走り続ける理由──奥野わか花が挑み続けるラグビー人生【東京山九フェニックス】インタビュー
昨年から結婚、リハビリ、そして仲間との時間を経て、心身ともに大きな変化を感じているという。
愛称「新幹線娘」に込められた想い
「試合の記事でも『新幹線娘』と書かれることが多かったので、名前よりもそっちが先行している感はありますね。試合中にも呼びかけてもらえたりして、愛称で知っていただけるのは嬉しいです。」
呼び名の背景には、彼女の最大の武器であるスピードと、それを支えるファンとの絆がある。
ラグビーとの出会いは“偶然”から
「中学ではバレーボール部だったんですけど、身長が伸びず悩んでいました。そんな時に大学選手権を見て、いろんな体格の選手がそれぞれの役割で活躍していて、『私にも居場所があるかもしれない』と感じたんです。」
すぐに「女子ラグビー 日本一」と検索して島根県の石見智翠館高校へコンタクトを取り進学、ラグビー人生を本格的にスタートさせた。
「何事も中途半端にやりたくない」と逃げ道を断ち、寮生活に飛び込む決意は、彼女の強さを形作った原点となっている。
「高校3年の時に、四宮さんに声をかけていただいたのがきっかけです。ラグビーも学業も本気で取り組める『2軸を持てる環境』に魅力を感じました。」
クラブチームだからこそ得られる環境で、奥野はラグビー選手としても一人の女性としても歩みを進めてきた。
尊敬する存在は最も身近なパートナー
「すごいラグビーが好きで、試合の映像を見ながらノートに“何分のプレーが気になった”“解説者がこう言っていた”って細かくまとめているんです。それも15人制だけじゃなくて、女子ラグビーもたくさん見てくれてて。全試合見てるんじゃないかなっていうくらい。『これからのラグビーの成長は女子の方が大きい』って言ってくれるのもすごく嬉しいです。」
「『ここをこうしたいんだけど、どう思う?』『この状況をどう打開する?』って聞いたら、一緒に考えてくれるんです。研究熱心だなっていつも思います。」
フィールド外での取り組みも同じだ。オフシーズンや休みの日でも「トレーニングしたい」と伝えれば、必ず付き合ってくれる。
「この前もサーキットトレーニングを同じ熱量で追い込んでくれて、すごくありがたかったです。追い込むことに抵抗がない人なので、同じ選手として尊敬できますし、ラグビー選手同士で結婚して本当に良かったなと思います。」
「『いつかフェニックスのFWコーチもやってみたい』って話していました(笑)」
二人の出会いは高校時代のニュージーランド留学。当時から注目していた同世代の選手たちが、今やワールドシリーズで活躍している。
その姿を見ながら一緒に語り合える時間も、奥野にとって大切なひとときだ。
競技に向き合う真摯な姿勢、共に追い込む覚悟、そして未来を見据えたビジョン。奥野が「尊敬する人」と迷わず答える理由が、夫との日常に詰まっている。
結婚を経て広がった視野と心の余裕
これまでラグビー一色だった日々から、支えてくれる存在と共に過ごす時間が生まれたことで、心の波は穏やかになり、プレーにも落ち着きが出てきた。
「結婚する前はラグビーが中心の世界で生きてきたので、ラグビーがうまくいかないと気持ちにも波があったんですけど、結婚して彼が近くにいてくれることで心の波も少なくなりましたし、メンタルに影響されるプレーの波もなくなったので、選手として安定したと思います。チーム内の役割としても、今までは自分自身のプレーだけにフォーカスしていたのですが、身近に相談できる存在がいることで、チームの中でも全体を俯瞰して見る役割になれたかなって思います。」
「実はパリ五輪が終わって引退を考えていたんですけど、彼が『もうちょっと続けたら楽しめると思うよ』って言ってくれたことが、今も選手を続けている理由の1つです。」
結婚によって心身ともに安定を得ただけでなく、チームの中での役割や競技人生そのものの選択にも影響を与えている。奥野にとってパートナーの存在は、ラグビーを続けるための大きな支えになっている。
“リピートスプリントと決定力”に磨きをかける
