的には20点差くらいで勝ってる試合もあるけど、そういう試合でも途中で相手に詰められる時間帯があったりするので」
確かにここまでの戦いを見ると、試合の前半はいまひとつリズムが掴めず、しかし後半に相手を突き放すという試合が少なくない。これは試合中の修正力、適応力の高さを表しているとも見れるが、第1Qの立ち上がりから自分たちのペースでプレーをする、というのはやはり難しいのだろうか?
「うーん、何なんですかね…… 確かに、ふわっとした(試合への)入り方をしてしまう時はあって、そうならないように最初からディフェンスでガッて当たる、というのも意識しているんですけど。まあ、それでファウルになっちゃう時とかもあるので、やっぱり難しいんですけどね。試合の出だしの、あの感じは、何なんですかね。取り組み方、アップの仕方、気持ちの問題、色んな要因があると思うんですけど。スロースターターなんですかね、僕ら。ただ、常に完璧にはできないと思ってるので、その時間をいかに減らせるか、っていうところで、やっぱり前から当たっていくディフェンスだったりが僕に求められているところだと思います」
熊谷から「気持ち」という言葉が出たが、バスケットボールはメンタルも重要なゲームだ。熊谷はルーキー時代、あまりにシュートが入らなくて悩んだ時期があり、その頃にメンタルトレーニングの専門家を訪ねたことがあるという。一体、どんなトレーニングをしていたのか。
「まずは瞑想じゃないですけど、深呼吸をして。確か指にデバイスをつけて、良いリズムで呼吸ができている時は緑色になる、みたいな。それから30分くらい頭の中で、その試合で起こり得るシチュエーションをイメージします。頭の中でビジュアライズして、成功するイメージをするんです」
◆「まあすごいですよね、このアリーナの雰囲気は」
30分弱のインタビューの間に、熊谷の口から「映像化」「ビジュアライズ」という言葉が度々出てきた。
視覚的に物事を思考する、いわゆる「ビジュアル・シンカー」なのかな、とも思ったが、弓波ACの評通り、熊谷は言語化や論理的な説明にも長けている。また、先述の通り熊谷は、知性的な選手でありながらもコート上で「格闘技」をしている。
熊谷の中には、一見すると相反する2つの要素が極めて高い次元で共存しているように思える。そんな熊谷に、今後の戦いについて聞いてみた。
「バイウィーク明けの試合は、すごく重要だと思っています。今、各国の代表チームに行ってる選手が4人いますけど(馬場雄大選手、川真田紘也選手、イ ヒョンジュン選手、アキル・ミッチェル選手)、この期間に4人抜けるってたぶん、Bリーグでもあんまりないじゃないですか。なので、バイウィーク明けは難しい入りになるかなと思っています。ただ、これまで18試合やってきて…… まあすごいですよね、このアリーナ(ハピネスアリーナ)の雰囲気は。ファンの皆さんがいつも、モチベーションが上がるような雰囲気を作ってくださるので。これから42試合、大変なスケジュールの中でやっていきますけど、まあなるべく顔に当たらないようにして(笑)、やっていきたいなと思っています」
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