【駅伝】箱根路を駆ける夢、託して支えて実らせる

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10月の予選会を突破し、3年連続92回目となる第102回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)出場を決めた日本大学陸上競技部特別長距離部門。箱根出走を目指し切磋琢磨する選手たち約50名を支えているのは、主務の荒木日成(法4・学法石川)をはじめとする男女13名のマネージャーたち。
チームの取材に訪れた8月の北海道・釧路合宿でも、荒木と2名の後輩マネージャーが、選手たちのサポートに奔走する姿があった。元選手だった彼らの胸中とチームへの思いを聞いた。

(取材:2025年8月15日)

荒木が選手からマネージャーに転身したのは、昨年5月のこと。チーム内で当時の3年生からマネージャーを選出することは決まっていたが、「その前年12月の記録会の結果を踏まえて、当初はマネージャー候補には入っていませんでした」という。しかし、全日本大学駅伝関東地区選考会で予選落ちが決まった翌日、新雅弘監督からマネージャー就任の打診を受けた。マネージャー候補だった選手の退部や、マネージャーという役割への適性などを見て荒木に白羽の矢が立てられたのだが、思いもかけぬ話に戸惑いは大きかった。

「秋の箱根予選会も含め、来年以降、僕らの学年で勝負を賭けていきたいから、やれる人間がマネージャーをやってほしい、日常を見ていると荒木は向いていると思うと監督に言っていただきました。それまで見たことのない神妙な面持ちで言われたので、その場で断りきれず持ち帰らせてもらうことにしました」

最初に話をした両親からは「選手として続けてほしい」と言われたが、恩師である学法石川高校の監督に電話をして相談したところ、「誰でもやれる仕事じゃない。荒木だからできることがあるんじゃないか」と言われた。
「正直、同期に強い選手が揃っているし、力量的にも箱根駅伝のメンバーに入れる位置にもいなかった。ならば腹をくくってサポートする側に回ってチームを支えていこうと、高校の先生の言葉で決断した感じです」
前年12月に出走した記録会が選手として最後の試合になったが、「自分でも、まさかそれが最後になるとは思っていなかったですね」と笑みを浮かべた。

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マネージャーとなってしばらくは業務を覚えることで精一杯だった。「まったく何もわからない状態でマネージャーになったので、メールの返信の仕方をはじめ、大会のエントリーやタイムのまとめなど、先輩の阿閉(一樹、2025年商学部卒)さんに1から100まで全部教えていただきました。また女子部員たちにもいろいろ聞きながら仕事を覚えていきました」

今年に入り新チームになってからは、荒木がマネージャーを統括する主務を務めることになった。
「主務は仕事の抜けがあると重大なミスにつながるので、メールなどの連絡の確認や、スタッフとの連携は自分でやりますが、特に大会関連でのミスがないように気をつけて、なるべくみんなで確認しあって抜けがないようにしています」

また、選手たちに対しては自らの経験を踏まえたコミュニケーションをしているという。
「選手はだいたい主観的に自分を見ているので、頑張りすぎてしまう選手もいれば、全く頑張れない選手もいる。そういうところを客観的に見てアドバイスできるようにしていきたいので、できるだけ選手のコンディションを見るようにしています」

さらに、大学本部の競技スポーツセンターが開催している総務研修において、他部のマネージャーとの会話の中から「選手に対してどういうアプローチをして、声掛けをしていくのか」を参考にしているという。
「野球部のマネージャーの方は、自分でデータを分析して選手一人一人に細かくアドバイスしたり、周りを見ながら元気づけるような言葉を掛けているというし、ボクシング部の方は結構気合でゴリ押ししていくような声掛けの仕方だとか、競技によって違いがありました。僕もトラックと駅伝とでは状況が全く違うので、選手の現状を見ながら上手く使い分けて、声掛けしていけたらいいなと思っています」

実際のところ、「走っている人に根性論で言っても伝わらない。僕自身、走っている時に“気持ちだ”とか言われても変わらないと思っていた」。そのため、声掛けをする際は具体的なことを伝えるようにしているという。「顎が上がって走っている選手に、顎を引けとか、腕を振れとか。さらにピッチで走った方がいいのか、ストライドを伸ばした方がいいのかというような、ふだんよりフォームが崩れている時に、どこを直した方がいいかというのを言うようことを伝えると、意外とレース中でもそういうアドバイスは聞こえているみたいで、走りながらフォームが直ったりすることもある。みんなが言うような“頑張れ”とか、“気持ちを強く持って粘れ”とかじゃなくて、いつもと違うところを直そうっていうアドバイスを心がけています」。

