【神戸S/Together as a Team特別編】ABCテレビ アナウンサー 伊藤 史隆氏
V7時代にテレビ、ラジオで中継を担当
2023-24シーズン、当時チームディレクターを務めていた福本 正幸氏(現・一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンチーフラグビーオフィサー)からの1本の電話。
「ちょうど60歳になるタイミングに依頼を受けたんですけど、本当に嬉しかったですね」
伊藤氏とチームの前身である神戸製鋼ラグビー部との関係は、V7時代まで遡る。
もともとスポーツ観戦が好きだった。
野球をはじめ、ラグビーにも興味があったという。
1980年代半ば神戸大学に通う大学生だった伊藤氏は
「新日鐵釜石(現・日本製鉄釜石シーウェイブス)が全盛期で、大学ラグビーでは同志社大学から3連覇を達成しました。ラグビーは面白い競技だなと思って見ていましたね」と振り返る。
その同志社大学で司令塔としてプレーしていたのが、神戸製鋼コベルコスティーラーズで長らくGMを務めた故・平尾誠二だ。伊藤氏と平尾氏は、同学年。
1985年4月朝日放送(ABCテレビ)に入社した伊藤氏は、スポーツ担当を志望していた。
「当時、社会人ラグビーの決勝は秩父宮と花園で一年おきに開催していたため、秩父宮で行われる時は東京のテレビ朝日が、花園で行われる際には大阪の朝日放送がテレビ中継していて、ラジオ中継には開催地にかかわらず朝日放送が担当していました。神戸製鋼の黄金期には、僕は本格的にスポーツを中継するチームに入っていたので、神戸製鋼の試合はテレビだけでなく、ラジオでも中継に携わりましたね。それこそイアン・ウィリアムスが独走同点トライをして、細川(隆弘)さんのゴールキックで勝利したV3達成時の三洋電機(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)戦もラジオで中継していたんですよ。あの試合は鮮烈に覚えています」
灘浜グラウンド(現・コベルコ神戸スティーラーズラグビーグラウンド)にも取材のために幾度となく足を運んだ。
「神戸製鋼は本当にカッコよくて。今でこそ『ゲームを楽しもう!』と言いますが、昭和の終わりから平成初期の頃にはそんな言葉を発する選手は誰もいませんでした。けど、神戸製鋼はそれを標榜していて、実際に練習を見に行っても、選手が意見を言い合い、自由にプレーされていて、しかも、チームには監督はいない。選手は仕事にも一生懸命取り組み、終業後にはラグビーに専念して、練習が終わったらシャワーを浴びてスーツに着替えて颯爽と帰っていく。男から見てもカッコよかったですね」
取材を通じて、V7を支えた平尾氏を筆頭に、萩本 光威氏、福本氏らと親しくなっていったそうだ。時にはお酒を酌み交わしながら、ラグビーや仕事について、さまざまな話をしたという。
ラグビーをより楽しんでもらうための新しい取り組み
「僕の中で神戸製鋼のラグビーというのは、カッコよくて、時代の最先端というイメージがあります。そういうイメージがある中で、福本さんから『新しい取り組みとして場内実況をしたい』とお願いされました。他スポーツがやっているようにDJを入れて音楽を流して盛り上げる方法もあるけれど、観客にラグビーをより楽しんでもらうために、場内実況をしたいと。他スポーツとは違う視点での、ラグビーならではの盛り上げ方に感銘を受けましたし、これこそコベルコ神戸スティーラーズだと思いました。この新しい取り組みに参加したいと考え、所属しているABCテレビに相談し、会社から『神戸、関西のスポーツファンのために、ぜひ協力して盛り上げてきてください』と後押しを受けたこともあり、喜んで引き受けることにしました」
ABCテレビの業務ではない場内実況の仕事に対して承認してくれた会社に対して伊藤氏は感謝する。
さて、難しいと言われるラグビーのルール。
もちろん、ルールを知らなくても、人と人がぶつかり合う迫力やディフェンスを切り裂くスピードを見て感じるだけでも楽しむことはできるが、密集やゲームが止まった時に何が起きているのか知ると面白さは倍増する。ラグビー好きの伊藤氏も試合会場で競技を観戦した際にルールの難解さを解消するような方法はないかと考えていたそうだ。
伊藤氏の場内実況デビューは、東大阪市花園ラグビー場で開催された「NTTリーグワン2023-24」第15節静岡ブルーレヴズ戦となった。
「テレビやラジオでは事細かく喋って状況を説明しないといけないのですが、スタジアムでは歓声、選手の息遣いなど臨場感を楽しんでもらうことが最優先です。これをポンと言えば、その選手の次のプレーがより面白くなったり、今起きたことを説明することでより試合が楽しく見えたりするというフレーズを試合の邪魔にならないように喋っていきました」
長いアナウンサー歴の中で、アイドルのサッカー大会などの場内実況の経験はあったそうだが、トップチームの公式戦では初めてのこと。選手プロフィールなど、さまざま資料を準備して当日に臨み、場内実況はスティールメイツからも対戦相手のサポーターであるレヴニスタからも「わかりやすい」と好評となった。
