私のミッション・ビジョン・バリュー2025年第8回 鷹啄トラビス選手「下克上」
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
2025年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2025年第8回は鷹啄トラビス選手です。
(取材・構成 佐藤拓也)
「3月ぐらいからスタートして、5~6回ぐらい行いました。月1回行って、MVVを決めました。今も定期的に面談を行っています」
Q.いつ頃作成できましたか?
「5月ぐらいには完成しました。決まるのは早かったんですけど、その後も面談を続けています」
Q.今まで自分の過去や思いを第三者に深く話す機会はありましたか?
「なかったです。自分自身にとって、すごくいい経験となりました。ちゃんと考えて伝えることの大切さを学びました」
「僕は今まで挫折を経験してきました。JFLというリーグからJリーグでプレーする機会を得ることは非常に困難なことでした。その中でも諦めずにサッカーと向き合って、Jリーグクラブからオファーをもらったことは自分にとって大きな自信となりました。そこで自分がプロの舞台で活躍することによって、下のカテゴリーの選手の希望になれると思ったんです。JFLや社会人リーグでプレーしていて、『Jリーグでプレーするなんて無理』と思っている人は少なくないと思います。でも、そういった人たちに少しでも希望というか、『頑張ろう』という思いを与えたいと思ったので、この言葉を選びました」
Q.挫折というのは、大卒時にJリーグクラブからオファーが届かず、JFLチームに加入することになったことでしょうか?
「大学まで順調なキャリアを歩んできましたし、大学卒業のタイミングで、自分はプロになる自信があったんです。実際、複数のJリーグチームの練習に参加しました。でも、自分の力が足りなくて、Jリーグからオファーが来なかった。その経験が、自分自身の挫折となりました。今後に向けて、『どうしようか?』と悩んだんですけど、大学の監督から『諦めなければ、チャンスは来る』と言ってもらって、サッカーを続けようと思ったんです。あと、絶対に諦めたくなかった。言い方は悪いかもしれませんが、自分を獲得しなかった人たちを見返してやろうという思いを常に持ってJFLでプレーし続けました。その思いは自分の中で大きなモチベーションになりましたね」
Q.水戸にも練習参加したんですよね?
「そうですね。J3クラブにも行きました。でも、オファーをもらうことができませんでした。すごく悔しい思いをしました」
Q.大学4年生のとき、プロに行きたいけど、なかなかオファーが届かないときはどういった心境なのでしょうか?
「めちゃくちゃ焦りますよ。ただ、自分としてはサッカーを続けることしか考えていませんでしたし、就職活動をする気もありませんでした。オファーが届かず、『ヤバイ』と思いましたが、まずJFLで頑張ろうと気持ちを切り替えることができました」
Q.そして、JFLのFC ティアモ枚方に加入し、病院で働きながらプレーしました。以前話を伺ったとき、生活の大変さから「心が折れそうになった」と仰っていましたが、そこで心を奮い立たせたものは何だったのでしょうか?
「社会人として、あらためて気づいたのが、親への感謝の気持ちや人とのかかわり方の大切さでした。JFL時代、病院で働いているとき、周りの人は自分のことをサッカー選手としてではなく、社会人として見てくれて、すごく親切にいろいろ教えてくれたんです。そのうえで、選手としてすごく応援してくれたんです。その人たちのためにも頑張りたいと本当に思いました。サッカー面で言うと、大黒将志ヘッドコーチ(現川崎コーチ)との出会いが大きかった。自分のサッカー観が変わりました。大黒さんのおかげで今の自分があります。大黒さんに育ててもらったので、感謝しています」
Q.具体的にどういったことを学んだのでしょうか?
「枚方のサッカーは大黒さんが来てから、ビルドアップを重視するスタイルに変わり、そのシーズンに史上最高の3位という結果を残すことができたんです。そうやって上位にいることで、水戸をはじめ、Jリーグクラブから注目してもらえるようになりました。大黒さんに出会えて本当に良かったと思っています」
Q.周りの選手との意識差みたいなものは感じましたか?