「もともとスピードが自分の強みではあるんですけど、その中でも14分間スプリントを繰り返せる点が強みだと思っています。スプリントだけでなくフィットネスも自分は強みだと思うので、14分間活躍し続けられる選手を目指して常にプレーしています。」
「当時は今より15kgくらい重かったんです。でもオリンピックが1年延期になった時に『14分間走り続けるためにフィットネスを伸ばすしかない』と思って。当時住んでいた中央林間からジムまで片道14kmを自転車で通って、ウエイトしてフィットネスして、また14km自転車で帰る。それを週4日くらい繰り返していました。」
日常生活から肺を大きくすることを意識し続けた結果、心拍数が高くても耐えられる身体へと変化。体重も落ちたことでさらにスピードを強化し、リピートスプリントを繰り返せる身体を作り上げた。
※ラグビー選手が行う非常に辛いフィットネスメニュー。トップレベルの男子選手でも4分前半〜5分前半が目安といわれる
ただ速いだけではなく、何度でも走り切り、最後に確実に点を取り切る。その積み重ねが、チームを勝利へ導く大きな力になっている。奥野の背番号にボールが渡った瞬間、スタンドから大きな期待の声が響くのは、その決定力への信頼があるからだ。
今シーズンへの思い
「7人制の熊谷大会が準優勝と良い成績だっただけに、終盤に勝てなくなったことは悔しい思いもありますし、チーム全員がその悔しさを持っていると思います。だからこそ、15人制に向けて私自身もチームとしてももっと成長しなくてはと感じています。」
今季の15人制は4連覇のかかる重要なシーズン。プレッシャーの中でいかに力を発揮できるかが問われる。
「プレッシャーを感じるシーズンになると思いますが、先を見すぎずに目の前の1試合1試合をしっかり勝つこと。そして、チームとして限られた練習の時間を大切にしていきたいです。」
「2点の重みを改めて感じましたし、試合には必ずターニングポイントがある。そこでチャンスを掴めるかどうかで流れが大きく変わるので、そのターニングポイントを逃さないように、日常生活や練習から意識して準備し続けなきゃいけないと感じています。」
悔しさを成長へと変え、4連覇への挑戦に挑む奥野。視線の先には「一戦必勝」の思いがにじむ。
注目の選手は双子の野澤友那・友歩
「2人は本当にラグビーが大好きで、国内外やカテゴリを問わずたくさん試合を見ているんです。いろいろな選手を知っていて、本当に研究熱心だなって思います。もともとスキルフルで、キックもパスもランもできる力を持っているので、チームにフィットすれば大きな武器になる。これから開花していく選手だと思っています。」
実力だけでなく、メンタル面の成長も奥野は感じている。
「去年の15人制シーズンは試合に出られない時期が続いて、2人にとってすごくタフな1年だったと思います。練習中に双子同士で意見が合わず言い合いになることもあったんですけど、今年は7人制で一緒にプレーする中で感情のコントロールがすごく上手になったなって思います。」
「練習後に一緒に話しながら帰ったり、『わか花さーん』って声をかけてくれたりするのが嬉しいですね。友歩は去年から私の“コンタクトフレンド”で、アップのときは必ず一緒に肩を当てるんです。私は小柄だけど強く当たりたいタイプなので、同じくらいの身長で同じ熱量と強度で肩を当ててくれるのは、本当に心強い存在です。」
努力家であり研究熱心、そして双子ならではの関係性の中で成長を続ける2人。奥野が彼女たちを「これから必ず開花する選手」と信じてやまない理由は、その姿勢と人柄にある。
経験を未来へ、ラグビーと共に
「現役として長くはないかもしれませんが、子どもを産んで復帰するロールモデルになりたいという思いもあります。」
東京、パリと二度の五輪を経験し、一度は引退も考えた。しかし夫の言葉やフェニックスでの仲間との時間を経て、「もう少し楽しみたい」と気持ちは前を向いた。
実は大学時代の卒論テーマは「女子ラグビー選手のライフイベントと競技継続」。今まさに、自らがその道を実践しようとしている。
その挑戦は、自身の未来を切り拓くだけでなく、女子ラグビーの可能性を広げ、次の世代へとつながっていく。
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