私のミッション・ビジョン・バリュー2025年第7回 武石康平コーチ「自分を最後信じ抜いた奴に敵はいない」
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
2025年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2025年第7回は武石康平コーチです。
(取材・構成 佐藤拓也)
「1月末から5~6回ぐらいですかね。毎回40分ぐらいで、ZOOMで行いました。
Q.今までこうした形で面談を行ったことはありましたか?
「そもそも、発信するより、聞く方が多い仕事なので、ほとんどやったことはありませんでした。自分のことを第三者に話す経験は新鮮でしたね」
Q.新たな気づきはありましたか?
「再確認的なところだと思います。新たな気づきがあるというより、元々あったことを引き出してもらったという感じでした」
Q.自身のMVVを見て、いかがですか?
「自分が大切にしている思いが4つの言葉にまとまったなという感じですね」
「今まで自分が在籍していたチームは監督から声をかけてもらって行くことが多かったんです。でも、水戸は強化部から声をかけていただき、現場のスタッフを誰も知らない状況で水戸に来たんです。筑波大学に通っていたので、茨城で生活したことがあり、茨城やクラブに対する思いは強いんです。だから、地域の人のために、そして、僕に期待してオファーをかけてくれた人のためにという思いで水戸に来ることを決めました。それでこの言葉を選びました」
Q.実際、水戸に来て気づいたことはありますか?
「水戸は応援してくれる人たちの『顔』が見えるクラブですよね。ほとんどのJリーグクラブは『現場』と『フロント(会社)』と『アカデミー』が独立しているような形が多く、現場のスタッフとフロントのスタッフが関わることはほとんどないですし、フロントスタッフがどんな仕事をしているのか知らないことがほとんどです。『現場』と『フロント』の距離が水戸はすごく近い。だからこそ、フロントの人も含めて、『この人たちのために頑張らないといけない』とすごく思うようになりました。水戸に来る前から、そういうクラブだという話は聞いていて、水戸で働きたいと思っていたんです。なので、オファーが来たときは嬉しかったですし、本当に願ったりかなったりという状況で水戸に来ることを決めました」
Q.そういう思いが活力になっている?
「もちろんです。そこが立ち返る場所になっています。第28節山口戦は終了間際に同点に追いつかれるショッキングなドローでした。サポーターからブーイングされても仕方ない結果だと思ったんですけど、いろんなサポーターから『次頑張ろう』という声をかけてもらったんです。あらためて、水戸は本当に温かいクラブで、素晴らしいと思いました。その人たちのために、もっともっと頑張ろうと思いました」
Q.クラブとしての一体感も感じていますか?
「今年から水戸に来ましたけど、スタッフの関係が強固に出来上がっていて驚きました。ホーリーホックスピリットを持っていて、誰もがそれが何かを分かっている状況でした。僕としては、その一体感の中に入りながら、新しい風を吹かせたいと思っています」
Q.残り9試合、「水戸に関わるすべての人と一緒に戦う」ことが大事ですね。
「第21節徳島戦の同点ゴールは、みんなのゴールですよ。本当にサポーターの熱に呼び寄せられた。昇格するためにも、そういう力が絶対に必要。ホームで成績がいいのはサポーターのおかげだと思っています」
「言い方が難しいですけど、カッコよく人生を終えたいですよね(笑)。惜しまれるじゃないですけど、何かを残して、『アイツ最高だったな』と思われて、人生を終えたい。物理的な“終わり”だけではなく、仕事的な“終わり”も同じで、今まで契約満了を告げられたことはないんですよ。すべて自分で選んでチームを移ってきました。ある意味、すべてやり切ってチームを離れることをしてきました」
Q.水戸では「コーチ」という肩書ですけど、分析が主な仕事なのでしょうか?
「そうですね。勝利に貢献するために、自分として最も強みを出せて、他の人がマネできないところは分析だと思っています。選手もそうですし、監督もコーチもマネージャーも勝利のためにそれぞれが役割を担っている。自分としては分析でチームに貢献したいと思っています」
Q.分析する際のこだわりはありますか?
