緑のピッチで自分の色を
開幕まであと3週間
全国的に晴天に恵まれた11月22日の土曜日、リーグワンのほとんどのチームは3週間後に迫った開幕に照準を合わせたプレシーズンマッチを行った。
静岡ブルーレヴズのチームバスは千葉県船橋市にあった。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの対戦。
昨季の準優勝チームであり、公式戦では第9節で対戦して14-62で大敗した相手だ。
今季は2月14日の第8節、レヴズのホームゲームとして、静岡県内(会場未定)で対戦する。
昨年の大敗で喫した苦手な感覚は開幕前に削いでおきたいが……。
もっとも、そんなことを考えるのは外野だけかもしれない。
チームにとっては、開幕に向けた選手のセレクションが主目的なのだろう。
両チームとも、コンディション不良の数人を除くほぼ全員がリストに名を連ねた。より多くの選手にプレータイムを与えるため、試合時間も40分×2本のあと、さらに20分のエキストラタイムが設定された。
開幕に向けた臨戦態勢だ。
スピアーズ優勢で進んだ前半
2分にレヴズのハンドリングミスから切り返して、5分にレヴズのキックから切り返して、連続トライで14点を先行する。
リードされたレヴズは8分にラインアウトからの外側展開一発でWTBマロ・ツイタマが左隅へトライ。
23分には自陣ゴール前に攻め込まれたラインアウトでこぼれ球を拾ったSH北村 瞬太郎が一瞬でトップスピードに入り、95mを独走するセンセーショナルなトライ。
昨季の新人賞男が魅せた、昨季のトライ量産を彷彿とさせる爆走。
さらに左隅の難しいコンバージョンをルーキーSO筒口 允之が蹴り込み12-14と追い上げる。
だがスピアーズは充実していた。
レヴズにわずかなミスがあれば抜け目なくつけこみ、質の高いプレーでボールを継続。
正確なオフロード、サポートの速さでレヴズにプレッシャーをかけ続け、30分、40分と2トライを加え、24-12とリードを広げた。
最初の40分はスピアーズが実力を見せつけた。
昨季準優勝だけではない。3季前にはリーグ王者。
日本代表にも多くの選手を送り込んでいる、リーグワンをリードするトップチーム。
プレーの精度、コミュニケーションの成熟度、加えてプレシーズンらしい伸びしろ、遊びも垣間見える。
だがそんな充実した強敵を相手に、レヴズは後半の40分、みごとな反撃を見せるのだ。
フィニッシャーたちが躍動した後半
出番に飢えていた選手たちは、芝の上に解放されると同時に、アグレッシブなプレーでゲームの流れを変えた。
42分。ツイタマが左中間にトライを決め、家村がコンバージョンを蹴り込み19-24。
そこから試合はやや膠着したが、レヴズはほとんどの時間を敵陣で戦い、58分に新加入CTBのセミ・ラドラドラが豪快なトライ。
家村のコンバージョンで26-24と逆転すると、もう止まらない。
62分にCTBシルビアン・マフーザが右に左に滑らかなステップを切ってトライゾーンへ走り込む。
70分過ぎには相手ゴール前で約30フェイズにわたってアタック。
ここはHO平川がトライラインに持ち込みながら押さえきれずヘルドとなったが攻勢を続け、77分に密集の中を這うようにして山口がトライ。
79分にはNO8イラウアのゲインからWTBジャック・ティムがトライと畳みかけ、45-24。
ビッグスコアに広げて80分の戦いを終えた。
12-24の劣勢から45-24へ。
後半の40分に限れば、レヴズがトライ数5-0、点数で33-0とスピアーズを圧倒した。(その後のエキストラタイムはスピアーズが7点を加え、最終スコアは45-31)
「チームの選択肢に」
中でも強烈な光を放ったのがHO平川 隼也だ。
スクラム、ラインアウトのセットプレーでボールを獲得するだけでなく、PKを得れば自ら先頭に立ってアタック。
FW第1列とは思えないスピードで相手ディフェンスを切り裂き、フェイズが続けばオープンサイドへ走り込んでパワフルにボールをキャリーし、次の瞬間には密集をクリーンアウト。圧巻のワークレートでFWを引っ張り、ゲームを作り替えた。
