明治時代の早大野球部員 三神吾朗の米国遠征記⑦ アメリカ野球の特徴

チーム・協会
【現代語訳】山梨日日新聞 明治44(1911)年8月31日付け

【第7回】米国野球界の印象

シカゴ大野球場にてバッターボックスに立つ早大野球部員 【Hanna Holborn Gray Special Collections Research Center, University of Chicago Library】

技術では劣るが、大和魂で 20 勝
アメリカの大学野球は、その技術において我が国の大学チームより遥かに優れている。今回僕らと戦った諸チームの中で、一つとして僕らより劣っていると思ったチームはなかった。それなのに約 20 勝を挙げることができたのは、全く我々日本人が技術以外に何か特別なものを持っているからだと思う。その主なるものは大和魂である。

外国人は、試合の出だしが順調に行けば勢いに乗って、普段以上の技術を発揮する。しかし一度調子が崩れると、実に目も当てられないほどになる。日本人にもこのようなことが全くないわけではないが、外国人は特に顕著である。だから僕らが今回戦った中でも、技術においては数段上にありながら、僕らのためにみすみす敗北の憂き目に遭ったチームもあったのである。実に大和魂は戦争の時だけではなく、事においても大切で、日本人独特の精神である。
日米野球選手の特徴比較
【走塁】
さらに日米両国の野球選手の特徴を挙げてみるならば、アメリカ人は体格において非常に我々より優れているので、走ることなどは全く段違いであることを免れない。野球においては走ることは甚だ大切であって、野球の強さを誇ろうとするならば、走ることを研究しなければならない。ただし、やみくもに走るだけ速くても役に立たない。スタートの素早さが何より大切である。

【打撃】
打撃においても、日本人は彼らに遠く及ばない。僕らが戦った野球団で、我々より打撃が劣っているようなチームは全くなかった。日本人の打撃が弱い理由は、体格が劣っているため、打った球が遠くに飛ばないことや打つべき球を見極めることが下手である。もっとも、これは練習さえ十分に行えば、その域に達することも決して困難ではあるまい。

【投手】
翻って守備の方はどうか?我が国の野球団は一般に投手が不足している。それに対して彼らの投手は実に卓越した技術を持っている。投手が上手くなれば、それに伴って打撃も強くなるという理屈がある。我が国の野球選手の打撃力が弱いのは、投手のレベルが低いことに原因するところが極めて多い。

【守備】
次にフィールディング(守備)であるが、守備は日米ほぼ同程度である。ある大学などは僕らより劣っていた。これは守備ということが我が国でも練習しやすく、その上、数年前までは攻撃の必要を認めずに専ら守備のみを練習した結果である。しかし近年は、消極的な守備より積極的な打撃の必要性が認められて、守備の練習に 10 分を費やすならば、攻撃の練習には 30~40 分を費やすという風になってきた。
日本野球の未来への確信
要するに、野球はアメリカの国技である。その歴史もまた古い。我が日本の野球史はまだ 20年足らずで、彼らに劣るところがあるのは当然の理である。しかし今後数十年の後には、必ずや彼らに対抗することができると確信する。実際、野球というものは、体育上からしても精神上からしても、この上なく優れた競技であるから、今後大いに普及・発展させるべきである。ただし、アメリカの野球に付随する様々な習慣などについては、よく熟考した上で採用する必要があると思う。

シカゴ大学野球場にてスライディングする早大野球部員 【Hanna Holborn Gray Special Collections Research Center, University of Chicago Library】

【原文】山梨日日新聞 明治四十四年八月卅一日付け

米國野球界の印象(七) 早大野球選手 三神五朗

米國大學の野球は其技倆に於て我國大學チイームより遥かに優れて居る、今度僕等と戰つた諸チイームの中一として僕等に劣つて居ると思つたものはなかつたのである。然るに廿回程の勝を得たのは全く我々日本人は技倆以外に何物かを有するに依るのだと思ふ。その主なるものは大和魂である。外國人は始め出發點が工合よく行けば乗氣になつて常以上の技倆を表すが、一度調子が外れたと來たら實に目もあてられぬ、日本人にしても此事は全然ないではないが外國人は殊に著しい、だからか僕等が今回戰つた中でも技倆に於ては數段の上に在りながら、僕等の爲にみすみす敗北の浮目にあつたチイームもあつたのである。實に大和魂は戰争の時計りではなく何事にも大切で、日本人獨特の精神である。

尚日米兩國の野球選手の特長を擧げて見るならば、米國人は体格に於て非常に我々より優れて居るので走る事等は全く段違ひたるを免れぬ。野球に於ては走る事は甚だ大切であつて、野球の强きを誇らむよせば走る事を研究せずばなるまい。此走る事は無暗みに走る計早くても役に立たない、スタートの敏活が何より大切である。


打撃に於ても日本人は彼等に及ばざる事遠しである、僕等の戰つた野球團にして、我より打撃の劣れる如きものは全くなかった。日本人の打撃弱き所以は体格が劣つて居る爲打つた球が遠くに飛ばないのにあるがその上日本人は打つべき球を見分くる事が下手である。尤も之は練習さへ充分行へばその堂に入る事も敢て困難ではあるまい。飜つて守備の方は如何?我が國の野球團は一般に投手が不足である。然るに彼等の投手は實に卓抜なる技倆を有して居る。投手が旨くなれば、従つて打撃が强くなる理、我國の野球選手の打撃力弱きは之に原因する處極めて多い。

次にフィルデング【守備】であるが守備は彼我殆んど同樣である。或大學の如きは僕等より劣つて居た、之は守備と云ふ事が我國でも練習し易くその上數年前までは攻撃の必要を認めずして専ら守備のみ練習した結果である。然し近年は消極的な守備より積極的なる打撃の必要が認められて守備の練習に十分間を費すならば攻撃の練習には三四十分を費すよ云
ふ風になつた來た。

要するに野球は米國の國技である、有する歴史も亦古い我日本の野球史は未だ廿年たらず、彼等に劣る處あるは理の當然である然し今後數十年の後には必ずや彼等を對抗する事が出來樣と確信する。實際野球なるものは、体育上よりもするも精神上よりするも此上もなき遊戯であるからよろしくし今後増々発展せしむべきである。然し米國の野球に付髄したる種々の習慣等に就ては宜しく熟考の上採用を要する事と思ふ。

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【早大野球部】

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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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