「やっぱり、仕事をしながらサッカーをしているので、生活が大変なんですよね。なので、ネガティブなことを口にする選手もいました。もちろん、上を目指している選手もいましたが、その本気度に関して、自分が一番高かったと思っています。自分も最初の頃はネガティブ発言をすることがありましたけど、途中からはこれも自分の人生において必要な経験になるというポジティブな思考に変えることができました。そこが良かったと思っています」
Q.そして、水戸からオファーが届きました。大学時代にオファーをもらえなかったチームからオファーが届き、ある意味「見返した」ことになると思います。
「そうですね(笑)。本当に自分の努力が報われたという思いでした。あと、諦めないで良かったと思いましたね。大学卒業時、プロになれなくて諦める選手は少なくないと思いますけど、やっぱり諦めないことの大切さを痛感しました」
Q.そして、水戸で主力としてプレーし、昇格争いを繰り広げています。今までの「思い」が原動力になっているのでは?
「プロになって、多くのサポーターの前でプレーできるようになり、その中には自分の地元の友人も見に来てくれていて、本当に多くの人に支えられているという喜びを感じながらプレーすることができています。自分だけでなく、その後ろに多くの人が関わってくれていることが分かり、感謝の気持ちを持ってサッカーに取り組んでいます。だからこそ、サポーターのためにとか、この地域のためにとか、このチームに関わってくれている人たちのためにとか、そういった思いを持ってプレーしています」
Q.今までやってきたことがすべてつながっていると感じているのでは?
「社会人を経験して感じたことがたくさんありました。特に病院の裏方の仕事をしてきたことによって、裏でサポートしてくれる人がいるからこそ、選手がサッカーに集中してプレーできているということを理解することができました」
Q.ちょっとやそっとのことで心が折れるようなことはないですね。
「本当にメンタルをぶらすことなく、プレーできているという自負があります。調子が悪いときもありますけど、その中でも崩れずプレーできるようになっていて、プレーの波がなくなってきたと実感しています」
Q.J1昇格という結果を残して、さらに多くの人に希望を与えたいですね。
「J1に昇格して、茨城県を盛り上げたい気持ちが強いです。このチームならば、絶対にJ1に上がれると思っているので、残り8試合しっかり戦って、J1昇格を決めたいと思っています」
「今までを振り返ると、うまくいかないことが多かった。そこで諦めることなく、常に挑戦を続けて、無理だったとしても、挑戦することによって、いろいろ気づくことがある。この世の中、誰が見ているか分からないし、チャンスがどこにあるのか分からない。その経験をすることができました。だから、挑戦し続けることを忘れてはいけないなと本当に思いました」
Q.特にサッカー界は情報を共有されていますし、どこにチャンスがあるか分からない世界ですからね。
「JFLでもJリーグのスカウトの方が試合を見に来てくれているんです。本当にいつどこにチャンスがあるか分からないんですよ。そして、J2の舞台に来て、首位に立ったことによって、より多くの人に見られている実感があります。津久井匠海選手(現大宮)や寺沼星文選手(現東京V)のように急にオファーが届くことがある。挑戦し続けることによって、自分の価値を高め続けることによってチャンスは広がっていく。そこに対して自信を持ってやっていかないといけないと思っています」
「リーグ戦がはじまって、1週間のサイクルの中でやり残したことがあったら、それが試合に出てしまうような気がするんです。1週間で『自分はこれだけやった』と自信を持って試合に向かうことを大切にしています。きつい練習でも力を抜かないことが大事だと思っているので、そういったところは試合に出ると森監督も常に言っていて、つらいときこそ自分自身にベクトルを向けるようにしています。そこを大事にしていきたいと思って、この言葉を選びました」
Q.意識して取り組んでいることはありますか?
「週初めには練習が終わった後にしっかり筋トレをして、有酸素トレーニングもするようにしています。疲れを残すと、次の試合のパフォーマンスが落ちてしまうので、リカバリーのところに重点を置いています。あとは食事もこだわりながら生活をしています。そういったところは少しずつ影響が出てくると感じているので、これからも意識を持って取り組みたいと思っています」
Q.昨年は仕事をしながらサッカーをしていただけに、プロになって意識高く取り組むようになったのでしょうか?