「クボタは大きいから、FWで勝たないとこのゲームは勝てない。セットプレーとモールをしっかりやることと、アタックでFWからテンポを出していくことをテーマにして試合に臨みました。前半はベンチから見ていて、相手のペースに合わせてしまって後手を踏んでいたので、自分がピッチに入ったら先手を取っていこうと話していました」
平川は2019年にヤマハ発動機ジュビロに加入して7年目の29歳。
同じポジションのフッカーにはレヴズの看板であるベテラン日野 剛志が聳え立ち、昨年は新鋭の作田 駿介が台頭。
過去3シーズン、平川の出場試合は5→3→2と減少傾向にあった。
「昨季は作田が出てきて、後輩を育てる方にシフトというか、ちょっと遠慮してしまったところがあった。でもやっぱり試合に出たいし、今年は自分の色を出して、チームの選択肢になろうという気持ちでやっています。自分の色は、スピード、一瞬のコンタクトで勝負すること。スクラムは作田が強いからそこはしっかり学んで成長して、メンバーに入るだけでなく、日野先輩を抜くのを目標にしていきたい」
「ミスを引きずらずに」
NZ留学帰りの司令塔は強気のキックでFWを前に出し、周りの選手に次々にパスを出してゲインを導き、レヴズは後半のほとんどの時間を相手陣で過ごした。
それがトライ数5-0という完全なゲーム支配につながった。
家村はピッチに入って間もなく、PKでノータッチキックというミスを犯したが、NZ留学で身に着けた切り替え力を発揮。そのミスを引きずらずに冷静にゲームをリードし続けた。ゴールキックも5本中4本を決め、着実にポイントを稼いだ。
「去年までの自分だったら、あのミスを引きずってそのあとのプレーが消極的になって、コンバージョンも失敗していたかもしれない。でも今日はミスをしてもすぐ切り替えて、いつも通りにプレーすることができた」
この日の家村のプレーを見ていると「球離れの良さ」というラグビー界の古典的な賛辞が頭をよぎった。
ボールを持ちすぎず、周りの選手にすぐ渡す。
自分では走らず周りを使い、結果としてチームもボールも前進している(ボールを持っている姿を撮りたいカメラマン泣かせではあるが…)。
「前は、ボールを持つと一歩、持ってしまう癖があった。それで仕掛けられるときもあるけれど、その間に外のスペースがなくなってしまうことも多かった。今は外のコールをしっかり聞いて、自分でも目の前を見て、判断しています」
持ちすぎない。
でも外からのコールや事前のプランに従うだけでもない。
情報を集め、主体的に決断して、実行する――
その言葉は、平川が言った「自分の色を出していく」という言葉とも似ているような気がした。
自分らしさをスパイスに
今年こそは試合で活躍したい――そんな思いを強く持っている選手たちが、二人だけでなく、この日の後半にはたくさん登場したように思う。
山口 楓斗、矢富 洋則、岡﨑 航大……
彼らのプレーからは、
「試合に出たい」
「競争を勝ち抜きたい」
「首脳陣にアピールしたい」
そんな気持ちが強く伝わってきた――
だがそこには「自分らしさを出して」という思いが挟みこまれているように感じた。
コーチの求めるイメージを体現するだけのマシンになるのではない、そこに自分らしさを加えたいという強い意志を感じるのだ。
それはヤマハ発動機ジュビロ時代から積み重ねてきたレヴズのチームカルチャーなのかもしれないし、サニックス時代から一貫して地方発のチームを率いている藤井監督が求めるポリシーなのかもしれない。
もしかしたらその両方なのかもしれない。
それらがまじりあい、関東でも関西でもない、かつてはラグビー不毛の地と呼ばれた静岡で新たなラグビー文化を育てているチームに身を投じた者たちの中に自然に身に着いたマインドなのかもしれない。
平川や家村をはじめ、この日のスピアーズ戦で後半の逆転勝ちを演じたレヴズ戦士たちからは、そんな物語を感じた。
日本列島は一日ごとに寒さが増していく。
彼らの物語が、リーグワンの公式戦の場で語られる日が、刻一刻と近づいている。
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。
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