「サッカーは人間が行うスポーツなんです。作戦のマグネットではないんです。外から見ていると簡単なんですよ。だから、『なんで、〇〇しなかったのか』ということは絶対に言いません。選手が起こしたジャッジは常に正解だと思っています。事前の分析や情報を入れることによって、より正確な判断をするためのサポートをしたいんです。あと、相手の映像を見せるときには相手の選手の名前をしっかり言うようにしています。『サイドハーフの選手が』ではなく、『〇〇という選手が』と伝えます。それぞれの顔が見えるようにすることはかなり強く意識しています」
Q.分析するために、どのぐらい映像を見るのでしょうか?
「相手チームに対しては、6~7試合は見るようにしていますし、シュートシーンや被シュートシーンは全部見ています。対戦相手の個人映像も基本的には18人~20人分ぐらいは作るようにしています。家でもずーっと映像を見てますよ」
Q.常に映像と向き合っているのですね。
「すべてつながっているんですけど、サッカー選手ってすごいじゃないですか。自分はサッカー選手になれなかった身で、一緒に仕事をして、何かを伝えるためには、それなりに準備しないといけないし、理由や根拠を明確にしておかないといけない。だから、『なんであのシュート決められなかったの?』なんて言えないわけで。決めるために、様々な情報を伝えておくのが、自分の役割なんです。そのためにしっかり情報を伝えておかないといけない」
Q.監督によって出す情報や伝え方が変わってくると聞いています。そこに関して、意識していることはありますか?
「基本的に、分析というのは自チームのプレー原則の強化のためにあるんです。まずは自チームのやり方があり、それを想定しながら映像を見て、自チームが望んでいるプレーを出せば、相手はこうなるだろうということを伝えるのが仕事だと思っています。とはいえ、やっぱり監督によって出す情報は変わるので、最初は難しいですよ。ずっと同じ監督のもとで仕事できるに越したことはないです」
Q.監督の考えを理解しないといけないですからね。
「何を求めているのか、どういう形で情報が欲しいのかとか、監督によって変わりますから。分析は監督ありきの仕事ですから」
Q.森監督との関係はどうですか?
「森監督は相手の分析をかなり大事にする監督です。やりがいはかなりありますよ。相手がどこでもやることを変えないようなチームもありますが、水戸はそういうチームではありません。もちろん、変えない部分もあります。でも、戦い方は相手によって変えるので、そういう意味ですごく大事な仕事をしているなという自覚はあります」
Q.試合によってプレスのかけ方も変えますが、それは監督の考えで変えているのか、それとも武石さんがそういう提案をして変えるのでしょうか?
「試合2日後のオフの日には次の対戦相手の映像を監督に渡しています。それを見てもらって、オフ明けの日はそこまで戦術的なトレーニングはしないのですが、その日に話をして戦い方を決めるという感じですね。自チームで誰が試合に出るのかによっても変わってきますし、それこそ、3バックにした方がいいのかとか、4バックにした方がいいのかといった考えについては聞いてもらっています。そこで自分の提案に対して、監督が違うやり方を決断しても、まったく問題ありません。監督の考えに合わせて、うまくいく方法を探すだけです」
Q.コミュニケーションが大事な仕事なんですね。それで「何者」であるかを証明していくのですね。
「この『何者』に関して大事なのは、結果だと思っています。自分が成しえた結果しか残らないと思っています。ただ、自分は昇格とか、優勝とか、そういう経験をしたことがないんですよ」
Q.結果を出したときに評価される仕事だということですね。
「そうです。それでしか、評価されないと思います。いくらいい仕事をしていても、勝てなかったら、『自称』になってしまいますから(苦笑)」
Q.今シーズンは大きなチャンスですね。仕事が結果につながっている手ごたえはありますか?