「昨年は本当に食事にはこだわっていませんでした。これだけ意識するようになったのは、水戸に来てからですね。水戸は意識の高い選手が多いので、周りの選手たちに影響されて自分も意識するようになりました」
Q.水戸には環境的に自分に時間を使える施設が整っていますね。
「試合が終わった後、自分の映像をクラブハウスで何度も見ています。そこで感じたことをノートに書くようにして、振り返りをできるようにしています。それを続けることによって、少しずつですけど、成長を実感しているところはあります」
Q.チームとしても1週間の準備を大切にしています。そのスタンスと鷹啄選手のスタンスがかみ合って、いい循環が生まれているのでは?
「先のことを考えず、次の試合で勝った方が強いということを森監督は常に言っています。そういったところで次の試合に向けて、モチベーション高く準備することができています。現在首位ですけど、とにかく目の前の試合に集中して練習することができています。そこは水戸の良さだと思っています」
Q.それを残り8試合続けるだけですね。
「本当にそうだと思います」
「自分はみんなとプロのなり方が違って、JFLという下部リーグから上がってきました。もっともっと上に行くぞというギラギラ感を出していきたい。強い気持ちでチャンスをつかみたい。J2という舞台で活躍して、もっともっと高いステージでプレーして、自分の名前をとどろかせたいという思いがあります。『JFLにこんな選手がいたんだ』と思われるような選手になりたいんです。だから、『下克上』という言葉が自分には一番合っていると思ったので、この言葉にしました。」
Q.今季序盤は出場機会に恵まれませんでした。しかし、ルヴァンカップで活躍してレギュラーの座を勝ち取りました。
「プロサッカー選手は1試合で価値や信頼が変わると思っていました。出場機会がなくても、必ずどこかでチャンスが来ると思っていたので、そこに向けていい準備をしてきました。そのチャンスが来たときに絶対にポジションを奪ってやるという思いでプレーして、いいパフォーマンスができたので、今があるという感じですね」
Q.下克上というと、センターバックは対峙する力のあるストライカーを封じたときに評価が上がります。実際、数々の相手のエースを封じて、存在をアピールしてきました。
「相手のレベルが高ければ高いほど燃えますし、その選手を抑えれば、注目される。特に外国人選手を個で封じられる日本人DFはあまりいないと思うので、そういう面でアピールしたいという思いはあります。なので、楽しみながらプレーできています」
Q.昇格するためにも、これから上位チームの強力なエース選手を抑えないといけません。
「そこを封じないと、自分が起用されている意味がない。自分は攻撃力が高いわけではなく、守備のストッパーという役割を期待されて起用してもらっていると思っています。だから、相手のエースを止めることが自分の仕事。しっかりと抑えたいという思いを常に持っています」
Q.ここから昇格に向けての正念場が続きます。大きな結果を残すことでチームとしても、個人としても、価値がぐんと高まります。
「幼いときから、『水戸ホーリーホック』のことを知っていました。でも、水戸がJ2で優勝するなんて想像したこともありませんでした。だからこそ、今年水戸に加入して、首位にい続けられることに幸せを感じています。そしてJ1に昇格したら、周りからの見られ方も変わってくると思いますし、この経営規模のクラブが昇格すれば、すごく注目されると思っています。今年はすごいチャンスだと思いますし、昇格が手に届くところまで来ているので、絶対に成し遂げたいと思っています」
Q.残り試合に向けての意気込みを聞かせてください。
「残り8試合は内容よりも結果にベクトルを向けないといけない。どんな内容でも勝たないと上には行けない。最後、ギリギリの戦いになったとき、勝点1の差が大事になってくる。まずは負けないチームになりながら、勝点3を積み重ねられるチームになっていかないといけない。そのためにも失点を減らすことが重要になる。得失点も関わってくるので、センターバックとして責任を持ってプレーしていきたいと思っています」
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