逆に苦労することは「やっぱりスタッフとの連携ですね」と苦笑する。「監督もコーチも、今までやってきたノウハウがあるし、僕は最初から一緒だったわけじゃないので、いまだに初めて言われることも結構あります。監督独自の考え方がある練習など、どう理解してもらうか、どう選手に浸透させていくかというのが難しい。その意図が理解できない選手からは『何でですか?』と返ってくるので、それを抑え込むのではなく、どう監督に伝えるかも大事なので、そういうのを毎回試行錯誤しながら頑張っています」

北海道・釧路市での夏合宿。1日朝夕2回、釧路湿原周辺の道を走る選手たちを、周囲の状況に目を配りながら自転車で先導していく荒木。自転車とはいえ、1回約30kmを走るハードワークだが、その表情を変えることなく淡々とこなしていた。 【日本大学】

新チームが始動してすでに半年が過ぎ、これからはチーム力の熟成と熾烈な競争が始まる。そうした中で「今年は生活面でも競技面でもメリハリがあると思う」と、荒木はチームの成長を評価する。その一方で、「監督が勝負をかける年と言っていますが、それも踏まえるといい意味でも悪い意味でも去年と同じ空気感がある」と危機感も口にした。
「今が大会前じゃないのでそう感じるのかもしれませんが、もう少しピリピリした緊張感があってもいいと思います。今のままだと去年のように体調不良者が多く出て失敗するかもしれないので、もうちょっとチーム内でバチバチした感じが強くなってほしいし、4年生だけじゃなく、3年生も含めてそういう雰囲気を出していって、それを1・2年生に伝えていきたいので、ミーティング時に4年生にはよく話をしています」

10月18日の箱根予選会、11月2日の全日本大学駅伝に向けて、荒木は「選手たちに、しっかり目標を決めて戦ってほしい」と話していた。そして、その思いに選手たちは確かな結果で応えてきた。箱根本戦まで刻一刻と時間が過ぎていく中で、「練習は選手たちが一丸となって頑張ってくれると思うので、マネージャーは体調管理の面であったりだとか、練習以外の部分でしっかりサポートしていきたいと思っています」と言葉に力を込めた。
さらに「来年以降の方が今年よりも強いチームになると思うので、その時に選手たちをしっかりサポートできるように、後輩のマネージャーたちに仕事を任せるようにしていますし、それぞれが成長してほしいと思っています」と、後進の育成にも気を配っていた。

マネージャーとしてのやりがいをたずねると、「自分がサポートした選手がタイムを出してくれた時が一番うれしい」との答え。「2年生でまだ選手だった時、箱根駅伝の1区で付き添いをやらせてもらった西村(翔太、2024年文理学部卒)さんが区間4位と好走してくれたことがとてもうれしかった。そういうことがマネージャーになってからいっぱい増えてきたし、自分がエントリーした大会で選手が走ってくれたり、サポートした選手が頑張っている姿を見られるのが、マネージャーの一番のやりがいだと思っています」と目を輝かせて答えた。来年の箱根駅伝でシード権獲得を果たした時、荒木の喜びは最高潮に達することだろう。
Profile

荒木 日成 [あらき・ひなる]
2003年生まれ。山形県出身。福島・学法石川高卒。2022年に法学部に入学。2年間選手として記録会などに出場したが、3年次の昨年5月からマネージャーに転身。2025年度は主務としてチームをまとめている。

「スポーツ系の仕事に携わりたい」と志望していた中で、公益財団法人日本スポーツ協会への就職が内定。「スポーツ界の中心になる組織で、自分のできることを精一杯頑張ろうと思っています」 【日本大学】

次の世代を支えるマネージャーたち

今年から、トップチームには1年生を除く各学年のマネージャーを置くことになり、夏合宿にも荒木主務のほかに2人の後輩マネージャーが参加していた。

3年生の千葉大門マネージャー(スポーツ科3・盛岡中央/以下、大門)は、2年間選手として活動してきたが、今春からサポート役に回ることになった。
「入学して1年目は、ケガなどでほとんど走ることができず、2年目にやっと走れるようになったものの、どうしても結果が出ませんでした。部内のタイムトライアルでも結果を残すことができず、同学年の中で話し合って自分がマネージャーとしてやっていくことに決めました」

