ベールを脱いだ“フィジーの怪物”
3季連続の8位から、昨季はリーグ戦4位に躍進したブルーレヴズ。
それも、リーグワン初の連覇を達成したBL東京とは二度、前年のプレーオフ決勝でそのBL東京と死闘を繰り広げた埼玉WKとは一度対戦して、すべて勝利。
だがその躍進は、ブルーレヴズはもはやノーマークの存在ではいられないことを意味している。
相手はブルーレヴズを強敵と認識し、周到な対策と準備を立てて向かってくる。
そんな相手との戦いに勝っていかなければならないのが、2025-26のシーズンなのだ。
フィジアン・マジックを魅せた背番号13
進化の主役は背番号13、新加入のセミ・ラドラドラだ。
7人制フィジー代表で2021年東京五輪優勝を飾り、母国フィジーで7人制にちなんで作られた7ドル紙幣には自身の顔も刷られている英雄は、正式な日本デビュー戦となったこの日の横浜E戦から実力を見せつけた。
相手のダブルタックルを受けた瞬間に左に走り込んだマロ・ツイタマにオフロードパスを送ると、ツイタマはそのまま約40mを走り切ってトライ。
ブルーレヴズの今季初トライをアシストすると、12分には自陣ゴール前まで攻め込まれたところのターンオーバーからボールを持ち、タックルを引き付けるとFB山口 楓斗にオフロードパスを送ってビッグゲインをアシスト。
30分には横浜EのCTB梶村 祐介のアタックを捕まえて抱え込むチョークタックルでターンオーバーを勝ち取り、直後の32分には豪快なストライドで右ゴール前までボールを持ち込むと、次のフェイズでCTBシルビアン・マフーザのパスを受けてインゴールへダイブ。リーグワン初トライまで決めてみせた。
7人制王国で知られるフィジーの代名詞「フィジアン・マジック」そのものの魔法使いぶり。
開幕戦快勝最大の殊勲者は、これが日本デビューのセミ・ラドラドラだったと言っていいだろう。
チームメイトからも既に大きな信頼
「彼がボールを持ったら人(相手ディフェンス)が集まる。半分ずれただけで必ず横にいる選手を活かしてくれる」(藤井 雄一郎監督)
「ボールを持ったら、ディフェンスがどれだけいても必ずチャンスを作り出してくれる。普段はあまりしゃべらないけれど、試合になると空いているスペースを教えてくれたり、ハドルでも僕に要求を伝えてくれて、10番(スタンドオフ)にとって頼りになるアウトサイドのプレイヤーです」(家村 健太ゲームキャプテン)
この日、静岡から駆け付けたレヴニスタのみならず、横浜Eのファンをも沸かせたラドラドラのオフロードパス。
相手タックルを受けながら、走り込んだ味方へ「ひょい」と繋ぐオフロードパスは、レヴズではこれまでチャールズ・ピウタウ(この日は欠場)の十八番だったが…。
「チャールズの場合は、相手をぶっ飛ばしてつなぐオフロードが多いかな。ヴィリ(アミ・タヒトゥア)もそう。だけどセミの場合はタックルされながら頭の上を通したり、どこからでもオフロードを出せる。(相手から見たら)どこからオフロードパスが出るか分からない、守りにくいと思います」
北村はこの試合の後半開始早々、自陣から"ヴァル"ことWTBヴァレンス・テファレからラドラドラに繋いだカウンターアタックを忠実にサポートし、ラドラドラからラストパスを受けると約40mを快走し、ゴールポスト下に勝ち越しのトライ。
「カウンターでヴァルがボールを持ったので『これは行けるな』と。内側にセミがついたので、これは絶対に抜けると確信して、そのまた内側を(最短距離で)サポートについて走ったら、予想通りパスをもらえました」
昨季も何度も見たようなトライだなあ、と思ったら、北村は昨季第15節のBL東京戦からプレーオフを含め6試合連続でトライを決めているのだった。
心配なのは、ラドラドラが後半15分、密集の下敷きになって担架で退場したことだ。
横浜Eのジェシー・クリエル主将も会見でラドラドラの印象を問われ「キャリーといいオフロードといい、ブルーレヴズのキーマンだと思って警戒していたけれど、力を発揮されてしまい、なかなか修正できなかった」と同じ背番号13をつけた相手を称え、「今は無事回復してくれることを祈っています」と気遣った。
会見では藤井監督も「今は病院に行っていて、まだ報告を受けていないので詳しいことは分かりません」と話していたが…。
試合を終えて数時間。
ブルーレヴズの「X」に、帰りの新幹線駅で笑顔で歩いているラドラドラの姿が投稿された。
次節の出場可否については予断を許さないが、どうやら長くかかるような重症ではなさそうだ。
チーム全体も着実に進化
危なげない戦いぶりについ忘れそうになるが、この日は実は主将のNo8クワッガ・スミス、CTBチャールズ・ピウタウ、JAPAN XVに選ばれたFLヴェティ・トゥポウも不在だった。
藤井監督は言った。
「オフロードパスも、彼(ラドラドラ)がいなくなったときでもチーム力が下がらないよう、他の選手も同じようにできるようプレシーズンのトレーニングを積んできました」
次節、昨季王者のBL東京をヤマスタに迎えるホスト開幕戦で、どんなメンバーが並ぶかはわからない。
だが、誰が復帰するかしないかを問わず、ブルーレヴズはメンバーの面でも、オフロードパスを含むスキルの面でも、今季の進化ぶりをレヴニスタたちの前で見せてくれるはずだ。
(大友信彦|静岡ブルーレヴズ公式ライター)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。
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