大事にした『ラグビーらしさ』
伊藤氏はシーズン開幕前に実施したミーティングが、場内実況をする上で1つの指針になったと言う。スティーラーズ記念館(旧クラブハウス)で行われたミーティングには、伊藤氏、スタジアムMCを務める高倉 大輝氏、アシスタントMCの永井 華子さん、演出担当ディレクター、市来 大典スタッフなど、関係者が一堂に会し、意思統一を図った。
そこで共通の思いとして出たのが『ラグビーらしさ』を大事にすること。
ラグビーにはノーサイドの精神があり、激闘の後には両チームが健闘を讃え合って敬意を表す。
「だからこそ『頑張れ!神戸』だけではなく、例えば、相手チームのリーチ マイケル選手が良いタックルをしたら『リーチ選手、ナイスタックル』とひと声挟んだり、試合前の見どころトークショーでも神戸Sだけでなく、対戦チームの注目選手を必ず上げたりすることなどを決めていきました。特にリーグワンになってからは、世界各国から一流の選手が日本にやって来ています。神戸Sだけでなく、相手チームの世界的プレーヤーも紹介することで、より楽しく観戦できるようになります。自チームだけでなく、対戦チームのすごい選手を紹介し、分け隔てなく良いプレーには拍手を送るのが『ラグビーらしさ』だと皆の意見が一致したことが良かったですね」
場の雰囲気を壊さないような場内実況を
「究極はゲーム中まったく反則が起きずに、何も喋らなくて試合が進むことなんですが(笑)。そういう試合はないですからね。それと、ラグビーは選手がコールして、その声に反応して味方がスパンと来てパスをもらって、という阿吽の呼吸とでもいうべき流れを見るのが面白い。それをテレビの実況のように、(ブリン・)ガットランド、李(承信)、松永(貫汰)にパスが渡りましたと、順々に選手名を言う必要はありません。スタジアムでしか聞こえない選手同士の声、体のぶつかる音をしっかり感じてもらいたいと思いながら、場の雰囲気を壊さないよう、見ている方の邪魔にならないように、そこはお試しだった静岡BR戦と変わらず、常に意識しながら喋っています」
準備する資料は膨大だが、実際にそれを使って喋るのは100のうち、1ほど。雰囲気を重視しながら、情報を取捨選択し厳選した言葉で実況する。
ちなみに実況席には伊藤氏、スタジアムMC、演出担当ディレクター、音響映像担当が常駐し、レフリーインカムの声を拾いながら実況や解説を行っている。
「レフリーインカムからどういうプレーが問題だったのか、詳しい情報が入ってくるんです。実況席にいる皆さんと連携することで、スタジアムでご覧の方により正確な情報をお伝えできるようになっています」
試合を重ねるごとに、スタジアムMC、演出担当ディレクターとの連携が深まり、より良い場内演出ができていると感じている。
カッコイイ演出をして、チームもカッコよく勝ってほしい!
「ラグビーは本当におもろいスポーツです。どんなスポーツでもスタジアムで見るのが一番ですが、その究極がラグビーだと思うんです。ただ、ちょっとわかりにくいところがあるので、そこをお手伝いして、スタジアムで観戦していただいた方に『面白かった!選手がカッコよかった!』と思って帰っていただけるように今シーズンも頑張ります!」
チームに対して求めていることは、優勝。ご自身の場内実況を含めて、演出面でもNo.1を目指す。しかも、ただ頂点に立つだけではく、やっているラグビーも、演出も、カッコよさを追求すると伊藤氏。
「平尾(誠二)さんがプレーしていた神戸製鋼は、ただ勝つのではなく、カッコよく勝っていました。そういうチームになってほしいですし、カッコイイことをやって勝ってほしいですね。それが“神戸製鋼らしさ”だと思いますし、神戸の街ぽいですよね。平尾さんは『こんなことやったらおもろいと思うねん』とよく言われていて、面白がるという精神が大切なのかなと。演出面でも面白がって、カッコイイものを目指していきたいですし、神戸Sの演出チームならそれができると思っています」
2024-25シーズン、地元神戸のバンドFear, and Loathing in Las Vegasによるオフィシャルチームソング『Song of Steelers』が誕生。さらに、2025-26シーズン、新しい応援コールが生まれた。場内実況、スタジアムMC、新しい応援コール、音楽が融合した最高にカッコ良いホストゲーム空間を楽しみにしていてほしい。
取材・文/山本 暁子(チームライター)
1962年10月25日生まれ。愛知県名古屋市出身。神戸大学から1985年朝日放送(ABCテレビ)に入社し、主にスポーツ中継を担当。「NTTリーグワン2023-24」第15節静岡ブルーレヴズ戦をスタートに、2024-25シーズンからホストゲームで場内実況を担当。落語鑑賞を趣味に持ち、現在、神戸・新開地にある常設寄席「神戸新開地・喜楽館」の支配人を務める。
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