「驕っているわけでも、謙遜しているわけでもなく、本当に結果を出しているのは選手たちなんです。自分が結果に貢献したなんて思えないですよ。たとえば、第23節富山戦で(久保)征一郎がスーパーロングシュートを決めましたけど、『GKが前に出ていることが多い』と伝えたところで、あんなシュートはなかなか決められないじゃないですか。あれを決められる選手がすごいんです。本当に選手って、すごいんですよ」
「サッカー選手は本当にすごいんです。その人たちに何かを伝えるって、結構恐ろしいことなんです。僕はコーチになりたくて、筑波大学に進みました。それで、サッカー部には入らず、地元のチームでコーチをしていたんです。最初、中学生のチームの指導をしたときに何もできなかったんですよ。何をしていいのかも分からなかった。どうやったら、この子たちがうまくなって、チームが強くなるのかが分からなかった。それで精神的に病んでしまったことがありました。当時の自分が最も感じていたのは、『指導の仕方でこの子たちの人生を変えてしまう』ということでした。そこに怖さを感じていました。ただ、その恐怖を乗り越えるためにも、とにかく死ぬ気で準備をするしかなかったんです。そうすることによって、光が見えてくる。だから、『臆病』でありながら、しっかり準備し続けることを大切にしています」
Q.自分を過信することなく、謙虚に仕事し続けることを意識しているのですね。
「自分の弱さなのかもしれませんけどね。『やっちゃえ』みたいなところも必要かもしれないですけど、自分のスタンス的になかなかそうできないんですよね」
Q.自分を知り、自分なりのスタンスを持ち続けることが大事ですからね。
「そうだと思います。常にこの言葉を忘れてはいけないと思っています。今はプロの選手を相手にしているわけですから、『臆病』にならざるを得ないです。リスペクトしかないですから」
Q.精神的に問題が起きたとき、どのように乗り越えますか?
「一度指導から離れたんですよ。そこで気づいたのは、自分にはサッカーしかないということでした。他の仕事ができるかというと、絶対にできないんです。そこで逃げたら、俺は生きていけないと思い、戻ることに決めました。そもそも、自分は小学校や中学時代からサッカーの指導者になりたかったんです。高校までサッカーはしていましたけど、サッカー選手になりたいと思ったことはありませんでした。中学1年生のときにはグアルディオラの本を買って読んでました。それで筑波大学を選んだんです」
Q.ずっとコーチになりたかったという思いが立ち返る場所になったんですね。
「それしかなかったですから」
「僕はヒップホップが好きで、ラッパーのMOL53さんが使っていた言葉なんです。かなり自分に刺さった言葉です」
Q.武石さんにとって「信じ抜く」ものは何でしょうか?
「『自分』ですね。自分が自分の味方だったら、敵はいないんです。自分が自分を信じてあげることが一番大切だと思っています」
Q.結果が出ないときに自信を失うことはありませんか?
「そのときは揺らいじゃいますね(苦笑)。でも、徐々に揺るがなくなってきました。これまで所属したチームで最下位になったことも、降格したこともありました。そうやって勝てない試合が続いたときは自分がダメなんじゃないかと思ってしまうことがありました。『今年こそ、今年こそ』と毎年意気込んで仕事をしてきましたが、なかなか結果を出すことができませんでした。その中で昨年J2昇格プレーオフの決勝まで行くことができました。そこで負けてしまったんですけど、今年再び昇格争いができていて、『今年こそは』という思いは強くなっています。自分を信じ抜くために、絶対に結果を残したいですね。このスローガンは自分を表した言葉というより、なりたい姿を言葉にしたという感じですね」
Q.「臆病」だからこそ、「自分を信じ抜く」という思いで自分を支えているのでしょうね。
「そうだと思います。揺らぐ自分を知っていますから。自分に対しての自信を深めるために、今年は優勝したいですね」
Q.最後に残り試合に向けての意気込みを聞かせてください。
「本当に1試合1試合が大事だと思っています。文字通り、勝った方が強いという試合の連続です。勝点の目標もありますけど、狙って取れるほどJ2リーグは甘くないですから。拮抗したリーグですから、1試合1試合丁寧に、地に足をつけて、ギリギリの戦いを、水戸サポーターの力を借りながら勝っていきたいですね」
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