タイムトライアル前に実家へ帰省した際、自らの置かれた状況を親にも話し、競技を辞めることも考えたというが、「箱根駅伝という大きい大会に関わっていきたいという気持ちが強くあり、残りの大学生活の中でも貴重な経験をするができるだろうということで続けていくことにしました」。

千葉 大門[ちば・だいもん] 【日本大学】

2年生の千葉一輝マネージャー(経済2・東農大二/以下、一輝)も、ケガが元で選手としての道を断念することにしたという。
「1年目の冬、ケガが続いて思うように走ることができず、タイムトライアルでも結果が出ませんでした。選手からマネージャーになるということに葛藤しかありませんでしたが、今まで頑張ってきた陸上競技に何かしらの形で関わっていきたいという思いで、親とも相談して決断しました」

釧路合宿でロードを走る選手たちを後方から見守る千葉(大) 【日本大学】

選手からマネージャーになったことでの変化を聞くと、2人とも自分中心であった思考・行動が、選手を軸とした考えや行動をするようになったと口を揃える。
「選手時代は、自分の体と会話をしながら、競技力を伸ばすにはどうすれば良いかばかり考えていました。生活面も自分中心、自分のペースでやることが多かった」という大門だが、転身後は「周りを見て行動し、選手としっかりコミュニケーションを取って、選手の意見をどう監督・コーチに伝えるかを考えるようになった」という。さらに、日々の生活が選手ファーストになったことで「生活リズムも変わりましたが、その中でも隙間時間を有効活用できるようになった。今でも走ることが好きなので、マネージャーとしての仕事もやりながら、朝練の後や練習が始まる前など、に少し走ったりしています」と笑顔を見せた。

同様に一輝も「選手時代よりも周りが見えるようになった」と話す。「マネージャーになってから選手に対して思うことが、選手のままでいたらきっとわからなかったし、できていなかっただろうなと思うことが結構あります。今は、自分のためではなく選手のために行動することがほとんどですが、そういうところにもやりがいを感じています」
マネージャーになってまだ日が浅い2人だが、選手としてBチームで過ごした経験から、トップチームとB・Cチームとの違いを肌で感じている。 
「トップチームは向上心を持っている人が多い。今年のチームは、前回の箱根駅伝やメインの大会に出ている4年生が多いので、練習を引っ張っていくという面でも、昨年に優っていると感じます」(大門)
「初めて北海道合宿に参加して、トップチームの雰囲気はB・Cチームとは違うと感じる。練習での緊張感も高く、箱根が近づくにつれてだんだんチームがまとまってきているように思います」(一輝)

千葉 一輝[ちば・かずき] 【日本大学】

2人にとって、荒木主務の存在は大きく、目指す目標でもある。
「荒木さんを見ていて、仕事ができることと、がむしゃらにやることは違うと感じますし、仕事を効率的にこなしているところがすごいと思う」と話す大門。「自分はまだ行動が遅く、仕事も全然できていなくて不甲斐ないところが多いけれど、来年は自分が中心となっていくつもりで、いろんなことを吸収しながら成長していきたい」と意気込む。さらに「B・Cチームの選手たちは気持ち的にきつい部分もあると思いますが、そこを僕たちがしっかりサポートしていければいいなと思います」と語った。

一方、「練習以外の時間でも、競技に対してどれだけ真摯に向き合っているかが大事なんだと、トップチームを見ていて思います」と話す一輝も、「荒木さんはとても頼れる存在。まだ自分はそこまでに至っていないので、これからの2年間でそういう選手たちに頼られる存在になっていきたい」と抱負を語った。

選手たちを後方から見守る千葉(一) 【日本大学】

これからの日大駅伝チームを支えていくであろう、2人の千葉マネージャー。選手たちとともに、そして選手たち以上に成長していくことを期待したい。

ロードでの練習時、道路脇に観光客らが投げ捨てたとみられるパンや菓子などのゴミを伴走するマネージャーが回収。熊など野生動物の出現を回避するのと同時に、選手たちのケガ予防に備える。 【日本大学】

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著者プロフィール

日本大学は「日本大学競技スポーツ宣言」を競技部活動の根幹に据え,競技部に関わる者が行動規範を遵守し,活動を通じた人間形成の場を提供してきました。 今後も引き続き,日本オリンピック委員会を始めとする各中央競技団体と連携を図り,学生アスリートとともに本学の競技スポーツの発展に向けて積極的なコミュニケーションおよび情報共有,指導体制の見直しおよび向上を目的とした研修会の実施,学生の生活・健康・就学面のサポート強化,地域やスポーツ界等の社会への貢献を行っていきます

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