【浦和レッズ】「これだけ自分はダメだったのか」そう吐露する松本泰志に悲壮感はない…なぜならそれは伸びしろだから
その模様を、松本泰志は浦和レッズクラブハウス内のテレビを通して見つめていた。トレーニングを終えてまもなくのことだった。
国立のあの決勝のピッチには、3年前、松本も立っていた。
広島の「17」番を背負った彼は先発し63分までプレー。チームはセレッソ大阪に2-1の逆転勝利をおさめて栄冠を手にしている。ファイナルに至るまでの道のりが平坦ではないことも、その決勝で勝つ難しさも肌で感じてきた。
だからこそ、だろう。
「素直に『おめでとう!』という思いが、すごく強かったです」
柔らかな笑みを浮かべて、松本はそう口にした。
負傷も癒えてチームに合流した松本は、次の試合に向けて自身を追い込んでいる最中だった。
その「次の試合」は、奇しくもと言うべきか、アウェイでの広島戦。
「他の試合を迎えるのとはちょっと違う心境というか。違った思いや緊張は感じます。いいところを見せたいという欲もありますし、初めて『ビジター』としてあのスタジアムに行くので、それが楽しみな部分もあります。
それに、移籍するときにサポーターの方々へ挨拶ができないまま浦和に来てしまっているので、感謝の意味も込めてピッチに立ちたいなと」
今季、浦和レッズの一員となった松本。
その1年目のシーズンは残り3試合という地点まで進んできている。
「自分のプレーでチームに貢献できたかというと、まだまだできていないなという思いが強いです。(2得点を挙げた)FC東京戦、あれぐらいしか勝ち点に貢献したのはないんじゃないですかね。自分が試合に出て、このチームに勝ち点をもたらせたなと思う試合がそれぐらいなので、まだまだだなというふうに思います」
松本は昨年の優勝争いを演じたチームでレギュラーを張り、J1リーグ優秀選手賞を受賞した選手だ。
そんな彼でも、順風満帆とはいかない。
そこに、移籍の難しさを感じざるをえなかった。
本人はこう語る。
「簡単じゃないだろうな、と。難しい状況に陥ることはあるだろうなと思っていました。そういう経験は過去の移籍でも味わったので。でも、そういう中でも、メンタルを落とさず、自分の持ち味を見失わずにやり続けなきゃいけないということはずっと思っています」
1月の加入会見、「特長は運動量で、2列目や3列目からゴール前まで関わったり、守備をしたりするところ」と松本は語っていた。だが、それを十分に発揮できたという感触を本人は得られていない。
広島がマンツーマンで守るのに対し、浦和はゾーンディフェンスを敷く。
たとえば1対1ひとつをとっても、両者には違いがあると松本は言う。
「マンツーマンであれば、目の前の相手に付いていれば自然に1対1が生まれますけど、ゾーンでは1対1を作り出すまでの過程に違いがあります」
その「過程」は相手との「距離」と言い換えてもいいだろう。
距離を見誤れば、1対1と呼べるような状況になる前に、相手に次の仕事を許してしまうことになる。
「ここ数年、ゾーンはやってこなかったので、その難しさは感じています。個人の能力だけで言ったら、『まだまだだな』と浦和に来て感じました。これだけ自分はダメだったのか、と」
だが、そう語る松本の表情は決して暗いものではなかった。
彼は、こう続ける。
「そういう部分は、本当に『伸びしろ』だなと思いましたね」
伸びしろ――。
つまりは、サッカー選手としてさらに成長するための「課題」を、松本は浦和に来て手にしたのだ。
「現代のサッカーでは1対1の強さと上下の運動、このふたつは、すごく求められてきていると思います。自分に即して言えば、特に1対1の向上は、もっとやっていかなきゃいけないところだと思っているんです」
尋ねると、松本は首を横に振ってこう答えた。
「ときには、落ち込むことも大事だと思いますけど、僕としては落ち込んでいる時間がもったいないなと思うんです」
その切り替えの早さは、プロサッカー界で生き抜いていくために重要な能力でもある。
そして、その世界で生活していく上で、常に頭に置いてきた言葉が松本にはある。
「初心を忘れない」
「初心を忘れずに、地に足をつけてしっかりやることが一番だと思うんです。調子がいいときも浮かれすぎず、調子が悪いときは苦しかった時期や原点を思い出して」
そのひとつは、幼いころにテレビで見た光景だ。
赤く染めあげられたスタジアムと、緑のピッチで躍動する赤いユニフォームを着た選手たち。特にロブソン ポンテとワシントンの活躍は強い印象とともに残っている。
「僕にとってレッズは、プロに入ってからずっと『一度はこのチームでプレーしてみたい』と思い続けていたクラブです」
目を輝かせて、そう語る松本。
ホームチームの一員として埼玉スタジアムに立ったときのことを、こう振り返る。
「アウェイのチームで何度も来ていたときとは違う。そのことに、いい意味での違和感がありましたね。ファン・サポーターのすごさも改めて感じました。『ここに来ることができたんだ』という感覚があったんです。プロに入ってからの夢として思ってはいましたけど、まさか本当に来られるとは思ってませんでしたから」
たしかに、松本はそう口にした。
「今年、そこでの一歩目を踏み出せたのは、すごくいいことだったと思っています」
笑みを浮かべて語る彼は、次の瞬間には表情を引き締めていた。
「それ以外の部分では、悔しいなっていうのは率直に思います」
夢の一歩目を踏み出すことはできた。
しかしながら、次のステップを踏むことはまだできていない。
それが、本人の偽らざる感触だ。
「レッズの選手として、もっといいプレーをする。あのファン・サポーターの大声援にプレーで応える。それ以外、自分が満足できることはないです」
(取材・文/小齋秀樹)
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