【週刊グランドスラム325】二大大会で「進化」証明へ右腕を振るTDKの守護神・田中裕人
社会人4年目で、もうすぐ26歳になる。脂が乗ってきた右腕は今年、公式戦防御率0.00と抜群の安定感を発揮している。この予選でも抑えの座は譲らず、七十七銀行との準決勝は9回、トヨタ自動車東日本との代表決定戦は8回途中から登板して試合を締めた。
代表決定戦は、2点リードの8回表二死満塁でマウンドへ向かった。ピンチを作って降板した後輩の高橋 凱には「大丈夫、任せろ」と声をかけた。2試合連続で本塁打を放っていたトヨタ自動車東日本の五番・瀬戸泰地を空振り三振に仕留めると、最終回は得点圏に走者を背負いながらも無失点。後輩とチームの窮地を救った。
田中は試合後、開口一番に高橋の名前を挙げた。
「凱が悔しい思いをしながらも、頑張る姿を見てきた。逆転されて負けたら引き摺るだろうし、勝てばまたチャンスを与えられる。凱が抑えられなかったら自分が抑える、という気持ちで腕を振りました」
2年下の高橋とは、「お互いに認めていて、尊敬し合える関係」だという。投手としてのタイプも球速帯も近く、切磋琢磨しながら常に気にかけている存在だ。今夏の都市対抗で敗れた後、そんな後輩の異変に気づいた。
鷺宮製作所との一回戦では、1点を追う6回裏から登板した高橋が一死も取れずに降板し、手痛い3失点を喫した。打線が追い上げるも1点差で敗戦。秋田に戻ってからの高橋は落ち込んだ様子で、表情も冴えなかった。
当の高橋は「万全な状態で登板したにもかかわらず結果を残せず、不甲斐なかった。先輩たちに連れて来てもらった舞台で、足を引っ張ってしまったという申し訳ない気持ちがあり、なかなか立ち直れませんでした」と悔しい登板を振り返る。
田中はもがき苦しむ高橋の姿を、自身のルーキー時代に重ねていた。1年目の都市対抗東北二次予選、JR東日本東北との準決勝。4点リードの最終回を任されるも猛攻に遭い、1点差に迫られて交代を告げられた。先輩の大関竜登が逃げ切って九死に一生を得たが、抑えられなかった悔しさが募った。
当時を思い出した田中は高橋に、「悔しい思いがあるからこそ成長できる」と伝えた。高橋は「(都市対抗での登板を)『いい経験だった』と言えるようになりたい」と再起。以前にも増して練習に精を出し、首脳陣の信頼を取り戻した。その後輩のピンチとあれば、田中は3年前の大関のごとく颯爽と火消しに向かう。
「この年齢でプロに行けたら……」揺るがない気持ち
そんなチームメイトのために腕を振る田中だが、入社時から抱くプロ志望は揺らいでいない。
「絶対に行きたい。いいものは持っていると思うので、持ち味をアピールして結果を出し続けるだけです」
とはいえ、年齢的にはタイムリミットが近づいている。
一段階レベルアップするべく、昨冬から課題と向き合い、制球力の向上に努めてきた。今年は自己最速を1キロ更新する153キロを複数回計測しつつ、直球とフォークボールを思うままに操る緻密な投球を披露している。
都市対抗では「進化」を証明した。一回戦の8回裏に登板し、圧巻の3者連続三振。最速152キロをマークした直球と、鋭いフォークボールを駆使する理想通りの投球で華々しく都市対抗デビューを飾った。田中は「出来過ぎくらいの内容。昨冬から取り組んできたことが結果につながりました」と、大舞台で本領を発揮できたことに安堵した。
ただ、「都市対抗だけではなく、継続して結果を残せるように頑張ろう」と、大会後はすぐに日本選手権出場に照準を定めた。出場が決まった今、「出るだけでなく、勝たなければ評価には値しない。進化した姿を見せてチームを勢いづけたい」と闘志を燃やす。
昨年、一昨年の日本選手権はいずれも失点を喫してチームも敗れた。進化を遂げた今年は抑える自信がある。
「この年齢でプロに行けたら後輩たちも奮起してくれるだろうし、行けなかったとしても『自分を超えてプロに行け』と言えるくらいの選手になりたい」
チームのため、仲間のため、そして、自分のため。任されたマウンドは田中が守る。
取材・文=川浪康太郎
グランドスラム66は、10月27日に発売予定です!!
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